ショッピングモールと帽子の女〜急激な暑さ対策のご自愛法〜山梨 漢方 猛暑対策 夏バテ
僕の父は、プリンを一度も食べなかった。正確に言えば、僕の知っているかぎり、彼はその短くはない生涯の中で一度もプリンを口にしなかったのだ。母が作ったとろとろのカスタードプリンも
親戚のおばさんの家で出された昔ながらの固めの焼きプリンも
お歳暮やお中元でもらったギフトにゼリーといっしょに数個しか入ってない貴重なプリンも、彼は一切口にしなかった。
「甘いものは苦手なんだよ」と彼はいつも言っていた。そして二言目には「プリンなんて子どもが食べるものだろ」とも。
大人になった僕は、それを何の疑いもなく受け入れていた。たまにデニーズのようなファミレスやカフェに行ってもプリンを注文することはまずなかったし
スーパーの棚の冷えたプリンのカップたちの前を、僕は何十年もの間、素通りし続けてきた。「プリン」と書かれたメニューを見るたびに、どこか胸の奥に父の硬い横顔がよぎった。
そんな僕とプリントの関係性が大きく変わる瞬間なんてくるわけがない、僕はずっとそう思っていた。しかし、つい先週のことだ。僕は人生で初めて、プリンというものを口にした。しかも、なぜかそれは、見知らぬ町の喫茶店でだった。
その日、僕は仕事の出張で地方都市に来ていて、アポイントの時間より少し早く着いてしまった。雨が降っていて、仕方なく目に入った近くの喫茶店に入った。最近では珍しい、カフェと言うシャレた感じの店ではなく、昭和の匂いがする古びた内装で、店内は薄暗く、ジャズが流れていた。
食事のメニューにはメニュー・ナポリタン・ミックスサンド・「手作りプリン(限定品)」
とこの3つだけが書かれていた。
気がつくと僕は、そのプリンを注文していた。
運ばれてきたプリンは、どこか懐かしい見た目だった。カラメルの香りがほのかに漂い、表面がやわらかく揺れていた。
ひと口、スプーンですくって、口に運ぶ。
その瞬間、なにかが静かに、確かに、変わった。
甘すぎず、やさしく、まろやかで。舌に広がったのは、子どものころ、はるか昔に置いてきてしまったような、今まで忘れていた感覚だった。
その感覚は僕に安心感を抱かせた。まるで、母の手のぬくもりを思い出すような味だった。
そして、僕は震えた。
テーブルの端に置かれていた、一枚のチラシに目を留めたからだ。
そこにはこう書かれていた。
『プリンは栄養たっぷりん〜その驚きの働きとは?』
卵と牛乳でできたプリンは、ただのスイーツではありません。◆ 卵:からだの材料になる“完全栄養食”良質なたんぱく質、ビタミンB群、鉄分。肌、髪、筋肉、すべての土台。◆ 牛乳:骨と心を支えるやさしいミルクカルシウム・ビタミンDで骨を丈夫に、神経を穏やかに保ちます。◆ 砂糖:脳と心の“ごほうびエネルギー”少量の糖質は、即効性のエネルギー源。疲れた心をふんわりゆるめてくれます。そして、薬膳的には――◆ 卵は“血”を補い、“陰”を養う体の中の乾きやほてり、不眠、肌の乾燥にやさしく働きかけます。◆ 牛乳は“肺”を潤し、“心”を鎮める咳や喉の乾燥、そしてイライラ、不安感へのセルフケアに。◆ “甘味”は、心と胃をゆるめる味ストレスがたまっているとき、食欲がないとき。
このようなことがそのチラシには書かれていた・・・・
僕は、チラシを手に取って、しばらく動けなかった。
プリンとは、そんなものだったのか。
ただ甘いだけのデザートじゃない。心と体をそっと補い、内側から人をほどく。。。そんな「食べるご自愛」だったのだ。
それを、僕はずっと遠ざけて生きてきた。父の顔がふと浮かび、そして消えた。
その瞬間、僕の中でなにかの歯車が、音を立てて動き始めた。
(後編につづく)
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