【親子問題】子が親の外出や友人づきあいを制限してくる、止められる?
成人して家を出た子が生活保護を受けるようになり、「生活が苦しそうだから少しでも助けたい」と考える親御さんは少なくありません。一方で、「親が仕送りをすると保護費が減らされるのではないか」「黙って渡したら不正受給になるのではないか」と迷い、手を止めている方もいらっしゃいます。
結論から言えば、生活保護を受けている子に親が仕送りをすること自体は禁じられていません。ただし、仕送りは原則として子の収入として扱われ、福祉事務所への申告が前提になります。本記事では、仕送りが保護費にどう影響するのか、申告しなかった場合に何が起きるのか、そもそも親に仕送りの義務はあるのかを順に整理します。
本記事は、2026年10月時点の生活保護法および厚生労働省の通知をもとにしています。収入認定の細かな運用は自治体(福祉事務所)によって異なる部分があるため、個別の扱いは担当のケースワーカーにご確認ください。
生活保護は「足りない分」を補う制度
生活保護は、国が定める基準で計算した「最低生活費」とその世帯の収入とを比べ、収入が足りない分を保護費として支給する仕組みです(生活保護法8条1項)。給与や年金だけでなく、ほかの制度からの給付や家族からの援助も、生活を支えるお金として収入に含めて考えます。
また、生活保護法4条は、保護はその人が利用できる資産や能力などを活用することを前提とし、民法上の扶養義務者による扶養は保護に優先して行われると定めています。親からの仕送りは、この「扶養」にあたるため、保護費の計算に反映されるのが原則です。
親の仕送りは原則として「収入」として扱われる
厚生労働省の通知(「生活保護法による保護の実施要領について」)では、仕送りや贈与によって受け取ったお金は、社会通念上収入として扱うのが適当でないものを除き、収入として認定するとされています。
たとえば親が毎月2万円を仕送りした場合、原則としてその2万円は子の収入とされ、同じ額だけ保護費が少なくなるという関係になります。子の手元に入るお金の合計は大きく変わらず、仕送りした分だけ子の生活が楽になるとは限らない点は、あらかじめ知っておきたいところです。
援助の形による扱いの違い
援助の内容によって、収入としての扱いが分かれることがあります。主な目安は次のとおりです。
| 援助の内容 | 扱いの目安 |
|---|---|
| 毎月決まった額の現金の仕送り | 原則として収入と認定され、その分保護費が減る |
| 家賃や光熱費の不足分として振り込むお金 | 使い道にかかわらず、受け取ったお金として収入認定の対象になりうる |
| 親が家賃を家主へ直接支払う | 子の住居費を親が負担しているものとして、住宅扶助に影響する可能性がある |
| 食料品や日用品の差し入れ | 頻度や金額によって判断が分かれる |
| 就学や資格取得など自立に向けた費用 | 自立更生のための費用として、収入認定から外れる余地がある |
| 出産・就職・結婚・葬祭などの際の贈与 | 社会通念上の範囲であれば、収入として認定しない扱いがある |
この表はあくまで目安です。現金ではなく品物であっても、高額であったり継続的であったりすれば、実質的な収入とみなされることがあります。「現金でなければ申告しなくてよい」とは考えず、迷うものは事前にケースワーカーへ確認しておくことをおすすめします。
申告せずに仕送りを続けた場合に起きること
生活保護を受けている人には、収入や支出などに変動があったときに福祉事務所へ届け出る義務があります(生活保護法61条)。届出をするのは保護を受けている子本人ですが、仕送りをする親の側も、届出がされているかを把握しておくことが望ましいでしょう。
申告されないまま仕送りが続き、後から判明した場合には、受け取りすぎた保護費の返還を求められることになります。申告漏れや制度の誤解によるものであれば、生活保護法63条にもとづく返還として扱われることが多いものの、事情によっては不正な手段で保護を受けたとして同法78条による徴収の対象となり、返還額に上乗せが加わることもあります。悪質と判断された場合には、刑事手続に進む可能性も否定できません。
また、福祉事務所は必要に応じて金融機関などに収入や資産の状況を照会することができます(同法29条)。口座への振込は記録として残るため、「少額だから分からないだろう」という前提で仕送りを続けることは、子の生活をかえって不安定にするおそれがあります。
親に仕送りをする義務はあるのか
民法877条1項は、直系血族と兄弟姉妹は互いに扶養をする義務があると定めており、親と成人した子の間にも扶養義務があります。ただし、成人した子に対する親の扶養義務は一般に生活扶助義務と呼ばれ、親が自分の生活を維持したうえで余力がある範囲で援助すれば足りると考えられています。親が自分の生活を切り詰めてまで仕送りをしなければならない、という性質のものではありません。詳しくは【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかで解説しています。
子が生活保護を申請すると、福祉事務所から親に対し、援助ができるかどうかを尋ねる「扶養照会」が届くことがあります。援助が難しい場合はその旨を回答することができ、援助できないと答えたことだけを理由に、子の保護が認められなくなるわけではありません。また、厚生労働省は、長期間の音信不通や著しい関係の悪化など、扶養が期待できない事情がある場合には照会そのものを控える運用を示しています。扶養照会の流れについては【親子問題】生活保護の申請に同行するということ|扶養照会の実際もあわせてご覧ください。
仕送りをする前に考えておきたいこと
仕送りの額によっては保護から外れることもある
仕送りと子自身の収入の合計が最低生活費を上回るようになると、保護が停止・廃止される可能性があります。保護から外れると、自己負担のない医療扶助も使えなくなり、国民健康保険への加入や保険料・窓口負担が生じます。通院を続けている子の場合、親の仕送りで保護を外れた結果、かえって医療費の負担が重くなるという場面もありえます。
仕送りの額を決める前に、保護を受けながら一部を援助するのか、保護に頼らず親が生活を支えるのかを、親自身の老後も含めた長い見通しで考えることが大切です。
現金を渡すより、目的を決めた支援を検討する
保護費の範囲で生活を組み立てることは、子にとって家計の管理を身につける機会でもあります。現金の仕送りを続けると、保護費が減るうえに、子が親からの入金をあてにした暮らしから抜け出しにくくなることがあります。
就職活動にかかる費用や資格取得の費用など、自立に向けた具体的な目的がある場合は、その支出が保護費の計算上どう扱われるかをケースワーカーに確認したうえで、目的を絞った援助を検討する方法もあります。
仕送りが「要求」に変わっている場合
生活保護を受けていても、子から「保護費だけでは足りない」と繰り返し金銭を求められ、断ると暴言や暴力が出るというご相談は少なくありません。この場合、課題は仕送りの額そのものではなく、親子の間で金銭のやり取りの線引きができていないことにあります。
親には、余力を超えてまで子の要求に応じる法的な義務はありません。要求が続くときは、親が直接やり取りを続けるのではなく、第三者を窓口にすることも選択肢になります。断り方の考え方は【親子問題】子から金銭を要求され続けている|断ることの法的な位置づけで整理しています。
仕送りを始める・続けるときの手順
- 子と話し、仕送りの目的・金額・期間の見通しを共有します。
- 子からケースワーカーに、仕送りの予定と金額を事前に伝えてもらいます。
- 仕送りは口座振込など記録が残る方法で行い、親の側でも日付と金額を控えておきます。
- 金額や方法を変えるときは、そのつど子から福祉事務所へ届け出てもらいます。
- 子の生活や収入の状況が変わったときは、仕送りを続けるかどうかを見直します。
子本人が届出をためらう場合でも、届出をしないまま仕送りを続けることは避けたいところです。親から福祉事務所に、仕送りを予定していることを相談しておくこともできます。
よくあるご質問
誕生日やお正月に少額のお金を渡す場合も、申告が必要ですか
臨時的な収入については、月額8,000円を超える部分を収入として認定する取扱いが通知で定められており、少額であれば結果として保護費に影響しないこともあります。ただし、親からの贈与がこの扱いの対象になるか、どこまでが社会通念上の贈与と言えるかは福祉事務所の判断によります。金額にかかわらず、一度ケースワーカーに伝えておくのが安全です。
親が子の家賃を家主に直接支払えば、仕送りにはなりませんか
支払先が子ではなく家主であっても、子の住居費を親が負担していることに変わりはなく、住宅扶助の支給額に影響する可能性があります。支払い方を工夫すれば申告が不要になる、というものではありません。独立した子の家賃の負担については【親子問題】独立した子の家賃を払い続けている|いつまで払うのかも参考になります。
扶養照会に「援助できない」と答えた後で、仕送りを始めてもよいですか
事情が変わって援助できるようになった場合に、後から仕送りを始めることは差し支えありません。その場合も、子から福祉事務所へ届け出てもらう必要があります。
同居している子が生活保護を受けることはできますか
生活保護は原則として世帯単位で判断されるため、同居の親に収入があると、子だけが保護を受けることは難しいのが一般的です。例外的に世帯を分けて扱う「世帯分離」が認められる場面もありますが、要件は限られています。詳しくは【親子問題】ひきこもりの子に生活保護は使えるのか|世帯分離の考え方をご覧ください。
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まとめ
生活保護を受けている子に親が仕送りをすることはできますが、仕送りは原則として収入になり、申告が欠かせません。そのうえで、仕送りが子の自立を後押ししているのか、それとも親子の距離を縮めすぎていないかという視点で、援助の形を見直すことも大切です。当事務所では、弁護士が親御さんの代理人として子との金銭のやり取りの窓口を担い、自立支援カウンセラーが生活保護の手続や日々の金銭管理を支える形での対応も行っています。子からの金銭の要求が続いている、扶養照会への答え方に迷っているなど、親御さんだけでは判断が難しい場合はご相談ください。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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