【親子問題】ひきこもりの長期化で親に何が起きるのか|数字で見る8050

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

本記事は2026年9月時点で公表されている統計および法令に基づいて作成しています。引用した調査は年度ごとに更新されるため、実際にご検討の際は最新の公表資料もあわせてご確認ください。


「子どもが家から出なくなって、気づけば十数年が過ぎました」。「自分が倒れたら、この子はどうなるのでしょうか」。親子の問題についてご相談をお受けしていると、こうしたお話をうかがうことが少なくありません。多くの場合、何か一つの事件が起きたから相談に来られるのではなく、長い時間をかけて少しずつ動けなくなった結果として、相談の場にたどり着かれます。

 一方で、「8050問題」という言葉自体は、すでに広く知られています。80代の親と50代の子が同居し、親の年金と貯蓄で生活が成り立っている、という説明は、それ自体として誤ったものではありません。ただ、この説明だけでは、長期化した家庭で具体的に何が起きるのか、どの段階で何が難しくなるのかまでは見えてきません。

 本記事では、国が公表している調査をもとに、ひきこもりの長期化が親の側にどのような形で現れるのかを、数字の面から整理します。暴力を受けている場合の初動、金銭の要求への対応、同居を解消する手続といった個別の場面は別の記事に譲り、ここでは全体像の確認に絞ってご説明します。

「8050問題」という言葉が指しているもの

 まず、言葉の輪郭を確認しておきます。数字を読む前に、何を数えているのかをそろえておく必要があるためです。

80代の親と50代の子という言い方

 8050問題は、法令上の用語ではなく、支援の現場から生まれた呼び方です。80代前後の親と、就労や社会参加が難しい状態にある50代前後の子が同居し、家計と生活の全体が親の側に寄りかかっている状態を指して使われます。公的な統一定義があるわけではないため、報道や自治体の資料によって、含まれる範囲には幅があります。

7040・9060と呼ばれる場合

 年齢層がずれれば、70代の親と40代の子を指して7040、90代の親と60代の子を指して9060と呼ばれることもあります。呼び名が変わっても構造は同じで、親子がともに年齢を重ねる一方、外部の支援につながらないまま時間が経過している、という点が共通しています。問題の中心は年齢そのものではなく、生活を支える力が片方に偏ったまま固定してしまうことにあります。

ひきこもり状態にある人は全国で推計約146万人

 全体の規模を示す代表的な調査が、内閣府が令和4年度に実施した「こども・若者の意識と生活に関する調査」です。

15歳から39歳と、40歳から64歳がほぼ同じ割合

 この調査では、ひきこもり状態にある人の割合が15歳から39歳で2.05パーセント、40歳から64歳で2.02パーセントとされ、全国に当てはめると推計約146万人と示されました。生産年齢人口のおよそ50人に1人にあたります。

 ここで注目したいのは、若年層と中高年層の割合がほぼ変わらない点です。ひきこもりは若い世代の問題だという受け取られ方が長く続きましたが、調査の数字は、中高年層にも同じ厚みがあることを示しています。平成30年度の調査では推計115万人とされていましたので、調査方法の違いを差し引いても、把握される人数は増える方向にあります。

「広義のひきこもり」という定義の幅

 この146万人という数字は、「広義のひきこもり」として集計されたものです。趣味の用事のときだけ外出する、近所のコンビニエンスストアには出かける、自室からは出るが家からは出ない、自室からほとんど出ない、のいずれかに当てはまり、その状態が6か月以上続き、かつ病気等を理由としない人が含まれます。

 つまり、まったく外出しない人だけを数えた数字ではありません。逆に、病気の治療中である場合などは除かれます。同じ「ひきこもり」という言葉でも、統計が数えている範囲と、ご家庭で実感されている状態とは、必ずしも一致しません。数字を読むときは、この点を踏まえておく必要があります。

長期化の程度

 期間についても調査が行われています。厚生労働白書がこの調査を整理したところによれば、ひきこもり状態になってからの期間は、15歳から39歳でも40歳から64歳でも約半数が3年以上、2割以上が7年以上でした。年齢層を問わず、長期にわたっている例が相当数を占めていることになります。

長期化した家庭で起きていること|高齢者虐待の統計から読む

 ひきこもりそのものの調査は、本人の状態を尋ねるものであり、親の側に何が起きているかまでは直接には示しません。そこで参考になるのが、厚生労働省が毎年度公表している高齢者虐待の調査です。これは高齢者虐待防止法に基づき、全国の市町村と都道府県の対応状況をまとめたもので、令和6年度の結果が公表されています。

相談・通報件数と虐待判断件数

 令和6年度に市町村が受理した、養護者(高齢者の世話をしている家族、親族、同居人等)による高齢者虐待の相談・通報件数は41,814件で、前年度より1,428件、3.5パーセント増えました。このうち虐待と判断された件数は17,133件です。

 相談・通報の件数は年々増えている一方、虐待と判断される件数はここ数年おおむね横ばいで推移しています。これは、周囲が気づいて連絡する例が増えている一方、そのすべてが法律上の虐待にあたると判断されるわけではないことを意味します。

虐待をした側の続柄は「息子」が最も多い

 同じ調査で、被虐待高齢者から見た虐待者の続柄は、次のとおりでした。

虐待者の続柄割合
息子38.9パーセント
23.0パーセント
19.3パーセント
7.1パーセント
孫・兄弟姉妹・子の配偶者・その他11.7パーセント


 割合は、特定された虐待者18,312人に対するものです。配偶者間の事案を上回って、息子が最も多い区分になっている点が、この統計の特徴です。

虐待をした側の年齢と、同居の割合

 虐待者の年齢は50歳台が27.3パーセントで最も多く、次いで60歳台が16.9パーセント、70歳台が15.7パーセント、80歳台が14.8パーセント、40歳台が12.3パーセントでした。また、被虐待高齢者の85.7パーセントが虐待者と同居していました。

 この調査は8050問題を調べたものではありませんし、虐待に至る経緯は介護疲れなど多様です。それでも、50歳台の子と高齢の親が同じ家で暮らすなかで生じた事案が相当数含まれていることは、数字から読み取れます。親子の距離が近いまま年月が経過した家庭で、何が起こりうるのかを考える材料にはなります。

統計が示す「発見のされ方」と「その後」

 この調査には、家庭の外から見えにくい部分を示す数字も含まれています。

相談・通報者は警察が最も多い

 令和6年度の相談・通報者44,107人のうち、最も多かったのは警察で15,709人、35.6パーセントでした。次いで介護支援専門員が24.4パーセント、家族・親族は7.1パーセントにとどまります。

 つまり、行政が家庭の状況を把握するきっかけの多くは、警察からの連絡です。家族自身が声を上げて発覚する例は、全体から見れば多くありません。外から見えない家庭ほど、何かが起きてからでないと支援につながりにくいという構造が、この数字に表れています。なお、相談・通報を受理してから事実確認に着手するまでの期間は中央値で0日、つまり即日でした。連絡が入ってからの行政の動きが遅いという性質の問題ではありません。

分離が行われた事例は19.0パーセント

 虐待と判断された事例のうち、虐待をした人から高齢者を分離する対応が取られたのは4,644人、19.0パーセントでした。分離の方法は、契約による介護保険サービスの利用が35.4パーセント、医療機関への一時入院が17.3パーセント、やむを得ない事由等による措置が16.2パーセントなどとなっています。

 一方、分離しなかった事例では、養護者に対する助言・指導が59.6パーセントで最も多く、次いでケアプランの見直しが27.6パーセントでした。行政が関与しても、多くの場合は同じ家で暮らし続けながらの支援になる、ということです。

 行政の権限には法律上の枠があり、本人の意思や生活基盤の確保といった条件が整わなければ、住まいを分けるところまでは進みません。高齢の親が被害を受けている場面で行政がどのように動くのかは、【親子問題】高齢の親が被害者の場合|行政が動く仕組みで整理しています。

お金の面で起きること

 8050問題が語られるとき、生活費の負担が中心に置かれがちです。しかし親の側から見ると、負担は生活費だけにとどまりません。

経済的虐待は16.4パーセント

 令和6年度の調査では、養護者による虐待の種別として、身体的虐待が64.1パーセント、心理的虐待が37.2パーセント、介護等放棄が19.7パーセント、経済的虐待が16.4パーセントでした。経済的虐待には、年金や預貯金を無断で使う、必要な金銭を渡さないといった行為が含まれます。

 年金が主な収入である家庭では、親の収入がそのまま家全体の収入です。子に渡す金額が増えれば、親自身の医療費や介護費用に回せる分が減ります。金銭の問題は、時間が経つほど親の生活の選択肢そのものを狭めていきます。

財産の持ち出しで警察が動きにくい理由

 同居する子が親の財布や通帳から金銭を持ち出した場合、親が警察に相談しても、事件として扱われないことがあります。これは警察の姿勢の問題ではなく、刑法に定められた仕組みによるものです。配偶者、直系血族または同居の親族との間で窃盗などの財産犯が行われた場合には、刑が免除されると定められています(刑法244条1項)。

 一方で、暴行や傷害、脅迫にはこの特例は及びません。同じ家庭内の出来事でも、扱いが分かれます。この区別については、【親子問題】「家庭の問題」と言われて警察が動かないのはなぜか【親子問題】親子間の暴行・傷害は立件されるのか|特例が及ばない範囲で詳しく扱っています。

 なお、成人した子の生活費をどこまで負担する義務があるのかは、別の論点です。扶養義務の範囲については、【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかをご覧ください。

公的な支援はどこまで広がっているか

 ひきこもりの支援体制は、この数年で明らかに拡充されています。同時に、身近な場所に専門の窓口があるとは限らない状況も続いています。

都道府県から市区町村へ

 厚生労働省によれば、ひきこもりに特化した相談窓口である「ひきこもり地域支援センター」は、平成30年4月までに全ての都道府県および指定都市の67自治体に設置されました。令和4年度からは設置主体が市町村にも広げられ、令和7年度時点で市町村のセンターは47自治体、相談支援と居場所づくりなどを一体的に行う「ひきこもり支援ステーション事業」は129自治体、8つのメニューから選んで実施する「ひきこもりサポート事業」は164自治体で取り組まれています。

 全国の市区町村はおよそ1,741あります。厚生労働省の資料では、ひきこもり支援に特化した事業を実施していた市区町村は令和5年度で245とされていました。お住まいの地域に専用の窓口があるかどうかで、最初に相談できる先は大きく変わります。

令和7年1月のひきこもり支援ハンドブック

 国は令和7年1月、「ひきこもり支援ハンドブック~寄り添うための羅針盤~」を作成しました。平成22年のガイドライン以来、およそ15年ぶりの指針にあたります。支援の対象を明示し、支援にあたって共通認識となる基本的な考え方を示す内容で、自治体の担当者だけでなく、ご家族が現在の支援の考え方を知るうえでも参考になります。

数字を自分の家庭に当てはめるときに気をつけたいこと

 ここまで統計を並べてきましたが、数字の扱いには注意が必要です。

推計は「そのまま当てはまる予測」ではない

 146万人という推計は、抽出調査の結果を全国の人口に当てはめたものです。実際にはひきこもり状態にない人が含まれている可能性や、逆にひきこもり状態にある人が除かれている可能性があることを、調査自身が注記しています。高齢者虐待の統計も、市町村が把握して対応した事例の集計であり、家庭の中のすべてが反映されているわけではありません。

 また、同居期間が長いご家庭が、そのまま統計上の深刻な事案に向かうわけでもありません。数字は傾向を示すものであって、個々のご家庭の見通しを決めるものではありません。

数字が役に立つのは、動き出す順番を決めるとき

 それでも統計が示していることがあります。第一に、長期化している家庭は珍しくないこと。第二に、外から見えない家庭ほど、何かが起きてからでないと支援につながりにくいこと。第三に、行政が関与しても、住まいを分けるところまで進む例は多くないことです。

 この3点から言えるのは、何かが起きる前に、どこに、どの順番で相談するかを決めておくことの意味が大きいということです。窓口ごとの守備範囲は【親子問題】親子の問題はどこに相談すればよいのか|警察・行政・弁護士の役割分担で整理していますので、あわせてご確認ください。すでに暴力が生じている場合は、【親子問題】子から暴力を受けている|まず確保すべき安全と記録のとおり、記録より先に安全の確保が優先されます。

よくあるご質問


146万人という推計には、50代の子どもも含まれているのですか

 内閣府の令和4年度調査は15歳から64歳までを対象としており、40歳から64歳の層が含まれています。この層のひきこもり状態にある人の割合は2.02パーセントで、15歳から39歳の2.05パーセントとほぼ同じでした。65歳以上は集計の対象外です。

親が高齢になってからでは、もう手を打てないのでしょうか

 年齢そのものが手続の可否を決めるわけではありません。ただし、親が判断能力や体力を失った後では、本人の意思を前提とする手続が難しくなります。高齢者虐待の統計で相談・通報者の35.6パーセントが警察であったことは、家族から発信されるより先に外部の出来事が契機になりやすいことを示しています。動ける時期に選択肢を確認しておくほうが、取りうる手段は広く残ります。

親が動けない場合、きょうだいが相談することはできますか

 可能です。ただし、誰が依頼者になるのかによって、進められる手続の範囲は変わります。詳しくは【親子問題】きょうだいが相談者になる場合|親が動けないときをご覧ください。

まとめ


  1. 内閣府の令和4年度調査では、ひきこもり状態にある人は15歳から39歳で2.05パーセント、40歳から64歳で2.02パーセントとされ、全国で推計約146万人とされている。
  2. この146万人は「広義のひきこもり」の集計であり、外出の頻度が低い状態を幅広く含む一方、病気等を理由とする場合は除かれている。
  3. 期間については、いずれの年齢層でも約半数が3年以上、2割以上が7年以上とされている。
  4. 厚生労働省の令和6年度調査では、養護者による高齢者虐待の相談・通報件数は41,814件、虐待判断件数は17,133件だった。
  5. 同調査で、虐待者の続柄は息子が38.9パーセントで最も多く、虐待者の年齢は50歳台が27.3パーセントで最多、85.7パーセントが同居していた。
  6. 相談・通報者は警察が35.6パーセントで最も多く、家族・親族は7.1パーセントにとどまる。
  7. 虐待と判断された事例のうち、分離が行われたのは19.0パーセントで、多くは同居を続けたままの支援となっている。
  8. 同居する子による財産の持ち出しは刑が免除される場合があるが(刑法244条1項)、暴行・傷害・脅迫にこの特例は及ばない。


親子の問題でお悩みの方へ

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、親子の問題に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。弁護士若井亮は5年以上にわたり、北海道から沖縄まで全国のご家庭からのご相談に対応してきました。ご依頼を受けた場合には、親御さまの代理人として介入し、民間の自立支援カウンセラーとチームを組んで、子の側の生活面の支援と並行して進めます。

 統計を見てもお分かりのとおり、長期化した状態がひとりでに解消することは多くありません。とはいえ、何かが起きる前に選択肢を確認しておくことには意味があります。弁護士に依頼すると何が変わるのかは【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択で、ご相談の前に整理しておくとよい情報は【親子問題】相談の前に整理しておきたい5つの情報でご説明していますので、あわせてご覧ください。

ご相談の際は、同居の状況、金銭の流れ、暴力や物の破損があった時期、これまでの相談先を整理しておいていただくと、初回のご相談から具体的な検討に入りやすくなります。遠方にお住まいの場合のご相談方法については、【親子問題】遠方でも依頼できるのか|全国対応の実際をご覧ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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