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コラム

小さい政府論

2016年5月20日

コラムカテゴリ:法律関連

 弁護士会は小さい政府であり、できるだけ事業はしない、そして会費は安くという考えが語られることがある。
 昨今の情勢下では、若手弁護士にとって、会費が安くなればそれは助かるから(弁護士の毎月の会費は他の士業に比べると破格に高い。京都は全国的にみると安い方だが、それでも日弁連の会費とあわせて毎月4万円程度はかかる)、これは支持を得やすい考え方である。
 誰でも支払うお金は安い方が助かるし、私だってそれは安い方がいいに決まっている。

 だが、この考え方は自分本位で、それにより失われるもののことは考えていない。

 私は、弁護士会にしかできないことというのはあると思っている。
 たとえば、お金にはならないが被害が出ており、誰かがやらないといけないような分野の相談が相当数ある場合、これを個々の事務所ですることは中々難しい。
 弁護士会が小さい政府でいいという考えたからすると、できるだけ事業規模は少ない方がいいから、この手のものは市場原理に任せて放置すればいいという考え方にもなりかねない。
 私はこういう相談については、個々の事務所ではできないような体制はやはり弁護士会でないと組めないと思っており、そのために弁護士会がお金をかけてでもやるべきだという考えでいる。(楽なことしか)やらない会員も、せめて会費の中から事業費は負担して下さいねと考えている。

 たとえば、かつてヤミ金がはびこった時には、弁護士会の消サラ相談にはヤミ金の相談が多数押し寄せたものだが、これを個々の法律事務所でやろうとすれば、救済されない被害者は多数残されたままであったろう(まあ、ヤミ金の事件が嫌で逃げた相談担当弁護士も多数いたけど。私とかK藤S一郎とか、K内T郎とか、Y田S司とかは逃げたことはない)。
 今はだいぶ大人しくなったが、最初の頃のヤミ金はそれは酷いものであった。
 1人の相談者が15件くらい借りていて、受任の電話をすると、事務所の電話が鳴りっぱなしで対応に追われて他の仕事はできなかったものである。
 弁護士からすると、お金的には全くペイしないので、これを市場原理に任せればどうなるであろうと思うのである。ヤミ金事件やります!なんて絶対に宣伝しないであろう。

 だいたいが、小さい政府論を主張するような人はこうした事件はほとんどしておらず、これまで苦労をしていないことが多いと思っている(してたらすいません)。

 弁護士会が個々の事務所ではできない相談体制(もちろん相談だけではなく、他にもあるが)を組もうとするときに、予算がなく実施できないというのでは困ると思うのである。

 私も私が親しい弁護士も、正直、今まで経済的にペイしないような事件はあまた経験してきたが(とてつもなく労力をかけて手元に残ったお金が4人で1人5万円ずつとかいう事件もあった)、入り口はやはり弁護士会にそうした相談体制があったからである。

 小さい政府論を語る人に、弁護士会を窓口にした相談から経済的にペイしないような大型被害事件をやったことがある人に出会ったことはない(居たらすいません)。

 これは弁護士としての生き方の問題かもしれないが、被害がそこにある時に、対応できないような弁護士会を作ろうというように見えてしまう考え方には、私は賛同できないのである。


 以上。
 

この記事を書いたプロ

中隆志

被害者救済に取り組む法律のプロ

中隆志(中隆志法律事務所)

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