【親子問題】子が逮捕された|親が最初にすべきこと
本記事は2026年9月時点の法令・統計(厚生労働省「令和7年簡易生命表」、令和8年度の年金額など)に基づいています。記事中の試算はすべて考え方を示すための例示であり、個々のご家庭の数字とは異なります。
「あと何年、この生活が続くのでしょうか」。子のひきこもりの状態が長く続いているご家庭の親御さんから、ご相談の終わりにこう尋ねられることがあります。一方で、実家を離れて暮らすきょうだいからは「親がいなくなったとき、自分に何が回ってくるのか見当がつかない」という声も聞きます。どちらの立場でも、先が見えないこと自体が大きな負担になっているように感じます。
8050問題は「親が亡くなった後、子の生活が立ち行かなくなる問題」と説明されることが多く、その説明自体は誤りではありません。ただ、この説明からは「それがいつ来るのか」が見えてきません。また実際には、親が亡くなるより前に、お金や介護、判断能力の面で生活の形が変わる時期が訪れることも少なくありません。
この記事では、公的な統計と年金の仕組みを使って、「あと何年」を家庭ごとに見積もるための手順を整理します。親に成人した子を養う法的な義務がどこまであるかは【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかで、相談先の選び方は【親子問題】親子の問題はどこに相談すればよいのか|警察・行政・弁護士の役割分担で扱っていますので、あわせてご覧ください。
「あと何年」は一つの数字ではなく、三つの時計で考える
「いつまで」という問いには、性質の異なる三つの期限が重なっています。親の寿命と健康の期限、世帯のお金が続く期限、そして子自身の年齢にかかわる期限です。三つのうち最も早く来るものが、実際に生活の形が変わる時期になります。親の寿命だけを見ていると、この「最も早い期限」を見落としやすくなります。
親の時計|寿命と健康
一つ目は、親がいつまで元気に暮らせるかという期限です。寿命だけでなく、介護が必要になる時期や、預金の管理や契約を自分で行える判断能力が保たれる時期も、この時計に含まれます。
お金の時計|資産が続く年数
二つ目は、年金と預貯金で世帯の生活費をまかなえる期間です。親が二人とも健在の時期と、片方が亡くなった後とでは、この時計の進み方が変わります。
子の時計|65歳までの年数と、その後の収入
三つ目は、子自身の年齢にかかわる期限です。子が老齢年金を受け取り始める65歳までに何年あるのか、その年金がいくらになりそうかによって、親亡き後の見通しは大きく変わります。
親の時計を統計で読む|平均余命の使い方と注意点
親の時計の目安として使えるのが、厚生労働省が毎年公表している簡易生命表の「平均余命」です。平均余命とは、ある年齢の人があと平均して何年生きられるかを示した数値です。
年齢別の平均余命
令和7年簡易生命表による主な年齢の平均余命は、次のとおりです。
| 親の年齢 | 男性の平均余命 | 女性の平均余命 |
|---|---|---|
| 75歳 | 12.24年 | 15.88年 |
| 80歳 | 9.10年 | 11.95年 |
| 85歳 | 6.44年 | 8.47年 |
| 90歳 | 4.38年 | 5.66年 |
たとえば80歳の女性であれば、平均してあと約12年、つまり92歳前後までという目安になります。父母がともに健在のご家庭では、二人のうち長く生きる方が亡くなるまでが「親のいる期間」になるため、多くの場合、母親の平均余命が目安になります。
平均余命は「確実にその年までもつ」という意味ではない
平均余命はあくまで平均です。同じ生命表の生存数から計算すると、80歳の男性が90歳まで生存する割合は約42%、95歳までは約16%です。80歳の女性では、90歳までが約62%、95歳までが約32%になります。お金の計画を平均余命ちょうどで立てると、それより長く生きた場合に資金が足りなくなります。資金計画では、平均余命より5年ほど長めに見ておくのが無理のない考え方です。
寿命より先に来る「判断能力」の期限
見落とされやすいのが、親の判断能力の問題です。認知症などで判断能力が低下すると、本人名義の預金の引き出しや自宅の売却、施設入所の契約などが、家族であっても自由には進められなくなることがあります。その場合は成年後見制度を使うことになりますが、手続には一定の時間がかかります。親が元気なうちであれば、任意後見契約や遺言など、本人の意思で選べる準備の幅が広くなります。
お金の時計を計算する|見積もりの手順
お金の時計は、手元の資料さえそろえば、ご家庭の中でおおよその数字を出すことができます。
基本の式
考え方は単純で、「取り崩せる資産の額 ÷(1年間の生活費 - 1年間の年金収入)」で、資産が続く年数の目安が出ます。年金額は、毎年6月ごろに日本年金機構から届く年金額改定通知書で確認できます。参考までに、令和8年度の老齢基礎年金の満額は、昭和31年4月1日以前に生まれた方で月額7万408円です。
見積もりの6つの手順
次の順番で数字を書き出していくと、見通しが立てやすくなります。
- 世帯の年金を、父・母・子の人ごとに書き出す。
- 1か月の生活費を書き出し、そのうち子にかかっている分を分けて把握する。
- 預貯金など、取り崩せる資産の額を確認する。
- 基本の式で、現在の状態が続いた場合の年数を出す。
- 片方の親が亡くなった後と、介護が始まった後の数字で、もう一度計算する。
- 出た年数を、親の平均余命と、子が65歳になるまでの年数と並べてみる。
片方の親が亡くなった後の数字を必ず出す
計算で最も差が出るのが手順5です。夫婦の一方が亡くなると、残された配偶者には遺族厚生年金が支給される場合がありますが、その額は亡くなった方の老齢厚生年金のうち報酬比例部分の4分の3が基本です(厚生年金保険法60条1項)。世帯の年金収入ははっきり減る一方で、生活費は同じ割合では減らないため、この時点から資産の減り方が速くなるご家庭が多く見られます。
試算例|82歳の父・79歳の母・52歳の長男の場合
ここからは、手順に沿って架空のご家庭で試算してみます。数字はすべて説明のための例示です。
| 項目 | 前提(例示) |
|---|---|
| 家族構成 | 父82歳・母79歳・長男52歳の3人暮らし(持ち家) |
| 年金収入 | 父 月16万円(厚生年金)、母 月6.5万円(基礎年金中心) |
| 生活費 | 3人で月30万円 |
| 預貯金 | 1,200万円 |
| 長男の状況 | 10年以上就労しておらず、国民年金は未納の期間が長い |
今の状態が続いた場合
年金収入は月22.5万円、生活費は月30万円なので、不足は月7.5万円、年90万円です。1,200万円を90万円で割ると約13年となり、一見すると母親の平均余命と同じくらいはもつように見えます。
父が亡くなった後を織り込んだ場合
82歳男性の平均余命は約8年です。8年後に父が亡くなったと仮定すると、それまでに720万円を取り崩し、残りは480万円です。その後の母の年金は、自分の基礎年金と遺族厚生年金を合わせて月13万円程度、生活費は2人で月24万円程度と置くと、不足は年132万円になります。480万円を132万円で割ると約3.6年で、資産が続くのは今から通算で約11〜12年という計算になります。
三つの時計を並べる
この結果を三つの時計に並べると、次のようになります。
| 時計 | この例での目安 |
|---|---|
| 父の平均余命 | 約8年後(90歳前後) |
| お金が続く年数 | 約11〜12年後 |
| 母の平均余命 | 約13年後(91〜92歳前後) |
| 長男が65歳になるまで | 13年後 |
この例では、お金の時計が最も早く止まり、しかもそれは長男が65歳になる前です。さらに、この試算には介護費用や入院費、住宅の修繕費を入れていません。これらが加われば、お金の時計はもう少し早く進みます。平均余命より長生きした場合を考えれば、なおさらです。ご自身の家庭の数字で同じ表を作ってみると、「いつまで」の輪郭がかなりはっきりしてきます。
子の時計|親亡き後の収入は自動的には生まれない
親が亡くなれば、子に何らかの収入が引き継がれると考えている方もいます。しかし、制度の上ではそうならないことが多いのが実情です。
成人した子は、原則として遺族年金の対象にならない
遺族年金を受け取れる「子」は、原則として18歳になった年度の末日までの子、または障害等級1級・2級の状態にある20歳未満の子に限られます。50代の子が親の死亡によって遺族年金を受け取ることは、原則としてありません。また、親が亡くなった後も死亡の届出をせずに年金を受け取り続けることは認められず、受け取った分は返還の対象になります。死亡届は、死亡の事実を知った日から7日以内に出す必要があります(戸籍法86条1項)。
子自身の年金は、今の納付状況で決まる
子が65歳から受け取る老齢基礎年金の額は、20歳から60歳までの保険料の納付状況で決まります。未納の期間が長ければ、それだけ年金額は少なくなります。見落とされがちですが、世帯主は、世帯に属する人の国民年金保険料を連帯して納付する義務を負います(国民年金法88条2項)。保険料の免除を申請する場合も、本人だけでなく世帯主の所得が審査の対象になります。また、精神疾患などで障害年金を検討する場合、初診日の前日までの保険料の納付状況が受給の要件になります。子の年金記録の確認は、親が健在のうちにしておくべき準備の一つです。
同居のままでは、生活保護も世帯単位で判断される
生活保護は、原則として世帯を単位として要否や程度を判断します(生活保護法10条)。親子が同居している間は、親の年金も含めて判断されるため、子だけを対象に利用することは原則としてできません。親亡き後に子が一人で生活を立て直す場合も、住まいや手続の準備がないまま移行すると、生活が不安定になりやすくなります。
数字が出た後にできること|期限を延ばすより、順番を決める
見積もりの目的は、不安を大きくすることではありません。どの時計が最初に止まりそうかが分かれば、何から手をつけるべきかの順番が決まります。
見積もりは優先順位を決めるために使う
お金の時計が最も早いご家庭では、支出の見直しや子の収入の確保が先に来ます。親の判断能力の時計が気になるご家庭では、任意後見や遺言などの準備が先に来ます。子の時計が迫っているご家庭では、年金記録の確認や、子が一人で暮らす場合の住まいと手続の準備が先に来ます。いずれも、親が動けるうちのほうが選択肢は多くなります。
親が元気なうちに、親と子の生活を分けていく
当事務所では、親と子が近すぎる距離にいること自体が、問題を長引かせる要因の一つになっている場合があると考えています。そのため、弁護士が親の代理人として子との話し合いの窓口になり、提携する民間の自立支援カウンセラーが、子の家探しや仕事探し、生活保護の受給申請のサポート、日々の金銭管理などを担う形で、親と子それぞれの自立を目指しています。人が関わることなので結果をお約束することはできませんが、物理的な距離を取るだけでも、双方に変化が見られることがあります。取り組みの詳しい内容は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応でご紹介しています。
子が家を出ることを拒む場合
子が別居の話に応じない場合でも、親が自力で締め出すことには法的な問題が生じることがあります。どのような手順であれば子に家を出てもらうことを法的に求められるのかは、【親子問題】子を家から出ていかせることはできるのか|占有と明渡しで整理しています。
よくあるご質問
平均余命まではお金がもつという計算になりました。安心してよいでしょうか。
それだけでは十分とはいえません。平均余命は平均であり、80歳の女性であれば約6割が90歳まで生存します。また、介護費用や入院費は計算に入っていないことが多いはずです。平均余命より5年ほど長く生きた場合と、介護が始まった場合の数字もあわせて出しておくと安心です。
きょうだいの立場でも、この見積もりをしてよいのでしょうか。
親の同意を得たうえで一緒に数字を確認するのが望ましい形です。親亡き後の手続や子の生活の問題は、きょうだいが引き受ける場面も少なくありません。きょうだいが相談者になる場合の進め方は、【親子問題】きょうだいが相談者になる場合|親が動けないときをご覧ください。
見積もりの結果、すでに時間が少ないと分かりました。もう遅いのでしょうか。
遅すぎるということはありません。残りの年数が短いほど、優先順位をはっきりさせることの意味は大きくなります。公的な相談窓口や専門家に早めにつなぐことで、使える制度や選択肢が見えてくることもあります。
まとめ
- 「あと何年」は、親の時計・お金の時計・子の時計の三つで考え、最も早く来るものが生活の形が変わる時期になる。
- 親の時計は簡易生命表の平均余命で目安をつけられるが、平均であるため、資金計画は長めに見ておく。
- 寿命より前に、親の判断能力が低下する時期が来る場合があり、任意後見や遺言は元気なうちのほうが選択肢が広い。
- お金の時計は「資産 ÷(年間の生活費 - 年間の年金)」で出し、片方の親が亡くなった後の数字(厚生年金保険法60条1項)で必ず計算し直す。
- 成人した子は原則として遺族年金の対象にならず、親の死後に届出をせず年金を受け取り続けることはできない(戸籍法86条1項)。
- 世帯主は子の国民年金保険料について連帯納付義務を負い(国民年金法88条2項)、子の年金記録の確認は親が健在のうちに行う。
- 同居のままでは生活保護も世帯単位で判断されるため(生活保護法10条)、親と子の生活を分ける準備は早めに始める。
「あと何年」を一人で抱えているご家族へ
数字を出してみると、思っていたより時間があると分かる場合もあれば、その逆の場合もあります。いずれの場合も、見通しが立つことで次に取るべき行動は決めやすくなります。ご相談の前に整理しておくと話が早い情報は、【親子問題】相談の前に整理しておきたい5つの情報にまとめています。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、ひきこもりや家庭内暴力など親子の問題に関するご相談を、池袋と新橋の事務所でお受けしています。北海道から沖縄まで、遠方のご家庭からのご依頼にも対応しています(【親子問題】遠方でも依頼できるのか|全国対応の実際)。親御さんご本人からのご相談はもちろん、親の今後を心配されるきょうだいの方からのご相談もお待ちしています。


