【親子問題】避難先の確保|一時的に親が家を出るという選択
本記事は、2026年10月時点の制度と運用をもとに、一般的な考え方を整理したものです。個別のご家庭で取れる手段は、ご家族の状況や地域の窓口の運用によって変わることがあります。
子のひきこもりが20年を超えると、「今さら何をしても変わらないのではないか」「もっと早く動くべきだった」という思いを抱える親御さんは少なくありません。一方で、長い期間が経っていても、ご家族の側から始められることは残っています。この記事では、ひきこもりが20年以上続いているご家庭が、今から何に手をつけ、どの順番で進めていけばよいのかを整理します。
20年という長さが意味すること
ひきこもりが20年続いているということは、裏を返せば、その間ご家族の生活がその形で回ってきたということでもあります。食事の用意、生活費、住まい、親の年金。家族の中で役割が固まり、誰も大きく動かなくても日々が過ぎていく仕組みができあがっていることが多いのです。
そのため、今から何かを始めるときの論点は「子の気持ちをどう変えるか」だけではありません。20年かけてできた生活の仕組みのうち、どこを、どの順番で動かすかという点が重要になります。
また、20年が経つと、子は40代から50代、親は70代から80代に差しかかっているご家庭も多くなります。親の体力や収入がこの先どうなるかという「時間の見通し」を持つことが、出発点になります。長期化によって親の側に何が起きるのかは、次の記事で数字を交えて整理しています。
最初に始めるのは「現状の棚卸し」
長く続いた状況を変えようとするとき、いきなり子に話を切り出すと、親子ともに準備がないまま衝突してしまうことがあります。まずは親の側で、今の状況を紙に書き出してみることをおすすめします。
書き出しておきたい項目
| 項目 | 確認しておきたいこと | 整理しておく理由 |
|---|---|---|
| 家計 | 親の収入(年金・就労)と毎月の支出、子のために使っている金額 | あと何年いまの生活を続けられるかを把握するため |
| 子の公的な手続 | 国民健康保険・国民年金の加入と保険料の扱い、住民票の世帯 | 子が将来使える制度に関わるため |
| 住まい | 自宅の名義、持ち家か賃貸か、修繕や売却の予定 | 住まいの今後を考える前提になるため |
| 健康と通院 | 子の通院歴・服薬の有無、親自身の持病や介護の見通し | 医療や福祉につなぐ判断材料になるため |
| 家庭内の出来事 | 暴力・暴言・金銭の要求があるか、ある場合の頻度 | 安全の確保を先に考えるべきかを判断するため |
書き出してみると、「子の問題」と考えていたことの多くが、実は「親の家計や住まいの問題」と重なっていることに気づくことがあります。相談先に話をする際にも、この整理がそのまま役立ちます。
本人が動かなくても、家族だけで始められること
20年以上ひきこもりが続いている場合、本人が相談や支援を拒むことは珍しくありません。ただ、公的な窓口の多くは、家族だけの相談も受け付けています。本人が来なければ何も始まらない、というわけではないのです。
家族が最初に相談しやすい窓口としては、各都道府県や政令指定都市に置かれているひきこもり地域支援センター、精神保健福祉センター、保健所、市区町村の生活困窮者の相談窓口などがあります。また、同じ立場の家族が集まる家族会では、長期化したご家庭ならではの経験を聞けることもあります。
医療につながっていない期間が長い場合
長期化したひきこもりの背景に、心の不調や発達特性が関わっていることもあります。医療につながっていない期間が長いと、将来、障害年金などの制度を検討する場面で、いつ頃から症状があったのかを確認することが難しくなる場合があります。本人がすぐに受診しない場合でも、家族が精神保健福祉センターなどで相談しておくことには意味があります。
長期化した家庭で見直したい「親の側の習慣」
ひきこもりが長く続いた家庭では、親がよかれと思って続けてきた習慣が、結果として今の生活を支える形になっていることがあります。責める必要はありませんが、次のような点は一度見直してみる価値があります。
- 求められるまま、使い道を確かめずにお金を渡している。
- 食事や身の回りの世話を、本人に相談することなく親がすべて担っている。
- 親の年金や預貯金の残りについて、子に一度も伝えたことがない。
- 暴言や物を壊す行為があっても、「刺激しないように」と何も言わずにきた。
受け止めて見守るという姿勢そのものは大切です。ただ、見守るだけの状態が何年も続くと、子にとっては社会とつながる機会が少しずつ失われ、親にとっても状況を変えるきっかけがつかみにくくなることがあります。
なお、成人した子に対して親が負う扶養の義務は、親が自分の生活を犠牲にしてまで子の生活を支えることまでは求められていないと考えられています。この点を知っておくことで、親が自分の生活を守る判断をしやすくなる場合があります。
子への働きかけは「順番」と「伝え方」
棚卸しと相談先の確保ができたら、子への働きかけを考えます。20年という時間がある分、一度の話し合いで変化を求めるのではなく、段階を踏むことが現実的です。
- まず、年金・健康・住まいの見通しなど、親の側の状況を事実として伝えます。
- 次に、いつまでに何を変えたいかの目安と、選べる道筋を示します。
- 親子だけで進めるのが難しいときは、早めに第三者に入ってもらいます。
「働け」「出ていけ」と結論だけを伝えるより、親の側の事情を事実として伝えるほうが、子にとっても受け止めやすいことがあります。20年という時間の中で、子の側にも「今さら外に出ても居場所がない」「失敗するのが怖い」といった思いが積み重なっていることがあります。話し合いの目的は、子の過去を責めることではなく、これからの生活をどう組み立てるかを一緒に考えることだと伝える姿勢が大切です。
暴力や金銭の要求がある場合は安全を先に
家庭内で暴力や強い金銭の要求が続いている場合は、話し合いの順序よりも、親やほかの家族の安全を確保することを優先してください。話し合いを切り出したことをきっかけに状況が悪化することもあるため、避難先や相談先を先に決めておくと安心です。
一方で、話がこじれたからといって、鍵を替えて締め出す、荷物を外に出すといった実力行使に出ると、法的な問題が生じるおそれがあります。子に家を出てもらうことを考える場合も、手順を踏む必要があります。
「親子が離れて暮らす」という選択肢
長期化したひきこもりでは、親子があまりに近い距離で暮らし続けていることが、お互いに動けなくなる一因になっている場合があります。同居を続けたまま状況を変えるのが難しいときは、子が家を出て、支援を受けながら一人で暮らすことを選択肢に入れる方法もあります。
家を出るといっても、すぐに自活できるとは限りません。住まいの確保、生活保護や就労支援などの制度の利用、日々の金銭管理など、生活の基盤を整える支援を一定期間続けることが前提になります。年齢が40代・50代であっても、制度を組み合わせることで道筋をつけられる場合があります。
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親亡き後を見すえた準備は並行して進める
子が家を出るかどうかにかかわらず、親が高齢になっている場合は、親が亡くなった後に子がどう暮らすかを並行して考えておく必要があります。遺言の作成、財産の残し方、金銭管理を誰に担ってもらうかなどは、親の判断能力が十分なうちでなければ進めにくい手続です。
ほかにきょうだいがいる場合は、親亡き後にきょうだいがどこまで関わるのかも、早めに話し合っておきたい点です。親が一人で抱えてきたことを家族の中で共有しておくと、いざというときに慌てずに済みます。
子の自立に向けた働きかけと、親亡き後の備えは、どちらかを先に片づけてから次に進むというより、同時に少しずつ進めていくほうが現実的です。
弁護士が関わる場面
ひきこもりそのものは、法律で解決できる問題ではありません。ただ、長期化したご家庭では、暴言や暴力、お金の要求、親の財産の扱いなど、法的な対応が必要になる問題が重なっていることがあります。また、親が直接話をすると感情的な衝突になってしまう場合に、弁護士が親の代理人として窓口に立つことで、話し合いを進めやすくなることもあります。
当事務所では、弁護士が親御さんの代理人として子との窓口を担い、自立支援カウンセラーが住まい探しや仕事探し、生活保護の申請サポート、日々の金銭管理などの生活面を支えるという形で、役割を分けて取り組んでいます。一度相談したものの動けずに時間が経ったという方からのご相談もお受けしています。
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まとめ
- 20年という長さは、家族の生活がその形で回ってきたことを意味しており、どこを動かすかを考えることが出発点になります。
- 最初に取り組みたいのは、家計・住まい・健康などの現状を書き出す棚卸しです。
- 本人が相談を拒んでいても、家族だけで相談できる窓口はあります。
- 子への働きかけは、親の状況を伝えるところから段階を踏んで進めるのが現実的です。
- 親子が離れて暮らす選択肢や、親亡き後の備えも並行して検討しておくと、選べる道が広がります。
ひきこもりが20年以上続いていても、今から始められることはあります。何から手をつければよいか分からない段階でも、ご家庭の状況を整理するところからご一緒できます。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


