【親子問題】ひきこもりの子に生活保護は使えるのか|世帯分離の考え方

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

本記事は、2026年9月時点の生活保護法と厚生労働省の通知(「生活保護法による保護の実施要領について」)をもとに解説しています。実際の判断は、お住まいの地域の福祉事務所が個別の事情をふまえて行います。


長くひきこもっている子について、「親が元気なうちはよいが、この先どうやって暮らしていくのか」「本人に生活保護を受けさせることはできないのか」というご相談は少なくありません。結論からいえば、親と同じ家で暮らし、家計を一つにしている間は、子だけが生活保護を受けるのは難しいことが多いといえます。生活保護は個人ではなく「世帯」を単位に判断されるためです。子が親とは別に暮らし、生計を分けたうえで申請する、という段階を経て、はじめて現実的な選択肢になるという構造になっています。

 本記事では、生活保護における「世帯」の考え方と、同居していても例外的に世帯を分けて扱う「世帯分離」の仕組みを整理し、親の側で先に考えておきたい点をまとめます。

生活保護は「世帯」を単位に判断される

 生活保護法10条は、保護の要否や程度を世帯単位で定めることを原則とし、それによりがたいときに限って個人を単位にできるとしています。どの範囲を一つの世帯とみるかについて、厚生労働省の通知は、同じ住居に住み、生計を一にしている人は、原則として同一世帯と認定するとしています。

 そのうえで、保護が必要かどうかは、世帯全体の最低生活費と世帯全体の収入を比べて決められます。同居する親に年金や給与の収入があれば、それは子の分も含めた世帯の収入として数えられます。また、生活保護法4条1項は、利用できる資産や能力を活用することを保護の要件としています。親名義の預貯金や不動産がある場合も、同一世帯である限り、その活用が問われることになります。

 本人に収入がまったくなくても、同居の親に一定の年金や蓄えがあれば、「世帯としては最低生活費を満たしている」と判断され、保護の対象にならない、というのが典型的な流れです。

住民票を分けても生活保護上の世帯は分かれない

 「世帯分離」という言葉は、住民票の手続を指して使われることもあります。しかし、住民票上の世帯と、生活保護で判断される世帯は別のものです。生活保護の世帯は、書類上の区分ではなく、住まいと家計の実態から判断されます。

区分何で決まるか同居のまま分けた場合
住民票上の世帯市区町村への届出手続上は分けられることがある
生活保護上の世帯住まいと生計の実態原則として同一世帯とみられる


 同じ家に住み、食費や光熱費を親が負担している状態のまま住民票だけを分けても、生活保護の判断では一つの世帯として扱われるのが通常です。

同居のまま子だけが保護を受けられる場面は限られる

 厚生労働省の通知(社会局長通知)は、同一世帯と認定される場合でも、例外として世帯を分けて扱ってよい場面を列挙しています。これが生活保護上の「世帯分離」です。ひきこもりのご家庭に関係しうるものを整理すると、次のとおりです。

通知の類型内容の要旨ひきこもりの家庭での見え方
稼働能力を活用しない世帯員がいる場合働く力があるのに収入を得る努力をしない世帯員がいて、他の世帯員が真にやむを得ない事情で保護を要するとき子を世帯から外し、困窮した親の側が保護を受ける形になる
常時の介護や監視を要する場合寝たきりや重度の心身障害などで常時の介護等を要し、分離しなければ世帯全体が要保護になるとき子の障害が重く、世帯全体の収入も乏しい場合に限られる
長期の入院・入所を要する場合6か月以上の入院や施設入所を要するときなど子が入院や施設入所に至った場合に検討される


 押さえておきたいのは、これらの類型の多くが、世帯全体が保護を要する状態にあることを前提にしている点です。親に相応の収入や資産があり、同居を続けている場合には、子だけを切り分けて保護する例外にはあたりにくいのが実情です。

成人した子と親の関係は「生活扶助義務関係」

 同じ通知は、夫婦の間と、親と中学3年以下の子の間を「生活保持義務関係」と呼んでいます。成人した子と親の関係はこれにあたらず、「生活扶助義務関係」に位置づけられます。扶養の程度も、生活保持義務関係では扶養する側の最低生活費を超える部分とされるのに対し、生活扶助義務関係では、扶養する側が社会通念上ふさわしい生活を損なわない限度とされています。

 成人した子に対する親の扶養義務は、親自身の生活を損なってまで子を支え続けることまでは求めていない、と整理されています。扶養義務の範囲については、【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかで詳しく解説しています。

別に暮らすことで選択肢になる

 子が親の家を出て別の住まいで暮らし、家計も分けた場合、子は原則として一人の世帯として判断されます。親の収入や資産は子の世帯の収入には数えられず、本人の収入と最低生活費を比べて保護の要否が判断されることになります。同居のままでは難しかった保護が、別居によって現実的な選択肢になるのはこのためです。

 ただし、同じ通知は、住まいを別にしていても同一世帯と認定することが適当なときは同一世帯とする、とも定めています。形のうえでは部屋を借りていても、実際には実家で寝起きしている、生活費のほとんどを親が出している、といった実態があれば、同一世帯とみられるおそれがあります。

親からの仕送りは収入として扱われる

 保護が始まった後に親が生活費を援助すると、その仕送りは原則として子の収入として認定され、その分だけ保護費は少なくなります。援助すること自体が禁じられているわけではありませんが、福祉事務所に伝えないまま渡し続けると、後に保護費の返還を求められる原因になりえます。援助をする場合は、金額や方法をあらかじめ福祉事務所に伝えておくことが大切です。

親に扶養照会が届くことがある

 子が保護を申請すると、福祉事務所から親に対して、援助ができるかどうかを尋ねる「扶養照会」が行われることがあります。生活保護法4条2項は、民法上の扶養義務者による扶養が保護に優先すると定めています。もっとも、行政の案内でも、扶養できるかどうかが保護の要否の判定そのものを左右するものではないと説明されています。親としては、援助できる範囲とできない範囲を、実情に即して回答することになります。

申請の主体と「働く力」の評価

 生活保護法7条は、保護は要保護者本人、その扶養義務者、または同居の親族の申請にもとづいて開始すると定めており、親が申請することも法律上は可能です。とはいえ、保護が始まった後に福祉事務所とやり取りし、日々の生活を送るのは本人です。本人が制度の内容を理解し、自分の生活として受け止めていることが、その後の暮らしの安定につながります。

 また、保護を受けるには、働く力(稼働能力)がある場合にはそれを活用していることが求められます。通知は、年齢や医学的な面だけでなく、資格や生活歴・職歴なども含めて総合的に評価するとしています。長くひきこもっている背景に心身の不調が関係している場合には、医療機関の受診や、障害年金など他の制度が使えるかどうかの確認も、あわせて進めることになります。

親の側で先に考えておきたいこと

 別居と申請という道筋は、制度の上では整理できても、実際に進めるには越えるべき段階がいくつもあります。

  • 本人が家を出ることに納得しているか。
  • 無収入の状態で借りられる住まいと、入居時の費用をどう確保するか。
  • 保護が始まった後の金銭管理や手続を、本人が担えるか。
  • 親自身の老後の生活資金が、どこまで残っているか。
  • 福祉事務所に伝える内容が、暮らしの実態と一致しているか。


 特に一つ目は重要です。成人した子を本人の同意なく家から出すことは、法的に簡単ではありません。この点は【親子問題】子を家から出ていかせることはできるのか|占有と明渡しで解説しています。また、親がどこまで子の生活に関与できるかについては、【親子問題】成人した子の問題に親が介入できる法的な範囲もあわせてご覧ください。

 なお、保護を受けるために実態と異なる別居を装うことは避けるべきです。事実と異なる申請によって保護を受けた場合、保護費を徴収されることがあります(生活保護法78条)。

 いわゆる8050問題のように、親が高齢になるほど、抱え込みを続けた結果として親子ともに生活が立ち行かなくなるおそれは高まります。親自身の生活を守ることも、子の将来を考えるうえで欠かせない視点です。

当事務所の関わり方

 当事務所では、弁護士が親御さんの代理人として子と向き合い、提携する民間の自立支援カウンセラーが子の側の日常を支える体制で、親子の問題に取り組んでいます。カウンセラーは、住まい探しや仕事探し、生活保護の申請のサポート、日々の金銭管理などを担い、弁護士は親御さんの保護と、子との間の窓口を担当します。

 人が関わることなので結果をお約束することはできませんが、親子の物理的な距離を取るだけでも、双方に変化が訪れることがあります。サービスの内容は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応でご紹介しています。

よくあるご質問


親が年金暮らしでも、同居の子は生活保護を受けられないのでしょうか

 同居している限り、親の年金も世帯の収入として数えられます。年金額が親子二人分の最低生活費を下回っていれば、世帯として保護を受けられる可能性があります。反対に、年金額がそれを上回っていれば、同居のままでは受けにくいのが一般的です。

子が「生活保護は受けたくない」と言っている場合はどうすればよいですか

 親が申請することは法律上可能ですが、保護を受けながら暮らすのは本人です。本人が納得しないまま進めると、かえって話し合いが難しくなることもあります。まずは第三者を交えて本人の考えを聞き、住まいや収入の見通しを一緒に整理するところから始めるのが現実的です。

保護が始まった後、親は援助をしてはいけないのですか

 援助そのものが禁じられているわけではありません。ただし、金銭の援助は収入として扱われ、その分だけ保護費が減ります。食料や日用品を届ける場合も扱いが問題になることがあるため、援助の内容は事前に福祉事務所に相談しておくと安心です。

 ひきこもりの子の生活保護は、「使えるかどうか」の前に、「親子の暮らしをどのような形で分けるか」を考える必要があるテーマです。別居の進め方や本人との話し合い方に迷っている場合は、親子それぞれの状況を一度整理してみることをおすすめします。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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