【親子問題】通帳・カードを取り上げられた場合の対応
本記事は2026年9月時点の法令・制度に基づいて作成しています。個別の事件での対応は、事件の内容や手続の段階によって異なります。
「息子が人にけがをさせてしまった。親としてすぐにでも謝りに行きたい」「相手の家は分かっているので、菓子折りを持って伺うべきか迷っている」。子が第三者に被害を与えた場面で、親御さんからこうしたご相談を受けることがあります。一方で、「子はもう40代で、別の生活をしている。親が頭を下げるべきなのかどうか分からない」という戸惑いの声を伺うこともあります。
加害者の親の謝罪については、「まずは本人が謝るべき」「弁護士を通したほうがよい」と説明されることが多く、その説明自体は誤りではありません。ただ、親という立場に固有の事情、たとえば子の年齢によって親自身の法的責任の有無が変わること、親が書いた書面や口にした言葉がその後の話し合いに影響しうること、少年事件では親の氏名や住居が被害者側に伝わる仕組みがあることなどは、見えにくいところです。
本記事では、子が第三者に被害を与えた場面で、被害者側への連絡や謝罪を親が担うときの注意点に絞って整理します。謝罪文の構成や文例そのものは謝罪文の書き方|構成要素と、書いてはいけないことに、逮捕直後の初動は家族が逮捕されたと連絡が来た|最初の24時間にやることに委ねます。親が示談金を負担すべきかどうかという問題にも、本記事では立ち入りません。
親が被害者側と向き合う前に整理しておきたいこと
親に謝罪する法的な義務はない
まず前提として、法律上、親が被害者に謝罪する義務はありません。これは加害者本人についても同じで、謝罪は法的な義務というより、被害者の心情に向き合うための道義的な行為と位置づけられます。
一方で、損害賠償の責任については、子の年齢や状況によって親の立場が変わります。おおまかに整理すると次のとおりです。
| 子の立場 | 親の民事上の責任の考え方 |
|---|---|
| 責任能力のない年少の子 | 親が監督義務者として責任を負うのが原則。監督義務を怠らなかったことなどを示せば免れる余地がある(民法714条1項) |
| 責任能力のある未成年の子 | 子本人が責任を負う。親の監督義務違反と被害との間に相当因果関係がある場合は、親自身も責任を負うことがある(民法709条、最高裁昭和49年3月22日判決) |
| 成人した子 | 原則として子本人が責任を負い、親であることだけを理由に親が責任を負うことはない |
責任能力の有無は年齢だけで決まるものではありませんが、裁判例ではおおむね12歳前後が一つの目安とされています。成人した子の問題に親がどこまで関われるかは【親子問題】成人した子の問題に親が介入できる法的な範囲で、監督義務者の責任の考え方は認知症の家族が事件を起こした|監督義務者の民事責任で解説しています。この整理は、謝罪の場で親が何を約束するかを考えるうえでの出発点になります。
被害者から見れば、親は「加害者側の人」
親は事件を起こした本人ではありません。しかし被害者の側から見れば、親は加害者の家族であり、加害者側の人です。親が自宅を訪ねてくること自体が事件を思い出させたり、「住所を知られている」という不安につながったりすることがあります。謝りたい気持ちが強いほど早く動きたくなるものですが、その行動を被害者がどう受け止めるかを先に考えておく必要があります。
本人の謝罪と親の謝罪は置き換えられない
本人が謝罪していない段階で親だけが謝罪を重ねると、被害者には「本人には謝る気がないのではないか」と映るおそれがあります。親の謝罪は本人の謝罪に代わるものではなく、本人の謝罪を補うものと考えておくのが無難です。
また、本人が事実関係を争っている場合に、親が先回りして「すべてこちらが悪い」と謝罪すると、本人の言い分との食い違いが生じます。本人が事実を認めない、家族と話さないといった場面の考え方は本人が事実を認めない・家族と話さない|家族が相談できる範囲もあわせてご覧ください。
被害者に直接接触する前に考えること
連絡先を知っていても、すぐに訪ねない・電話しない
子と被害者がもともと知り合いであったり、近所の方であったりして、親が被害者の住所や連絡先を知っていることがあります。それでも、被害者が接触を望んでいるかどうか分からない段階で自宅を訪ねたり、電話やSNSで連絡したりすることは控えたほうがよいでしょう。被害者が拒んでいるのに連絡を重ねれば、謝罪のつもりであっても、相手にとっては負担や恐怖になりえます。
善意の働きかけが「証人等威迫」や罪証隠滅の疑いにつながる場面
刑法には、刑事事件の捜査や審判に必要な知識を持つ人やその親族に対し、事件に関して正当な理由なく面会を強く求めたり、強談威迫の行為をしたりすることを処罰する規定があります(刑法105条の2、2年以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金)。この規定は、事件の本人だけでなく、家族など本人以外の人の行為にも及びます。
親が「被害届を取り下げてもらえないか」「警察には穏便にと伝えてもらえないか」と頼むことは、親の側では謝罪の延長のつもりでも、被害者には強い圧力として受け止められることがあります。こうした働きかけが直ちに犯罪になるとは限りません。しかし子の刑事手続では、家族による働きかけがあったことが、罪証隠滅のおそれ(刑事訴訟法60条1項2号)や、被害者などを畏怖させる行為のおそれ(同法89条5号)を判断する事情として考慮され、勾留や保釈に影響する可能性があります。被害届や供述の内容に触れる働きかけは、親の立場でも避けておくべきです。
被害者の連絡先は、捜査機関からは教えてもらえない
被害者の住所や電話番号が分からない場合、警察や検察に尋ねても、通常は教えてもらえません。実務では、弁護人が捜査機関を通じて被害者に謝罪や示談の意向を伝え、被害者が弁護人に限って連絡先を知らせることを了承した場合に、弁護人を窓口としてやり取りが始まるのが一般的です。
さらに、令和5年の刑事訴訟法改正により、性犯罪などでは被害者の氏名や住所を被疑者・被告人側に知らせない措置が設けられています。この点は性犯罪で被害者の氏名が伏せられている|秘匿決定下での防御で、本人が直接連絡を取ることの問題は性犯罪の示談交渉を弁護人に任せる意味|本人が連絡してはいけない理由で解説しています。
代理人を介することの意味
子の弁護人・付添人は、子本人のための立場
成人の事件で弁護人がつく場合、弁護人は子本人の弁護人です。親が費用を負担して依頼したときでも、弁護人が守るべきは本人の利益であり、本人が望まない情報をすべて親に伝えるわけではありません。
少年事件では、家庭裁判所に送られた後、付添人が少年の立場に立って活動します。付添人は少年本人だけでなく保護者も選任することができ、弁護士を付添人とする場合は家庭裁判所の許可を要しません(少年法10条1項)。
親が被害者への謝罪や被害弁償に関わるときは、弁護人・付添人と方針を共有し、本人の意向と親の意向が食い違わないようにしておくことが大切です。親自身が被害弁償の一部を負担するかどうかなど、親の立場で判断が必要な事柄があるときは、その点について親として相談できる窓口を持っておくことも一つの考え方です。
窓口を一本にする
親、本人、きょうだいがそれぞれ被害者に連絡すると、被害者は何度も事件に向き合わされることになります。それぞれの言葉が少しずつ違えば、「言うことが違う」と不信感を持たれるおそれもあります。被害者との連絡は代理人に一本化し、家族の謝罪の気持ちも代理人を通じて伝える形にしておくと、被害者の負担を抑えやすくなります。
被害者側に弁護士がついた場合
被害者が弁護士に依頼した場合、以後の連絡はその弁護士宛てに行うのが通常です。代理人がついた後に親が被害者本人へ直接連絡すると、代理人を立てた被害者の意向に沿わないことになり、その後の話し合いが難しくなることがあります。
親が謝罪文を書くときの扱い
本人の謝罪文に添えて、代理人を通じて届ける
親の謝罪文は、本人の謝罪文とあわせて、弁護人などの代理人を通じて届けるのが一般的です。被害者が受け取りを断ることもあり、その場合に重ねて送ることは控えます。弁護人名義と本人名義のどちらで届けるかについては弁護人名義の手紙と本人名義の手紙|どちらで届けるかで整理しています。
謝罪の場でお見舞金などを直接手渡すことも、避けたほうが無難です。金銭のやり取りは示談の場で、何に対する支払いかを明確にしたうえで行うのが基本です。
書面に残る言葉の重さ
謝罪文は被害者の手元に残り、その後の示談交渉や、場合によっては民事の手続で読み返されることもあります。
特に注意したいのは、支払いや責任に関する表現です。「損害はすべて私どもがお支払いします」「一切の責任は親である私にあります」といった書き方は、気持ちの表れであっても、親自身が支払いを約束したものと受け止められる余地があります。先に整理したとおり、成人した子の事件では親が当然に賠償責任を負うわけではありません。親が負担するかどうか、負担するならどの範囲かは、謝罪文ではなく示談の場で決める事柄です。謝罪文には謝罪と被害者を気遣う言葉を中心に書き、金額や支払いの約束は書かないのが基本です。
「今後は親が監督します」と書く前に
謝罪文や示談の場で、再発防止のために家族が監督することを約束する例は少なくありません。ただ、成人した子に対して親が法的に監督する権限はなく、約束した内容を実行できなければ、かえって被害者の不信を招きます。
また、子による家庭内での暴力や金銭の要求がある家庭では、「同居して見守る」という約束が現実的でないこともあります。子と物理的な距離を取ることが、子と親の双方にとって必要な場面もあるからです。監督を約束するときは、医療機関への通院や支援機関との連携など、家族以外の担い手も含めて実行できる内容に限るのが望ましいでしょう。家族としての体制の組み立て方は家族としてできること|身元引受・治療・監督体制の組み立てで解説しています。
親の言動が被害者に伝わる仕組み
少年事件の審判結果の通知には、親権者の氏名・住居も含まれる
少年事件では、被害者などの申出により、家庭裁判所が審判の結果等を通知する制度があります(少年法31条の2)。通知の内容には、決定の主文や理由の要旨のほか、少年とその法定代理人(親権者など)の氏名及び住居が含まれます。少年の健全な育成を妨げるおそれがあるなど相当でない場合は除かれますが、親の氏名や住所が被害者側に伝わることがある、という前提で対応を考えておく必要があります。
審判での保護者の発言も、被害者が知りうる
一定の重大事件では被害者などが審判を傍聴できる制度があり(少年法22条の4)、被害者などの申出により家庭裁判所が審判の状況を説明する制度もあります(同法22条の6)。説明の対象には、少年や保護者の陳述の要旨が含まれます。このほか、被害者などは家庭裁判所に心情や意見を述べることができ(同法9条の2)、審判開始の決定があった事件では、原則として記録の閲覧・コピーも認められています(同法5条の2)。
つまり、親が審判の場で述べたことは、被害者側に伝わる可能性があります。被害者に向けた謝罪と、審判の場での保護者としての発言が食い違わないようにしておくことが大切です。
成人の事件でも、被害者は手続の情報を得られる
成人の事件でも、警察の被害者連絡制度や検察庁の被害者等通知制度により、被害者は捜査の状況や事件の処理結果などを知ることができます。親が手続の進み具合を被害者に説明する役割を担う必要はなく、説明しようとして接触が増えることのほうが、被害者の負担になる場合があります。
よくあるご質問
被害者の家族から「親が来て説明してほしい」と言われたら、応じなければなりませんか。
応じる法的な義務はありません。ただ、求めに何も答えなければ、被害者側の気持ちがさらに硬くなることもあります。代理人を通じて謝罪の意向と今後の窓口を伝え、直接の面談に応じるかどうかは代理人と相談して判断するのが無難です。面談の場で金銭や条件について返答を求められた場合も、その場で約束せず、持ち帰って検討する対応が考えられます。返答を保留するときの伝え方は【不当要求対応】その場で答えず持ち帰る|返答を保留する技術も参考になります。
謝罪文を受け取ってもらえなかった場合は、どうすればよいですか。
重ねて送ったり、自宅を訪ねたりすることは控えます。謝罪を受け入れるかどうかは、被害者が決めることです。弁護人を通じて時期を置いて改めて意向を尋ねることや、被害弁償の意向だけは伝えておくことなどが考えられます。示談に応じてもらえなかった後の選択肢は示談を申し入れたが断られた|そのあとに残る手段で解説しています。
学校の中のトラブルで、学校から謝罪の場を設けると言われました。
刑事手続になっていない段階でも、考え方は大きく変わりません。本人が謝罪する場であることを前提に、親が同席して何を述べるかを事前に整理しておくことが大切です。その場で治療費や慰謝料の支払いを約束することは避け、金銭の話は改めて行うと伝えるのが無難です。被害が大きい場合や、後に警察への届出が予想される場合は、謝罪の場に臨む前に弁護士へ相談されることをおすすめします。
まとめ
- 親にも本人にも謝罪する法的な義務はなく、親の賠償責任の有無は子の年齢や状況によって変わる(民法714条・709条)。
- 本人の謝罪がないまま親だけが謝罪を重ねても、本人の謝罪の代わりにはならない。
- 被害者の意向が分からない段階での訪問や電話、SNSでの連絡は控える。
- 被害届の取下げなどを求める働きかけは、証人等威迫や、子の勾留・保釈の判断に影響しうる(刑法105条の2、刑事訴訟法60条1項2号・89条5号)。
- 被害者との連絡は、弁護人・付添人などの代理人に一本化する(少年法10条1項)。
- 謝罪文には謝罪と気遣いの言葉を中心に書き、金額や支払いの約束、実行できない監督の約束は書かない。
- 少年事件では、親権者の氏名・住居や保護者の陳述の要旨が被害者側に伝わることがある(少年法31条の2・22条の6)。
お子さんが起こした事件で、被害者への対応にお悩みの方へ
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