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「噛む」と、その不確かなシャケ〜噛むことの効用とは?〜

早川弘太

早川弘太

テーマ:漢方的ご自愛短編小説

ある日曜日の午後、僕はデパートの地下の食品売り場で、シャケ弁を買うべきか、さばの味噌煮弁当にするべきか悩んでいた。特別どちらが好きというわけでもないけれど、人生というのは、こういうささやかな決断の積み重ねでできている。しゃけか、さばか、それが問題だ。

そのとき、背後からこんな声が聞こえた。

「シャケは左脳、サバは右脳を刺激するらしいわよ。」

振り返ると、黒い帽子に赤いスカーフを巻いた女性が立っていた。

彼女のことはよく知らないはずなのに、なぜか昔どこかで会ったことがあるような

そんな気がした。あるいは、夢の中だったのかもしれない。

彼女は僕にむかってにっこり笑うと、小さな紙切れを差し出した。そこには、手書きでこう書かれていた。

「ひみこのはがいーぜ」

「噛むこと、意識してますか?」彼女は言った。「人は噛むことで、日々の思考すらも整えているのよ。」

「それは…つまり?」と僕が尋ねると

彼女は少しだけ目を細めた。

「シャケでも、サバでもいいのよ。大事なのは、最初の一口を30回噛むこと。そうするとね、過去の選択とか、明日の不安の消化も良くなるのよ。」

そのあと彼女は、まるでCM明けのようなテンポで「ひ=肥満防止」「み=味覚の発達」「こ=言葉の発達」「の=脳の発達」「は=歯の病気予防」「が=がんの予防」「い=胃腸の働き促進」「ぜ=全身の体力向上」と、ひとつずつ説明してくれた。

僕はその内容の半分も理解できなかったけど、なぜかそのリズムは心地よかった。

世界が一瞬だけ、噛むリズムに合わせてゆっくり回っている、そんな感じがした。

気がつけば、僕はシャケ弁を買っていた。

「あ、そうそう。シャケは左脳、サバは右脳を刺激するって話。あれは冗談よ」っと微笑みながら言い、その言葉に驚きしゃけ弁に僕が目を一瞬落とした隙に

彼女の姿はスッと消えていた・・・・・・

僕は近所の公園のベンチに腰をおろし、シャケ弁を開けた。

可もなく不可もない、寸分の狂いもない、疑いようのないシャケ弁

何度も食べているおなじみのシャケ弁だ。

僕は彼女の言う通り、最初の一口を30回噛んだ。そのあいだに、シャケの塩味と脂が、口の中でほどけて、いつもよりずっと「シャケぽいシャケの味」になった気がした。

何度も食べたシャケ弁だが、今までのどんなシャケ弁よりも僕の味覚を刺激した。

思えば、僕は最近、何かを「ちゃんと味わう」ということをしていなかったのかもしれない。人の言葉も、音楽も、空気の湿度さえも、いつのまにか水で流し込んでいたのかもしれない。

午後の光が傾きかけて、鳥の鳴き声が公園に響いていた。僕はしゃけ弁の蓋を閉じ、彼女とはもう二度と会えないと感じた。僕にはわかるのだ。僕のジャケットの内ポケットの中には「ひみこ」の紙切れだけが残っていた。

エピローグ

その日から、僕は毎食、最初の一口を30回噛むことにしている。時々、時計の針の音が気になるほど静かになるけど、それでいいんだと思う。噛むたびに、何かが整っていく。たぶん、体とか、気持ちとか、名前のつかないものが。

時間も、空気も、季節も、音楽も、もっとよく噛んで生きていこう。

それが「ご自愛」ってやつなんじゃないかと、今は思っている。

【解説】よく噛んで食べること、はもっともシンプルで、もっとも大切なご自愛ですが、もっとも難しいことの一つです。

最初の一口意識するだけでも食事のリズムが変わってきますのでぜひ取り入れてみてください。

☆「ひみこのはがいーぜ」の詳しい内容について☆

① ひ=肥満防止

よく噛むことで「満腹中枢」が刺激されます。 
20分ほどかけて食事をすると、脳の視床下部が満腹信号を出してくれますが、早食いではこの信号が間に合わず、過食しがちに。 また、咀嚼によって分泌されるヒスタミンには食欲を抑制する作用もあると言われています。
つまり、よく噛むことは「自然な食欲調整機能」を活性化してくれるんです。

② み=味覚の発達

噛む回数が多いと、食材の繊維がほどけ、味の成分が舌全体に行き渡ります。 
咀嚼によって唾液が多く分泌されると、味の分子が溶けやすくなり、より繊細な味を感じ取ることができます。 特に子どもは、味覚の発達が著しい時期。
よく噛む習慣を幼少期に身につけることで、食べ物の好き嫌いも減るといわれています。

③ こ=言葉の発達

顎をしっかり使って噛むことで、顎の骨や筋肉、口周りの器官が発達します。 
この運動が「発音の明瞭さ」や「舌の可動域」に関係するんですね。 柔らかいものばかり食べていると、発語が不明瞭になったり、滑舌の悪さにもつながる可能性があります。

④ の=脳の発達

噛むことで脳に血流が増え、前頭前野(思考や判断を司る部位)の活性化が確認されています。 
特に子どもや高齢者では、咀嚼によって学習能力や記憶力が高まるという研究もあります。 また、アルツハイマー病との関連も研究されており、咀嚼力の低下は認知機能低下と相関するというデータもあります。

⑤ は=歯の病気予防

唾液は天然の「抗菌液」。 
噛むことで分泌される唾液が、口腔内のpHを調整し、虫歯や歯周病の原因菌の繁殖を抑えてくれます。 特に唾液中に含まれる「リゾチーム」「ラクトフェリン」などは、抗菌・抗ウイルス作用があるとされ、口内環境を整えるためには咀嚼が欠かせません。

⑥ が=がんの予防

口腔がんや消化器系がんの一因として「慢性的な炎症」や「活性酸素の発生」が挙げられますが、唾液の中には抗酸化作用のある酵素「ペルオキシダーゼ」などが含まれていて、細胞の酸化ストレスを抑えてくれる働きがあります。 また、胃がんの原因とされるピロリ菌の増殖も、唾液の分泌が関係しているとの研究も。

⑦ い=胃腸の働き促進

よく噛むことで、消化酵素を含んだ唾液がたっぷり分泌され、消化の負担が軽くなります。 
特にでんぷん質は唾液中のアミラーゼによって、すでに口の中で分解が始まります。 結果として、胃や腸での消化吸収がスムーズになり、胃もたれや便通の改善にもつながります。

⑧ ぜ=全身の体力向上

噛むことは、単なる口の運動ではなく、頭から首、肩、全身の筋肉にも微妙に関係します。 
また、食べ物をしっかり噛んで消化吸収が良くなることで、栄養素が効率よく体内に取り込まれます。 さらに、咀嚼による「集中力アップ」や「リズム運動効果」は、交感神経の過剰興奮を抑え、ストレス軽減にも役立つと言われています。

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早川弘太
専門家

早川弘太(販売職)

株式会社 沢田屋薬局

医療機関などでは、忙しくてなかなか話を聞いてもらえなかったご経験ありませんか?まずお客様のお話をゆっくりとお聞きさせていただき、一緒に不調の原因を考えていきます。漢方相談と健康相談を行っています。

早川弘太プロは山梨日日新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

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