【親子問題】親が亡くなった後に子が孤立する|備えとして何ができるか

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

本記事は2026年9月時点の法令・制度に基づいて作成しています。成年後見制度は民法等の一部を改正する法律(令和8年法律第45号)により見直しが決まっており、施行後は内容が変わる部分があります。


親が70代、80代になり、同居する子が長くひきこもりの状態にあるご家庭から、「自分たちがいなくなった後、この子はどうやって暮らしていくのか」というご相談を受けることがあります。きょうだいの側から、「親が亡くなったら、兄の生活を自分が引き受けることになるのか」と尋ねられることも少なくありません。

 親亡き後への備えとしては、遺言や信託で財産の渡し方を決めておく、という説明がよく見られます。それ自体は誤りではありません。ただ、お金が残っていても、手続を進め、生活を回し、困ったときに声をかけられる相手がいなければ、子は少しずつ孤立していきます。

 この記事では、親が亡くなった後に子が孤立していく流れと、親の死後に子の前に並ぶ手続・期限を整理したうえで、親が元気なうちにできる備えを「お金」「住まい」「つながり」の3つに分けて解説します。遺言・信託・成年後見などの個々の制度は概要にとどめ、どこから手をつけるかの判断材料をお伝えします。

親が亡くなった後、子が孤立していく流れ

 内閣府の令和4年度の調査では、広義のひきこもりの状態にある人は15〜39歳で2.05%、40〜64歳で2.02%とされ、全国で約146万人と推計されています(この調査は令和5年4月にこども家庭庁へ移管されています)。年齢を重ねた子が高齢の親と同居し、生活の多くを親に頼っている家庭は珍しくありません。

収入・家事・手続の窓口が同時に止まる

 親の年金や預貯金で家計が回っている場合、親の死亡によって収入の柱がなくなります。食事の用意や買い物といった家事も、役所や金融機関とのやり取りも、親が担ってきたことが多いはずです。親の死亡は、家計・家事・対外的な手続の窓口という3つの役割が同時に失われる出来事であり、子にとっては何から手をつければよいか分からない状態になりがちです。

手続が進まないまま時間が過ぎる

 死亡届や年金の手続、公共料金や家賃の支払いには、期限や締め日があります。人と話すこと自体に強い負担を感じている子にとって、窓口に出向いて書類をそろえることは簡単ではありません。手続が滞ると、公共料金が止まる、家賃を滞納するといった形で、生活の基盤が少しずつ崩れていきます。

外からは気づかれにくい

 ひきこもりの状態を周囲に伏せてきた家庭では、近所や親族との付き合いが薄く、支援機関とも接点がないことが多くあります。親の死後、残された子が誰にも連絡できないまま時間が過ぎ、しばらくしてから周囲が異変に気づいた、という報道は繰り返されています。こうした事例に共通するのは、子の能力の問題というよりも、親以外に子とつながっている人がいなかったという構造です。

親の死後、子の前に並ぶ手続と期限

 親が亡くなると、残された子には主に次のような手続が求められます。いずれも、親が元気なうちに「誰が担うのか」を決めておきたいものです。

手続期限の目安根拠
死亡届の提出死亡の事実を知った日から7日以内戸籍法86条・87条
年金の受給権者死亡届速やかに(マイナンバーが登録されていれば省略できる場合あり)国民年金法105条ほか
相続放棄・限定承認相続の開始を知った時から3か月以内民法915条1項
所得税の準確定申告(必要な場合)相続の開始を知った日の翌日から4か月以内所得税法124条・125条
相続税の申告(必要な場合)相続の開始を知った日の翌日から10か月以内相続税法27条1項


死亡届は同居の親族が第一の届出義務者になる

 死亡届は、同居の親族が第一の届出義務者とされています(戸籍法87条1項)。同居の親族以外の親族も届け出ることができるため(同条2項)、別居のきょうだいなどが届出人になり、提出は葬儀社が代行するという形も一般的です。子が一人で対応できない可能性があるなら、誰が届け出るのかを家族の中で決めておくことが第一歩になります。

親の年金は止まり、成人した子は遺族年金の対象にならない

 親の年金は、亡くなった月の分までで支給が終わります。遺族基礎年金・遺族厚生年金を受け取れる「子」は、18歳になった年度の末日までにある子か、障害等級1級・2級の状態にある20歳未満の子に限られるため(国民年金法37条の2、厚生年金保険法59条)、成人した子は対象になりません。親の年金で暮らしていた家庭では、親の死亡とともに収入がほぼなくなることを前提に備える必要があります。なお、親が亡くなった時点でまだ受け取っていない年金は、生計を同じくしていた子が未支給年金として請求できます(国民年金法19条)。

死亡を届け出ないまま年金を受け取り続けることの問題

 親の死亡を届け出ないまま年金が振り込まれ続け、それを生活費に充てていたという事例も報じられています。受給権のない期間に支払われた年金は返還を求められ、事情によっては刑事責任が問題になることもあります。子を責めるための話ではなく、手続を担う人がいないとこうした事態に陥りやすい、という点を押さえておくことが大切です。

備えは「お金」「住まい」「つながり」の3つで考える

 親亡き後の備えは、財産の話に偏りがちです。ここでは、子の暮らしを支える要素を3つに分けて考えます。

お金|一度に渡さない設計

 財産を一度にまとめて相続すると、金銭管理に慣れていない子が短期間で使い切ってしまったり、第三者に狙われたりするおそれがあります。遺言で財産の渡し方に条件を付ける負担付遺贈(民法1002条)、信頼できる人に財産を託して毎月一定額を子に渡してもらう家族信託、保険金を一括ではなく分けて受け取れるようにする生命保険信託など、「定期的に渡す」ための仕組みがあります。子が複数いる場合は、ほかの子の遺留分(民法1042条)にも配慮した設計が必要です。

住まい|住み続けられるかを確かめる

 持ち家であれば、子が相続して住み続けることはできますが、固定資産税や修繕費、光熱費は子の負担になります。借家であれば、借主としての地位(賃借権)は相続されるため直ちに退去を求められるわけではありませんが、家賃を払い続けられるかが問題になります。今の家に住み続ける前提でよいのか、住み替えを考えるべきかは、家計の見通しとあわせて検討しておきたい点です。

つながり|親以外に子と連絡を取れる人をつくる

 3つの中で最も備えにくく、しかも最も重要なのが「つながり」です。財産や住まいが確保されていても、手続を手伝い、体調の変化に気づき、困りごとを聞く人がいなければ、子は孤立します。都道府県・指定都市のひきこもり地域支援センター、市町村の相談窓口、社会福祉協議会、医療機関、民間の支援者など、親が元気なうちに、親以外の誰かと子が顔見知りになっておくことが備えの中心になります。相談先ごとの役割の違いは、【親子問題】親子の問題はどこに相談すればよいのか|警察・行政・弁護士の役割分担で整理しています。

 なお、医療機関の受診につながり、診断に基づく支援を受けられるようになると、障害年金や精神障害者保健福祉手帳、社会福祉協議会の日常生活自立支援事業(福祉サービスの利用や日常的な金銭管理の援助)など、使える制度の幅が広がることがあります。受診を急がせる必要はありませんが、選択肢として知っておく価値はあります。

親が元気なうちに整えておきたい法的な手当

 法的な手当の多くは、親に判断能力があるうちでなければ使えません。ここでは代表的な3つを取り上げます。

遺言と遺言執行者

 遺言がなければ、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。子が話し合いに応じられない場合、手続が長く止まってしまうことがあります。公正証書遺言(民法969条)で財産の分け方を決め、遺言執行者(民法1006条)を指定しておけば、預貯金の払戻しや名義変更などの手続を遺言執行者が進めることができます。子が手続を担えない家庭ほど、遺言執行者の指定が意味を持ちます。なお、令和8年法律第45号では自筆証書遺言などの押印を不要とする見直しも行われており、公布から1年以内に施行される予定です。

死後事務委任契約

 葬儀や納骨、公共料金の解約、家財の整理といった死後の事務は、遺言だけでは十分にカバーできません。これらを第三者に依頼しておくのが死後事務委任契約です。委任契約は委任者の死亡によって終了するのが原則ですが(民法653条1号)、死後の事務を依頼する契約は、死亡によって終了させない合意を含むものとして有効と解されています(最判平成4年9月22日)。子が担えない事務をあらかじめ切り出しておくことで、死後の負担を軽くできます。

成年後見・任意後見と、2026年の制度見直し

 子に知的障害や精神障害などがあり、判断能力が不十分な場合は、成年後見制度(民法7条・11条・15条)の利用が考えられます。ただ、ひきこもりの状態にあることそれ自体は、判断能力が不十分であることを意味しません。判断能力に問題のない成人の子について、親が代わりに財産を管理したり契約をしたりする権限はなく、成年後見を使うこともできないのが原則です。成人した子に親がどこまで関われるかは、【親子問題】成人した子の問題に親が介入できる法的な範囲で解説しています。

 成年後見制度については、後見・保佐・補助の3類型を「補助」に一本化し、必要がなくなれば利用を終えられる仕組みに改める民法改正(令和8年法律第45号)が2026年6月に成立しました。施行は公布(同年6月24日)から2年6か月以内とされており、それまでは現行制度で運用されます。子に判断能力の不安がある場合は、改正の時期も見据えて利用を検討することになります。

法的な手当だけでは孤立は防げない|親の生前に子の生活を別に立ち上げる

 遺言や信託は、親の死後に「何を」「どう渡すか」を決める仕組みです。一方で、子が「誰と」つながって暮らすのかは、書面だけでは決められません。

親が「窓口」であり続ける構造を変える

 子の生活の窓口がすべて親に集まっている限り、親が亡くなった時点で窓口は消えてしまいます。親が元気なうちに、子が自分の名前で住まいを借り、自分で収入や給付を受け、親以外の支援者と日常的にやり取りする状態をつくっておくことは、親の死後に起きる変化を小さくするための備えになります。

距離を取ることで生まれる変化

 当事務所では、ひきこもりや家庭内暴力に悩む親御さんからの依頼を受け、弁護士が親側の代理人として子と向き合い、民間の自立支援カウンセラーが子の家探し、仕事探し、生活保護の受給申請のサポート、日々の金銭管理や悩みごとへの対応を担う形で取り組んでいます。子を孤立させたまま自立を求めても、自立は実現しにくいと考えているためです。人が関わることなので結果をお約束することはできませんが、親子が物理的な距離を取るだけでも、双方に変化が生まれることがあります。親の死を待って離れるのではなく、親が支えられるうちに離れるという順番で考えることもできます。家から出ることをめぐる法的な整理は、【親子問題】子を家から出ていかせることはできるのか|占有と明渡しをご覧ください。

きょうだいに負担を集めないために

 親の死後、きょうだいが事実上の支え手になることがあります。きょうだいの間にも扶養義務はありますが(民法877条1項)、自分の生活を犠牲にしてまで養う義務ではなく、余力の範囲で負うものと考えられています。親が元気なうちに、きょうだいがどこまで関わるのか、関われないことは何かを話し合い、支援機関につないでおくことが、きょうだい自身の生活を守ることにもつながります。扶養義務の範囲は【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのか、きょうだいが相談する場合の進め方は【親子問題】きょうだいが相談者になる場合|親が動けないときで解説しています。

親が元気なうちに確認しておきたいチェックリスト

 次の項目のうち、答えられないものがあれば、そこから手をつけてみてください。

  • 親が亡くなったとき、死亡届や葬儀の手配を誰が担うか決まっている。
  • 親の年金が止まった後の、子の収入や給付の見通しが立っている。
  • 親の預貯金・保険・借金の一覧が、家族の誰かに分かる形で残っている。
  • 遺言を作成し、遺言執行者を指定している。
  • 葬儀や家財の整理など、死後の事務を誰に頼むか決めている。
  • 子が今の家に住み続けられるか、住み替えが必要かを検討している。
  • 親以外に、子と連絡を取り合える支援者や相談先がある。
  • きょうだいがどこまで関わるのかを、家族の中で話し合っている。


 相談に向けて情報を整理する際は、【親子問題】相談の前に整理しておきたい5つの情報もあわせてご覧ください。

よくあるご質問

子が相続の手続をしないまま放っておくと、どうなりますか

 相続の開始を知った時から3か月以内に相続放棄や限定承認をしなければ、単純承認をしたものとみなされます(民法915条1項・921条2号)。親に借金があれば、それも引き継ぐことになります。また、預貯金は相続人が手続をしなければ払い戻せないため、口座にお金があっても生活費に使えない状態が起こり得ます。借金の有無の整理や遺言執行者の指定は、親が元気なうちに済ませておきたい手当です。

本人が将来の話を拒んでいても、親だけで備えを進めてよいのでしょうか

 遺言や死後事務委任契約は、親が自分の意思で行うもので、子の同意は必要ありません。家族信託も、親(委託者)と財産を託される人(受託者)との契約で設定でき、財産を受け取る子(受益者)の同意は要件になっていません(信託法3条1号)。本人と話し合えることが望ましいのは確かですが、話し合いが難しいことを理由に備えを先送りする必要はありません。

親が亡くなった後、子は生活保護を受けられますか

 生活保護は、利用できる資産や能力を活用してもなお生活に困る場合に受けられる制度です(生活保護法4条1項)。親から相続した預貯金がある間は、まずそれを生活費に充てることになりますが、相続した財産がほとんどない場合や、使い切った後であれば申請できます。申請の際には、きょうだいなどの親族に援助が可能かを確認する扶養照会が行われることがあります。

まとめ


  1. 親の死亡は、家計・家事・手続の窓口という3つの役割が同時に失われる出来事であり、親以外につながりのない子は孤立しやすい。
  2. 死亡届は同居の親族が第一の届出義務者であり、死亡の事実を知った日から7日以内に届け出る必要がある(戸籍法86条・87条)。
  3. 遺族年金の「子」は18歳の年度末までなどに限られ、成人した子は親の年金に代わる給付を受けられない(国民年金法37条の2、厚生年金保険法59条)。
  4. 相続放棄・限定承認の期限は3か月で、何もしなければ単純承認とみなされる(民法915条1項・921条2号)。
  5. 財産は負担付遺贈や信託などで「定期的に渡す」設計が考えられ、遺言執行者の指定や死後事務委任契約で手続の担い手を決めておける(民法1002条・1006条・653条)。
  6. ひきこもりの状態それ自体は判断能力の不十分さを意味せず、成年後見は使えないのが原則である。成年後見制度は令和8年法律第45号で見直しが決まっている。
  7. 最も重要な備えは、親が元気なうちに、親以外の支援者と子がつながり、子の生活を別に立ち上げておくことである。


親亡き後の備えをご検討中の方へ

弁護士法人若井綜合法律事務所では、ひきこもりや家庭内暴力など、親子の問題に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。弁護士若井亮は5年以上にわたり、北海道から沖縄まで全国の親子の問題に取り組んできました。遠方の方からのご相談の進め方は、【親子問題】遠方でも依頼できるのか|全国対応の実際をご覧ください。

 「自分たちがいなくなった後が心配だが、何から始めればよいか分からない」という親御さんも、「親が亡くなった後の兄弟の生活が気がかりだ」というきょうだいの方も、一人で抱え込まずにご相談ください。当事務所の取り組みについては、【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応で詳しくご紹介しています。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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