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井上昇哉

子どもたちの思考力を高め、未来の選択肢を広げるプロ

井上昇哉(いのうえしょうや) / 塾講師

学習塾「与一」/合同会社 あたまをたがやす

コラム

『「大学無償化」の中身を正しく知ろう』

2024年1月27日

テーマ:教育 受験 進路

コラムカテゴリ:出産・子育て・教育

こんにちは。与一の井上です。

先月大きな話題となった「大学無償化制度」。
政府の掲げる「異次元の少子化対策」の一環として導入されるものだと考えられます。
言葉だけを見れば、大変良い制度のように聞こえます。
「うちには余裕がないから、私立大学なんて行かせられない」と言っていた家庭でも、その枷がなくなり大学の選択の幅が広がるとなれば、保護者の金銭的負担は勿論、生徒の将来に対してのメリットは非常に大きなものがあります。

一方で子供が3人未満の家庭からは当然のように不満の声が聞こえます。「2人大学に行かせるのだって大変なのに…」と。

まだ知らない人も少なくないのですが、この2025年から導入される制度にはもっと大きな問題が潜んでいます。

○子供3人全員が無償になる訳ではない

「子ども3人以上の多子世帯は大学の授業料などを無償化」と聞けば、3人全員が無償になるように聞こえますよね?
ですがそうではありません。正確には「扶養される子どもが3人以上いる多子世帯は大学の授業料などを無償化」ということになるようです。
どういうことかわかりますか?
このような例を考えてみましょう。

高校3年生Aさん・高校1年生Bさん・中学1年生Cさんの3人の子供がいたとします。
この時点ではこの世帯は「扶養される子どもが3人以上いる多子世帯」にあてはまり、一番上のAさんは次年度からの大学が無償となるため、国公立・私立問わず自由に大学を選ぶことができます。(実際には制限があるようですが後述します)


次にBさんが高校3年生を迎えます。このときAさんは大学2年生・Cさんは中学3年生です。
大学を自由に選び、楽しそうに大学に通うAさんを見て、「どうせ無償なら行きたい私立大学に行こう」と考え、実際に入試に合格し入学できました。
Bさんの入学したタイミングではAさんが大学3年生・Bさんが大学1年生・Cさんは高校1年生です。Aさん・Bさんの2人が大学無償化の恩恵を受け、親御さんも大助かりです。


でも2年後、状況は一変します。
一番上のAさんが無事大学を卒業し、働きだしたため扶養から外れたのです。
そうなるとどうなるか。「扶養される子どもが3人以上」の条件から外れるので、この年からBさんは授業料が無償ではなくなるのです。


つまり、長子が就職して扶養を外れ、「扶養される子どもが3人以上いる多子世帯」でなくなると、第2子・第3子の大学授業料は無償ではなくなるわけです。
この時まだBさんは大学3年生です。卒業までまだ2年あり、その2年は授業料を普通に払わなければなりません。
「無償だから私立大学に行かせたのに、あと2年も授業料が必要なんて知らなかった…」
こんなことが現実に起こり得るのです。

もっとかわいそうなのはCさんです。一度働きだしたAさんが再び扶養に入ることは考えにくいでしょう。
そのためCさんは大学無償化からは何の恩恵も受けられず、やはり私立はお金がかかるから…という例の枷がかけられることになるのです。


「子供3人が大学の授業料無償」と字面から得られる印象通りの恩恵を受けるためには、
一番下の子が大学を卒業するまでは上の2人には働かずにずっと扶養に入っておいてもらわなければならないのです。
こんなことはあり得ませんよね?
さすが日本政府、非の打ちどころのない政策など用意してはくれませんね。
 

○無制限に無償となる訳でもない

「無償化」と聞けば、まったく費用が必要ないと思いますよね?
でもそうでもないようなんです。

国公立大学の入学金+四年間の授業料で合計244万円、私立大学なら入学金+四年間の授業料で合計306万円を上限とする、とのこと。
一部の大学や医歯薬といった学部を除いた、ほとんどの国公立大学は四年間の授業料の合計が高くて242万円となっていますので、国公立大学に進めば確かに「無償」と言えるでしょう。
ですが私立大学となれば、夜間を除いた一番安い大学で308万円、万一医学部に進むことになれば最高で4000万円を越える費用が必要となります。
医学部は極端な例ですが、私立の理系であれば500万~600万円台というところも多く、これでは「無償」とは全く言えません。

勿論今までと比べたら十分安くなることは間違いありませんが、「どちらでも無償だから、国公立でも私立でも好きな方に行ける」とはならないようですね。
 

○やっぱり増税…

この新制度の財源はどこから来るのでしょうか。
お察しの通り増税です。
「支援金」という名目で、一人当たり1か月500円ほどの増税を予定している様子です。
勿論実際にこの対象となる世帯だけ増税されるということではありませんので、「うちの家族には関係ないのに、なんで税金が上がるんだ」と不公平だという声が上がるのも自然なことですよね。
「増税メガネ」の面目躍如といったところでしょうか。


やるならやる、でどうにか本気で日本の将来が明るくなるような制度を考えて欲しいものです。

この記事を書いたプロ

井上昇哉

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井上昇哉(学習塾「与一」/合同会社 あたまをたがやす)

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