【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択
本記事は2026年9月時点の法令・実務を前提とした一般的な説明です。個別の事情によって結論は変わりますので、実際のご判断にあたっては弁護士にご確認ください。
「子が出かけている間に、玄関の鍵を替えてしまおうかと考えています」。同居している子との関係で長く悩んでこられた親御さんから、こうしたご相談をいただくことがあります。反対に、一度実行してしまってから、「子の側の弁護士から、不法行為だという通知が届きました」とお越しになる方もおられます。
インターネット上には「自力救済は違法です」という説明が数多く並んでいます。その説明自体は誤りではありません。ただ、掲載されているものの多くは家賃を滞納した借家人に対する大家向けの解説で、親子の同居にそのまま当てはまる部分と、当てはまらない部分が混ざっています。そのため、読んでも自分の家の場合にどうなるのかが判然としない、というお声をよく伺います。
本記事では、鍵の交換、締め出し、荷物の搬出といった実力による対応について、何がどのように問題になるのか、例外が認められる余地はどこまであるのか、そして代わりに何ができるのかを整理します。明渡しを求める手続そのものの流れは【親子問題】子を家から出ていかせることはできるのか|占有と明渡しで扱っていますので、ここでは実力行使の可否に絞ってお話しします。
実力で権利を実現することが原則として認められない理由
家の名義が親であっても、親が自分の判断で子を住まいから排除することは、原則として認められていません。裁判所の手続を経ずに自ら実力で権利を実現することを自力救済といい、法はこれを原則として禁じているという理解が定着しています。
最高裁が示した例外の要件
最高裁は、私力の行使は原則として法の禁止するところであるとしたうえで、法律に定める手続によったのでは権利に対する違法な侵害に対抗して現状を維持することが不可能または著しく困難であると認められる緊急やむを得ない特別の事情がある場合に限り、必要の限度を超えない範囲内で例外的に許されるとしています(最高裁昭和40年12月7日判決)。
整理すると、例外が認められるには、裁判などの手続では間に合わないこと、緊急やむを得ない特別の事情があること、必要の限度を超えないことという三つがそろう必要があります。話し合いが何年も成り立たない、子が働かない、といった事情は親御さんにとって切実なものですが、訴訟を起こすことが可能な状況であれば「手続によったのでは困難」とは評価されにくく、この要件を満たす場面は限られます。
賃貸向けの解説がそのまま当てはまらない部分
大家向けの解説では、無断で室内に立ち入れば住居侵入の問題が生じると説明されることがあります。もっとも、親御さん自身が所有し、現に生活している家に入ること自体は、通常その枠組みでは考えません。親子の場合に重なってくるのは、むしろ未成年の子に対する監護の責任や、高齢の親を守るための福祉の制度といった別の枠組みです。
もう一つ、賃貸では契約書に自力救済を認める条項が入っていることがありますが、そうした条項を無効と判断した裁判例が報告されています(札幌地方裁判所平成11年12月24日判決)。書面で取り決めていても実力行使が正当化されるわけではないという点は、契約書すら交わしていないことが多い親子の同居では、なおさら意識しておく必要があります。
行為の種類ごとに、何が問題になるのか
「自力救済」とひとまとめにされがちですが、実際に検討される行為はいくつかに分かれ、問題の出方も異なります。
| 考えられがちな対応 | 主に問題になる点 |
|---|---|
| 玄関の鍵を交換して入れないようにする | 生活の場を使えなくする行為として、賠償の対象になり得る |
| 留守中に荷物を運び出す・処分する | 物を壊せば器物損壊、保管や買い直しの費用を求められる場面も |
| 部屋から出られないようにする | 監禁として刑事上の問題になり得る(刑法220条) |
| 通帳・携帯電話などを取り上げる | 名義と所有者が誰かによって評価が変わる |
| 水道・電気の契約を止める | 契約者が親でも、退去させる目的であれば相当性を問われる |
| 生活費を渡すのをやめる | 扶養の範囲の問題であり、上の各行為とは性質が異なる |
鍵の交換と締め出し
成人した子が自分の部屋を持ち、生活の本拠として長年住んでいる場合、子はその住まいを事実上支配している状態にあると評価される余地があります。鍵を替えて入れなくすることは、この状態を一方的に解く行為にあたります。鍵そのものの扱いについては【男女トラブル】別れた相手が合鍵を持っている|返してもらう交渉と、鍵を替える判断でも整理していますので、あわせてご覧ください。
荷物の搬出と処分
衣類や家電を運び出して保管するだけでも、生活に必要な物を使えなくしたとして争いになります。処分してしまえば、家族の間であっても器物損壊の問題が生じ得ます。財産に関する罪の一部には同居の親族との間で刑が免除される仕組みがありますが(同居の家族の物を持ち出した|親族相盗例で処罰されない範囲)、物を壊す行為にはこの仕組みが及びません。この点は【親子問題】壁や家具を壊された|器物損壊として扱えるかで説明しているとおりで、立場が入れ替わっても同じことがいえます。残された家財の扱いで後から賠償を求められた例もあります(【男女トラブル】相手の荷物が家に残っている・自分の荷物を取りに行きたい|勝手に処分してよいか)。
止めてよいものと、止めると問題になるもの
一方で、生活費を渡すのをやめることは、住まいから排除する行為とは区別して考えます。成人した子に対する扶養は、自分の生活を犠牲にしてまで負うものではないと理解されており、どこまで負担するかは親御さんの判断の余地が大きい部分です。詳しくは【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかをご覧ください。これに対し、水道や電気を止める、鍵を替えるといった対応は、住み続けること自体を妨げる方向に働くため、同じようには扱われません。
締め出された側が取れる手段
親御さんの側から見れば「自分の家の話」でも、締め出された子の側には取れる手段があります。これが、実力行使をおすすめできない実務上の理由です。
占有回収の訴えという枠組み
その場所を事実上支配していた人がその状態を奪われたときは、返還と損害の賠償を求める訴えを起こすことができます(民法200条1項)。この訴えは奪われた時から1年以内に提起しなければならないとされており(同法201条3項)、緊急性が高い場面では仮処分が用いられることもあります。子の側に代理人が就けば、まずこの構成が検討されると考えておくのが安全です。
賠償が命じられた事例
賃貸の事案ですが、家賃の支払いが1か月遅れた借主に対して無断で鍵を交換し、合計34日間にわたり自宅から締め出したケースで、家賃相当額や宿泊費用、慰謝料など合計約65万円の賠償が命じられた例が報告されています(大阪簡易裁判所平成21年5月22日判決)。金額の大小もさることながら、権利を持っている側が賠償を命じられる構図になるという点が重要です。
その後の交渉への影響
親御さんの側に落ち度がある状態ができてしまうと、本来進めたかった明渡しの話し合いでも、そこが繰り返し持ち出されることになります。手続が長引き、費用も膨らみます。当事務所でも、実力行使が先行したために解決までの道のりが遠回りになった事案を見てきました。
未成年の子の場合は枠組みが変わる
子が未成年の場合、そもそも明渡しという発想で考えることはありません。親には監護と教育の責任があり、長時間放置することは児童虐待の防止等に関する法律が定める行為に当たり得ます(同法2条3号)。幼い子であれば、保護すべき立場にある者が必要な保護をしなかったという刑事上の問題にもつながります。
夜間に締め出す、家に入れないまま放置するといった対応は、事情がどれほど切迫していても避けてください。暴力や暴れる行為が続いている場合は、児童相談所や警察を含めた安全確保の相談が先になります。その場の判断については【親子問題】110番を呼ぶ判断基準|その場で何を伝えるかも参考になります。
では、親の側にできることは何か
以上は「してはいけないこと」の話ですが、できることが何もないわけではありません。
鍵の交換が問題になりにくい場面
次のような場合は、事情が異なります。
- 子がすでに転居し、生活の本拠を別の場所に移している場合の防犯上の交換。
- 鍵を紛失した、第三者の手に渡ったおそれがあるといった事情がある場合。
- 親御さん自身の寝室や書斎、金庫に施錠して、自分の生活領域と財産を守る場合。
- 退去の合意が成立し、その内容として鍵を返してもらったうえで交換する場合。
最後の形が本来の道筋です。交換が問題になるかどうかは、鍵という物の話ではなく、子がそこで暮らしている状態を一方的に解くことになるかどうかで決まります。
距離を取る方法は「出ていかせる」だけではない
身の安全という観点では、親御さんの側が一時的に家を離れるほうが早い場面も少なくありません。親御さんが高齢で、同居する子から暴力や経済的な侵害を受けている場合には、市区町村が福祉の制度を使って分離に関与する仕組みもあります。まずは地域包括支援センターにご相談ください。安全の確保と記録の残し方は【親子問題】子から暴力を受けている|まず確保すべき安全と記録にまとめています。
手続に乗せるための準備
明渡しを求める場合でも、出発点は書面で意思を伝えることです。同居に至った経緯、生活費の負担状況、暴力や金銭の要求があった日時の記録は、後から集め直すのが難しい資料です。代理人を立てることで窓口が変わり、直接のやり取りから離れられるという効果もあります(【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択)。
すでに鍵を替えてしまった場合
実行してしまった後でお越しになる方も少なくありません。その場合は、状況を悪化させないための対応が先になります。
- 衣類や薬、仕事に必要な物など、生活に不可欠な物はすぐに渡せる状態にしておく。
- 運び出した荷物は処分せず、内容が分かる形で保管する。
- なぜそうせざるを得なかったのかという経緯を、時系列で書き出しておく。
- 子の側から通知が届いた場合は、自分で回答する前に弁護士に相談する。
緊急やむを得ない事情があったかどうかは、後から事実に沿って主張していくことになります。その意味でも、その場の記録と、直後にどう対応したかが結論を左右します。
よくあるご質問
子が何か月も帰ってきていません。鍵を替えてよいですか
生活の本拠がどこにあるかによります。荷物が残ったままで住民票も移っていない場合、なお住んでいる状態が続いていると見られやすくなります。連絡が取れないのであれば、まず書面で退去の意思を確認する手順を踏んでください。
暴力があり、身の危険を感じます。それでも締め出せないのですか
身の安全の確保と、住まいから退去させる手続は、別の問題として進めます。危険が差し迫っているときは、その場を離れる、110番をするという対応が先です。明渡しは、安全を確保したうえで並行して検討することになります。
子の部屋の鍵を親が持っています。外から施錠してよいですか
子が生活している部屋を使えなくするという点では、玄関の鍵を替えるのと同じ評価を受け得ます。一方で、親御さん自身の部屋や金庫に施錠することは、自分の生活領域を守る行為であり、性質が異なります。
まとめ
- 裁判所の手続によらずに実力で権利を実現することは、原則として認められていません。
- 例外が認められるのは、手続では間に合わず、緊急やむを得ない特別の事情があり、必要の限度を超えない場合に限られます(最高裁昭和40年12月7日判決)。
- 鍵の交換や締め出しは、賠償を求められる原因になり得ます(民法709条)。
- 締め出された側は、返還と賠償を求める訴えを起こすことができます(民法200条1項、201条3項)。
- 荷物を処分する行為については、同居の親族間で刑が免除される仕組みが及びません。
- 子が未成年の場合は枠組みが異なり、長時間の放置は児童虐待の防止等に関する法律2条3号の問題となり得ます。
- 子がすでに転居している場合や、退去の合意ができた場合の鍵の交換は、これらとは区別して考えます。
ご相談をお考えの方へ
鍵を替えたいというお気持ちの背景には、これ以上どうすればよいか分からないという長い経緯があることがほとんどです。実力行使をおすすめできないのは、法の建前からだけではなく、それが解決までの道のりを遠回りにしてしまうからです。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、親子の問題に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。すでに実行してしまった段階でも、これから検討している段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、親側の代理人として弁護士が子と対峙する一方、子の側の日常的な支援は民間の自立支援カウンセラーが担う形で、チームを組んで対応しています。お電話・メール・LINEのうち、ご都合のよい方法でお問い合わせください。


