「心と身体のデトックス、あるいは静かな夜の話」山梨 漢方 デトックス メンタル さわたや薬房
【前回までのあらすじ】ある朝彼女は一枚の紙をみながら深い溜め息をついていた。スレンダーな彼女に脂肪肝が見つかったのだ。
見た目は余計な脂肪とは無縁そうな彼女の身に何が起こったのか?
僕の脂肪を巡る不思議な冒険が始まった・・・
彼女は翌朝、目玉焼きを焼きながらぽつりと言った。
「ねえ、痩せてるって、ダイエットって本当に健康に良いのかしら・・・」
僕はミルで豆を挽きながら、なぜかうまく答えられなかった。
脂肪肝。スレンダーな体型の彼女には本当に似合わない言葉だった。
「実はね、昨日調べてて分かったんだけど・・・脂肪って、見た目の変化だけじゃないんだって」
彼女はノートのページをまた開いた。(彼女には何事もノートをつけるクセがあった)
そこには「異所性脂肪」という聞き慣れない言葉が赤いマーカーで囲まれていた。
「ほら、私はBMIも普通で、そんなに食べてるわけでもない。でも、運動はしてないし、夜はだいたい遅いし、お菓子もつまんじゃうし、睡眠も浅いし・・・・」
彼女はまるで取調べ中の容疑者が小さな罪を一つ一つ自白するような雰囲気だった。
「食べ過ぎ、飲み過ぎ、皮下脂肪も内臓脂肪もたっぷりで異所性脂肪もあるならまだ納得が行くけど、君のような体型の人がなぜ、皮下脂肪でなくいきなりその異所性脂肪とやらにならないと行けないんだい?
まずは皮下脂肪からじゃないの?」
そう彼女に聞いてみると、彼女はうつむきながら小さな声で僕にこう答えた。
「たしかにそうなんだけど、世の中には食べたものを皮下脂肪や内臓脂肪として溜め込みにくい体質の人がいるのよ。
遺伝的に食べても太りにくいようなひと、これは残念ながら遺伝的要素が大きく関係しているわ。
要するに脂肪の貯蔵能力が低い人も異所性脂肪になりやすいのよ。私はそのタイプ。」
僕にできることは彼女の手をそっと握ることぐらいだった。
異所性脂肪、それは、いささか大げさな表現になるが
「脂肪の亡命」
とも言えるような状態だ。通常の貯蔵庫(皮下や内臓)が使えなくなると、脂肪たちは仕方なく、本来いるべきでない場所へと逃げ込む。
肝臓。膵臓。心臓。骨格筋。そこに「静かに、確実に、沈んでいく」のだ。
そう、行き場のない暗闇が深い井戸のそこに沈み込むように、異所性脂肪も本来いるべきでないところに深く沈み込むのだ。
「脂肪肝って、放っておくと肝炎や肝硬変にもつながることもあるのよ。膵臓に脂肪がつけば、インスリンが出にくくなるし、心臓なら心不全のリスクもある。サイレントキラーの代表格ね。」
サイレントキラー、と言う言葉に僕はいささか怯みながらも
「それって、ほとんど気配を感じないうちに進むの?」
僕がそう尋ねると
「そう。【痩せてるのに脂肪肝】の人は、症状がないまま悪化しちゃうことも多いんだって」
そう言い終わると彼女は目玉焼きにウスターソースをかけて美味しそうに食べ始めた。
「それで、どうすればいいのかな?」
僕が尋ねると、彼女は笑った。
「まずは、夜のアイスクリームをやめる」
「それは大きな決断だね」
「それから、ウォーキングを再開して、海藻とかキノコをもっと食べる。あとは、寝る前にスマホをやめる」
それはどれも、彼女にしては珍しく【具体的な対策】だった。
理由もはっきりしているだけに、具体的な対策もはっきりしている、彼女が笑顔になった理由がわかった。
どうしたら良いのかわからない、原因もわからないでは不安だが
『なぜこうなったか?どうすれば良い方向に行くのか?』それがわかっていればあとは実行するだけだ。彼女には十分その力がある。
僕はその時ふと、冷蔵庫のプリンのことを思い出し「プリンはどうするの?」と聞いてみようと思ったが思いとどまった。
世の中は往々にしてそういうことを言うと余計ややこしくなるものだ。
彼女は最後に、ふとつぶやいた。
「脂肪って、嫌われがちだけど、本当は生きるためにあるんだよね。ただ、居場所を間違えると厄介になるってだけなのよね。」
まるで、人間関係みたいだなと、僕は思った。
脂肪たちは何も語らない。だが、彼女の中で、確かに何かが静かに始まっていた。僕の脂肪を巡る冒険はまだ始まったばかりなのだ。
【解説】私たちの体には「脂肪をためておく能力(=脂肪貯蔵能)」があります。
これは食べるものがなくなったときのための「非常食」のようなもので哺乳類が生き残るために手に入れた非常に重要な力です。しかしこれは人によってかなりの差があり、同じ量の脂肪を摂っても
皮下脂肪にしっかり貯められる人(=健康的に太れる人)
貯蔵能力が低くて、すぐに内臓や臓器に“漏れ出す”人(=痩せてるのに異所性脂肪)
がいるのです。
太っていて異所性脂肪がある方はダイエットをしっかりすればよいのですが、登場人物の女性のようなタイプの方は紹介したご自愛のようなことを取り入れてできるだけ異所性脂肪がカラダに残らないようにしていきましょう。
異所性脂肪は物語の中にも出てきましたが「サイレントキラー」の代表です。
静かなる殺し屋に命を狙われないように、日々のご自愛、しっかりしましょうね。
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