【親子問題】ひきこもりの子に生活保護は使えるのか|世帯分離の考え方
本記事は、2026年9月時点の法令・制度に基づいて作成しています。住まいの支援や生活保護、就労支援の運用は自治体によって異なりますので、実際の手続はお住まいの地域の窓口でご確認ください。
「息子には家を出て自分で暮らしてほしい。ただ、何から始めればよいのか分からない」「部屋を借りて引っ越しまで手配したのに、半年ほどで実家に戻ってきてしまった」。長く家にとどまっている成人の子について、親子の問題のご相談ではこうしたお話を伺うことがあります。お子さんの年齢は20代から50代までさまざまで、親御さんご自身が70代、80代を迎えている場合も少なくありません。
インターネットで調べると、子への声のかけ方や接し方を説明する記事と、「子を家から出ていかせることができるか」という法律上の可否を解説する記事が多く見つかります。どちらも誤りではありません。ただ、その間にある「家を出た後の暮らしを、どの順番で、誰が組み立てるのか」という実務の部分は、あまり書かれていないように思います。
この記事では、成人した子の独立を、住まい・収入・金銭管理の順に設計していく手順を整理します。本人が家を出ることを拒んでいる場合の法的な手続は【親子問題】子を家から出ていかせることはできるのか|占有と明渡しに、親子が離れて暮らすことそのものの意味は【親子問題】親子が離れて暮らすことの意味|距離という視点に委ねています。
独立は「家を出る日」ではなく「暮らしが回り始める日」を目標にする
部屋を用意するだけでは、実家に戻りやすい
子の独立というと、まず住まいを探すことを思い浮かべる方が多いと思います。しかし、部屋があっても家賃を払う収入の見通しがなければ、結局は親が支払い続けることになります。収入があっても、お金のやりくりを自分でした経験がなければ、月の途中で生活費が尽き、実家に助けを求めることになりがちです。住まい・収入・金銭管理の三つがそろって、はじめて独立した暮らしは回り始めます。どれか一つが欠けると、形の上では家を出ても、実際には親の支えなしに生活が続かない状態に戻りやすくなります。
また、ここでいう独立は、就職して経済的に自立することだけを指すわけではありません。生活保護や障害年金などの制度を利用しながら、自分の住まいで自分の生活を営むことも、独立の一つの形です。支援のゴールをどこに置くかについては、【親子問題】「自立」と「自律」|支援のゴールをどこに置くかで詳しく解説しています。
手順の全体像
本記事で説明する手順を、親の側と子の側に分けて整理すると次のとおりです。
| 手順 | 親の側ですること | 子の側で整えること |
|---|---|---|
| 1 準備 | 援助できる金額と期間の上限を決め、家族で方針をそろえる | ― |
| 2 伝える | 第三者を交えて、暮らしを分ける方針を伝える | 自分の考えや不安を言葉にする |
| 3 住まい | 保証人になるかどうかを判断する | 物件探し、契約、転居 |
| 4 収入 | 決めた援助の額と期間を守る | 就労支援や生活保護などの制度につながる |
| 5 金銭管理 | 口座や引き落としを切り離す | 家計を自分で回す仕組みを作る |
| 6 その後 | 連絡と報告の窓口を決めておく | 困ったときの相談先を持つ |
始める前に確かめておきたいこと
暴力や強い脅しがある場合は、独立の手順より先に、親御さんの安全を確保することが優先です。その場合の対応は【親子問題】子から暴力を受けている|まず確保すべき安全と記録をご覧ください。また、長く家にとどまっている背景に心身の不調がうかがえる場合は、医療や福祉につなぐことを並行して考える必要があります。判断の目安は【親子問題】ひきこもりと精神疾患の切り分け|医療につなぐ判断で整理しています。
手順1 話を切り出す前に、親の側の条件を決める
援助できる金額と期間の上限を先に決める
親子は互いに扶養する義務を負います(民法877条1項)。ただ、成人した子に対する親の扶養は、親が自分の生活を維持したうえで余力のある範囲で行えば足りる、と一般に考えられています。親の老後の生活資金を取り崩してまで、子の生活を支え続けることまでは求められていません。扶養義務の範囲は【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかで詳しく解説しています。
そのうえで、独立にあたって親が出せるお金は、「初期費用としていくらまで」「生活費の援助は月いくらを何か月まで」という形で、上限と期限を先に決めておくことをお勧めします。上限を決めないまま話し合いに入ると、子の求めに応じて援助が膨らみ、途中で区切ることが難しくなります。
夫婦・きょうだいで方針をそろえる
父親は早く家を出てほしいと考え、母親はもう少し待ちたいと考えている。このように家族の中で方針が分かれていると、子は話しやすい方の親を頼り、計画が進まなくなることがあります。援助の上限や期限、戻ってきたいと言われたときの対応などは、話を切り出す前に家族の間で共有しておくことが大切です。
手順2 本人に伝え、納得を得る
「追い出す」ではなく「暮らしを分ける」と伝える
本人に伝える際は、責めたり見放したりする話ではなく、親子がそれぞれの暮らしを持つための提案であることが伝わるようにします。親の年齢や家計の見通し、援助できる範囲を具体的に示し、そのうえで本人がどのような暮らしを望むのかを聞く、という順序が考えられます。独立した後の生活を担うのは本人ですから、本人が納得しているかどうかが、その暮らしが続くかどうかに大きく影響します。
第三者が間に入る意味
長い年月を同じ家で過ごしてきた親子の間では、話し合いを始めた途端に過去のいさかいが持ち出され、先に進まないことがよくあります。厚生労働省の「ひきこもり支援ハンドブック~寄り添うための羅針盤~」(令和7年1月)も、本人より先に家族が相談につながることが多いとして、家族への支援を重視しています。親子だけで話が進まないときは、支援機関や専門家など、利害を持たない第三者に間に入ってもらうことで、感情のぶつかり合いを避けやすくなります。
本人が拒んだ場合に避けたいこと
話し合いがまとまらなくても、親が鍵を替えて締め出したり、荷物を運び出したりすることはできません。法律で定められた手続によらずに自分の権利を実現することは、原則として認められていないためです(最高裁昭和40年12月7日判決)。この点は【親子問題】鍵を替える・締め出すことの可否|自力救済の限界で解説しています。
親名義の家に子が無償で住んでいる関係は、使用貸借と整理されることが多く、期間や目的を定めていない場合には、貸主である親の側から契約を終わらせる余地があります(民法598条2項)。それでも子が退去しなければ、最終的には明渡しを求める裁判とその執行という手続になります。
また、本人の同意がないまま自宅から連れ出して施設に入れることをうたう民間の事業者をめぐっては、消費者庁が注意喚起を行っています。本人の意思に反する連れ出しは、後に法的な責任を問われるおそれがありますので、こうした事業者と契約する前に、内容を慎重に確かめることが大切です。
手順3 住まいを決める
収入のない状態で部屋を借りるときの壁
賃貸住宅を借りる際には、家賃保証会社の審査や連帯保証人を求められるのが一般的です。本人に収入や勤務先がない場合、審査に通りにくいことがあります。そこで、親が連帯保証人になる、あるいは親が契約者となって部屋を借りる、という方法が考えられます。
ただし、親が契約者になると、家賃の支払いや近隣とのトラブル、退去時の原状回復まで、親が当事者として責任を負います。連帯保証人の場合も、家賃の滞納だけでなく、賃貸借契約から生じるさまざまな債務が保証の対象になります。なお、2020年4月以降に結ばれた個人による賃貸借の保証契約は、保証する上限額(極度額)を書面などで定めなければ効力を生じません(民法465条の2)。親が保証人になるときは、極度額がいくらに設定されているかを契約書で確かめておくことが、親自身の生活を守るうえで大切です。
公的な住まいの支援を確かめる
住まいの確保に困っている人の支援としては、生活困窮者自立支援法にもとづく自立相談支援機関のほか、住宅セーフティネット法にもとづいて都道府県が指定する居住支援法人があります。令和7年10月からは、居住支援法人などが大家と連携して、入居中の見守りや福祉サービスへのつなぎを行う「居住サポート住宅」の制度も始まりました。この住宅に入居する場合は、認定を受けた家賃債務保証業者が原則として保証を引き受ける仕組みが設けられています。
ただし、利用できる住宅の数や窓口の体制は、地域によって差があります。まずはお住まいの市区町村の相談窓口で、どの支援が使えるかを確認してみてください。
実家との距離をどう考えるか
新しい住まいが実家に近すぎると、困ったときにすぐ戻れる安心がある反面、親の家に頻繁に出入りする生活に戻りやすくなります。反対に、支援者や通院先から離れすぎると、本人が孤立するおそれがあります。通院先や就労支援の場所、支援者が訪ねやすいかどうかなどを考え合わせて、無理のない距離を選ぶのが現実的です。
手順4 収入の道筋をつける
就労は段階を踏んで考える
長く働いていない人にとって、いきなりフルタイムの勤務を目指すのは負担が大きいことが多いものです。生活リズムを整える、人と話す場に通う、短時間の仕事から始める、といった段階を踏むのが一般的です。地域若者サポートステーションや、生活困窮者自立支援法にもとづく就労準備支援事業など、段階的な支援の仕組みは【親子問題】就労支援の選択肢|サポステ・就労準備支援事業の実際で紹介しています。
生活保護という選択肢
就労による収入の見通しがすぐに立たない場合には、生活保護も選択肢になります。生活保護は世帯を単位に判断されるため(生活保護法10条)、親と同居して家計を一つにしている間は、子だけが保護を受けることは難しいのが一般的です。子が家を出て生計を分けることで、はじめて本人の収入と生活費を基準に保護の要否が判断されるという構造になっています。
保護の申請は本人がするほか、扶養義務者や同居の親族もできます(同法7条)。とはいえ、保護を受けながら暮らしていくのは本人です。また、保護を受けるために実態と異なる別居を装うことは避けてください。詳しくは【親子問題】ひきこもりの子に生活保護は使えるのか|世帯分離の考え方をご覧ください。
心身の不調で働くことが難しい場合には、障害年金や障害福祉サービスが利用できるかどうかも、あわせて確認することになります。
手順5 お金の流れを分け、管理の仕組みを作る
親の口座とのつながりを切り離す
子が家を出た後も、携帯電話の料金や保険料が親の口座から引き落とされたままになっていることがあります。お金の流れがつながっていると、請求が親のもとに届き続け、独立した後も親が支払いを肩代わりする状態が続きやすくなります。口座・光熱費・携帯電話・保険などをどの順序で切り分けるかは、【親子問題】家計を分ける実務|口座・光熱費・保険をどう切るかで解説しています。
援助は「額・期間・方法」を決めて渡す
独立した後に生活費を援助する場合は、手順1で決めた上限と期限に沿って、毎月決まった日に決まった額を振り込むなど、渡し方を決めておくことが大切です。求められるたびに現金を渡す形は、要求が繰り返されるきっかけになりやすいためです。なお、子が生活保護を受けている場合、親からの仕送りは原則として収入として扱われ、その分だけ保護費が少なくなります。援助をするときは、事前に福祉事務所に伝えておいてください。
日々の金銭管理を誰が支えるか
一人で暮らした経験のない人が、家賃や光熱費を払い、食費をやりくりすることは、思いのほか難しいものです。判断能力に不安がある方については、社会福祉協議会が行う日常生活自立支援事業で、福祉サービスの利用手続や日常的なお金の出し入れを手伝ってもらえることがあります。ただし、この事業は本人との契約で利用するもので、本人の状況によっては対象にならない場合もあります。
親が金銭管理を担い続けると、親子の距離が再び縮まり、以前と同じ関係に戻りやすくなります。金銭管理の支えは、できるだけ親以外の人が担う形を作っておくことが、独立した暮らしを続けるうえで役に立ちます。
手順6 独立した後の連絡と見守りの枠組みを決める
連絡と報告の窓口をあらかじめ決めておく
独立した後、子から連絡が来なくなると、親としては心配が募ります。反対に、子から毎日のように電話がかかってきて、結局は親が生活の相談役を担い続けることもあります。どちらの場合も、誰が本人の様子を見守り、どのような形で親に伝えるのかを、独立する前に決めておくと混乱を防ぎやすくなります。本人の困りごとは支援者が受け止め、親には支援者から様子を報告してもらうという形も、一つの方法です。
「戻りたい」と言われたときの対応
独立した後、仕事や人間関係がうまくいかず、実家に戻りたいと言われることもあります。そのときに一時的な滞在を認めるのか、どの程度の期間なら受け入れるのかといった線引きも、手順1の段階で家族の間で話し合っておくと、その場の感情で判断が揺れにくくなります。
当事務所の関わり方
当事務所では、弁護士が親御さんの代理人となって子との窓口を担い、提携する民間の自立支援カウンセラーが子の側の日常を支える体制で、親子の問題に取り組んでいます。カウンセラーは、住まい探しや仕事探し、生活保護の申請のサポート、日々の金銭管理、困りごとへの対応、親御さんへの報告などを担当し、弁護士は親御さんの保護と、子との話し合いや法的な手続を担当します。
本記事の手順でいえば、手順2の話し合いと、手順3から手順6の暮らしの組み立てを、親子それぞれの側に担い手を分けて進めるのが、この体制の考え方です。子の側を孤立させたままでは独立は続きにくいため、子の生活を支える担い手を確保したうえで、親子の距離を取っていきます。人が関わることなので結果をお約束することはできませんが、物理的な距離を取るだけでも、親子双方に変化が見られることがあります。サービスの内容は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応でご紹介しています。
よくあるご質問
子が40代・50代でも、独立の手順は同じですか
基本的な順序は変わりません。ただ、年齢が上がるほど就労による収入の見通しは立てにくくなり、生活保護や障害年金などの制度を組み合わせる場面が増えます。親御さんご自身の高齢化も進んでいるため、援助できる期間の上限をより慎重に見積もる必要があります。当事務所では、50歳を超えるお子さんのケースにも取り組んできました。
親が連帯保証人にならないと、部屋は借りられないのでしょうか
そうとは限りません。家賃保証会社を利用できる物件や、居住支援法人が入居を支援する住宅などもあります。生活保護を受けながら暮らす場合は、住宅扶助の範囲内で住まいを探すことになり、福祉事務所に相談しながら進めます。親が保証人になる場合は、極度額を確認し、親自身の生活に影響しない範囲かどうかを見極めてください。
独立した後に、親から連絡を取ってはいけないのでしょうか
連絡を取ること自体が禁じられるわけではありません。ただ、親が生活の細かなことに口を出し続けると、本人が自分で判断する機会が減り、独立した暮らしが定着しにくくなることがあります。連絡の頻度や方法は、本人や支援者と相談して決めておくのが現実的です。
まとめ
- 独立は、住まい・収入・金銭管理の三つがそろってはじめて続く。部屋を用意するだけでは実家に戻りやすい。
- 成人した子への親の扶養は、親が自分の生活を維持したうえで余力のある範囲で足りると考えられている(民法877条1項)。援助の上限と期限は話を切り出す前に決めておく。
- 本人の納得が、独立した暮らしを続ける土台になる。親子だけで話が進まないときは第三者を交える。
- 本人が拒んでも、鍵の交換や荷物の搬出など自力で退去させることはできない(最高裁昭和40年12月7日判決)。退去を求めるには、使用貸借の解除(民法598条2項)と明渡しの手続による。
- 親が連帯保証人になるときは、極度額の定めを確認する(民法465条の2)。公的な住まいの支援として、居住支援法人や居住サポート住宅がある。
- 生活保護は世帯単位で判断されるため、生計を分けてはじめて本人を基準に要否が判断される(生活保護法10条)。
- 金銭管理と見守りは、できるだけ親以外の担い手に委ね、連絡と報告の窓口を独立前に決めておく。
お子さんの独立をお考えの方へ
弁護士法人若井綜合法律事務所では、親子の問題に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。弁護士が親御さんの代理人となり、民間の自立支援カウンセラーとチームを組んで、住まい探しや仕事探し、金銭管理といったお子さんの生活の組み立てまで含めて取り組みます。これまで北海道から沖縄まで、全国のご家庭の親子の問題に関わってきました。遠方にお住まいの方は【親子問題】遠方でも依頼できるのか|全国対応の実際もご覧ください。
独立を考え始めたばかりの段階でも、何から手をつければよいか分からない段階でも構いません。家を出てほしいと考えている親御さんも、話を切り出せずにいる親御さんも、まずは現在の状況をお聞かせください。


