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深田倍生

ITと企業経営両方の知識を持ち、企業のIT化を支援するプロ

深田倍生(ふかだますお) / ITコーディネーター

株式会社テクノプロジェクト

コラム

世界一底が深いゴミ箱

2022年9月21日

テーマ:私の本棚

コラムカテゴリ:ビジネス

 「私の本棚」は、私が読んだ本でオススメの本をご紹介するカテゴリーです。世界の人口は、2020年の世界銀行の統計によれば、約78億人だそうです。私がこれまでの人生で何人の人に会って、これから何人の人に会うかは分かりませんが、少なくとも78億全ての人に会うこと不可能であること位は分かります。皆さんご存知のGoogleは、世界中の書籍数を約1.3億と推定しています。これも全部読むことは不可能であろうと思います。一期一会という有名なことわざは、人との出会いを想定しているようですが、本も出会いだと思っています。良い本に出会うことは、私たちの人生に多少なりとも影響を与えると信じています。

この本との出会い

 今回ご紹介する本は、「仕掛学~人を動かすアイデアのつくり方~」という本です。著者である松村真宏さんが、確かラジオでインタービューを受けられていて、それをたまたま聴いたことがきっかけで、購入したのだと思います。仕掛学という響きも面白そうだったのですが、人を動かすアイデアというのにも興味があったんです。

「仕掛学」のご紹介

 帯には【「ついしたくなる」にはシカケがある。スタンフォード大学の講義でも用いられている、日本発のフレームワーク、仕掛学[Shikakeology]。】と書かれていますし、要約サイト(Flier)では、この本の要点を以下の3つにまとめています。

  • 多くの問題は自分の行動を変えることで問題の解決につながるが、実際に行動を変えるのは難しい。無理やり行動を変えさせるのではなく、つい行動を変えたくなるように仕向ける「仕掛け」が有効である。
  • 仕掛けには3つの定義がある。誰も不利益を被らない「公平性」、行動を強要せず、仕掛けが行動の選択肢を増やす「誘因性」、仕掛ける目的と行動する目的が異なる「目的の二重性」である。
  • 「仕掛け」は大きく物理的トリガと心理的トリガに分類される。物理的トリガは物理的な特徴、心理的トリガは人の内面に生じる心理的な働きを表す。

 仕掛学という学問ということなので、色々と難しく書かれているような印象ですが、結構さーっと読める本です。なぜなら、私達の日常にあるような事の舞台裏のような話なのでイメージし易いからです。仕掛学の考え方が何かに応用できるのではないかと思いました。もちろん学問的に読むことで仕掛けに関する理解が深まると思いますが、私は学問は苦手なので、そこは遠慮しておきます。

仕掛けの例

 いくつか仕掛けの例をご紹介しましょう(本当は写真を見て頂くのが分かりやすいのですが)。
世界一底が深いゴミ箱
 まずは、このコラムのタイトルにしている仕掛けです。スウェーデンにあるフォルクスワーゲン社のプロジェクトチーム【Rolighetsteorin.se】が考え出したのは、ゴミ箱に「仕掛け」を施すというものです。このゴミ箱にゴミを捨てると落下音が聞こえ始め、それが8秒ほど続いたあとに衝突音が聞こえてくるというものです。自由落下で8秒というと約280メートルの高さになりますから、世界一底が深いということになるのでしょう。この動画がYouTubeでも紹介されているのですが、このゴミ箱にゴミを捨てた人が、わざわざゴミを拾って捨てている姿も確認できます。普通のゴミ箱より41キロほど多い、72キロのゴミが集まったんだそうです。子供も喜びそうですが、最近はゴミ箱をあまり目にしなくなってしまいましたね。YouTubeで"Rolighetsteorin.se"を検索すると、このゴミ箱の動画を含め、面白い仕掛けを見ることが出来ます。
便器の的
 これは場所によっては設置されているところがあります。男性用トイレに設置されるものなので、女性の方はあまり目にされないと思いますので、少し詳しくご紹介しますと、要するに立った状態で用を足すわけですが、どうしてもお釣りと言いますか、液体が飛散し、周囲が汚れることがあります。それを防止するために、飛散が最小限になる適切な場所に的が貼り付けてあるというものです。的があると、狩猟に勤しんでいた頃の本能がきっと蘇り、不思議と的を狙ってしまうというところを利用したものです。私のお客様の事務所のトイレには、的ではなく飛散防止を兼ねた芳香剤が設置されています。そこを狙うと芳香剤自体の色が変わるので面白いです。なるほどと思いますが、最近は男性も座る便器に座って用を足してくださいというトイレも増えてきていますので、これもそのうち珍しいものになってしまうのでしょうか。
ぬいぐるみ
 ぬいぐるみの口が大きく開くようになっていて、お腹が袋になっているおもちゃを入れる収納袋です。おもちゃが散乱しているのは、子供がいる家でよく見る風景(子供に限らないかも知れません)ですが、そこにこのぬいぐるみを持っていって「このコがお腹を空かせているよ」と子供に声を掛けると、一生懸命ぬいぐるみの口の中におもちゃを入れて、結果的に片付いてしまうというものです。
その他の仕掛け
○ランブルストリップス
 ランブルストリップスは、主に自動車の路外逸脱や正面衝突を防止するための運転者への注意喚起、あるいは走行速度の抑制を目的として、道路の中央や路肩の路面上に意図的に波状面をつくり、この部分を通過する際に音と振動を与えるようにした交通安全施設だそうです。そこを走ると、車内は快適とは言えないので、そこを避けるようにハンドルを調整した経験は、車を運転される方なら身に覚えがあると思います。時々、その音がメロディーになっている道もありますが、これも注意喚起を目的としたものでしょうね。スピードを出し過ぎていると良いテンポにならないので、アクセルを緩めている自分に気づきます。
○ゴミ箱の上のバスケットゴール
 世界一底が深いゴミ箱と似ているのですが、ゴミ箱の上にバスケットゴールがあるので、ついついゴールを狙ってしまい、挙げ句、あえてゴミを探し出し、何度もトライするので、結果的にゴミが集まるというもの。分かるなぁ。
○ファイルの背表紙に引かれた斜めの線
 どうしても斜めの線がつながるように収納したくなりますよね。番号順に並べるよりも、線がつながるように並べる方が早いし、途中が抜けていることが一目瞭然で分かるから、背表紙に斜めの線を入れているというお客様のお話を思い出しました。書店に行くと、マンガの単行本の背表紙にも絵がつながっている場合があることに気づきます。

仕掛けの発想法

 仕掛けと似ているものにナッジがあります。ナッジとは、行動科学の知見から、望ましい行動をとれるよう人を後押しするアプローチのことだそうです。仕掛けとの決定的な違いは、ナッジが無意識に行動を促すのに対し、仕掛けは意識的に行動を促すということだそうです。決定的な違いの例をご紹介します。次はナッジの例です。「臓器提供をしてくれる人の率を上げるために、臓器提供意思カードにあらかじめ臓器提供するというチェックの入った状態のオプトイン方式を採用する。臓器提供をしない人は、意識的にチェックを外さないといけないが、ほとんどの人は、そこへ深い関心を持たないため、外すことが少なく、あえてチェックを入れてもらうオプトアウト方式よりも、臓器提供者の割合が上がった。」なんだか恐ろしい感じもしますね。これに対して仕掛けは「ゴミを適切に捨ててもらうために、ゴミ箱の上にバスケットゴールを設置した。すると人々は、自らシュートすることを意識するため、興味本位で行うことになる。結果的に、ゴミをゴミ箱に捨てる人が増えた。」ということになります。
 世の中、仕掛けがたくさんあるように思いますが、新しい仕掛けを考えようとすると、なかなか難しいですね。著者が紹介している発想法は、”子供の観察”です。私たちのように思慮深く、分別のあるオトナ(笑)は、実際のところ、どうしても周囲に対する好奇心が薄れてきます。一方、子供は遊びの天才なので、我々オトナが見向きもしないことに熱中したりします。例えば学校の帰り道で、白線以外を踏むと谷底に落ちるというような遊びを楽しそうにやっています。私はその遊びは結構好きな方です。実はオトナも色々やっています。例えば公園で疲れ、座るところを探そうとした時、あそこなら良いのではないかと思って行くと、既に何かに促されたかのようにオトナが座っていたりします。このように注意深く周囲を観察することを契機に仕掛けが発想できると著者は勧めます。

まとめ

 テクノプロジェクトでは、お客様の業務システムの開発も請け負っています。機能面もさることながら、使いやすさを意識して設計しています。具体的には、登録ボタンの配置は、どの画面でも同じ位置(例えば画面の下の方の一番右等)に配置した方が操作誤りが少なくなりそうだ等の工夫です。仕掛学に興味を持ったのは、この考え方を設計に活かせないかなと思ったからです。 
 今回は、仕掛けの例を色々とご紹介しましたが、いずれの場合も「一本取られたな」と感じ、にこやかになってしまいます。効率を極めるのも必要かも知れませんが、業務システムの設計においても、こうした考え方を取り入れ、使って頂くお客様から「なるほど、一本取られたなぁ」とか「よく考えられているね」等のお言葉を頂けたら、UX(ユーザーエクスペリエンス)を高め、テクノプロジェクトのようなソフトウェア企業の価値を高めることにつながるのではないかと思いました。

この記事を書いたプロ

深田倍生

ITと企業経営両方の知識を持ち、企業のIT化を支援するプロ

深田倍生(株式会社テクノプロジェクト)

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