『プリンを食べない男たち』―後編:そして、スプーンは静かに動いた― 山梨 漢方 さわたや薬房 メンタル 薬膳 健康 スイーツ
日曜日の朝、僕は彼女のマンションで、彼女がカルディで買ってきたお気に入りのコーヒー豆で丁寧に淹れたコーヒーを飲んでいた。
あいかわらず豆のチョイスは的確で、僕が日曜日の朝、彼女の部屋でどんなコーヒーが飲みたいのか?よく理解してくれていた。
これはある意味彼女の特殊能力のようなもので、彼女には誰がどんな時に、どんなコーヒーが飲みたくなるか?
なんとなくそれがわかるそうなのだ。
「佐藤さんがね、また昨日もやってくれたのよ」
と、彼女はミッキーマウスが大きく描かれたTシャツを着て
(東京ディズニーリゾートで買ったもので、パーク以外の場所で着るにはデザインがいささか派手すぎるため、当然のごとく部屋着になっていた。)しゃべりだした。
「まさにね、“俺にも喋らせろ”状態。誰かが何か言いかけると、すぐに“それ、俺も知ってる”って割って入って、自分の話にすり替えちゃうの。しかも”俺のときはもうちょっと〇〇だったけどね”というようなご丁寧にマウントまでつけて」
僕はうなずきながら、少しだけコーヒーを口に含んだ。舌の上で苦味がほどけていく。ノラ・ジョーンズの歌声がかろうじて部屋の空気をなだめてくれていた。
「以前もその人の話はしていたよね。相当ひどいみたいねだね・・・僕の友人にね、漢方の相談をしている人がいるんだけど、そういう人のことを“風のように話す人”って面白い表現をしていたよ」
「風のように話す?」
「そう。止まると崩れちゃうから、吹き続けないといられない。つまり、そういう人は自分の不安を言葉でしゃべることで、しゃべり続けることでかき消そうとしてるんだって」
「たしかに。マウントを取りたがる人もマウントを取らないと舐められちゃうと思って取りたがる、っていうもんね。」
僕は頷いた。
「あと、東洋医学では、“しゃべりすぎると気が漏れる”っていう考え方があるんだ。江戸時代の有名な学者さんで貝原益軒という人いるんだけど
その人が書いた『養生訓』という有名な、心とカラダの健康に関する書物の中にそう書かれているんだって。
“寡言は徳あり”って。
つまり、しゃべらないことも、美徳であり、健康の一部なんだ」
「それ、すごく納得。話し終えたあと、ぐったりしてる自分がいたりするし、不必要にべらべら喋っている姿ってあまり美しくないわよね。」
「うん。そしてね、に“しゃべらずにいられない人”っていうのは、気が乱れてたり、詰まってたりしている証拠なんだ」
僕はカップを置いて、テーブルの木目を指先でなぞった。
「たとえばその佐藤さんみたいな人は、“気滞”っていう気の巡りが滞ってる状態にあって、それに日頃の不満や不安などが積み重なってストレスとなり、怒りの炎が上に昇って、脳が興奮してしまい、声が大きくて、話が止まらな状態にもなる、っと漢方では考えたりするんだって。
つまり”俺にも喋らせろ”にも原因があるということなんだ。」
「なるほど。話さずにいられないのは、そういうバックボーンがあるからなのね。気の乱れ、とか気のつまり、とかなんとなくわかる気がするわ。」
「そう。だから、あまり彼のような気滞っぽい人の言っていると事を真正面から否定すると、余計にこじれてしまうんだって。
コツはね、まず褒める、そして承認してあげることだって言っていたよ。」
「ほめるの?」
「そう。“すごいですね〜!”って一言添えるだけで、その人の中にある“認められたい欲”
いわゆる”承認欲求”
が少し満たされる。そうすると、喋る必要が薄れるみたいなんだ。
それと
”俺にもしゃべらせろ”
タイプの人ってこだわりが人一倍強く、自分の価値観や、正論を人に押し付ける人も多いからちょっとそれも喋らせて上げて気を抜いてあげることが必要かもね。」
「まるで、沸騰してカタカタ揺れている鍋のフタを取って冷ますような感じね。」
「まさにそんな感じ。僕もみんなでおしゃべりするのが好きだから、しゃべりすぎたあとはよく反省するんだけどね。
まぁ、”俺にも喋らせろ”ってタイプの人のしゃべり方って独特だから、普通のおしゃべりの人とはちょっと違うよね。
それにしても言葉って、気を放つものだから、使いすぎると本当に疲れるんだよ。きっと彼も家に変えるとぐったりしてるんじゃないかな?」
彼女は静かに微笑んだ。
「つまり、言葉は出せばいいってもんじゃなくて、出しすぎると“気”も出てっちゃうのね」
「うん。ときには、喋らないことで整う日もある。沈黙が不安じゃなくなると、ほんの少し、大人になれる気がする」
彼女はマグカップを両手で包んで、その香りを深く吸い込んだ。
「今日の午後、少し静かな時間を過ごそうかな。スマホ、置いて」
「いいね。僕も書き物でもしようかな」
そして僕たちは、音の少ない時間に身を任せることにした。
外では風が吹いていた。でも、それは誰かの声ではなく、ただの風だった。
【解説】皆さんの周りにもいませんか?「俺にも喋らせろ!」としゃべりたくてウズウズしている人や、喋らせないとイライラしたり、貧乏ゆすりなんかして落ち着かない人。
漢方では日頃からストレスが溜まっている「気滞」と言われる人の特徴で、しゃべることで、ストレスを吐き出していたり、そこにマウントなどを絡めると優越感を感じて自分の気持が
「一瞬」落ち着きます。(マウント取る行動や他人を遮ってしゃべることは結果的に自己嫌悪に落ちるため、またストレスを生んでしまうのですが)
しゃべりたくてウズウズするタイプの人は①承認欲求の強い人②不安感の強い人③こだわりの強い人
このような特徴があるので、ある意味、一般的には「頭のいい人」に多いタイプかも知れません。
しかし、迷惑には変わりないので、上手にいなして、自分のストレスにしないように上手に「風よけ」したいですね。
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