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深田倍生

ITと企業経営両方の知識を持ち、企業のIT化を支援するプロ

深田倍生(ふかだますお) / ITコーディネーター

株式会社テクノプロジェクト

コラム

自動販売機の名所(?)に行って考えたこと

2023年11月29日

テーマ:ひとりブレスト

コラムカテゴリ:ビジネス

 カテゴリー「ひとりブレスト」は、私が想像(妄想の方が正確かも知れません)を巡らせ、もしかしたらイノベーションの種になるかも知れないテーマをひとりでブレーンストーミングし、ご紹介するものです。かなりくだけた話になるかも知れませんが、本人は大真面目に考え続けていることですので、もしご興味があれば、ご一緒に想像を巡らせましょう。

奇跡の名所

 島根県西部の益田市安富町の日本で唯一ダムの無い一級河川である高津川沿いに2軒の味わい深い店舗が並んでいます。店舗と言っても自動販売機が並んでいるだけなのですが、レトロなうどんの自動販売機が2軒合わせて5台くらいあって、肉うどんや天ぷらうどんやラーメンが販売されています。今では自動販売機の交換部品も調達できないそうで、汎用品を使ってメンテナンスを続けておられるそうです。外観ははっきり言って小汚い感じですが、私が行った時には、柚子が入っていたりして、店主のこだわりを感じました。味はうどん屋さんには敵わないかも知れませんが、美味しかったです。私はうどんとラーメンとおにぎりとおこわを食べました。これが夕飯かと思うと少し寂しさは感じましたが、寝る時までお腹いっぱいでした。要するに食べ過ぎなんですけど。
 この奇跡の名所は、テレビ等でも何回も取り上げられているそうで、お客さんが絶えないようでした。私は行ったのは夕方でしたが、1日に何回か具材を補充されているのでしょう、夜に来られるであろうお客様向けに具材の補充作業をしておられました。地元の固定客と思しき高齢のご夫婦とお孫さんの3人で来られて「今日は何にする?」と楽しそうに会話されているのが心に残っています。
 私が最初に自動販売機に出会ったのは、実家から少し離れた国道沿のドライブインのような場所でした。小学生だった私は、夏になると中海に鉛筆サイズのサヨリ釣りに頻繁に行っていました。両親にエサ代(本当は撒き餌の商品名ジャンボ)とパンを買うための小遣いをもらって向かうのですが、エサ代を友だちと出し合って節約できたお金と当初のパン代で自動販売機の食事を買い求めるのも楽しみの一つでした。最初はカップ麺の自動販売機でした。お金を投入して、欲しいカップ麺を選んでボタンを押すと、カップ麺が取り出し口にセットされ、金属の管が出てきて蓋に穴を開け、熱湯を注ぎ込むというスタイルでした。その少し後に奇跡の名所と同タイプのうどんの自動販売機が置かれました。お金を投入してボタンを押すと、何やら物音がして、電光掲示板の30秒表示が徐々に減ってきて、0になると出来上がったうどんが無造作に出てくるタイプです。どちらの自動販売機も当時の私にとっては、お金を入れて商品を選ぶだけで自動的に調理されたものが出てくるというエンターテイメントでした。もちろん当時の私にはごちそうでもありました。その後しばらくするとカレーライスの自動販売機も登場し、社会人になって仕事が深夜に及んだ際にはお世話になったものでした。

最近の自動販売機事情

 コンビニエンスストアでお手軽に買い物ができるようになって、自動販売機を利用することが少なくなってきたような気がします。一般社団法人日本自動販売システム機械工業会の2022年度版自動販売機普及台数レポートによれば、全体としては2013年を境に減少傾向にあるようですが、構成は時代と共に変わってきており、タバコの自動販売機が減る一方で、食品自動販売機が増えているようです。個人的に自動販売機で購入する機会が減っているような気がしていますが、最近の自動販売機事情を調べてみました。
 自動販売機は基本24時間365日いつでも購入できますし、商品が確認できますし、そもそも自動販売機の前に立っている段階で、概ね購入したいものが限定されているので、店内に入って商品を探すスタイルのコンビニの取引に比べて手軽で、待ち時間もありません。キャッシュレスにも対応していますし、抗菌タイプのボタンにするなど、世の中の動きに合わせた販売スタイルで、若い人にも受け入れられるような工夫がなされています。飲み物や食品を取り扱っている自動販売機には、保温、冷蔵、冷凍などの機能が備わっており、これらの機能にレンジ機能を追加して、熱々の麺類の販売、冷蔵ではケーキ、野菜、果物といった食品、また冷凍で餃子や一流レストランで提供されている食事が購入できる 自動販売機が登場しています。食品以外にもアクセサリー、服、香水などの 自動販売機も出てきています。 カメラを搭載しAI(人工知能)が内蔵された自動販売機は、購入希望者個人にぴったりの商品を提案してくれます。また、このタイプの自動販売機は、搭載しているカメラにより購入者や興味を示した人をチェックし、内蔵されたAIがその人の外見や性別、視線などの情報を分析して、どのような人にどのような商品が売れるのかをリサーチできます。スーパーやコンビニでもやっているPOS(「Point of Sale」の略称で、販売時点情報管理のこと)を無人でやっているということです。また、カメラを搭載しているので、自動販売機本体の防犯機能だけでなく、災害時に被害地域の映像などを送り、遠隔地から被害状況を把握したり、近隣で犯罪や事件が起こった際、録画した映像データを警察に提供し、犯罪の早期解決や犯罪防止に貢献しているものもあります。機能的なものの他にも、24時間好きな時間に結婚指輪が買える自動販売機や手書きラブレターの自動販売機など、商品に工夫を凝らしたものもあるようです。
 最近、急に寒くなってきて、温かい飲み物が欲しくなるわけですが、自動販売機には1976年ごろから始まったホット&コールド機能があります。設置場所の特性にも依りますが、気温が15℃で切り替えるというのが業界の目安だそうです。常に温かいものと冷たいものを提供できるのは、実は世界的にみるととても珍しい機能だそうですが、近頃は健康志向の高まりを受け、飲み物を常温で提供する機能をもつ自動販売機も出てきているそうです。また、常にホット&コールド機能を稼働すると消費電力が大きくなるので、売れる本数を予測して最初の数本のみを温めたり冷やしたりするというゾーンヒーティング・クーリング機能が広がっているそうです。構造にも工夫があります。炭酸飲料を販売している自動販売機がありますが、買ってすぐ開封しても吹き出してしまうことはありません。実は、炭酸飲料が吹き出さないように、落下の衝撃を抑える構造を備えているそうです。蛇腹状に転がって落ちてくる設計になっている上、扉が二重になっています。いったん最初の扉で受け止め、衝撃を吸収し炭酸飲料が吹きこぼれないようになっているそうです。また、商品が売り切れ表示になっても、実は数本余っているそうです。全て販売してしまうと、補充直後の商品は常温になってしまうので、数本分を冷やしたり温めたりすることで、常に適した温度の商品が出てくるようになっているそうです。自動販売機を設計している人は、買う人や環境のことを考え抜いているということでしょう。日本の技術の真髄がここにもあると感じます。

車内販売が終わる

 2023年8月のJR東海のニュースリリースのとおり、2023年10月末で車内販売が終了しました。車内販売を終了する理由は、静かな車内環境を求める意見があったことや、将来発生する可能性がある労働力不足への対応などだそうです。私が若かりし頃は、車内販売の売り子の方を呼び止めることがなかなかできず、それができるようになった時に「少し大人になったかな」などと思ったものです。購入するのは、コーヒーとアイスクリームが定番でした。少し割高感はありましたが、今でもその味は忘れられません。それがなくなるというのは少し寂しい感じがしますが、ホームの自動販売機で購入はできるそうです。私の場合は、車内販売の売り子の方から購入することに価値があったので、ホームで購入することはないかも知れませんね。ちなみに今でも、グリーン車ではモバイルオーダーができ、パーサーが持ってきてくれるそうです。さらに山陽新幹線では、全ての便というわけではないようですが、車内販売が継続されているそうです。しかし山陽新幹線でも、時期は明言されていませんが「人を介したサービスは廃止する方向にならざるを得ない」とし、将来的には終了するとの見通しを示されています。

日本のおもてなし

 現代の日本では、生活に必要なモノや便利なモノがすぐ手に入ります。いわゆる「モノ」に価値を感じる「モノ消費」よりも、「経験」や「感情の高揚」といった目に見えないモノ、いわゆる「コト消費」に価値を見出す人が増えてきたように思います。新幹線の車内販売終了というのは、人件費等も考慮すれば、仕方のないことかも知れません。しかし、海外の鉄道における車内販売も一時は廃止が進んでいたようですが、他の移動手段との差別化を図るために採算度外視で復活させている路線もあるようです。旅情という言葉があります。旅先で感じるしみじみとした思いや情趣のことです。旅情は、旅の風景や食べ物、人との出会いなどによって引き起こされる、普段とは違う感覚や気持ちで、良い思い出として残ることが多いそうです。
 日本政府は、2023年6月5日に観光立国推進閣僚会議を開催し、「新時代のインバウンド拡大アクションプラン」を決定しました。このアクションプランでは、「ビジネス分野」、「教育・研究分野」、「文化芸術・スポーツ・自然分野」の3つの分野を柱とし、合計約80の施策によって、国際的な人的交流を伴う取組みの深化と掘り起しを図り、インバウンドの着実な拡大を図ることを目指しています。訪日外国人の目的は、日本食を食べること、メイドインジャパン製品を購入すること、自然・景勝地を訪れること、繁華街を散策することなどが挙げられますが、重要なポイントとして、日本人を知りたいという気持ちが強いそうです。
 日本人と言えば、おもてなしの心と言っても過言ではないと思います。効率性を考えれば、”おもてなし”は非効率で過剰なサービスと考えられ、最初にカットされてしまうのかも知れませんが、サービスを受け取る側は、そのことに感動し、付加価値として受け止めるのではないでしょうか。サービスの提供を効率化して得られた何らかの余剰は、ホスピタリティ精神満載のおもてなしに振り向けるという考え方があっても良いのではないかと感じるのです。

まとめ

 私が益田まで行って自動販売機のうどんを食べようと思ったのもコト消費の範疇だと思います。「自動販売機にお金を投入し、商品を選んでボタンを押す→機会が動き始める→タイマーがカウントダウンを始める→無愛想にうどんが出てくる」この一連の経験をエンターテインメントとして捉えていたと思います。
 おもてなしの方法は、もてなす相手によって異なりますし、もてなす側もハッピーになるのが日本のおもてなしだと思うのですが、このあたりは社会人1年生の息子と語り合ってみたいと思います。

この記事を書いたプロ

深田倍生

ITと企業経営両方の知識を持ち、企業のIT化を支援するプロ

深田倍生(株式会社テクノプロジェクト)

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