【親子問題】ひきこもりの長期化で親に何が起きるのか|数字で見る8050
本記事は2026年9月時点の法令および公表資料に基づいて作成しています。制度や運用は改正されることがありますので、実際のご判断にあたっては最新の情報をあわせてご確認ください。
「本人が嫌がるので、相談にも行けませんでした」。成人したお子さんのことでご相談にみえる親御さんから、面談の冒頭でこう言われることがあります。反対に、「本人に黙って動いたら、あとで問題になるのではないか」とためらったまま何年も過ぎてしまった、というお話をうかがうこともあります。
相談窓口の案内には「まずはご家族だけでご相談ください」と書かれていることが多く、その説明そのものは正確です。ただ、そこでいう「相談」と、親御さんが実際に必要としている「手続」とは範囲が違います。話を聞いてもらえることと、家族だけで手続を進められることは別だからです。
この記事では、本人が関与を拒んでいる状況で、家族だけでどこまで動けるのかを、本人の同意が要る場面と要らない場面に分けて整理します。行政の相談窓口が制度としてどこまでを担うのかは【親子問題】ひきこもり地域支援センターでできること・できないことで扱っていますので、あわせてご覧ください。
本人の同意が要るかどうかは「誰の事柄か」で決まる
本人の同意の要否は場面ごとにばらばらに決まっているように見えますが、多くはひとつの見方で説明がつきます。その事柄が親自身の権利や立場に属するものなのか、それとも子本人の権利に属するものなのか、という区別です。親の側の事柄であれば、本人が反対していても親の判断で進められます。子の側の事柄であれば、親であっても代わりに決めることはできません。
相談すること自体に、子の同意は必要ない
前提として、親御さんが弁護士や行政の窓口に相談することに、お子さんの同意は要りません。相談するのは親御さん自身であり、その内容は親御さん自身の生活や財産に関わる事柄だからです。本人の了解を得てからでなければ相談できない、という決まりはありません。
相談したことが本人に伝わるのではないかという心配については、【親子問題】相談内容は子に伝わるのか|守秘義務と連絡の取り方で、守秘義務の範囲と連絡方法の設計を説明しています。
場面ごとの整理
代表的な場面を、本人の同意の要否という観点から並べると次のようになります。
| 場面 | 本人の同意 | 考え方 |
|---|---|---|
| 親が受けた暴力について警察に相談する | 不要 | 被害を受けたのは親自身 |
| 親名義の住まいからの退去を求める | 不要 | 所有者・賃借人は親 |
| 親が負担してきた生活費を見直す | 不要 | 支出しているのは親 |
| 親自身の遺言や財産の管理を決める | 不要 | 親自身の財産 |
| 生活保護の申請 | 本人以外にも申請権がある | 生活保護法7条 |
| 子名義の携帯電話・カードの解約 | 必要 | 契約の当事者は子 |
| 子の借入れの整理 | 必要 | 債務者は子 |
| 医療機関の受診 | 原則として必要 | 例外は法律で限定されている |
家族だけで進められる事柄
親御さんの側に属する事柄は、本人が拒んでいても着手できます。ここが動かせると分かるだけで、行き詰まった状態から抜けられる場合があります。
親自身が被害を受けている場合
暴力を受けた、物を壊された、脅すような言葉を向けられたという事態は、親御さん自身が被害者です。警察への相談、被害の申告、診断書の取得は、いずれも本人の同意を前提としません。何を記録し、どの順序で動くのかは【親子問題】子から暴力を受けている|まず確保すべき安全と記録、申告に踏み切る前の判断材料は【親子問題】被害届を出すと家族関係はどうなるのか|出す前に考えることで整理しています。
親名義の住まいとお金に関すること
住まいの名義が親御さんであれば、その使い方について判断できるのは親御さんです。もっとも、同居している子に出ていってもらう場面では、話し合いで決まらない限り手続を踏む必要があり、その道筋は【親子問題】子を家から出ていかせることはできるのか|占有と明渡しで説明しています。鍵を替える、締め出すといった実力による対応には限界があり、この点は【親子問題】鍵を替える・締め出すことの可否|自力救済の限界で扱いました。
生活費の負担についても同じです。成人した子への援助をどこまで続けるかは親御さん自身が決める事柄であり、法律上の義務の範囲は【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかでご確認いただけます。
生活保護は家族からも申請できる
意外に知られていないのが、生活保護の申請権です。生活保護法7条は、保護は要保護者本人のほか、その扶養義務者、その他の同居の親族の申請に基づいて開始すると定めています。つまり、子本人が窓口に行かなくても、親やきょうだいの側から申請を行うことができます。
ただし、保護は原則として世帯を単位として要否が判断されます(同法10条)。親と同居したままであれば、世帯全体の収入や資産を基に判断されるため、子だけを対象として保護が開始されるとは限りません。生活の場を分けることが結果として選択肢を広げる場合があるのは、このためです。
家族だけでは進められない事柄
一方で、子本人の権利に属する事柄は、親であっても代わりに決めることはできません。ここを取り違えたまま時間を使ってしまうことがあるため、先に確認しておく価値があります。
子名義の契約と借入れ
携帯電話、クレジットカード、各種の定額サービス、消費者金融からの借入れ。これらの契約当事者は子本人ですので、親御さんが解約や整理を代わりに行うことはできません。親御さんが保証人になっていない限り、その支払義務が親御さんに移ることもありません。契約者が親御さん自身であれば、当然ながら親御さんの判断で解約できます。まずは名義を確認することが出発点になります。
医療につなぐこと
受診は本人の意思によるのが原則です。本人の同意によらない入院の仕組みは精神保健福祉法に置かれていますが、精神保健指定医の診察を経ることなど、要件が法律で細かく定められています。ひきこもりという状態それ自体が、こうした手続の対象になるわけではありません。医療の必要性が疑われる場合は、まず保健所や精神保健福祉センターに家族として相談し、どの機関につなぐのが適切かを一緒に検討するのが現実的な進め方です。
成年後見は、この場面では使えないことが多い
「後見人を立てれば代わりに手続ができるのではないか」というご質問をよくいただきます。しかし、後見開始の審判の対象は、精神上の障害により物事を判断する能力を欠く状況にある方です(民法7条)。判断能力そのものに問題がないのであれば、外に出られない状態が長く続いていても、この要件には当たりません。
なお、最も軽い類型である補助については、本人以外の方の請求で開始する場合に本人の同意が必要とされています(民法15条2項)。制度の入口の時点で、本人の意思が組み込まれているということです。
窓口から家族に情報が来ないのはなぜか
子の状況を心配して医療機関や行政機関に問い合わせても、「ご本人の同意がないとお答えできません」と言われることがあります。これは個人情報保護法27条1項が、原則としてあらかじめ本人の同意を得ないで個人データを第三者に提供してはならないと定めているためです。成人した子の情報については、親であっても第三者に当たります。
同項は、法令に基づく場合や、人の生命・身体・財産の保護のために必要があり本人の同意を得ることが困難な場合などを例外としています。裏を返せば、平時の問い合わせは例外に当たりにくいということです。
もっとも、この制限は情報を「受け取る」方向にかかるものです。家族の側から窓口に情報を伝えることは、いつでもできます。本人の様子、金銭の動き、暴力の有無といった事実を伝えておくことには意味があります。
家族だけで動くときに気をつけたいこと
公的な窓口では進まないと感じたとき、本人を強制的に連れ出すことをうたう民間の事業者を検討される方がいます。厚生労働省は、ひきこもり等の自立支援をうたう複数の事業者について、高額な請求を行う、無理に家から連れ出して入所させる、入所させるだけで適切なサービスを提供しないといった事例が生じ、本人による民事訴訟も行われてきたことを公表資料に明記しています。消費者庁も同様の注意を呼びかけており、消費生活の相談は消費者ホットライン(188)で最寄りの窓口を案内してもらえます。
契約を検討される場合は、支援の担い手、内容と期間、解約の条件、本人の意思をどのように確認するのかを、契約前に書面で確かめておくことをおすすめします。
弁護士が親御さんの代理人として入るという形
弁護士がお引き受けするのは、あくまで親御さんの代理人としての立場です。依頼者は親御さんですので、ご依頼そのものに子の同意は要りません。その立場で、親御さんの側の事柄について窓口を代わり、子との連絡を引き受けることができます。
当事務所では、親御さんの代理人を弁護士が務め、子の側の日常的な生活の立て直しは民間の自立支援カウンセラーが担う形でチームを組んでいます。子の側を孤立させたままでは自立につながらないと考えているためです。人が関わることである以上、結果をお約束することはできませんが、親子の物理的な距離を取るだけでも双方に変化が生じることがあります。弁護士が入ると何が変わり、何は変わらないのかは【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択、取り組みの全体像は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応をご覧ください。
よくあるご質問
本人に黙って相談することは、法的に問題になりませんか
問題になりません。相談される方はご自身の困りごとを話しているのであり、本人の権利を侵すものではありません。弁護士には守秘義務がありますので、相談の事実や内容を当方から子に伝えることもありません。
親が高齢で動けない場合、きょうだいが相談できますか
できます。きょうだいが相談者になる場合に、どこまでの立場で関与できるのかは【親子問題】きょうだいが相談者になる場合|親が動けないときで整理しています。
相談の前に、何を用意しておけばよいですか
名義の一覧、金銭の動き、出来事の時期が分かると話が早く進みます。整理の仕方は【親子問題】相談の前に整理しておきたい5つの情報にまとめました。窓口の役割分担そのものについては【親子問題】親子の問題はどこに相談すればよいのか|警察・行政・弁護士の役割分担をご覧ください。
まとめ
- 本人の同意が要るかどうかは、その事柄が親の側に属するのか子の側に属するのかで、おおむね仕分けられます。
- 親が受けた被害への対応、親名義の住まいやお金に関する判断は、本人が拒んでいても進められます。
- 生活保護は、扶養義務者やその他の同居の親族からも申請できます(生活保護法7条)。ただし世帯を単位に要否が判断されます(同法10条)。
- 子名義の契約や借入れの整理は、契約当事者である本人の関与がなければ進みません。
- 判断能力そのものに問題がない場合、成年後見はこの場面の解決手段にはなりにくい制度です(民法7条・15条2項)。
- 医療機関や行政から家族に情報が渡らないのは、個人情報保護法27条1項が本人の同意を原則としているためです。情報を伝える方向は、いつでも可能です。
本人が相談を拒んでいる段階でお悩みの方へ
本人が動かないから何もできない、という状態に見えても、実際には親御さんの側だけで着手できる事柄が残っていることが少なくありません。難しいのは、ご家庭で起きている事柄のうち、どこまでが親御さんの判断で動かせて、どこからが本人の関与を要するのかという線引きです。まずはその切り分けから、ご一緒できればと思います。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。
【監修】弁護士法人若井綜合法律事務所 代表弁護士 若井亮(東京弁護士会・登録番号47827/池袋・新橋)
風俗トラブル(100%客側)・男女トラブル・刑事弁護を中心に、累計90,000件以上のご相談をお受けしています。本記事は一般的な解説であり、結論は個別の事情により異なります。全国から24時間・年中無休で無料相談を受付中。電話【03-5924-6845】/メール【info@wakailaw.com】
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