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井上昇哉

子どもたちの思考力を高め、未来の選択肢を広げるプロ

井上昇哉(いのうえしょうや) / 塾講師

学習塾「与一」/合同会社 あたまをたがやす

コラム

『今年の共通テスト英語は本当に「難しかった」のかー感想・対策・そして英語教育への大きな疑問』

2024年1月21日

テーマ:大学受験 高校生活

コラムカテゴリ:出産・子育て・教育

こんにちは。与一の井上です。

まだ追試を残す人もいるかもしれませんが、共通テストが終了しましたね。
結果についてはもうどうにもなりません。
ここからの1か月での勉強によって、2次試験の点数は全く違ったものとなります。
最後のひと踏ん張りです。思い残すことのないよう全力で取り組みましょう。

今回は「難しかった」と評判の英語の共通テストについてお話します。
ただ極めて長くなってしまったため、後半については本当に興味がある方だけ読んで頂ければ、と思います。
「冗長な文章は下手の証」と自戒したいと思います。

○難しい…?いや難しくはないけど…

毎年私は高2生と一緒にその年の問題を解いてみるようにしているため、試験の終わった土曜日や日曜日には極力共通テストに対しての話は目や耳に入れないようにしていました。
それでもどうしてもいくつかは目に入ってくるものです。その全てが「今年の英語は難しい」といものでした。
そんな言葉を頭の片隅に置き、どんなものかと実際に解いてみると…特段「難しい」ということもなく例年のように解き進めることができました。
「難しかった」と噂の大問5も、ある一つの単語がわかり、話の筋さえ取れてしまえば物語文ということもあり躓かずに読むことができました。

ですがその後大きな問題に気づきました。大問5を終え大問6に入ろうかという時点で、残りの時間が25分程しかなかったのです。

私は英語を教えるという仕事を長くしている割に、英文を読むのがそこまで早い訳ではありません。(絶対に間違える訳にはいかないと丁寧に解いたり読み直したりしているということもありますが)
それでも旧センター試験の頃は80分という制限時間の半分以下の時間では解き終わっていました。
それが共通テストになると気づけば余る時間が30分以下となり、ついに今年は終わってみると10分程度しか残っていませんでした。

「センター試験と比べ1.8倍の語数となっている」と驚きと共に伝えられた論評を目にした方もいらっしゃるかもしれません。
ですがもう共通テストになり4年も経つため、私はこの対比にはほとんど意味がないと思っています。
むしろさらっと触れられるだけであまり問題視されていない、もっと注目すべき事実があります。
それは去年の共通テストと比べ、500語ほど全体の語数が増加したという事実です。

○もう従来の英語学習は通用しない

この事実の恐ろしさがわかるでしょうか。
市販の長文問題集の中で、長く人気のある「やっておきたい」シリーズという問題集があります。
この問題集は長文問題の語数に応じて300・500・700・1000という4冊があり、中でもこれを手にして勉強する高校生の多くは300・500のどちらかをやる子が大半です。

つまり、「前年と比べ500語増加した」というのは、「ただでさえ量が多いと言われている共通テストの問題が、多くの高校生からすれば長文が1題増えたに等しい」ということなのです。
見た目上は大問6問という見た目の構成は変わらないためあまり問題視されてはいないようですが、これは尋常ではありません。
過去問は勿論、対策問題集でもこの量の増加は想定外の筈で、これらを使って勉強していた生徒は今回のテストでは高得点は難しかったでしょう。

ではこうしたテストで点数を取るためには、どのような勉強をしたら良いのでしょう。

正直な所、私も今すぐに答えは出せません。
ただ少なからず言えることは、今まで通りの勉強では恐らくもう太刀打ちできないということです。
実際私は今回受けてもらった高2生のほとんどが全く最後まで到達できなかった事実を見て、来週以降の高2生の授業内容を全て変更することにしました。
去年までの共通テストでも従来通り進めていくことへの不安を感じていましたが、今年の問題を解き、これでは無理だと悟ったのです。

与一の一番の目的は、勉強を通じて「考えるを考える」ことにあります。
英語に関しても同様です。
文法を正しく理解し、細かな違いを知り、自分で活用できること。
英文の構造を理解し、表現の違いを考え、正しく訳ができること。
長文の論理構成を理解し、文脈を捉えた上で、しっかりと読めること。
こうしたことを大事に、勉強をしてもらっていました。

このような勉強がまったく不必要となった。そう言う訳ではありません。
文法がセンター試験とは違い問題として出題されなくなったとはいえ、マーク形式なので和訳の問題が出題されないとはいえ、文法や構文の理解なくして長文を正しく理解することは不可能です。
また「要約の練習なんて時間がかかって無駄」という人もいますが、長文を早く読めるためには素早く文脈を掴む力は必須です。

ですがこのような勉強をせず、ひたすら単語だけを覚え、長文の数ばかりこなした人が点数を取れるテスト。それが現在の共通テストです。
長文の一つ一つをしっかり解説した問題集や、SVOCや修飾・被修飾などを詳しく解説した問題集は、今後使われなくなるかもしれません。
それどころか文法・構文・長文を一つ一つ丁寧に指導する塾も、もはや求められなくなるのかもしれません。

ただただ早く読む。これさえできるようになれば良いのでしょう。

○「共通テストで点を取るため」これからの高校生はどうするべき

まず絶対的な事実として、「中高一貫校の優位はさらに増す」と言えるでしょう。
もう一度言いますが、共通テストで点数を取るために、決して文法の勉強が必要ないということではありません。
むしろ文法は定着していて当たり前。その前提なくして長文を読むなんて論外だとさえ言えます。
そうなれば中高一貫校の「先取り」という強みがより際立ちます。
高校レベルの文法事項をより早く習得し、それを前提として長文問題を数多く解くことが可能となるからです。

では徳島のように、大半が中高一貫校でない普通科に進学している生徒である場合、一体どうするべきなのか。

もはや中学レベルの文法があやふやであることなど許されないでしょう。
算数の四則演算のように、身に付いているのが当然で、それを高校生になってやり直すなんて中学生が九九からやり直すようなものです。
中学生の内に、ただ「解ける」ではなく、意識しなくてもわかって当たり前のものにしておかなければなりません。

高校生ともなれば膨大な量を与えられる新たな知識も、同様に当然の知識としていかなければなりません。
2年生に上がればすぐに高校レベルの長文がどんどん解いていけるようになっていることが求められるでしょう。

2年生では、もう1年生での文法の復習をする期間など遅くても夏前までしかないかもしれません。
それ以降はある程度文法があやふやでも、早めに見切りをつける必要が出てくることも考えられます。

このように、中学校から高2までの間は今まで以上に「共通テストで点数を取ること」を意識し、早め早めに知識の定着を図ることが望まれます。
「今はじっくりと時間をかけて力を付ける」これはもう通用しないのかもしれません。
言い換えれば、目先の勉強だけではもはや共通テストには対応できないということです。

このようなことを早い段階から意識し、「共通テストで点数が取れる」ようになることが必要となるのではないでしょうか。




○一体何を意図しているのか

ここからは私の個人的な考えですので、恐らく皆様に読んで頂く必要はありません。
ひらたく言えば今回の、いや共通テスト開始以降の英語のテストに対する愚痴のようなものです。

「一体このテストを通して、どんな力を付けることを望んでいるのか」
この疑問が消えません。

何度かここで書いている「国語」や「PISA」のように、恐らくは「文章を捉える・情報を見つける」力を付けたいのでしょう。
中学校の新課程において4技能、特に聞く・話すを重視した授業が導入されたこととそれは確かにマッチします。
ですが、じゃあ何故中学校や高校1年生において、文法の勉強をさせるのでしょうか。
以前にも書きましたが、新課程の授業で求められる理想像があるにもかかわらず、実際の中学校の定期テストでは従来通りの文法を中心とした出題がいまだになされています。
そして高校1年生でももう何十年前から、それこそ私たちの高校生だった頃から変わらず分厚い文法書に基づいたテスト範囲が(授業では取り扱いが減っているようですが)設定され、出題の比率はともかくとして、これを勉強することが求められます。
それなのに一般的に意識される英語教育の最後の1~2年で、そうしたことを軽視したテストが課され、それによって進路が決定するのです。

ならば最初からずっと一貫して文法は最低限とし、「話せる」「読める」ことのみ重視した教育をすればこうした矛盾は生じません。
長年言われている「6年間も英語を勉強しているのに喋れない」いう無責任な批判の聞こえる問題点もある程度改善されるでしょう。

ですが、それでは「書く力」はどこでどうやって養うのでしょうか。

文科省や件の批判をする方々は英語は話せれば書けなくてもいいと思っているのでしょうか。

ある文部科学省が行った英語のテスト(高校3年生およそ6万人を対象)によると、文部科学省が目指す基準(CEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)A2レベル以上)を満たした高校生の割合は、「聞く」が33.6%、「読む」が33.5%であったのに対して、「話す」は12.9%、「書く」19.7%という結果が出たそうです。
これは数年前の調査ですので、ここから文科省の意図通り「話す」能力が向上したとしましょう。
そして何故か4技能の中では高い割合であったはずの「読む」の力まで現共通テストのために向上したとしましょう。
どうなりますか?「書く」だけ飛びぬけて悪くなる気がしませんか?
これは果たして軽視されるべき問題でしょうか。

○文法は勉強しなくていいのか?書くことは重要ではないのか?

昔からよく言われていますよね。「日本人は文法なんて細かく勉強するから喋れるようにならないんだ。アメリカ人はそんなことはしないし、日本語だってそんなふうに身に付けてないじゃないか。」と。

根本的に間違っています。この視点には「日本人にとって英語は第二外国語である」という視点が欠けています。
アメリカ人だって日本語を勉強するときには、単語や文法、漢字までちゃんと勉強します。
周りがネイティブではない環境で母国語以外の言語を学ぶのであれば、文法を重視することは決して間違いではありません。

また「グローバル社会において英語が喋れないと世界から置いていかれるから」ともよく言われますよね。
勿論これ自体間違いだとは思いませんが、ビジネスにおける英語って、喋るだけですか。
電話だけでなく日常的にメールをする機会だって決して少なくないでしょう。もしくはビジネスで必要な文書を作成する必要も出てくるかもしれません。
そのような場面で中学生レベルの文章を書き、ビジネスにおいて困った事態は生じないでしょうか。

日本語で考えても明白ですが、「相手の話す英語」と「相手の書いた英語」のどちらの間違いが気になるでしょうか。
その場で考えて話す言葉よりも、書くとなれば正しい表現を考える時間は潤沢にある筈です。
そんな書き言葉が変な文章であれば嫌でも気になるでしょう。
近年怪しいメールやサイト、商品レビューを目にすることも珍しくなくなりました。
その怪しいという印象が「不正確な日本語」から感じられると言えば、共感してもらえるでしょうか。

ビジネスだけに限りません。理系に進み研究をすれば、英語で論文を書く機会もあるでしょう。
格式ばった「正しい」英語を書くことが当然のように求められる論文において、中学レベルの間違いの入った文など読んでさえもらえないかもしれません。
例え読んでもらったとしても、内容以前にその文章から書いた人のレベルが判断されてしまうことでしょう。

そんな先のことよりも、目先の問題もあります。
一つは英検です。先に発表されたように、今年度より英検の出題内容が変更されることになっています。
一番の注目点は「writingの問題が増えること」です。準2級や3級では、まさに先ほど申し上げたEメールを書くような問題も出題されるとのことです。
readingの問題数が減り、writingの問題数が増加する。共通テストと真逆の動きが見られます。

またもう一つ差し迫った問題は、大学入試の二次試験です。
共通テストに変わってしばらく経ちますが、共通テストがこのように読むことに大きな比重が置かれるようになった一方、二次試験において英作文の割合が減ったという大学はあまり聞きません。
勝手な憶測ですが、大学側は英作文のできる能力を決して軽視してはないのではないかと思います。

そもそもセンター試験の頃より、二次試験で英語を活用する「英語が得意」の筈の学生が書く英作文のレベルが低いことは、大学側や指導者の間では周知の事実です。
私も指導を行っていて、「よくこれで英語を得意と言っているな」と思ったことは一度や二度ではありません。
こうした傾向に拍車がかかり、果たして英検や二次試験でどう点数を取っていくのでしょうか。



私は塾講師をしていますので、生徒の望む大学に行けるよう、点数を取れるように指導する必要があります。
だから今回のテストを受け、指導内容を変更する決断をしました。

ですが、本心ではこんなことはしたくありませんし、するべきだとも思いません。
文法や構文把握に丁寧に取り組み、英語の成り立ちを正しく理解する。
その知識を基に自分で正しく文章を書く練習をする。
そうして地道に、確固とした「英語力」を付けることが、「使える英語」を身に付けることだと信じています。
「時代錯誤だ」「古い考えに固執している」そう謗られても構いません。

先ほどは「共通テストで点を取るため」と書きましたが、そんなものに惑わされず英語学習の本質を理解した上で勉強し、確かな実力を付けてくれる生徒が一人でも多く残ることを願って止みません。

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