【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択
本記事は2026年9月時点の法令と、厚生労働省が公表している資料に基づいて作成しています。制度の運用や設置状況は自治体によって異なり、今後変更される場合があります。
子どものひきこもりについてどこに相談すればよいかを調べていくと、多くの場合「ひきこもり地域支援センター」という名前にたどり着きます。公的な相談窓口として全国に置かれ、最初のアクセス先として案内されることの多い機関です。
一方で、実際に連絡を取った親御さんから「話は丁寧に聞いてもらえたが、その先がどうなるのかが分からなかった」というお話を伺うことがあります。これは対応が不十分だということではなく、この窓口が担うよう設計されている範囲と、ご家庭が困っている事柄との間にずれがある場合に起きやすい感覚です。この記事では、センターが制度としてどこまでを担う設計になっているのかを、公表資料に沿って整理します。窓口全体の位置づけは【親子問題】親子の問題はどこに相談すればよいのか|警察・行政・弁護士の役割分担もあわせてご覧ください。
ひきこもり地域支援センターとは何か
ひきこもりに特化した専門的な相談窓口として、2009年(平成21年)から都道府県と指定都市に整備が進められてきた機関です。厚生労働省によると、平成30年4月までにすべての都道府県・指定都市(67自治体)に設置されました。
令和4年度からは、より住民に身近なところで相談できるよう、設置主体が市町村にも広げられました。厚生労働省の公表によれば、市町村が設置したセンターは令和7年度で47自治体です。あわせて、相談支援・居場所づくり・ネットワークづくりを一体的に行う「ひきこもり支援ステーション事業」が129自治体、8つのメニューから選んで実施する「ひきこもりサポート事業」が164自治体で行われています(いずれも令和7年度)。お住まいの市区町村に専用の窓口があるとは限らず、都道府県・指定都市のセンターが受け皿になっている地域もあります。
センターには、社会福祉士、精神保健福祉士、保健師、公認心理師、臨床心理士などの資格を持つ「ひきこもり支援コーディネーター」が配置されています。相談は来所・電話・訪問・メールのほか、SNSで受け付けている自治体もあります。
できることとできないことの全体像
| 場面 | ひきこもり地域支援センターの守備範囲 |
|---|---|
| 本人が動き出していない段階での家族の相談 | 中心的な業務。家族だけの相談を続ける形も想定されている |
| 本人への訪問(アウトリーチ) | 本人の拒否がないことを確認したうえで実施 |
| 生活費・就労・医療・介護などの制度の利用 | 担当する機関への案内やつなぎ、同行 |
| 本人の情報を他の機関へ伝えること | 緊急時などを除き、原則として本人の同意が必要 |
| 暴力や金銭の要求そのものへの対応 | 警察や高齢者虐待の窓口への相談を助言する立場 |
| 被害届・住まいの明渡し・契約の解消といった手続 | 担当外。弁護士などの専門職が連携先として整理されている |
センターにできること
本人を連れて行かなくても相談できる
もっとも誤解されやすい点です。厚生労働省が令和7年1月に公表した「ひきこもり支援ハンドブック~寄り添うための羅針盤~」では、本人への支援のみを行う場合だけでなく、家族への支援のみを行う場合や、家族への支援から本人への支援へ移る場合があることが、支援の進め方として明記されています。
同ハンドブックは、かつて「家族が相談しても本人を連れてきて診断を受けないと支援できない」という対応があり、家族支援の視点が十分に伝えられていなかったという指摘があったことにも触れています。現在の方針では、家族だけの相談は例外的な入口ではなく、想定された入口のひとつです。家族が関わり方を変えることで本人の様子が変化することがある、という整理もされています。
訪問という手段がある
支援者が自宅などへ出向くアウトリーチも手段として位置づけられています。有効な方法とされる一方、自宅や自室は本人にとって安心できる場所であるため、訪問は負担の大きい関わりであることにも注意が促されています。そのため、訪問の前には家族を通じて、あるいは本人に直接、訪問してよいかを確認する運用が原則とされ、会う場所も自室以外を選ぶ工夫が示されています。
他の制度への入口になる
ひきこもりの背景には、生活費、健康、就労、親の介護など複数の事情が重なっていることが少なくありません。ハンドブックでは、連携・活用する制度として次のものが整理されています。
- 生活困窮者自立支援法に基づく自立相談支援事業、就労準備支援事業、家計改善支援事業など。
- 社会福祉法に基づく重層的支援体制整備事業。
- 障害者総合支援法に基づく就労移行支援、就労継続支援などの障害福祉サービス。
- 介護保険法に基づく地域包括支援センターによる高齢の親への支援。
- 子ども・若者育成支援推進法に基づく子ども・若者総合相談センター。
このほか、家族会や当事者会、居場所づくり、ひきこもりの経験を持つ方の同行なども取り組みとして挙げられています。
センターにできないこと
本人の意思に反して動かすこと
ハンドブックは、支援を行う前提となる価値のひとつとして「本人の意思を尊重する」ことを掲げ、支援者が守るべき留意点のなかに「支援の強要に注意する」という項目を置いています。訪問についても、本人の拒否がある場合に無理に訪問すると信頼関係を築けないため、支援者が一方的に行動を起こすことは控えるべきだとされています。
したがって、「本人を説得して外へ連れ出してほしい」「働くように指導してほしい」という依頼は、この制度が想定する支援の形とは異なります。対応が消極的に見える場面があるとすれば、担当者の姿勢ではなく、制度がそのように設計されているためであることが多いといえます。
就労までの到達を約束すること
示されている支援の目標は、就労そのものではありません。ハンドブックは目指す姿を「自立ではなく自律」と表現し、本人や家族が自らの意思で生き方や社会との関わり方を決めていけるようになることをゴールとしています。社会参加や就労はその手段のひとつという位置づけです。
この点は、親御さんが望む「収入を得て生活を維持できるようになること」との間にずれが生じやすい部分です。ハンドブックでも、早期に状態を脱してほしいという家族の思いと、支援を求めていない本人との間で支援者が板挟みになる場合があることが率直に記され、相談から状況の把握まで数年かかる場合があるとされています。
本人の同意なく情報を他機関へ渡すこと
支援対象者に関する情報は、緊急対応が必要な場合や法令上の守秘義務が課された会議の場合を除き、本人の同意を得たうえで他機関と共有することが原則とされています。「関係機関で共有して一気に動いてほしい」と感じる場面もありますが、同意を得ずに関係者だけで話を進めると支援がうまくいかなくなることがある、という整理です。相談内容が子に伝わるかどうかの考え方は【親子問題】相談内容は子に伝わるのか|守秘義務と連絡の取り方でも扱っています。
いま起きている被害そのものを止めること
暴力を受けている、金銭を繰り返し要求されているといった事態は、ひきこもりの相談とは別の対応が必要になります。ハンドブックも、家庭内暴力がある場合の対応として、物理的に距離を置いたり避難したりすることを勧め、命の危険がある場合には警察に対応を求めることが必要な場合があるとし、警察への相談に同行したり、生活を分離するよう助言したりする、と記しています。
ここに書かれているのは、被害届の提出や住まいの整理といった手続そのものを担うということではなく、手続につながるよう助言し、必要なら同行するという役割です。センターは相談と調整の機関であり、法的な手続を代理する機関ではありません。
暴力や金銭の要求があるときは、順序が変わる
ハンドブックは、本人の意向を優先するよりも支援者の介入という緊急対応の判断が必要になる場面として、本人の安全が確認できない場合などと並べて、「暴力行為があり家族を含む周囲の人の命に危険が及ぶ」場合を挙げています。
あわせて、暴力が起きたタイミングでの警察への通報が有効な場合があること、家族から本人に「暴力が起きたら警察に通報する」と予告するだけで抑止になることがあること、短期間の避難が有効な場合があることも示されています。受け手が高齢者である場合には、高齢者虐待対応の窓口につなぐことがあるとも書かれています。
- 【親子問題】子から暴力を受けている|まず確保すべき安全と記録
- 【親子問題】110番を呼ぶ判断基準|その場で何を伝えるか
- 【親子問題】避難先の確保|一時的に親が家を出るという選択
- 【親子問題】高齢の親が被害者の場合|行政が動く仕組み
なお、警察に相談しても「家庭の問題」として扱われ、思うように動いてもらえなかったという経験をお持ちの方は少なくありません。その背景にある制度上の理由は【親子問題】「家庭の問題」と言われて警察が動かないのはなぜかで説明しています。
民間の支援をうたう事業者に相談する前に
公的な窓口では思うように進まないと感じたとき、民間の支援団体を検討される方がいます。厚生労働省は、ひきこもり等の自立支援をうたう複数の民間事業者について、高額な請求を行う、無理矢理家から連れ出して入所させる、入所させるだけで適切なサービスを提供しないといった事例が発生し、被害を受けた本人による民事訴訟も行われてきたことを、ハンドブックのなかで明記しています。消費者庁も同様の注意を呼びかけています。
契約を検討する際は、支援の担い手、内容と期間、解約の条件、本人の意思をどう確認するのかを、契約前に書面で確かめておくことをおすすめします。消費生活の相談は、消費者ホットライン(188)で最寄りの窓口を案内してもらえます。
窓口を使い分けるという考え方
ひきこもり地域支援センターは、本人の主体性を前提に、時間をかけて関わり続けることを軸に設計された機関です。逆にいえば、いま起きている被害を止める、金銭の流れを断つ、住まいを分けるといった、期限を区切って結果を出す必要がある事柄は、この設計の外側にあります。この点は国の側も前提としています。
ハンドブックの連携先一覧には、医療、福祉、就労、教育と並んで「各士業など」の欄が置かれ、弁護士等による家族間のトラブルや相続等に関する相談が挙げられています。行政の窓口と法律の窓口は、対立するものではなく役割が違うものとして整理されています。
当事務所では、親御さんの代理人を弁護士が務め、子の側の日常的な生活の立て直しは民間の自立支援カウンセラーが担う形でチームを組み、親と子それぞれの自律を目指す取り組みを行っています。人が関わることである以上、結果をお約束することはできませんが、親子の物理的な距離を取るだけでも双方に変化が生じることがあります。弁護士が入ることで何が変わるのか、逆に変わらないのかについては【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択、取り組みの全体像については【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応をご覧ください。
よくあるご質問
本人が行きたがりません。家族だけで相談しても意味はありますか
家族だけの相談は想定された入口のひとつとされ、家族への支援のみが続く場合もあります。まずはご家族だけでご相談いただいて差し支えありません。
相談の費用はかかりますか
自治体の事業として行われており、相談自体は無料で受けられるのが通例です。ただし、実施しているメニューや対象の範囲は自治体によって異なるため、お住まいの窓口でご確認ください。
きょうだいが相談者になることはできますか
できます。ハンドブックでも、別居しているきょうだいや親族、知人、民生委員などからの相談が支援の入口になることが挙げられています。親御さんが高齢で動けない場合の考え方は【親子問題】きょうだいが相談者になる場合|親が動けないときで扱っています。
まとめ
- ひきこもり地域支援センターは都道府県・指定都市のすべてに置かれ、令和4年度からは市町村にも広がっています。
- 本人を連れて行かなくても家族だけで相談でき、訪問や他制度へのつなぎも行われます。
- 一方で、本人の意思に反して動かすこと、就労までの到達を約束すること、本人の同意なく情報を他機関へ渡すことは、制度の設計上できません。
- 暴力や金銭の要求が現に起きている場合は、国の指針自体が警察への相談や生活の分離を想定しており、相談の順序が変わります。
公的な窓口が頼りにならない、ということではありません。時間をかけて本人と関わり続ける機能は、ほかの機関にはないものです。分かりにくいのは、ご家庭で起きていることのうち、どこまでがその窓口の範囲で、どこからが別の窓口の範囲なのかという線引きです。まずはその切り分けから、ご一緒できればと思います。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


