【親子問題】被害者側への対応を親が担う場面の注意点
「本人がハローワークに行くとは思えない」「就労支援と言われても、何から始めればよいのか分からない」。ひきこもりの状態にある子について、親御さまからこうしたご相談をいただくことがあります。反対に「支援機関に通い始めたのに、数回で行かなくなった」という声も少なくありません。
ひきこもりの就労支援については、支援事業者や自治体が多くの情報を出しています。いずれも誤りではありませんが、事業者の案内は自社のサービスが中心になりやすく、公的な窓口の案内は制度ごとに分かれています。そのため、親の立場から「いまの子の状態で、どの制度が使えるのか」「親は何をすればよいのか」を一度に見渡せる情報は多くありません。
この記事では、地域若者サポートステーション(サポステ)と、生活困窮者自立支援法に基づく就労準備支援事業を中心に、制度の中身と使い方の実際を整理します。暴力や金銭の要求がある場合の対応、親の扶養義務の範囲といった法的な論点は、それぞれの記事に委ねます。
本記事は2026年9月時点の法令・制度の内容に基づいて作成しています。支援の内容や対象は自治体や運営団体によって異なり、年度ごとに見直されることもありますので、実際の利用にあたっては各窓口にご確認ください。
ひきこもりの就労支援は「段階」で考える
いきなり就職を目指さない設計
長くひきこもりの状態にあった方が、すぐに求人に応募して働き始めることは、一般に負担が大きいとされています。生活リズムが整っていない、人と話すことに強い疲れを感じる、履歴書の空白をどう説明すればよいか分からない、といった課題が、就職活動の手前にあるためです。
公的な就労支援は、この「手前」を支える仕組みとして組み立てられています。生活困窮者自立支援制度では、自立を「日常生活の自立」「社会生活の自立」「経済的な自立」の三つに分けて考え方を整理しており、就職はその先にあるものと位置づけられています。就労支援を選ぶときは、「どこで働くか」の前に「いまどの段階にいるか」を見極めることが出発点になります。
国の指針も「就労だけ」をゴールにしていない
厚生労働省が令和7年1月に公表した「ひきこもり支援ハンドブック〜寄り添うための羅針盤〜」は、ひきこもり支援のゴールを就労や社会参加だけに置かず、本人が自分らしく生きていけることを重視する考え方を示しています。
親としては早く働いてほしいと感じるのは自然なことです。ただ、就労を急ぐあまり本人が支援機関から離れてしまうと、かえって遠回りになることもあります。制度の側が段階を踏む前提で作られていることを知っておくと、親の側の焦りも整理しやすくなります。
地域若者サポートステーション(サポステ)の実際
対象と費用
地域若者サポートステーション(サポステ)は、厚生労働省が委託し、地域のNPO法人などが運営する就労支援の拠点です。対象は、仕事に就いておらず、学校にも通っていない15歳から49歳までの方とその家族で、相談は原則として無料です。厚生労働省の特設サイトによれば、令和6年度時点で全国179か所に設置されています。
もともとは39歳までが対象でしたが、令和2年度から「サポステ・プラス」として40歳から49歳までの方も利用できるようになりました。
支援の内容
サポステでは、最初に予約をして個別の相談・面談を受け、本人の状況に合わせて支援の内容を決めていきます。主な支援には次のようなものがあります。
- キャリアコンサルタントなどによる個別の相談。
- コミュニケーション講座やビジネスマナー講座。
- 協力企業での就業体験(ジョブトレ)。
- 履歴書の書き方や面接の練習などの就職活動の支援。
- 就職した後の悩みに対する定着支援。
一部のサポステでは、合宿形式を含む集中訓練プログラムや、自宅などへの訪問による相談も行われています。配置されている専門職や実施しているプログラムはサポステごとに異なるため、事前に確認しておくと安心です。
サポステを使うときに知っておきたいこと
サポステは職業紹介の機関ではなく、就職の前段階を支える機関です。求人の紹介はハローワークと連携して行われるのが通常で、サポステだけで就職先が決まるわけではありません。
また、対象は49歳までのため、50歳を超えた子の場合はサポステを利用できません。8050問題と呼ばれるように、中高年の子のひきこもりが増えている現状では、年齢によって使える窓口が変わることを最初に確認しておくことが大切です。
就労準備支援事業の実際
生活困窮者自立支援法に基づく事業
就労準備支援事業は、生活困窮者自立支援法に定められた事業で、雇用による就業が著しく困難な生活困窮者に対し、一定の期間、就労に必要な知識や能力を高めるための訓練を行うものです(生活困窮者自立支援法3条4項)。実施するのは、福祉事務所を設置している市区などの自治体です。
窓口は、各自治体の自立相談支援機関です。自立相談支援機関は、生活や仕事の困りごとを幅広く受け付ける窓口で、ここで本人の状況を聞き取ったうえで、就労準備支援事業などの利用につなげる流れが一般的です。
三つの段階とプログラムの期間
就労準備支援事業では、生活習慣を整えるための支援、人との関わりに慣れるための支援、就労体験や就職活動の支援という三つの段階を想定し、本人の状況に応じてプログラムを組みます。通所型が中心ですが、自治体によっては合宿型の取組みもあります。
プログラムの期間は1年以内を上限として設定されるのが一般的です。「毎日通うこと」が前提ではなく、週に1回、短い時間から始めることもできるため、長く外出していなかった方にとっても入口にしやすい制度といえます。
利用の要件と自治体による違い
就労準備支援事業の対象は、本人と同じ世帯の方の資産や収入の状況などを踏まえて厚生労働省令で定める方に限られています(同法3条4項)。そのため、世帯の収入や預貯金の状況によっては対象にならない場合があります。
また、就労準備支援事業の実施は、自治体の努力義務とされています(同法7条1項)。実施の有無や内容は自治体によって異なるため、お住まいの地域の自立相談支援機関に直接確認することが確実です。
就労準備支援事業だけでは一般就労への移行が難しい方のために、支援を受けながら働く場を提供する「就労訓練事業(いわゆる中間的就労)」という仕組みもあります(同法16条)。
使える制度を比較する
主な就労支援の違い
ひきこもりの状態にある方が利用を検討する主な就労支援を、親の立場から見て比較すると次のようになります。
| 制度 | 主な対象 | 窓口 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 地域若者サポートステーション | 15歳から49歳の無業の方とその家族 | 各地のサポステ | 相談は原則無料。職業紹介は行わない |
| 就労準備支援事業 | 就労が著しく困難な生活困窮者(収入・資産の要件あり) | 自立相談支援機関 | 生活習慣の段階から支援。実施の有無は自治体による |
| 就労移行支援 | 障害のある方(原則18歳から65歳未満) | 市区町村の障害福祉窓口 | 障害者総合支援法に基づく。利用期間は原則2年 |
| ハローワーク | 働く意思のある方 | 各地のハローワーク | 職業紹介を行う。就職活動の段階に入ってから利用しやすい |
障害福祉の支援が合う場合もある
ひきこもりの背景に、発達障害や精神疾患などが関係している場合もあります。その場合は、障害者総合支援法に基づく就労移行支援などの障害福祉サービスが、本人の特性に合っていることがあります。障害者手帳がなくても、医師の診断などをもとに利用が認められる場合がありますので、主治医や市区町村の窓口に相談してみるとよいでしょう。
どの制度が合うか判断がつかない場合は、都道府県や指定都市に設置されている「ひきこもり地域支援センター」に相談する方法もあります。
親が先に相談するという使い方
本人が動けなくても、家族だけで相談できる
サポステは家族も対象にしており、自立相談支援機関も家族からの相談を受け付けています。本人が支援機関に行くことを拒んでいる段階でも、親が先に相談して情報を集めておくことには意味があります。
相談の際には、子の年齢、ひきこもりの期間、生活リズム、これまでの就労歴、通院の有無、家族との会話の状況などを整理しておくと、支援員も状況を把握しやすくなります。
親が「つなぎ役」を担いすぎない
一方で、親が本人に代わってすべての手続きを進めたり、通所を強く求めたりすると、支援が「親の意向」として受け止められ、本人の抵抗感が強まることがあります。
支援機関との関係は、できるだけ本人と支援員の間で築いてもらうほうが続きやすいとされています。親は情報を渡すところまでにとどめ、その先は第三者に任せるという線引きも、選択肢の一つです。
就労支援が進まないときに考えること
暴力や金銭の要求がある場合は、安全の確保が先になる
子から暴力を受けている、繰り返し金銭を要求されているといった状況では、就労支援の話を進める前に、親自身の安全を確保することが優先されます。就労支援の制度は、本人の意思で通うことを前提にしているため、家庭内の緊張が強い状態では機能しにくいのが実情です。
【親子問題】子から暴力を受けている|まず確保すべき安全と記録
親子の距離を取ることで動き出す場合もある
同居を続けるなかで親子が互いに依存しあう関係になり、本人が働く必要を感じにくくなっている場合もあります。そのような場合、住まいを分け、本人が自分の生活を自分で回す環境を作ることが、就労に向けたきっかけになることがあります。
当事務所では、弁護士が親御さまの代理人として子と向き合い、提携する民間の自立支援カウンセラーが、子の住まい探しや仕事探し、生活保護の受給申請のサポート、日々の金銭管理などを担う形で、親と子のそれぞれの自立に取り組んでいます。人が関わることですので結果をお約束することはできませんが、物理的な距離を取るだけでも、親子の双方に変化が生まれることがあります。
【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応
よくあるご質問
本人が行きたがらない場合、親だけで相談に行ってもよいのですか。
はい。サポステは15歳から49歳までの本人とその家族を対象としており、自立相談支援機関も家族からの相談を受け付けています。まずは親が制度の内容を知り、本人に伝えられる情報を用意しておくことから始めても差し支えありません。
50歳を超えた子でも使える就労支援はありますか。
サポステは49歳までが対象のため利用できませんが、生活困窮者自立支援制度の自立相談支援機関には年齢にかかわらず相談できます。ハローワークや、障害がある場合の障害福祉サービスも選択肢になります。相談先の全体像は、次の記事で整理しています。
【親子問題】親子の問題はどこに相談すればよいのか|警察・行政・弁護士の役割分担
子が働き始めるまで、親はずっと養わなければならないのですか。
成人した子に対する親の扶養義務は、未成年の子に対する義務とは性質が異なり、親が自分の生活を犠牲にしてまで養う義務まではないと考えられています(民法877条1項)。詳しくは次の記事をご覧ください。
【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのか
まとめ
- ひきこもりの就労支援は、生活習慣や人との関わりといった「就職の手前」の段階から組み立てられている。
- 地域若者サポートステーションは15歳から49歳までの本人と家族が対象で、相談は原則無料。職業紹介は行わず、ハローワークと連携する。
- 就労準備支援事業は、雇用による就業が著しく困難な生活困窮者に訓練を行う事業である(生活困窮者自立支援法3条4項)。
- 就労準備支援事業の実施は自治体の努力義務であり、内容や有無は地域によって異なる(同法7条1項)。
- 支援を受けながら働く就労訓練事業(中間的就労)という仕組みもある(同法16条)。
- 障害が背景にある場合は、障害者総合支援法に基づく就労移行支援が合うこともある。
- 暴力や金銭の要求がある場合は、就労支援の前に親の安全の確保を優先する。成人した子への扶養義務には限度がある(民法877条1項)。
ひきこもり・家庭内暴力でお悩みの親御さまへ
弁護士法人若井綜合法律事務所では、ひきこもりや家庭内暴力など親子の問題に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。弁護士が親御さまの代理人となり、民間の自立支援カウンセラーとチームを組んで、親と子のそれぞれの自立に向けて取り組みます。
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