【親子問題】きょうだいが相談者になる場合|親が動けないとき
「何から話せばいいのか分からないまま、相談の日になってしまいました」。成人したお子さんとの関係で悩む親御さんから、面談の冒頭でこう言われることがあります。反対に、「二十年分の経緯を短い時間で話せるはずがない」と考えて、相談そのものを先延ばしにしてこられた方もおられます。
インターネット上には「まずは専門家に相談を」という案内が数多くあります。それ自体は誤りではありませんが、限られた相談の時間の中で何を伝えるかによって、返ってくる見立ての精度は変わってきます。親子の問題は、経緯が長く、感情と事実が混ざりやすく、関係する制度も刑事・民事・福祉にまたがるためです。
本記事では、ひきこもりや家庭内での暴力、金銭の要求といった親子の問題について弁護士に相談する前に、整理しておくと話が進みやすくなる5つの情報を取り上げます。そもそもどの窓口に相談すべきかという全体像は親子の問題はどこに相談すればよいのか|警察・行政・弁護士の役割分担で、法律相談一般の持ち物や資料の揃え方は法律相談の前に用意する資料チェックリスト|手元に何もない場合はどうするかで扱っていますので、ここでは親子の問題に特有の部分に絞ってお話しします。
本記事は2026年9月時点の法令等に基づいて記載しています。福祉の窓口の名称や運用は、自治体によって異なる場合があります。
なぜ相談前の整理が結果を左右するのか
限られた時間で、判断に必要な材料が揃うかどうか
初回の法律相談は、30分から1時間程度で設定されていることが多いものです。親子の問題では、この時間の中で、いま起きていることの法的な位置づけ、警察や行政が動く余地、民事的にとりうる手段、そして費用と時間の見通しまでを一度に検討することになります。
経緯を最初から順に語っていくと、直近数年の話にたどり着く前に時間が尽きてしまうことが少なくありません。先に事実の骨格を渡しておけば、相談の時間は「これからどうするか」の検討に使えます。同じ1時間でも、得られるものがかなり変わってきます。
「整理」は完璧な資料を作ることではない
整理といっても、きれいな書面を用意する必要はありません。分かる範囲で書き出した手書きのメモで十分です。日付が思い出せなければ「令和5年の春頃」といった程度でかまいませんし、金額も概算で足ります。
むしろ、分からない部分を「分からない」と書き残しておくことに意味があります。子の預金の残高が把握できていない、契約した民間施設の名称が思い出せない、といった空白そのものが、次に何を確認すべきかを示す情報になるからです。
①同居の状況|誰が、どの家に、どういう関係で住んでいるか
住まいの名義と、居住が始まった経緯
最初に整理していただきたいのは、住まいをめぐる事実関係です。次の点を書き出しておくと、初回の相談で扱える範囲が広がります。
- 家が持ち家か賃貸か。賃貸の場合、契約者は誰か。
- 持ち家の場合の登記名義と、住宅ローンの有無。
- 子が現在の家に住むようになった時期と、その経緯(就職して家を出た後に戻った、一度も出ていない、など)。
- 子が世帯として分かれているか(住民票上の扱い)。
- 親と子以外に同居している家族がいるか。
同居か別居かという一点だけでも、検討できる手段の幅は変わります。たとえば、同居の親族の間で行われた財産の持ち出しについては、刑が免除される旨の規定が置かれています(刑法244条1項)。この点は同居の家族の物を持ち出した|親族相盗例で処罰されない範囲で詳しく説明しています。
家の中で生活がどう分かれているか
同じ家に住んでいても、生活の実態はご家庭ごとに異なります。食事を一緒にとっているのか、洗濯や掃除を誰が担っているのか、子の部屋に親が入れる状態なのか、玄関や水回りをどう使い分けているのか。こうした日常の運びは、後に住まいの問題を検討する場面でも、親御さんが一時的に家を離れる選択を考える場面でも、判断の材料になります。
顔を合わせずに生活している、食事だけ部屋の前に置いている、といった状況であれば、それも正確に伝えていただければと思います。関係が途絶えているように見える状態でも、そこから設計できることはあります。
②金銭の流れ|毎月いくらが、どういう形で動いているか
三つに分けて書き出す
親子の問題では、金銭の話が中心になることが多くあります。そのとき、合計額だけでは判断がつきません。性質の違うお金が混ざっているためです。次の三つに分けて整理してみてください。
- 親が負担している生活の費用(家賃や住宅ローン、光熱費、食費、通信費、保険料、税金など)。
- 定期的に渡している金銭(毎月の小遣いなど、金額と渡し方が決まっているもの)。
- 求められて渡した臨時の金銭(時期、金額、名目、渡した経緯)。
一つ目と二つ目は家計の問題として、三つ目は別の問題として検討することになります。同じ「お金を渡している」でも、継続的な生活費の負担と、要求を受けて応じた支出とでは、法的な位置づけも今後の対応も異なります。親族間の金銭要求と扶養義務の関係については【不当要求対応】親族からの金銭要求|扶養義務はどこまでかをご覧ください。
名義と引き落としの一覧
あわせて、名義の所在を確認しておいてください。携帯電話、車、クレジットカード、各種のサブスクリプション、保険、賃貸借契約。子が使っているものの名義が親になっている場合、その契約に伴う支払義務は親にあります。
通帳を記帳し、直近1年分の引き落としを眺めるだけでも、把握していなかった支出が見つかることがあります。親が保証人になっている契約があるかどうかも、この機会に確認しておくとよいでしょう。
③暴力・破損・脅しの履歴|いつ、何があったか
時系列で残す
身体への暴力、物を壊す行為、大声での威圧や脅し文句があった場合は、時系列で書き出してください。一件ごとに、おおよその日付、何が起きたか、けがの有無、警察を呼んだかどうか、修理や治療に費用がかかったか。この5項目が揃っていれば、初回の相談としては十分です。
財産に関する規定とは異なり、暴行や傷害、脅迫については、親族間であることを理由に刑を免除する規定は置かれていません。家庭内で起きた暴力の扱いについては家庭内で手が出た|家族間の暴行・傷害とDV法の関係で整理しています。時系列のまとめ方そのものはA4一枚の時系列メモの作り方|相談の質を決める1枚が参考になります。
手元にあるものを消さない
診断書、けがや壊れた物の写真、修理の見積書や領収書、110番通報をした日付。これらは、後から集めようとしても集まらないものです。すでに手元にあるものは、整理しないままでかまいませんので、保存しておいてください。
メッセージアプリのやり取り、留守番電話、録音も同様です。何が記録として意味を持つかは証拠になるもの・ならないもの|相談前の整理の仕方とLINE・メール・録音データの保存と渡し方|消してはいけない理由で説明しています。
なお、記録を残すことを優先して危険な場面に近づくことは、おすすめできません。安全の確保が先で、記録はその次です。その場を離れられる状況であれば、離れることを優先してください。
④これまでの相談歴|どこに相談し、どう言われたか
四つの窓口に分けて
親子の問題でご相談にみえる方の多くは、弁護士のところに来るまでに、すでにどこかに相談されています。その履歴は、次の一手を考えるうえで重要な情報です。次の四つに分けて、いつ、どこに、どう相談し、どう言われたかを書き出してみてください。
- 警察(110番通報、相談窓口への訪問、生活安全課への相談など)。
- 行政(市区町村の窓口、ひきこもり地域支援センター、地域包括支援センター、保健所や精神保健福祉センターなど)。
- 医療機関(精神科や心療内科への受診、家族のみの相談を含む)。
- 民間の事業者(自立支援をうたう施設、カウンセリング、探偵など)。
「動かなかった」理由まで分かると、次が決まる
窓口で対応が得られなかった場合、その理由を覚えている範囲で書き添えてください。「家庭の問題だと言われた」「本人が来ないと始まらないと言われた」「様子を見ましょうと言われた」。理由によって、次にとるべき道筋が変わります。
それぞれの窓口が親子の問題でどこまで対応できるのかは、親子の問題はどこに相談すればよいのか|警察・行政・弁護士の役割分担で整理しています。警察に相談したものの対応が得られなかったという場面については警察に相談しても動いてくれないとき|弁護士ができることで、士業や行政窓口を含めた一般的な使い分けについては弁護士・司法書士・行政書士・警察・行政窓口|どこに相談すべきかの使い分けで扱っています。
民間の事業者と契約された場合は、契約書と料金の明細をお持ちください。支払った金額、受けられた支援の内容、途中で終了した場合はその経緯まで分かると、検討できる範囲が広がります。
⑤親御さんの側の資力と、時間の見通し
年金・貯蓄・住まいの三点
最後に整理していただきたいのは、支える側の状況です。具体的には、年金や給与の月額、預貯金のおおよその残高、自宅の有無とローンの残り、加入している保険。この四つが分かれば、当面の設計はできます。
あわせて考えておきたいのが、「今の支え方をあと何年続けられるか」という見通しです。年金額と貯蓄額から、月々の不足分を割り戻せば、おおよその年数は計算できます。厳しい数字が出ることもありますが、時間の制約がはっきりすることで、優先順位はかえって決めやすくなります。
親御さん自身の健康と年齢
親御さんの側の健康状態、通院の有無、介護が必要になる可能性も、相談の場でお伝えいただきたい情報です。支える側が動けなくなったときに何が起きるかは、親子の問題では避けて通れない論点だからです。
費用の心配についても、その場で率直にお話しいただければと思います。何にいくらかかるのかという費用の構成は弁護士費用の内訳|相談料・着手金・報酬金・実費・日当・手数料で説明していますが、資力の状況を前提にしなければ、実行できる方針は立てられません。
整理が難しいときの進め方
A4一枚に収める
5つすべてを詳細に書き出す必要はありません。A4の紙一枚に、①家族構成と住まい、②お金の流れ、③これまでの出来事、④相談した先、⑤親御さんの状況、という順で、それぞれ数行ずつ書けば足ります。書ききれなかった部分は、相談の場で口頭で補っていただければ結構です。
一枚にまとめる作業そのものが、ご自身の状況を俯瞰する機会にもなります。長く続いてきた状況ほど、書き出してみて初めて見えてくるものがあります。
子に知られたくない場合
同居されている場合、相談していること自体を子に知られたくない、というご希望はよくあります。郵便物の送り先、連絡に使う電話番号や時間帯、書面を保管する場所など、配慮できる部分はありますので、最初の段階で遠慮なくお伝えください。守秘義務の範囲については弁護士に相談した内容は家族や警察に伝わる?守秘義務の範囲をご覧ください。
家族の間で認識が食い違う場合
ご両親の間、あるいはきょうだいの間で、状況の受け止め方が異なることもあります。その場合は、無理に一つにまとめず、「父はこう見ている、母はこう見ている」と両論を書き添えていただければ十分です。認識の違いがどこにあるのかも、相談を受ける側にとっては意味のある情報です。
よくあるご質問
資料が何もそろっていません。相談してよいのでしょうか。
差し支えありません。記憶にある範囲でお話しいただければ、そこから何を確認すべきかを一緒に整理していきます。資料が揃うのを待っているうちに状況が動いてしまうことのほうが、実務上は多く見られます。
子に知られずに相談することはできますか。
ご相談の段階であれば、通常は可能です。ご依頼をいただいて弁護士が子と連絡を取る段階になれば、代理人が就いたことは相手方に伝わりますが、その時期や伝え方は打ち合わせのうえで決めていきます。
親ではなく、きょうだいが相談することはできますか。
きょうだいの方からのご相談もお受けしています。ただし、どなたの代理人として動くのかによって、とれる手段が変わります。親御さんが高齢で判断が難しい状態であれば、その点も含めてご相談ください。
まとめ
- 相談前に整理しておきたいのは、同居の状況、金銭の流れ、暴力や破損の履歴、これまでの相談歴、親御さん側の資力と見通しの5つです。
- 同居か別居かは、財産の持ち出しに関する刑事手続の見通し(刑法244条1項)をはじめ、検討できる手段の幅を左右します。
- 金銭は、生活費の負担・定期的に渡している金銭・要求に応じて渡した金銭の三つに分けて書き出してください。
- 暴行や傷害、脅迫については、親族間であることを理由に刑を免除する規定は置かれていません。
- すでに手元にある診断書・写真・メッセージ・録音は、整理しないままでかまいませんので保存してください。
- 相談歴は、対応が得られなかった場合の理由まで分かると、次にとるべき道筋が決まりやすくなります。
- 完璧な資料は必要ありません。A4一枚のメモと、分からない点を「分からない」と書き残すことで足ります。
親子の問題のご相談をお考えの方へ
弁護士法人若井綜合法律事務所では、ひきこもりや家庭内での暴力、金銭の要求といった親子の問題に関するご相談を、池袋と新橋の事務所でお受けしています。お子さんの年齢は問いません。未成年のお子さんの件もあれば、50歳を超えたお子さんの件もあります。
当事務所では、弁護士が親御さん側の代理人として関与し、民間の自立支援カウンセラーと組んで、お子さんの側の生活面の支援を並行して進める形をとっています。長く続いてきた状況が一度の相談で解決するものではありませんし、結果をお約束できるものでもありませんが、何から手をつけるかを一緒に決めるところから始めることはできます。
ご相談の際は、本記事の5つの項目を手元のメモにまとめてお持ちいただくと、初回の時間を今後の検討に充てやすくなります。まとまらないままでも差し支えありません。


