心に残っているレッスン【Kさんとの最後のレッスン】その言葉を忘れない

2022年1月21日公開 / 2022年1月22日更新

テーマ：音楽雑記

コラムカテゴリ：スクール・習い事

コラムキーワード：ボーカルトレーニング、ボイストレーニング

Kさんとの最後のレッスン心に残っているレッスン、その言葉

Kさんとの出会い
10年以上前に個人レッスンに通ってくれていたKさん。

きっかけは岡山シンフォニーホールでの「歌え！わが心」という
ホール主催の歌の会に来られていてお話をする機会があったときに
「個人レッスンを受けたい」とおっしゃられたので
ある公共の建物内にある練習室を借りて月に一度のレッスンを開始することになった。

その当時、まだ仕事があまり多くなくて悩んでいました。
Kさんはいつも
「頑張って。きっとこれからどんどん先生は忙しくなるよ」
と励ましてくださる。

時には「先生、レッスンの後になんですが今日は帰りに一緒にカラオケに行きましょう」と
駅前の通りの少し入ったところのカラオケボックスへ連れていってくれた。

そこではじめて聴いた曲の数々。
Kさんが昭和の曲をたくさん教えてくださった。

私はまだどちらかというとクラシックの曲を中心に勉強していたので
昭和の懐かしい曲はそんなにたくさんは知らなかった。

何しろ音楽大学へ入る前も入ってからも出てからしばらくも
クラシック一色に近い生活だったから。
帰ってから楽譜をチェックして練習して
レパートリーを増やしていった。

「私はね、時々こうして一人でカラオケに来るの。
先生もこうやっていろんな曲をこういうところで勉強するとよいよ」
その頃はまだ今のように気軽に「ヒトカラ」する人は少なかったと思う。

確かにカラオケを聴くだけでもアレンジのヒントがいっぱい。
クラシックに限らず現在はジャンルにとらわれずに仕事をしているので
そういう発想は役に立った。

レッスンではシャンソンや日本の叙情歌を教材として選び
レッスンを重ねた。
その当時はシニアの方との歌のレッスンは今のように行っていなかったので
すべてが新鮮だった。
レッスンといえば自分より年下の子供や学生を担当することがほとんどであったから。

曲についても一緒に考えてどんな風に歌うか工夫したものだ。

Kさんが急病で入院される少し前レッスンの後で
「先生、お時間があったら今日はケーキを食べに行かない？」と言ってくださったので
近くのカフェに寄ってゆっくり話をした。

「これから先生頑張ってね。きっと活躍できると思うよ応援しているからね」と
にこにこしながら好きな音楽の話に花が咲き帰りは手を振り別れた。

それからしばらくして入院されたことを聞いた。
一度病床からお電話をいただき母と（母とも他のお稽古事で一緒でしたので親しかったようです）
そろそろお見舞いに行かないとね、と話していた矢先に
亡くなられたことを聞いた。
信じられなかった。
「もうすっかりよくなったよ」とまたレッスンに来てくれると思っていた。

あまりにもあっけなく旅立たれたが
最後のレッスンの後のカフェでの時間が最後で
そのときの彼女の表情や声、話もまだ鮮明におぼえている。

時々思い出して
「あれから頑張ったよ。生徒さんもお教室もたくさんになって
皆さんのお役に立ててると思うのよ」と心でつぶやいてみる。

いつまでもずっと同じではいられない。

今日のレッスンが最後になってしまうこともある。
だから毎回のレッスンを大事にしたい。
そのように思っている。