【親子問題】親子間の暴行・傷害は立件されるのか|特例が及ばない範囲
子が成人した後も、生活費や住まいを親が負担し続けている家庭は少なくありません。就労が続かない、外に出られない、家にお金を入れないまま要求だけが続く。そうした状態が何年も重なるうちに、多くの親が「自分には、いつまでこの子を養う義務があるのか」という問いに行き当たります。
当事務所にも、40代・50代の子を抱えたご家庭からのご相談が寄せられます。そこで求められているのは、法律上どこまでが義務で、どこからが義務ではないのかという線引きです。この記事では、義務があるか、誰が先に負うのか、どの程度まで負うのかという三つを分けて整理します。
本記事は2026年9月時点の法令に基づいて解説しています。制度や運用は改正によって変わることがありますので、実際のご判断にあたっては最新の情報をご確認ください。
こんな場面でご相談をいただきます
- 30代・40代の子が働いておらず、生活費のすべてを親が負担している。
- 年金生活に入り、これまでと同じ額を渡し続けることが難しくなってきた。
- 子から毎月の金額を指定され、断ると家の中の空気が悪くなる。
- 同居を解消したいが、追い出したことで責任を問われないか不安がある。
どの場面でも出発点は同じです。扶養の義務があること自体と、いくらをどういう形で負担するかが決まっていることは、別の問題です。
義務があることと、金額が決まっていることは別
誰に対して義務が生じるのか
民法877条1項は、直系血族および兄弟姉妹は互いに扶養をする義務があると定めています。親と子は直系血族ですから、子が何歳になっても、この条文の適用そのものは続きます。成人したことで親子の扶養義務が消えるという仕組みにはなっていません。
| 関係 | 根拠となる条文 | 義務が生じる仕組み |
|---|---|---|
| 配偶者 | 民法752条 | 夫婦の同居・協力・扶助義務として当然に生じる |
| 直系血族(親と子、祖父母と孫) | 民法877条1項 | 法律上当然に生じる |
| 兄弟姉妹 | 民法877条1項 | 法律上当然に生じる |
| 3親等内の親族(おじ・おば、甥・姪など) | 民法877条2項 | 特別の事情があるときに家庭裁判所の審判で生じる |
順序と程度は別の条文が扱う
誰が先に扶養するかという順序は民法878条が、どの程度・どの方法で扶養するかは民法879条が扱います。いずれも、まず当事者間の協議で決め、協議が調わないときに家庭裁判所が定めるという構造です。
つまり民法は「義務がある」とは書いていても、「毎月いくら」とは書いていません。金額を決めているのは条文ではなく、話し合いか家庭裁判所の判断です。ここを分けておかないと、要求された金額がそのまま義務の内容であるかのように見えてしまいます。
扶養義務には二つの強さがある
生活保持義務と生活扶助義務
条文にはありませんが、学説や家庭裁判所の実務では、扶養義務を強さの異なる二つに分けて考えます。自分と同じ水準の生活を相手にも保たせる生活保持義務と、自分の生活を通常どおり維持したうえで余力の範囲で援助する生活扶助義務です。
| 項目 | 生活保持義務 | 生活扶助義務 |
|---|---|---|
| 典型的な場面 | 夫婦の間、親から未成熟子へ | 成人した子へ、成人した子から親へ、兄弟姉妹の間 |
| 求められる水準 | 自分と同じ程度の生活を相手にも保つ | 自分の生活を維持したうえで、余力の範囲で援助する |
| 判断の出発点 | 分け合うことが前提 | まず自分の生活、次に余力の有無 |
| 優先関係 | 生活扶助義務より優先して考えられる | 生活保持義務が問題にならない範囲で検討される |
一般に、成人して自立が期待できる子に対する親の扶養義務は、生活扶助義務にとどまると説明されます。自分の生活を切り詰めてまで援助しなければならない、という性質のものではないという整理です。
成人していても未成熟子として扱われる場合
注意が必要なのは、年齢と扶養の強さが一致しない点です。実務では、経済的な自立を期待できない状態にある子を未成熟子と呼び、この場合の親の扶養義務は生活保持義務として考えられています。
成年に達していても、大学などに在学中の場合や、心身の状態から就労が難しい場合には、未成熟子と同じように扱われる余地があります。「成人したかどうか」ではなく「自立が期待できる状態かどうか」が判断の軸になります。
「余力の範囲」は何を見て決まるのか
民法879条は、扶養権利者の需要、扶養義務者の資力その他一切の事情を考慮すると定めています。親の側で確認しておきたいのは、次のような材料です。
- 親自身の収入と、そこから出ていく生活費・医療費・介護費用。
- 手元の資産のうち、老後の生活のために確保しておく必要がある部分。
- 配偶者や他の家族など、先に支えるべき相手がいるかどうか。
- 子の側の収入、資産、就労の可能性、公的給付を受けられる余地。
扶養料には、養育費のような公表された算定表がありません。養育費の算定表は生活保持義務を前提に作られたもので、成人した子への援助の金額をそのまま導けるものではありません。
扶養義務は、同居や身の回りの世話を求めるものではない
民法879条がいう「方法」には、金銭を給付する形と、引き取って世話をする形の両方が含まれます。もっとも、親から未成熟子への扶養や夫婦間の扶養を除けば、扶養は原則として金銭の給付として実現されると説明されます。同居を続けることや身の回りの世話をすることが、扶養義務の内容として当然に求められるわけではありません。
当事務所が親子の問題に関わる中では、距離の近さが膠着を長引かせている例に接します。住まいを分けたうえで必要と判断した額を送るという形も、扶養の方法の一つです。
援助をやめることが犯罪になるのか
援助を減らす、あるいは同居をやめると考えたときに気になるのが刑事責任です。関係するのは刑法218条の保護責任者遺棄等の罪で、老年者、幼年者、身体障害者または病者を保護する責任のある者がこれらの者を遺棄し、またはその生存に必要な保護をしなかったときは、3月以上5年以下の拘禁刑に処すると定められています。
この条文の対象となるのは、他人の助力がなければ日常生活を営む動作ができない状態にある人だと解されています。健康で、自ら働くことも公的な支援を求めることもできる成人の子について、経済的な援助をやめたことが直ちにこの条文に当たると考えられているわけではありません。
一方、精神疾患や障害があり日常生活に助力が必要な状態であれば、評価が変わる余地があります。子の状態に不安がある場合は、援助の形を変える前に、医療機関や自治体の窓口につなぐ段取りを先に置いておくことをおすすめします。
決める場を家庭裁判所に移すという選択肢
金額や方法について家庭内で話がまとまらないとき、家庭裁判所の扶養請求調停を使うことができます。この手続で見落とされやすいのは、申立てができるのが扶養を受ける側だけではないという点です。扶養義務者の側、つまり援助を求められている親の側からも申し立てることができます。
申立先は相手方の住所地の家庭裁判所、または当事者が合意で定める家庭裁判所です。費用は扶養を受ける人1人につき収入印紙1200円分と連絡用の郵便料で、調停が成立しない場合は原則として自動的に審判の手続に移ります。
家庭内の交渉では、声の大きさや同居しているという事実が結論を左右しがちです。第三者が入る場に移すことは、金額を争うためというより、決め方を変えるための手段です。親族から金銭を求められる場面一般の考え方は、【不当要求対応】親族からの金銭要求|扶養義務はどこまでかでも整理しています。
公的な制度との関係
子の側が生活保護の申請を考える段階になると、親のもとに福祉事務所から扶養照会が届くことがあります。生活保護法4条2項は扶養義務者の扶養が保護に優先すると定めていますが、これは扶養が受けられることが保護の要件だという意味ではありません。援助の余力がなければ、その旨を回答することになります。扶養照会の運用については厚生労働省が令和3年に取扱いを整理した通知を出しており、長期間交流が途絶えている場合などが、履行を期待しにくい事情として挙げられています。
なお、所得税の扶養控除や健康保険の被扶養者も「扶養」と呼ばれますが、これらは税法・社会保険の基準で決まる制度で、民法上の扶養義務とは別の話です。被扶養者から外しても、民法上の義務がなくなるわけではありません。
要求の仕方が線を越えている場合
扶養義務の話と、要求の方法が適切かどうかも切り分けが必要です。金銭を求める際に害を加えると告げれば刑法222条の脅迫罪、義務のないことを行わせれば223条の強要罪、脅して財物を交付させれば249条の恐喝罪が問題になり得ます。
もっとも、親子など一定の親族の間では、刑法244条の親族相盗例により窃盗などについて刑が免除される仕組みがあります。恐喝罪にはこの規定が準用されますが、脅迫罪や強要罪、暴行罪や傷害罪には準用がありません。罪名によって扱いが変わる点は、警察に相談したときの反応の違いにもつながります。詳しくは同居の家族の物を持ち出した|親族相盗例で処罰されない範囲と家庭内で手が出た|家族間の暴行・傷害とDV法の関係をご覧ください。
扶養義務と、子が外で起こした問題についての親の責任も別のものです。民法714条は責任能力のない人の監督義務者の責任を定めた条文で、責任能力のある成人の子について親が当然に責任を負う仕組みにはなっていません。この点は認知症の家族が事件を起こした|監督義務者の民事責任で扱っています。
援助の形を変える前に確認したいこと
- 渡している金額と回数を数字として書き出します。記憶ではなく記録にすると判断の土台が変わります。
- 子の収入、資産、健康状態、就労の可能性を、分かる範囲で整理します。
- 自分自身の収入と支出、今後の医療費や介護費用の見通しを確認します。
- 減らす場合は、いつから、いくらにするかを先に決め、形の残る方法で伝えます。
- 子の側が利用できる公的な窓口や制度を、事前に調べておきます。
- 話し合いが成り立たない状況であれば、家庭内だけで進めず第三者を入れることを検討します。
よくあるご質問
親子の縁を切れば、扶養義務はなくなりますか
戸籍上、親子の関係そのものを解消する制度はありません。扶養を受ける権利は処分することができないとも定められています。ただし、これは毎月一定額を出し続けなければならないという意味ではなく、いくら負担するかは双方の事情によって決まります。
一度援助を始めると、やめられなくなりますか
協議や審判で決めた後に事情が変わったときは、家庭裁判所が変更や取消しをすることができるとされています。退職して収入が減った、医療費がかかるようになったといった変化は、見直しを求める理由になり得ます。過去の援助が、将来も同じ額を続ける約束として固定されるわけではありません。
これまで一人で負担してきた分を、きょうだいに分けてもらえますか
扶養してきた人が他の扶養義務者に対して過去の分担を求める場合、各自の負担額は、協議が調わない限り家庭裁判所が審判で定めるべきものとされています。通常の裁判で金額を決めることはできないという判断が示されており、まずは協議、調わなければ家庭裁判所という順序になります。
まとめ
- 成人した子に対しても、民法877条1項による扶養義務の適用は続きます。
- ただし、義務があることと、毎月いくら負担するかが決まっていることは別の問題です。
- 成人して自立が期待できる子への扶養は、余力の範囲で足りる生活扶助義務と整理されるのが一般的です。
- 在学中や心身の状態から自立が期待できない場合は、未成熟子として扱われる余地があります。
- 扶養の方法は金銭の給付が原則で、同居や身の回りの世話まで求められるものではありません。
- 家庭内で決まらないときは、親の側からも扶養請求調停を申し立てることができます。
扶養義務の輪郭がはっきりすると、断ることと支えることの両方を落ち着いて選べるようになります。どこまでが義務でどこからが選択なのかを整理しておくことが、長く続く関係を考える土台になります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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