【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのか
本記事は2026年9月時点の法令および厚生労働省などの公表資料に基づいて記載しています。社会福祉協議会の事業の利用料や手続の細部は、地域によって異なります。
親子問題のご相談では、お金の渡し方をめぐる悩みがよく語られます。親の側からは「生活費を渡しても数日でなくなり、また求められる。管理を誰かに任せられないか」という声があり、子の側を支える立場からは「親からお金を受け取るたびに言い合いになり、本人も疲れている」という話を聞くことがあります。
こうした場面でよく紹介されるのが、社会福祉協議会が行う日常生活自立支援事業です。預貯金の出し入れや公共料金の支払いを手伝ってくれる制度という説明は、それ自体は誤りではありません。ただ、この事業は本人と社会福祉協議会との契約で成り立っており、利用できる人にも条件があります。親が申し込めば子のお金を管理してもらえるという仕組みではない点は、あまり知られていないように思います。
この記事では、金銭管理を第三者が担う仕組みとして、日常生活自立支援事業、生活保護や生活困窮者支援の中にある仕組み、民間の支援者が担う場合の3つを取り上げ、それぞれ何ができて何ができないのかを整理します。成人した子を親がどこまで支えるべきかという扶養義務の範囲については、【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかで扱っています。成年後見制度の選び方は別の記事で詳しく扱うため、本稿では必要な範囲で触れるにとどめます。
親が子のお金を管理し続けることの難しさ
渡す側と受け取る側の双方に負担が生じる
成人した子に毎月決まった額を渡す、あるいは子名義の通帳を親が預かって少しずつ渡す、という形をとっているご家庭は少なくありません。しかし、お金の受け渡しが親子の直接のやり取りになっていると、金額や使い道をめぐって毎回話し合いが必要になり、それが衝突のきっかけになることがあります。親は「渡さないと何が起きるか分からない」と感じ、子は「管理されている」と感じる。お金の問題が、そのまま親子の距離の問題になっている場面は少なくありません。
子名義の財産を親が管理する法的な位置づけ
子が成人している場合、子名義の預貯金は子の財産であり、親に当然の管理権限があるわけではありません。子の同意のもとで通帳を預かっているとしても、それは事実上の預かりにとどまり、子が返還を求めれば応じるのが原則です。親が子のお金を管理し続ける形は法的な裏づけが弱く、関係が悪化したときに維持しにくいという性質があります。成人した子の問題に親が関われる範囲については、【親子問題】成人した子の問題に親が介入できる法的な範囲もあわせてご覧ください。
日常生活自立支援事業とはどのような仕組みか
実施主体と相談の窓口
日常生活自立支援事業は、社会福祉法に定める福祉サービス利用援助事業(社会福祉法2条3項12号)にあたり、都道府県・指定都市の社会福祉協議会が実施主体となっています(同法81条)。実際の相談や契約の窓口は、委託を受けた市区町村の社会福祉協議会です。平成11年に地域福祉権利擁護事業として始まり、平成19年に現在の名称に改められました。東京都では、現在も地域福祉権利擁護事業という名称で案内されています。
援助の内容
厚生労働省の説明によると、援助の内容はおおむね次のように整理されています。
- 福祉サービスの利用や苦情解決制度の利用の手続を手伝うこと。
- 住宅改造、住まいの賃貸借、日常生活上の契約、住民票の届出などの行政手続を手伝うこと。
- 預金の払戻し・預入れや公共料金の支払いなど、日常生活費を管理すること(日常的金銭管理)。
- 定期的に訪問し、生活の変化に気づくこと。
このほか、多くの社会福祉協議会では、年金証書や預貯金通帳、印鑑などの大切な書類を金融機関の貸金庫で預かるサービスも行っています。一方で、宝石や骨董品の保管や、株式・不動産を含む財産の運用管理は対象外とされるのが一般的です。
手続と利用料
利用を希望する人が社会福祉協議会に相談すると、専門員が生活状況や希望を聞き取り、契約内容を理解できるかを確認したうえで「支援計画」を作ります。本人が納得すれば契約を結び、生活支援員が計画に沿って定期的に訪問します。契約内容や本人の判断能力を確認する「契約締結審査会」と、運営を監督する第三者的な機関である「運営適正化委員会」が置かれている点も、この事業の特徴です。
利用料は実施主体ごとに定められており、厚生労働省は参考として訪問1回あたりの平均を1,200円としています。契約前の相談は無料で、生活保護を受けている世帯の利用料も無料とされています。具体的な金額や、書類預かりの料金の有無は地域によって異なるため、お住まいの社会福祉協議会に確認するのが確実です。
親子問題で使えるかどうかを分ける要件
判断能力が十分でないこと
対象となるのは、認知症のある高齢者、知的障害や精神障害のある人などで、日常生活に必要なサービスを利用するための情報の入手、理解、判断、意思表示を本人だけで適切に行うことが難しい人です。ひきこもりの状態にあること自体は、この要件に直接あたるものではありません。精神疾患や知的障害があり、日々の判断に支えが必要な場合に、利用を検討できる制度と考えておくのが現実的です。
本人が契約の内容を理解し、自ら契約すること
もう一つの要件は、本人がこの事業の契約内容を理解できることです。家族が相談の窓口になることはできますが、契約するのは本人です。本人が利用を望まない場合、親の希望だけで始めることはできず、本人の意思で解約することもできます。
「判断能力が十分でない」ことと「契約内容は理解できる」ことの両方が求められるため、この事業が合うのは、判断に支えが必要でありながら、支援を受けることには本人が同意できる人ということになります。判断能力の低下が進み、契約内容の理解が難しくなった場合には、成年後見制度など別の仕組みへの移行が検討されます。
扱えるのは日常の生活費の範囲
日常的金銭管理は、あくまで日々の生活費を扱うものです。厚生労働省の通知では、日常的金銭管理のために預かる預貯金は50万円程度が目安とされています。まとまった財産の管理や、不動産の処分、遺産分割、訴訟への対応などは、この事業の範囲外です。
日常生活自立支援事業では届きにくい部分
生活の立て直しそのものは事業の中心ではない
この事業が担うのは、福祉サービスの利用援助と、それに伴う日常的な金銭管理です。家探し、仕事探し、生活リズムの立て直し、日々の悩みへの対応といった、自立に向けた生活全体の支援は、事業の中心ではありません。親子問題のご相談では、金銭管理だけを切り出しても状況が動きにくく、住まいや収入の確保と組み合わせて考える必要がある場面が多くあります。
親子の関係の調整は目的に含まれていない
社会福祉協議会の職員は、本人の支援者として関わります。親からお金を受け取らない形に切り替える、親との連絡の窓口を整理するといった親子の関係の調整は、事業の目的とは別のところにあります。支援の状況を親がどこまで知ることができるかも、本人の意向によって決まります。
判断能力に問題がない場合に使える仕組み
生活困窮者自立支援制度の家計改善支援
判断能力に問題はないものの、お金の使い方がうまくいかない人に向けた仕組みとして、生活困窮者自立支援法に基づく家計改善支援事業があります。自治体の窓口で相談員とともに家計の状況を整理し、家計表を作るなどして、本人が自分でお金を管理できるよう支援するものです。第三者がお金を預かるのではなく、本人の管理する力を支える仕組みである点が、日常生活自立支援事業との違いです。
生活保護を受ける場合の支払いの仕組み
子が親元を離れて生活保護を受けるようになった場合、家賃などの一部の費用については、福祉事務所が本人に代わって家主などに直接支払う代理納付という仕組みがあります(生活保護法37条の2)。すべての費用が対象になるわけではありませんが、住まいを失うことにつながりやすい支払いを、本人の手元を通さずに済ませられる点で、金銭管理の負担を軽くする方法の一つです。自治体によっては、生活保護を受けている人に向けて独自に金銭管理を支援する事業を行っているところもあります。
本人との契約で第三者に任せる
公的な事業の対象とならない場合でも、本人が同意すれば、信頼できる第三者との間で金銭管理を任せる約束をすることはできます。法的には委任(民法643条)や準委任(同法656条)の形になり、本人はいつでも契約を解除できます(同法651条1項)。この場合、何をどこまで任せるのか、記録や報告をどうするのかを、あらかじめ書面で決めておくことが大切です。
民間の支援者が金銭管理を担う場合
当事務所がとっている体制
当事務所では、親子問題に取り組む際、民間の自立支援カウンセラーと常にチームを組んでいます。弁護士は親の代理人として親の側の保護を担い、カウンセラーは子の側について、住まい探しや仕事探し、生活保護の申請のサポート、日々の金銭管理、悩みへの対応などの日常的な支援を行います。お金の受け渡しを親子の直接のやり取りから外し、第三者を間に置くことで、お金をめぐる衝突そのものを減らすことを目指しています。カウンセラーによる金銭管理も、子本人の理解と同意を前提にしています。
社会福祉協議会の事業との違い
両者の違いをまとめると、次のようになります。
| 項目 | 日常生活自立支援事業 | 民間の支援者による金銭管理 |
|---|---|---|
| 担い手 | 社会福祉協議会(専門員・生活支援員) | 自立支援カウンセラーなどの民間の支援者 |
| 根拠 | 社会福祉法に基づく事業と本人との契約 | 本人との委任契約 |
| 対象 | 判断能力が十分でなく、契約内容は理解できる人 | 契約内容を理解して同意できる人(診断の有無は問わない) |
| 支援の範囲 | 福祉サービスの利用援助、日常的金銭管理、書類預かり | 支援者により異なる。金銭管理と生活全体の支援を組み合わせる場合もある |
| 費用 | 実施主体が定める利用料(生活保護世帯は無料) | 支援者との契約で定める |
| 監督の仕組み | 契約締結審査会・運営適正化委員会 | 法令上の監督機関はなく、契約と記録で担保する |
| 親との関係 | 本人の支援者として関わる | 親への報告の範囲や連絡の窓口を、本人の同意のもとで設計できる |
民間に任せる際に確認しておきたい点
民間の支援者には、社会福祉協議会の事業のような公的な監督の仕組みがありません。消費者庁も、ひきこもり支援を掲げる民間事業の利用をめぐるトラブルについて注意を呼びかけています。依頼する前に、少なくとも次の点を確認しておくと安心です。
- お金を管理する口座は本人名義のままとし、支援者の口座に移さないこと。
- 出し入れの記録を残し、本人と、本人が同意した範囲で家族にも報告する形になっていること。
- 費用の額と支払い方法、契約を終えるときの手続が書面で示されていること。
- 本人が契約の内容を理解し、自分の意思で同意していること。
- 支援者一人に任せきりにせず、弁護士や福祉の窓口など複数の目が入る形になっていること。
親の側で整えておきたいこと
お金を渡す窓口を一つにする
第三者に金銭管理を任せても、親が別に子へ直接お金を渡し続けていると、仕組みが機能しにくくなります。仕送りをするのであれば、支援者の管理する本人名義の口座を通す形に一本化し、それ以外の求めには親が直接応じないと決めておくことが、仕組みを保つうえで大切です。親の扶養義務には限りがあり、求められるままに応じる義務があるわけではありません。
親自身の財産を守る仕組みも検討する
親が高齢になり、自分の判断に不安を感じるようになった場合には、親自身が日常生活自立支援事業を利用することも選択肢になります。通帳や印鑑を社会福祉協議会に預け、生活費の出し入れを支援員とともに行う形にしておけば、手元に大きなお金を置かずに済みます。高齢の親が要求を受けている場面での家族の関わり方は、【不当要求対応】高齢の親が要求を受けている|家族が介入できる範囲で解説しています。高齢の親が子から被害を受けている場合に行政が動く仕組みについては、【親子問題】高齢の親が被害者の場合|行政が動く仕組みをご覧ください。
よくあるご質問
親が代わりに日常生活自立支援事業を申し込むことはできますか。
家族が社会福祉協議会に相談すること自体はできます。ただし、契約するのは本人であり、本人が事業の内容を理解して利用を望むことが前提です。本人が拒んでいる場合に、親の申込みだけで利用を始めることはできません。まずは家族として相談し、本人にどう伝えるかを含めて助言を受けるのが一つの方法です。
子が途中で「やめたい」と言った場合はどうなりますか。
日常生活自立支援事業は本人の意思で解約できます。民間の支援者との委任契約も、本人はいつでも解除できるのが原則です(民法651条1項)。このため、第三者による金銭管理は、本人が続けたいと思える形で設計しておくことが重要です。生活全体の支援と組み合わせ、本人にとっても利点がある形を目指すことになります。
2026年の法改正で日常生活自立支援事業は変わるのですか。
2026年6月に社会福祉法などを改正する法律が成立し、頼れる身寄りがいない高齢者等への日常生活支援、入院等の手続支援、死後事務支援を第二種社会福祉事業に位置づけることなどが盛り込まれました。これに伴い、社会福祉法上の福祉サービス利用援助事業は「福祉サービス・保健医療サービス等利用援助事業」に改められます。施行は原則として令和9年4月1日とされていますが、改正事項によって異なり、具体的な運用はこれから示される見込みです。親子問題の場面での使い方がどう変わるかは、運用が明らかになった段階で確認する必要があります。
まとめ
- 日常生活自立支援事業は、社会福祉協議会が本人との契約に基づいて福祉サービスの利用援助や日常的な金銭管理を行う事業である(社会福祉法2条3項12号・81条)。
- 対象は判断能力が十分でなく、かつ契約内容を理解できる人であり、ひきこもりの状態にあることだけでは対象にあたらない。
- 契約するのは本人であり、親の申込みだけで利用を始めることはできず、本人の意思で解約もできる。
- 扱えるのは日常の生活費の範囲であり、まとまった財産の管理や不動産の処分、訴訟への対応などは対象外である。
- 判断能力に問題がない場合は、家計改善支援事業や生活保護の代理納付(生活保護法37条の2)、本人との委任契約(民法643条・656条)などを組み合わせることが考えられる。
- 民間の支援者に任せる場合は、本人名義の口座、記録と報告、書面による契約内容を確認し、複数の目が入る形にしておくことが望ましい。
- 第三者による金銭管理を機能させるには、親の側もお金を渡す窓口を一本化しておくことが大切である。
親子のお金の問題でお悩みの方へ
弁護士法人若井綜合法律事務所では、親子の問題に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。弁護士が親の代理人として子との間に入り、民間の自立支援カウンセラーが子の側の生活と金銭管理を支える体制で、親と子がそれぞれ自立していく形を目指しています。サービスの内容は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応で、遠方の方のご依頼については【親子問題】遠方でも依頼できるのか|全国対応の実際でご紹介しています。
お子さんへの仕送りや金銭の求めにどう向き合えばよいか迷っている親御さんも、親に代わって状況を整理したいごきょうだいの方も、まずは現在の状況をお聞かせください。結果をお約束することはできませんが、お金の受け渡しの形を見直すだけでも、親子の関係に変化が生まれることがあります。


