【親子問題】家族会・当事者会の役割|弁護士に頼む前にできること

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

本記事は2026年9月時点で公表されている厚生労働省「ひきこもり支援ハンドブック~寄り添うための羅針盤~」(令和7年1月)、各団体・自治体の公表情報に基づいて整理しています。家族会の開催日程や運営方法は会ごとに異なり、変更されることがありますので、参加の際は各会や自治体の最新の案内をご確認ください。


「同じような家族がほかにもいるのか、それさえ分かりませんでした」。成人したお子さんのひきこもりについて相談に来られた親御さんから、こう伺うことがあります。反対に、「家族会があることは知っていたが、行けば子どものことを人前で話さなければならないと思い、足が向かなかった」という声も聞きます。

 インターネット上には「まずは家族会に参加してみましょう」という案内が数多くあります。それ自体は誤りではありません。ただ、家族会で何が得られ、どのような場面では別の窓口を並行して使う必要があるのかという線引きまで書かれたものは、多くありません。

 本記事では、家族会・当事者会の役割を厚生労働省の指針に沿って整理し、弁護士に相談する前の段階でご家族ができることと、家族会だけでは対応しきれない場面とを分けて説明します。警察・行政・弁護士を含めた相談先の全体像は【親子問題】親子の問題はどこに相談すればよいのか|警察・行政・弁護士の役割分担で扱っています。

家族会と当事者会は、何をする場所なのか

家族会は「家族のための場」

 家族会は、ひきこもりの状態にある人を身近に抱えるご家族が集まり、悩みを語り合ったり、本人との関わり方を学び合ったりする場です。月1回程度の例会の形をとる会が多く、自治体の会議室や公民館などで開かれています。家族が自主的に運営する会のほか、自治体やその委託先が開く家族教室・懇談会、社会福祉協議会が支援者とともに運営する会など、形はさまざまです。

 全国組織としては、特定非営利活動法人KHJ全国ひきこもり家族会連合会があります。1999年に「KHJ親の会」として埼玉県で発足し、2004年にNPO法人となり、2015年に「親の会」から「家族会」へ名称を改めています。全国の家族会と連携しながら、家族会の活動支援や社会への啓発、行政への提言などを行っている団体です。

当事者会は、本人が同じ経験を持つ人と出会う場

 当事者会は、ひきこもりを経験した人や、現在その状態にある人自身が集まる会です。対面の居場所のほか、SNSで案内されるオンラインの居場所もあります。厚生労働省のハンドブックにも、本人が当事者会のオンライン居場所に自分から参加し、そこから自治体の相談窓口につながった事例が紹介されています。

 当事者会は本人のための場ですので、家族が参加を強く勧めることは控えたほうがよい場合があります。ハンドブックは、支援者主体で既存の居場所に本人を当てはめないことが重要だとしています。情報を手の届くところに置いておき、本人が関心を示したときに伝えるという距離感が、一つの目安になります。

厚生労働省の指針での位置づけ

 令和7年1月に公表された「ひきこもり支援ハンドブック」は、家族支援と家族会についてのコラムを設けています。そこでは、支援者は自分たちの地域にどのような家族会があるかを調べておき、家族が望めばいつでも会につなげられるよう準備しておくことが大切だ、とされています。また、ひきこもり地域支援センターの業務の一つとして、当事者会・家族会の開催が挙げられています。

 家族会は、公的な支援の外側にある付け足しではなく、支援の仕組みの中に位置づけられた選択肢だといえます。ハンドブック全体の考え方は【親子問題】厚労省「ひきこもり支援ハンドブック」が示した考え方、センターの役割は【親子問題】ひきこもり地域支援センターでできること・できないことで扱っています。

家族会で得られる三つのもの

 ハンドブックは、家族会への参加で得られるものを「安心」「学び」「連携」の三つに整理しています。それぞれを、ご家族の側から見た言葉に置き換えて説明します。

安心|家族自身の孤立をほどく

 長くひきこもりの状態が続いているご家庭では、親御さん自身も、親戚や近所、職場に事情を話せないまま年月を重ねていることが少なくありません。ハンドブックは、同じ経験を分かち合うことで家族の孤立感が小さくなり、気持ちが楽になるという点を、家族への対応の一つとして挙げています。KHJの共同代表も、家族会に参加するうちに、一人で抱えていた息子さんのひきこもりの悩みが、仲間がいると思えたことで和らいでいったと振り返っています。

 親の側が少し落ち着くことは、本人との関係にも影響します。ハンドブックは、家族が焦って本人を叱咤激励し、無理に外へ連れ出そうとしても状況は改善しないと指摘しています。その一方で、家の中を本人にとって安全で安心できる環境に整えることで、本人の気持ちや家族への接し方が変わることがある、とも記しています。家族会は、親御さんがその「待つ力」を保つための場として機能します。

学び|関わり方を知る

 家族会や自治体の家族教室では、講義や参加者同士の交流を通じて、本人への声のかけ方や距離の取り方を学びます。自治体によっては、CRAFT(クラフト)と呼ばれる家族向けのコミュニケーション技法を取り入れた学習会を開いているところもあります(兵庫県姫路市の家族学習会など)。

 ハンドブックの事例にも、毎月家族会に通った母親が関わり方を学び、本人との会話が少しずつ増えていった例があります。変化は小さく、時間もかかります。それでも、家族会では先を行く家族の経験を聞けるため、今の状態を長い経過の一部として捉え直すきっかけになります。支援のゴールを就労だけに置かない考え方については、【親子問題】「自立」と「自律」|支援のゴールをどこに置くかをご参照ください。

連携|支援機関や情報につながる

 家族会には、地域の相談窓口、医療機関、居場所についての情報が集まります。会によっては、専門家を招いて助言を受ける回を設けているところもあります。

 そうした情報の中には、民間の自立支援をうたう事業者についての評判も含まれます。ハンドブックは、いわゆる「引き出し屋」とされる事業者による高額な請求や、本人を無理やり家から連れ出して入所させるといった事例が起き、民事訴訟も行われてきたことに触れています。契約を検討する前に、同じ悩みを持つ家族から実際の話を聞けることは、家族会の大切な役割の一つです。

弁護士に頼む前に、家族会と並行して進められること

 家族会で話を聞き、学ぶことと並行して、ご家族の側で整えておける準備があります。いずれも、後に行政や弁護士へ相談することになった場合にも役立つものです。

  • 家族の中で、本人への向き合い方について話し合っておく。
  • 起きている出来事を、日付とともに記録しておく。
  • 公的な相談窓口に、家族だけで相談しておく。
  • 民間の施設や事業者と契約する前に、第三者の意見を聞く。


家族の中の足並みをそろえる

 父親と母親、あるいは親ときょうだいの間で、本人に対する考え方が異なることは珍しくありません。ハンドブックも、家族の間で意向やペースが異なる場合があることを前提に、支援を組み立てる必要があるとしています。夫婦で家族会に参加し、ほかの家庭の話を一緒に聞くことで、互いの考えを言葉にしやすくなることがあります。きょうだいの立場からの関わり方は【親子問題】きょうだいが相談者になる場合|親が動けないときで扱っています。

出来事を記録しておく

 暴言や物の破損、金銭の要求など、気がかりな出来事があった場合には、日付、内容、そのときの状況を簡単にメモしておくと、窓口で相談するときに経過を伝えやすくなります。家族会で話す前に気持ちを整理する助けにもなります。相談の前に整理しておくとよい情報は、【親子問題】相談の前に整理しておきたい5つの情報にまとめています。

公的な窓口には、家族だけで相談できる

 本人が相談を拒んでいても、家族だけで公的な窓口に相談することはできます。ハンドブックは、家族が相談しても本人を連れて来ないと支援できないとする対応があり、家族支援の視点が十分に伝わっていないと指摘されてきたことに触れています。そのうえで、家族への支援だけで支援を続ける場合があることを明記しています。本人が相談を拒む場合の考え方は【親子問題】本人が相談を拒む場合|家族だけで動ける範囲で扱っています。

家族会だけでは対応しきれない場面

 家族会は、同じ立場の家族が支え合う場です。本人と交渉したり、家族に代わって手続を進めたりする役割は想定されていません。次のような場面では、家族会での支えを続けながら、別の窓口を並行して使うことを検討してください。

場面家族会で得られるもの並行して検討する窓口
暴力があり、身の安全が脅かされている同じ経験をした家族の体験談、気持ちの支え110番・警察署の相談窓口、市町村の高齢者虐待の窓口(高齢の親が被害を受けている場合)
金銭の要求や財産の持ち出しが続いている関わり方の工夫、ほかの家庭の対応例弁護士(窓口の一本化、財産管理や住まいの整理)
相続や親亡き後の生活が課題になっている先を行く家族の経験や情報自治体の法律相談、法テラス、弁護士、ファイナンシャルプランナー
民間事業者との契約でトラブルになった事業者についての評判や情報消費生活センター(消費者ホットライン188)、弁護士


身の安全が脅かされている場合

 ハンドブックは、家族への攻撃的な言動や家庭内暴力がある場合について、落ち着いた話し合いができなければ物理的に距離を置いたり避難したりすることを勧め、命の危険がある場合には警察に対応を求めることが必要な場合がある、としています。家族会で気持ちを支えてもらうことは大切ですが、危険が差し迫っている場面では安全の確保を優先してください。具体的な対応は【親子問題】子から暴力を受けている|まず確保すべき安全と記録と【親子問題】避難先の確保|一時的に親が家を出るという選択、高齢の親御さんが被害を受けている場合は【親子問題】高齢の親が被害者の場合|行政が動く仕組みで扱っています。

金銭の要求や財産の問題が続いている場合

 成人したお子さんからの繰り返しの金銭要求は、家族会でもよく語られる悩みです。ただ、会で得られる助言は、関わり方の工夫が中心になります。要求を受ける窓口を家族から弁護士に切り替える、預金や通帳の管理を見直す、住まいを分けることを検討するといった対応は、法的な整理を伴います。弁護士が関与すると何が変わるのかは、【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択で説明しています。

相続や親亡き後の備えが課題になっている場合

 ハンドブックは、家族間の相続問題等への対応が必要になる場合について、自治体の法律相談、法テラス、ファイナンシャルプランナー等の活用を検討するよう求めています。ひきこもり支援の枠組みだけでは扱えない領域があることが、指針の中でも示されているということです。

 家族会と弁護士は、どちらか一方を選ぶものではありません。家族会で気持ちの支えと経験者の知恵を得ながら、法的な整理が必要な部分だけを専門家に任せる、という分担は十分に成り立ちます。

家族会の探し方と、参加するときの心構え

全国組織の一覧と、自治体の窓口から探す

 KHJ全国ひきこもり家族会連合会のホームページ(https://www.khj-h.com/)には、支部となっている全国の家族会の一覧が掲載されています。このほか、お住まいの都道府県・市区町村のひきこもり地域支援センターや相談窓口、社会福祉協議会でも、地域の家族会や家族教室を案内しています。東京都内でも、区や市、社会福祉協議会が家族会や懇談会を開いている例があります。

 近所の人に知られたくないという理由で、あえて自宅から少し離れた地域の会を選ぶご家族もいます。ハンドブックも、本人の居場所について、身近な地域だからこそ出にくい場合があることを踏まえ、少し離れた地域の居場所や相談機関の利用も検討するよう述べています。この考え方は、家族の側にも当てはまります。

一度で合わなくても構わない

 家族会の雰囲気は、会ごとに異なります。参加者の年代やお子さんの年齢、会の進め方によって、話しやすさは変わります。最初に参加した会が合わないと感じても、別の会や自治体の家族教室を試してみる余地があります。

 また、家族会で聞いたほかの家庭の対応が、ご自身の家庭にそのまま当てはまるとは限りません。暴力の有無、本人の年齢や健康状態、家計の状況は家庭ごとに違います。体験談は参考として受け止め、判断が必要な場面では専門の窓口に確認するのが安全です。

きょうだいの立場で参加できる場もある

 KHJでは、ひきこもりの状態にある人のきょうだいを対象にした「兄弟姉妹の会」も開かれています。東京都内での対面開催のほか、オンラインでの開催も案内されています。親御さんとは別の立場で悩みを抱えているきょうだいにとって、同じ立場の人と話せる場になります。

よくあるご質問

本人に知らせずに家族会へ参加してもよいのでしょうか。

 家族会は家族自身のための場ですので、本人の了解がなければ参加できないというものではありません。ハンドブックは、本人と話す機会に、家族が学ぶためにひきこもり相談に行ったと伝えてもらうことも良い方法の一つとして挙げています。伝えるかどうか、いつ伝えるかは、本人との関係を見ながら決めてよいでしょう。暴力がある家庭などで、相談していることを知られること自体に不安がある場合の考え方は、【親子問題】相談内容は子に伝わるのか|守秘義務と連絡の取り方で扱っています。

子どもが40代・50代でも参加できますか。

 参加できる会は多くあります。KHJの共同代表自身も、40歳を過ぎた息子さんのひきこもりに向き合ってきた家族として活動しています。ただし、会によっては居住地や本人の年齢などの対象を定めている場合がありますので、事前に各会や自治体の窓口に確認してください。

家族会に参加していても、弁護士に相談してよいのでしょうか。

 差し支えありません。家族会は支え合いと学びの場、弁護士は法的な整理と代理の役割を担うというように、役割が異なるためです。弁護士には守秘義務がありますので、家族会で話していない事情も含めて相談いただけます。反対に、弁護士に相談していることを家族会で話すかどうかも、ご自身で決めていただいて構いません。

まとめ


  1. 家族会は家族自身のための場であり、全国組織としてKHJ全国ひきこもり家族会連合会(1999年発足、2004年NPO法人化)が全国の家族会と連携している。
  2. 厚生労働省「ひきこもり支援ハンドブック」(令和7年1月)は、家族会への参加で得られるものを安心・学び・連携の三つに整理している。
  3. 同ハンドブックは、無理に外へ連れ出そうとしても状況は改善しない一方、家の中を安全・安心な環境に整えることで本人の気持ちや接し方が変わることがあるとしている。
  4. 本人が相談を拒んでいても、家族だけで公的な窓口に相談でき、家族への支援だけで支援が続く場合もある。
  5. 家庭内暴力で命の危険がある場合は、家族会での支えと並行して、避難や警察への相談を優先する(同ハンドブック)。
  6. 金銭の要求、財産、相続、事業者との契約トラブルは、自治体の法律相談、法テラス、弁護士、消費生活センター(188)などを並行して使う。
  7. 家族会と弁護士は、どちらか一方を選ぶものではなく、役割を分けて併用できる。


ご家族だけで抱えている方へ

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、親子の問題に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。家庭内の暴力や金銭の要求、長期化したひきこもりについて、弁護士が親御さんの側の代理人として関わり、民間の自立支援カウンセラーとチームを組んで、親と子それぞれの生活の立て直しに取り組んでいます。お子さんの年齢は問いません。

 家族会で支えを得ることと、弁護士に相談することは両立します。家族会や公的な窓口につながることを先に優先していただいても構いませんし、家族会に通いながら、法的な整理が必要な場面だけをご相談いただくこともできます。どこから手をつければよいか迷っている段階でも、お話を伺います。当事務所の取り組みは【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応でご紹介しています。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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