【親子問題】子を家から出ていかせることはできるのか|占有と明渡し

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

本記事は2026年9月時点の法令・実務を前提とした一般的な説明です。実際の見通しはご家庭ごとの事情によって変わりますので、個別の判断は専門家にご確認ください。


同居している子から暴力を受けている、繰り返し金銭を求められる、話し合いが成り立たない。こうした状態が長く続いたご家庭から、「もう家から出ていってもらうしかないのではないか」というご相談をいただくことがあります。子の年齢は10代のこともあれば、40代、50代のこともあります。

 結論から申し上げると、子に家から出ていってもらうことは、法的な手続を踏めば実現できる場合があります。ただし、親が自分の判断で鍵を替えたり荷物を運び出したりする形では進められません。ここを取り違えると、出ていってもらうどころか、親の側が責任を問われる立場に回ってしまいます。

 本記事では、出発点となる家の名義と子が住んでいる資格の整理から、明渡しを求める手続の流れ、そして手続を終えた後に何が残るのかまでを順に説明します。

出発点は、家の名義と子が住んでいる資格

 「自分の家なのだから出ていかせられるはずだ」というお気持ちは自然なものですが、法的には、誰が家の権利を持っているのか子はどういう資格でそこに住んでいるのかという二つを分けて考えます。ここが整理できていないと、その後の手続の選び方を誤ります。

名義によって取り得る手段が変わる

 同じ「同居」でも、家の権利関係によって使える手段は次のように異なります。

家の権利関係子の位置づけ考えられる手段
親が所有している親が無償で住まわせている状態所有権に基づく明渡しの請求、無償の貸借を終了させたうえでの返還の請求
親が賃貸物件を借りている賃借人である親が同居させている状態同居人である子に退去を求める。あわせて賃貸人との契約関係の整理が必要
親子の共有になっている・子の名義が入っている子にも持分がある持分を持つ者に対しては、当然には明渡しを求められないとされています


 見落とされやすいのが最後の行です。相続などで子にも持分が移っている場合、共有者の一人が建物を使っていても、他の共有者が直ちに明渡しを求められるわけではないと理解されています。まずは登記事項証明書で名義を確認してください。

家賃を払わない同居は「使用貸借」と整理されることが多い

 親の家に賃料を払わずに子が住んでいる状態は、法的には無償で物を貸し借りする契約、すなわち使用貸借(民法593条以下)として整理されることが多くあります。契約書を交わしていなくても、実態からそのように評価されることがあります。

 タイトルに掲げた「占有」とは、その場所を事実上支配している状態を指します。成人した子が自分の部屋を持ち、生活の本拠として長年住んでいる場合、子は独立して占有していると評価される余地があります。単に親の家にいるだけの居候とは扱われず、退去を求めるにはその占有を解く法的な根拠が必要になるということです。

鍵を替える・荷物を出すという対応が認められない理由

 親側から最も多く出るご質問が、「子が外出している間に鍵を替えてしまってよいか」というものです。結論としては、おすすめできません。

 権利を持っている人であっても、裁判所の手続を経ずに実力でその権利を実現すること(自力救済)は、原則として認められていません。各地の弁護士会も、家賃の滞納があっても大家が勝手に鍵を交換することは違法な追い出し行為にあたると注意を促しています。親子の同居でも、この考え方は変わりません。

 鍵の交換、締め出し、荷物の搬出や処分は、損害賠償を求められる原因になり得るほか、事情によっては刑事上の問題として扱われることもあります。実務的な弊害として、親の側に落ち度があるという構図を作ってしまい、その後の交渉や裁判で不利に働く点も見逃せません。鍵の扱いについては【男女トラブル】別れた相手が合鍵を持っている|返してもらう交渉と、鍵を替える判断もご覧ください。

 置いていかれた家財を勝手に処分したことで、後から賠償を求められる例もあります(【解決事例】同棲解消に伴う建物明渡・家財処分のトラブル|弁護士の介入により不当な請求を拒絶し明渡しを実現した事例)。

無償の同居を終わらせるという考え方

 所有者である親が明渡しを求めるとき、実務上の中心になるのが、使用貸借をどう終わらせるかという点です。民法は、終わり方を次のように定めています。

どのような取り決めか終わり方条文
期間を定めていた期間の満了によって終了する民法597条1項
期間は定めず、使用の目的を定めていた目的に従った使用を終えたときに終了する民法597条2項
同じ場合で、使用がまだ終わっていない目的に照らして足りる期間が経過したときは、貸主から解除できる民法598条1項
期間も目的も定めていない貸主はいつでも解除できる民法598条2項
借主が死亡した終了する民法597条3項


 親子の同居では、期間も目的も特に取り決めていないことが少なくありません。その場合は民法598条2項により、貸主である親からいつでも解除できるという整理になります。

 一方で、「親の面倒を見ながら同居する」といった目的があったと評価される事案では、その目的が果たされたといえるかが争点になります。裁判例では、当事者の信頼関係が壊れていることを踏まえて貸主からの終了を認めた例も報告されています。暴力や金銭の持ち出しが続いている事情は、この場面で意味を持ち得ます。

 どの構成を採るかは、同居に至った経緯や生活費の負担状況によって変わります。手紙やメッセージ、家計の記録は後から取り寄せるのが難しい資料ですので、早い段階で残しておいてください。

話し合いから明渡しまでの流れ

 実際の手続は、次の順序で進みます。いきなり最後の段階に飛ぶことはできません。

  1. 退去してほしいという意思を、書面で明確に伝える(内容証明郵便を用いることが多い)。
  2. 応じない場合に、建物明渡請求訴訟を提起する。
  3. 判決が確定したら、裁判所書記官から執行文の付与と送達証明を受ける。
  4. 執行官に対し、明渡しの強制執行を申し立てる。
  5. 執行官による明渡しの催告を経て、引渡し期限までに退去がなければ断行となる。


 書面を送る段階で弁護士が代理人として入ると、相手方にも弁護士が就き、話し合いで期限を決めて解決に至る例もあります。訴訟まで進まずに済むかどうかは、この初期の設計に左右されます。

 強制執行の段階では、執行官が明渡しの催告を行い、引渡し期限を定めます。この期限は、原則として催告のあった日から1か月を経過する日とされています(民事執行法168条の2第2項)。催告があった後は占有を他の人に移すことが禁じられ、その旨が現地に掲示されます。

時間と費用の見通し

 見通しは事案によりますが、書面の送付から任意の退去で決着すれば数週間から数か月、訴訟に進んだ場合は提起から判決まで半年前後かそれ以上を見ておくことになります。強制執行に進めば、さらに数か月が加わります。

 費用は、訴訟の申立手数料のほか、強制執行では執行官の手数料や家財の運搬・保管にかかる費用を予納する必要があります。制度上は相手方が負担すべきものとされていますが、資力のない子に対して現実に回収できるとは限らないという点は、あらかじめ織り込んでおく必要があります。

 親族の間では感情的な対立から手続が長引くこともあれば、弁護士が間に入ったことで相手方の態度が変わり、早期に合意へ至ることもあります。当事務所でも、自治体や福祉の担当者と連携しながら立ち退きを実現した事案があります(【解決事例】交際関係解消後の賃貸物件居座りトラブル|弁護士の介入と自治体・福祉担当者との連携により立ち退きと関係遮断を実現した事例)。

警察に相談しても解決しないと感じる理由

 同居の子とのトラブルでは、警察に相談しても家庭内の問題として扱われ、動いてもらえなかったという声をよく伺います。これは担当者の姿勢というより、制度の作りによるところがあります。

 親の財産を持ち出された、預金を使い込まれたといった財産に関わる行為については、同居の親族との間では刑が免除される仕組みがあります。詳しくは同居の家族の物を持ち出した|親族相盗例で処罰されない範囲で説明しています。

 一方で、暴行や傷害、脅迫にはこうした特例がありません。手が出ている状況であれば、扱いは変わり得ます。身の安全に関わる場面での考え方は家庭内で手が出た|家族間の暴行・傷害とDV法の関係をご覧ください。危険が差し迫っているときは、明渡しの検討より先に安全の確保を優先してください。

家庭裁判所の調停という選択肢

 訴訟を起こす前に、家庭裁判所の親族関係調整調停を使う方法もあります。親族の間で感情的な対立や財産の管理をめぐる紛争が生じ、話し合いが成り立たないときに、調停委員会が間に入る手続です。費用は収入印紙1200円と連絡用の郵便料で、相手方の住所地の家庭裁判所などに申し立てます。

 相手が出てこなければ成立しませんが、第三者がいる場で話をすること自体が、家庭内での直接のやり取りとは違う効果を持つことがあります。訴訟と並べて、どちらから入るかを検討する価値はあります。

親の側が家を離れるという選択

 「出ていかせる」ことにこだわらず、親の側が一時的に家を離れる選び方もあります。手続に要する時間を考えると、身の安全という観点ではこちらのほうが早いことも少なくありません。

 親が高齢で、同居する子から暴力や経済的な侵害を受けている場合には、行政が分離に関与する仕組みがあります。市区町村は、高齢者の保護のために必要があると認めるときに、老人福祉法に基づく「やむを得ない事由による措置」として施設への入所などを行うことができ、その措置が採られた場合には面会を制限することもできるとされています(高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律9条2項、13条)。まずは地域包括支援センターにご相談ください。家族が動ける範囲については【不当要求対応】高齢の親が要求を受けている|家族が介入できる範囲も参考になります。

手続が終わっても、その先が残る

 実務の感覚として申し上げると、判決や強制執行は出発点であって、終着点ではありません。行き先のないまま家を出た子が、しばらくして戻ってくる。改めて手続を採ることになり、親の負担だけが積み重なる。こうした経過は珍しくありません。手続と同時に、住まい、収入、日々の金銭管理といった生活の土台をどう用意するかを考えておく必要があります。

 当事務所では、親側の代理人として弁護士が子と対峙する一方、子の側の日常的な支援は民間の自立支援カウンセラーが担う形で、チームを組んで対応しています。役割を分けているのは、子の側を孤立させたままでは自立が実現しないという考え方によるものです。結果を保証できるものではありませんが、親子が物理的な距離を取ること自体が双方に変化をもたらす場面を見てきました。

 なお、成人した子を養う義務がどこまであるのかという点は【不当要求対応】親族からの金銭要求|扶養義務はどこまでかで整理しています。

よくあるご質問


子が生活費を家に入れている場合はどうなりますか

 金額や実態によっては、無償の貸借ではなく賃貸借に近い関係と評価される余地があります。そうなると借地借家法が関わり、退去を求めるハードルは上がります。いくらを、どのような名目で渡していたのかを整理しておいてください。

未成年の子にも同じ手続が必要ですか

 未成年の子については、親に監護や教育の責任があり、本記事のような明渡しの枠組みで考えることは通常ありません。暴力がある場合は、児童相談所や警察を含めた安全確保の相談が先になります。

ご相談をお考えの方へ

 同居の解消は条文だけで決まるものではなく、これまでの経緯、残っている記録、そして子が出た後の生活をどう組み立てるかによって、取れる手立てが変わります。限界を感じてから動き出すより、選択肢が残っている段階で見通しを立てておくほうが、ご家族の負担は軽くなります。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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