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猪野由紀夫

介護福祉事業の利益拡大を応援する経営コンサルタント

猪野由紀夫(いのゆきお) / 税理士

DCC株式会社

コラム

障害者総合支援法と介護保険法の関係

2019年8月28日 公開 / 2020年1月22日更新

テーマ:介護

コラムカテゴリ:ビジネス

「障害者総合支援法」に基づく支援サービスには、介護サービスが含まれています。また、障害者福祉サービスの受給者が介護保険を併用している例も少なくありません。

両方に共通するサービスを利用する場合には、基本的に介護保険のサービスが優先されます。

障害者総合支援法と介護保険の関係


障害者総合支援法と介護保険の関係
介護事業を開業する際に、知っておきたいのが「障害者総合支援法」と「介護保険制度」の関係です。両者には対象者や提供する支援サービスの内容などに重なる部分があり、違いや使い分けについて理解することが大切です。

介護保険は、介護を必要とする人が自立した日常生活が送れるようにサポートすることを理念としています。

障害者総合支援法は、誰もが住み慣れた地域で社会生活や日常生活を営めるよう支援することを理念としています。さらに、障害を持つ人だけでなく、治療法が確立されていない疾病や難病の患者も対象となっています。

また、介護保険のサービスは、主に認知症の進行や身体機能の低下を予防したり遅らせることを目的としています。

一方、障害福祉サービスの中には自立のための生活能力や身体機能の向上を目的として行われるものがあります。それゆえ、就職するためのスキルアップを目指す就労移行支援や専門性の高い相談支援など、介護保険にないサービスが含まれているのが特徴です。

障害者総合支援法と介護保険の共通部分
障害者総合支援法のもと障害福祉サービスを受けていた人は、65歳以上になると介護保険の「第1号被保険者」となり、要介護認定されれば介護サービスの受給が可能になります。
こうした場合には、障害福祉サービスと介護保険サービスを併用して受けることが可能です。併用する場合、障害福祉サービスにしかないサービスは障害福祉サービスから、介護保険サービスにしかないものは介護保険から支給されます。

しかし、障害福祉サービスの「居宅介護」は、介護を必要としている人に対して自宅で食事や入浴、排せつに関するケアを行うサービスです。これは介護保険の訪問介護と同じ内容です。こうした例では、基本的には介護保険によるサービス支援が優先されます。

つまり、これまで障害者支援サービスを受けていた人は、65歳以上になって要介護認定を受けると、介護保険から同じサービスの支給を受けることになります。

ただし、介護保険で「要介護5以上」の介護認定を受けている場合は、一定の条件を満たすことで障害福祉サービスから上乗せ支援を受けることができます。

介護給付と訓練等給付
障害者総合支援法のサービスは「自立支援給付」と「地域生活支援事業」の2種類に大きく分けることができます。

自立支援給付には、日常生活を送る上で必要な介護を支援する介護給付、自立した日常生活を送るための機能訓練や生活訓練、就労に向けて知識や能力などを向上させる訓練等給付などがあります。

介護給付と訓練等給付のサービス内容は下記の通りです。

【介護給付】
居宅介護、重度訪問介護、同行援護、行動援護、療養介護、生活介護、短期入所(ショートステイ)、重度障害者等包括支援、共同生活介護、施設入所支援

【訓練等給付】
機能訓練、生活訓練、就労移行支援、就労継続支援、共同生活援助

地域生活支援事業には都道府県事業と市町村事業があります。内容はそれぞれ少しずつ異なりますが、障害者が生活しやすい環境を整えるために、市区町村がニーズに対して柔軟に対応する相談支援や移動支援などがあります。

【地域支援事業の例】
自発的活動支援、相談支援、意思疎通支援、移動支援、日常生活用具給付、理解促進研修、手話奉仕員養成研修、成年後見制度利用支援など

障害者自立支援法の介護サービス支給決定の流れ
障害者総合支援法の介護サービス支給までの流れを見てみましょう。

1.障害者本人または家族が市町村に申請する。
2.市町村が106項目の心身の状況などからなる障害程度区分認定調査を実施する。
3.コンピューターを使った一次判定が行われる。
4.必要な場合、医師の意見書が提出される。
5.市町村審査会による二次判定が行われる。
6.障害の程度が6区分で認定される。
7.区分決定後、市町村が支給決定案作成のための利用意向聴取を行う。
8.支給決定案が作成される。
9.市町村審査会の意見聴取が行われる。
10.支給が決定される。

通常は上記のようなプロセスを経て、障害の程度区分が決定され、区分に応じた支援内容が決められます。

ただし、障害者福祉サービスの運営主体は市町村で、市町村によって支給決定の基準が異なります。そのため介護保険と比較すると地域差が大きいのが特徴です。

サービスの利用者負担は、原則として介護保険と同様に利用額の1割となっています。ただし、所得に応じて負担上限が決められており、負担能力によっては軽減措置が取られます。軽減措置については、市町村の福祉関連の予算を踏まえながら順次決定するものとされています。

これまで見てきたように、障害者福祉サービスと介護サービスには共通する部分が少なくありません。

介護事業者が障害者総合支援法の介護給付に参入する際に、それほど障壁の高くないサービスもあります。実際、介護保険法に基づく介護事業だけでなく、障害者総合支援法に基づく介護サービスも提供している事業者は数多くあります。

障害者総合支援法の介護サービスは、介護保険の介護サービスと同様に、報酬が地域ごとに定められ自由価格ではありません。また、報酬の区分や開設基準の変更も頻繁なので、改正の動向を見守っていく必要があります。

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猪野由紀夫

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