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コラム

不倫の代償

2014年10月21日

テーマ:今枝仁の弁護士活動

コラムカテゴリ:法律関連

コラムキーワード: 不倫 慰謝料

ここ最近、離婚絡みで、不倫の調査を調査会社に頼んだという相談者・依頼者が続きました。

 話を聞いていると、中にはしっかりした調査会社もあるのでしょうが、かなりいい加減なところもあるように思いました。ピンからキリまでということです。
 業界の人に聞いたら、調査会社と調査員は、会社と従業員というような関係ではなく、元請と下請のような関係にあることが多いとのことです。
 つまり、調査会社は、集客して調査員を紹介するシステムを提供する場であって、仕事の中身は調査員次第、というのです。本当はどうなのか分からないので、違っていたら申し訳ありません。

 私の今までの経験では、1日5~10時間、5日~1週間程度、対象者を尾

行して調査報告書を書いてもらって、20万円~40万円くらいという相場感覚です。
 しかし、一昨日の相談者は、「3人で尾行して複合的に調査する。車にGPSを付ける。」等言われ、1日5時間の5日間で、200万円請求され、払ったそうです。調査報告書が来ていないので、まだなんとも言えませんが、ちょっと高すぎるように思います。
 まあ、高いかどうかは結果次第なのですが。仮に不貞行為の慰謝料200万円取れても、トントン、弁護士費用を入れたら赤地になってしまいます。
 もう1人の方は、1日だけ、5時間尾行してもらって、15万円だったそうです。これは高いか安いか判断しにくいところですが、出来上がっていた調査報告書の結果を見ると、不貞行為の証拠はなく、まあ興味深い事実は判明しましたが、高かったように思います。
 いずれも、ホームページを見る限りはもっと安いように見えたのが、いろいろと追加費用を付け加えられ、増額されたとのことです。相手の足元を見ながら増額するのは、弁護士にもいないわけではありませんが。
 調査会社の報酬にも、ある程度成果報酬制を導入した方が、競争力が増すのではないかと思います。調査会社からすると、調査対象者が不倫をしているかどうかは調査会社の責任ではなく依頼者側の問題だし、調査した日にたまたま引っかかるかどうかも調査会社の責任ではないので、不倫の証拠をつかむという結果が出ようと出まいと一定の金額をもらいたいというのは分かります。
 しかし、依頼者からすると、まあ本当は配偶者の不倫なんか無い方がいいんでしょうが、やはりあるならあるでしっかりした証拠を得るために調査会社に依頼しているわけで、そのような証拠が得られた調査報告書と、そうでない調査報告書には、月とすっぽんの価値の差があるはずです。そうすると、成果報酬制にした方が、着手金が安く済んで依頼しやすいし、成功した場合にはそれだけの経済的利益が見込めるので、報酬を支払うモチベーションが上がります。
 また、調査会社と調査員の側からしても、きちんとした不倫の証拠をつかむと成功報酬が入るわけですから、仕事に気合が入ります。仕事のレベルが上がり、依頼者にも利益になります。
 何事も切磋琢磨が重要で、安定は堕落を招きます。

 調査結果も、いろいろあります。
 写真をきちんと撮って、大きな時間の間隔を空けず対象者の行動を時系列に整理しているのは、大前提です。
 「3人で尾行する」というようなプランの場合、対象者や、対象者の交際相手の姿、対象者らが出入りした建物などの写真が、複数のアングルから撮影されていてこそ、価値があります。複数の調査員で尾行するプランなのに、写真が常に一定の方向からしか撮られていない場合、本当に複数人で調査したのか疑問が湧きます。
 顔がピンボケなど、あってはなりませんが、仮にあったとしても、同じ服装・背格好での近接写真も撮ってカバーしていればよいでしょう。
 路上でキスしている姿の写真などは、調査員の腕の見せ所です。ものすごくリアルな写真を撮った調査員がいたら、「今度この人に調査を頼もう。」という気にさせてくれます。
 望遠レンズで、スマートフォンの画面をアップで撮ってたりします。ラインも筒抜けです。
 そういう上手な調査員の調査報告書を1回読めば、誰もが不倫する気がなくなると思います。

 不倫の証拠をつかむと、どういうメリットがあるのか。
 不倫は、法律上は、不貞行為といいます。
 離婚は、実は簡単にはできません。双方が離婚に合意すればいいですが、合意しなければ、一方的に離婚するのは困難です。
 法律上は、①不貞行為、②悪意の遺棄、③3年間以上の生死不明、④回復しない精神病、そして⑤これらに準じるような婚姻を続けられないような重大な理由がなければなりません。これらの事情がない限りは、一方的に離婚できないのです。
 不貞行為の1つめの機能は、たとえ相手が離婚に応じなくても、一方的に離婚できる理由になるということです。
 ①不貞行為以外は、あまりあり得ない事情ですから、不貞行為の立証に頼る人が増えるわけです。
 不貞行為が、一番ハードルが低いとも言えます。調査会社の調査の多くが、不倫調査になります。
 激しいDVとかは、程度によっては⑤婚姻を続けられない重大な理由にあたる可能性がありますが、怪我の程度、診断書、写真などがある程度揃わないと難しいとも言えます。
 不貞行為とは、婚姻している人が、配偶者以外の異性と、自由意思において性交渉することをいいます。
 同性愛であれば、不貞行為にはなりません。もっとも、それが夫婦の関係に影を落とせば、⑤婚姻を続けられない重大な理由になる可能性はあります。
 自由意思においてとは、例えば強姦されたような場合は該当しないということです。
 1回だけの関係や、風俗店で玄人を相手にしたような場合は、不貞行為にならないという意見の人もいますが、定義上は不貞行為になります。
 もっとも、仮に①~④の事情があっても、必ず離婚できるとは限らず、裁判所は、一切の事情を考慮して婚姻を継続させた方がよいと判断して、離婚をさせないという判断もできることになっています。
 
 不貞行為の2つめの機能は、慰謝料を請求できるということです。調査会社の経営を支えます。
 離婚請求と重ねて、離婚+慰謝料、とセットで請求することが多いです。
 不貞行為というのは、不貞行為をしたことが不法行為になるという民法上の慰謝料と、不貞行為によって夫婦の関係を破綻させ離婚を招いたという離婚慰謝料とに分けられますが、ほとんどの場合その区別を意識せずに論じられています。
 不貞行為の慰謝料の金額は、婚姻期間の長さ、家族構成、不倫関係の長さ、そのきっかけ、離婚した場合のそれぞれの経済状況など一切の事情を検討して判断されますが、一般に「相場は200万円」と言われています。私の経験でもだいたいそんなところです。
 あまりよく知られていないのは、不貞行為をされた者が、不貞行為をした配偶者と離婚もせず、慰謝料も請求しないのに、不貞行為をした相手方にのみ慰謝料を請求するときには、慰謝料の金額が低くなるということです。不貞行為をして一番責任を問われるべきは、直接の配偶者ですが、その直接の配偶者に慰謝料を請求せず、離婚もしないから婚姻破綻もしていないような場合は、そうでない場合に比べ慰謝料の額が低くなるのは、理にかなっています。
 なお、財産分与の中で慰謝料的要素が考慮されることもあります。

 不貞行為の3つ目の機能は、「有責配偶者からの離婚請求」を長い期間排除できる点です。
 有責配偶者というのは、つまり不貞行為をした側です。
 前述した①~④の離婚原因がなくても離婚できる道が、もう1つあります。つまり、「別居」です。
 夫婦の婚姻期間、同居期間などにもよりますが、別居期間が3年~5年間くらい経ったら、どちらかに①~④の離婚原因がなくても、もう夫婦の関係は破綻しているとして、⑤婚姻を継続できない重要な理由にあたるとされる可能性があります。
 この際の「別居」というのは、「夫婦間がうまくいかないから、別居しよう」という別居でなければなりません。家庭内別居は別居とはされず、単身赴任もダメということになっています。
 別居期間が3~5年程度経っても、有責配偶者からの離婚請求は、認められません。なぜなら、不貞行為をなすなどした有責配偶者が、自ら別居状態にして、わずか3~5年程度で離婚が認められるのであれば、婚姻制度が崩壊しかねず、不貞行為をされた配偶者の地位が不安定になるからです。
 では、有責配偶者は一生離婚できないかというと、そうではなく、同居期間の長さにもよりますが別居期間が7~8年前後経過し、夫婦の間に未成熟(自立していない)子供がおらず、有責配偶者からの離婚請求を認めても他方の配偶者が経済的に過酷な状況に置かれないのならば、有責配偶者からの離婚請求を認めるのが裁判例の流れです。
 ここに、不貞行為が立証できるか否かで、有責配偶者からの離婚請求を別居期間7~8年、子供が自立するまで排除できるかどうかという機能が生じます。

 もっとも、家庭裁判所の調停委員は、法律上の離婚原因や要件にはあまりこだわらず、「もう夫婦関係が元に戻ることはないんだから、有利な条件引き出して早く離婚したら?」というような説得をすることが多く、法的根拠よりも真理を突いているように思うこともあります。

この記事を書いたプロ

今枝仁

被害者救済、弱者を救う法律のプロ

今枝仁(今枝仁法律事務所)

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