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  1. 九九の覚え方(10)(九九ができない大学生を作ってしまう九九暗記の落とし穴)
杉田昌穂

理科実験・読み聞かせで思考力を育てる幼児教育のスペシャリスト

杉田昌穂(すぎたまさほ) / 教師

青穂塾(せいすいじゅく)

コラム

九九の覚え方(10)(九九ができない大学生を作ってしまう九九暗記の落とし穴)

2019年11月14日

テーマ:九九学習

コラムカテゴリ:出産・子育て・教育

私は京阪奈学研都市に住んでいますが、ここには国立国会図書館関西館や様々な研究所があります。
その中にATR(国際電気通信基礎技術研究所)があり、ここには脳情報研究所、認知機構研究所、脳情報解析研究所があります。毎年秋にオープンハウスがあり、必ずお伺いしています。
今年(2019年)は10月30日にお伺いしてきました。今年、私個人としては2つの成果がありました。一つはワーキングメモリーについて。「音韻ループ」「視空間スケッチパッド」という二つのワーキングメモリーについてこれまで書きましたが、これは心理学の立場からとらえたもので(ここまでは知っていたのですが)、脳科学のほうではもっと多くのワーキングメモリーについて考えているそうです。例えば「味」のワーキングメモリーもあります。そういえば「味を覚える」という慣用句が辞書にありますね。
もう一つは、脳の「vmPFC(前頭前皮質腹内側部)」という場所で「複雑な問題を単純化して、それを記憶のシステムに送っているのではないか。」ということが分かってきたそうです。これまでに書きました「符号化」の部分に当たると思います。

さて、前回も使いましたが、次ののグラフは「ニュースサイトしらべえ」というサイトにのっていたグラフです。
https://sirabee.com/2018/07/21/20161680575/sirabee_180701_991/



これを見て奇妙だと思いませんか?本来、高齢化するほど記憶が薄れていくはずなので「九九を全部言える自信がない」人が増えていくはずなのに、逆に減っています。若い人ほど自信がないのです。なぜでしょうか?このデータは信頼できないのでしょうか?

私には心当たりがあります。以前は学校で九九暗記にたいそう時間を割いていましたが、今は時間が短くなっているはずです。(このことについては今後調査する予定です。)あるお母さんの言葉をお借りすれば、「ほとんど家庭に丸投げ状態」だそうです。

ちなみに最近書店で2冊の指導書を購入してきました。小学校の先生が授業を準備するときに使う参考書籍です。「まるごと授業算数 全授業の板書例と展開がわかる DVDからすぐ使える 映像で見せられる 2年下 (喜楽研のDVDつき授業シリーズ)」(喜楽研 2014年)と「板書で見る全単元・全時間の授業のすべて 小学校算数 新版 2年下」( 東洋館出版社 2011年)です。むやみに長い書名の前者ではかけ算の授業に、31校時を使い、そのうち九九暗記には23校時を使っています。1の段に1校時、2~9の段に各2校時を使っています。後者ではかけ算の授業に、32校時を使い、そのうち九九暗記には25校時を使っています。1の段に1校時、2と5の段に2校時、3と4の段に1校時、6と7の段に2校時、8と9の段に1校時を使っています。それ以外は既に習った九九の復習と、九九のきまりについての学習にあてられています。

正直申し上げて、これだけの時間で学校だけで生徒が九九を正確に記憶できるわけありません。当然、家庭学習を当てにしているわけです。「ほとんど家庭に丸投げ状態」はここから生まれます。教育熱心なご家庭ならこれでもいいでしょう。ご両親が多忙で子供の九九学習の面倒をみることができない家庭の場合は、悲惨なことになるわけです。しかも短期集中型の授業展開ですから、九九暗記には不向きです。もちろん小学校の先生方は独自の工夫をなさっていると思いますが、システムの根幹に問題があるのですから、先生方の工夫だけでは解決できないのではないかと思います。

現在の算数教育では「かけ算の意味」を重視する傾向にあり、九九暗記は軽視される傾向にあります。正確に調べたわけではありませんが1970年頃までは九九暗記に力を入れていたはずです。その後、「かけ算の意味」を重視する傾向になっていったという記憶があります。私は1980年ころに学校の先生たちの数学教育の研究会に参加させていただいていました。当時京都府立洛北高校の数学教師だった主催者に参加を打診すると快諾していただきました。(この先生には今でも感謝しています。この先生はその後大学教授にまでなっておられます。)この研究会では既に「かけ算の意味」をどう教えるかが研究課題の中心でした。九九暗記が話題に上ったことは1度もありませんでした。現在はむずかしい計算はほとんどコンピュータがやってくれますから、実際の計算を学習するよりも、「かけ算の意味」のほうが大切なのは分かります。青穂塾でも「かけ算の意味」は小学2年生の3学期前後から始め「わり算の意味」も追加して5年生の「割合」の勉強が終わるまで何度も繰り返します。

では九九暗記は不必要になるのでしょうか?学校の学習ではまだまだ必要です。では社会に出ればもう必要ではないのでしょうか?私自身、注意深く自分の私生活を観察しますと、ほとんど意識しませんが、やはり九九は使っています。よくあるのが買い物の時。私は歯磨きが趣味のような人間で、2週間ごとに歯ブラシを交換し、歯医者さんの敵を自任しています。従ってドラッグストアでセールがあると飛んでいきます。千円以上買うと特典が付くことがありますので、例えば歯みがきと歯ブラシを買う時、歯ブラシを何本買えば千円を超えるか頭でかけ算しています。教室では実験用の野菜を作っていますから、農業資材を買います。すると切り売りの資材と、パッケージに入った資材とではどちらが安いか、これも頭でかけ算しています。この程度の計算なら電卓で計算するより暗算のほうが格段に便利です。こう考えると自分の意思を簡単に反映できるウェアラブル端末でも開発されない限り、(ATRの脳情報解析研究の現状を見る限り、当分は無理です。)九九暗記は必要であると考えます。ただしこのレベル以上の計算ではコンピュータ任せになりますから不必要になるかもしれません。

こう考えると現状は憂慮すべきだと思います。

なお、「九九学習システム」(https://sadaemon.jp/)に新しく「指導者用資料」のページと、「ご家庭用資料」のページを新設いたしましたので、ご覧ください。少しはお役にたてると思います。

この記事を書いたプロ

杉田昌穂

理科実験・読み聞かせで思考力を育てる幼児教育のスペシャリスト

杉田昌穂(青穂塾(せいすいじゅく))

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