【親子問題】親子の問題はどこに相談すればよいのか|警察・行政・弁護士の役割分担
子が感情を抑えきれなくなり、家族のいる前で食器やリモコン、スマートフォンなどを投げる。物が壁に当たって大きな音がするたびに、年下のきょうだいや高齢の祖父母が身をすくめている――。直接殴られたわけではないため、「まだ暴力とまでは言えないのでは」と考え、どこにも相談できずにいる親御さんは少なくありません。
弁護士ドットコムにも、家族が手近な物を投げて壊す、警察に相談したものの親子げんかとして扱われた、といった相談が寄せられています。この記事では、成人した子を含め、子が家族の前で物を投げる場面について、法的な位置づけを確認したうえで、ほかの家族の安全をどう守るかを順に整理します。
本記事は2026年10月時点の法令に基づいて作成しています。いま身の危険を感じている場合は、記事を読み進める前に110番などで安全を確保してください。
物を投げる行為は、法的にどう扱われうるか
物を投げる行為は、何に向けて投げたか、何が起きたかによって評価が変わります。親子の間であっても、暴行罪や傷害罪などの規定はそのまま適用されます。
| 場面 | 問題となりうる罪名 | 補足 |
|---|---|---|
| 人に向けて投げたが当たらなかった | 暴行罪(刑法208条) | 人の身体に向けた有形力の行使として、当たらなくても暴行にあたるとされた裁判例があります |
| 投げた物が当たってけがをした | 傷害罪(刑法204条) | 診断書の有無が後の判断に影響することがあります |
| 親や家族の物を投げて壊した | 器物損壊罪(刑法261条) | 告訴がなければ起訴されない親告罪です |
| 「次はお前に投げる」などと告げて物を投げた | 脅迫罪(刑法222条) | 家族の生命や身体に害を加える旨を告げた場合に問題となります |
暴行罪の法定刑は2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金などとされており、けがを負わせた場合の傷害罪は15年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。もっとも、親子の間の出来事がすぐに立件されるわけではなく、警察は暴力の程度や繰り返しの有無、家族の意向などを踏まえて対応を判断するのが一般的です。親子間で刑事手続がどこまで及ぶかは、【親子問題】親子間の暴行・傷害は立件されるのか|特例が及ばない範囲で整理しています。
壊された物の扱いについては【親子問題】壁や家具を壊された|器物損壊として扱えるか、言葉による脅しについては【親子問題】「殺す」と言われた|脅迫罪として扱われる線引きもあわせてご覧ください。
「家族の前で」投げることが持つ意味
物を投げる行為は、狙った相手だけでなく、その場にいるほかの家族にも影響します。投げた物が跳ね返る、割れた食器の破片が飛ぶなど、狙われていない家族がけがをするおそれがあります。足腰の弱い高齢の家族は、とっさに身をかわすことも難しいでしょう。
また、目の前で物が飛び交う状況が続くと、家族は常に子の機嫌をうかがって暮らすようになります。特に18歳未満のきょうだいがいる場合、直接手を上げられていなくても、心に大きな負担がかかることがあります。厚生労働省の資料でも、虐待が直接及んでいないきょうだいについて、心理的な影響への配慮が必要であると指摘されています。
一方で、子が物を投げる段階は、人への暴力に至る前の時期であることも少なくありません。物に向かっている段階のうちに、家族を守る準備を始めておくことに意味があります。前触れの段階での備えは、【親子問題】子の暴力が始まる前触れに気づいたとき、何をしておけばいい?で取り上げています。
その場でほかの家族の安全を守るために
止めに入るより、まず距離をとる
子が物を投げているとき、手をつかんで止めようとしたり、正面から言い返したりすると、かえって興奮を強め、投げる対象が人に移るおそれがあります。物は後から買い直せますが、人のけがは取り返しがつかないこともあります。まずは、投げる物と家族の間に距離をとることを優先してください。
守る順番と役割を決めておく
落ち着いているときに、同居の家族で次のような点を話し合っておくと、いざというときに動きやすくなります。
- 年下のきょうだいや高齢の家族を、誰がどの部屋や家の外へ連れていくか。
- 子を刺激しないよう、その場に残って様子を見る人を置くかどうか。
- 家の外に出るときに持ち出すスマートフォン・鍵・財布・常用薬の置き場所。
- 110番をする人と、通報をためらわない目安。
子に見つからない形で決めておくことが前提です。家族の誰かが子をかばって方針が割れていると、いざというときに動きがそろわないこともあります。
危険を感じたら110番をためらわない
重い物や割れ物を人に向けて投げている、刃物を手に取った、家族が逃げられない状況にある、といった場合には、ためらわず110番を検討してください。家庭内のことだからと通報を控える必要はありません。通報の目安と伝える内容は【親子問題】110番を呼ぶ判断基準|その場で何を伝えるか、刃物が出た場合は【親子問題】子が刃物を持ち出した|その場での判断と通報で整理しています。
落ち着いた後に残しておきたい記録
子が落ち着いた後は、その日のうちに記録を残しておくことをおすすめします。後から警察や弁護士に相談する際、「いつ、何を、誰の前で投げたのか」を具体的に示せるかどうかで、相談先の受け止め方が変わることがあります。
| 記録しておきたいこと | 具体的な内容の例 |
|---|---|
| 日時と場所 | 〇月〇日の夜10時ごろ、台所で |
| 投げた物と向けた先 | マグカップを母親の方向へ投げた |
| 壊れた物・跡 | 割れた食器、へこんだ壁を日付が分かる形で撮影 |
| その場にいた家族 | 小学生の弟、祖母が居間にいた |
| けがや体調の変化 | 破片で手を切った、眠れなくなったなど |
けがをした場合は、軽く見えても早めに受診し、診断書の取得も検討してください。詳しくは【親子問題】診断書はいつ取るべきか|傷害の立証をご覧ください。記録は子に見られない場所で保管し、保管場所は家族の中でも限られた人だけが知っている状態にしておくと安心です。翌日に取り組みたいことは【親子問題】子が夜中に暴れた翌朝|親がその日のうちにすることにまとめています。
家の中の環境を見直す
投げられやすい重い物や割れ物、刃物などを、手の届きにくい場所へ少しずつ移しておくことも一つの備えです。急に片づけると子が不審に思うこともあるため、目立たない形で進めるのが現実的です。
あわせて、きょうだいや高齢の家族が逃げ込める部屋や、玄関まで移動しやすい動線を確認しておきます。ただし、子を家から締め出す、子の部屋に外から鍵をかけるといった対応は、法的な問題や新たな衝突を生むおそれがあります。どこまでが許されるかは【親子問題】鍵を替える・締め出すことの可否|自力救済の限界で解説しています。
ほかの家族を家から離すという選択
物を投げる行為が繰り返され、家族が安心して眠れない状態が続く場合は、一時的にほかの家族を家から離すことも選択肢になります。親族の家や知人宅、ホテルなど、身を寄せる先の候補を持っておくだけでも、判断の幅は広がります。考え方は【親子問題】避難先の確保|一時的に親が家を出るという選択をご覧ください。
18歳未満のきょうだいがいる場合は、児童相談所(虐待対応ダイヤル189)に相談することもできます。児童虐待防止法では、保護者が同居人による子への暴力などを放置することも虐待の一つに数えられています。親御さんを責めるための仕組みではなく、きょうだいを守るために外の力を借りる窓口と考えてよいでしょう。被害を受けているのが高齢の家族であれば、【親子問題】高齢の親が被害者の場合|行政が動く仕組みで紹介している窓口も使えます。配偶者やきょうだいへの影響が大きい場合は、【親子問題】きょうだいや配偶者にも暴力が及んでいる場合もあわせてご覧ください。
相談先の使い分け
| 相談先 | 主に担っている役割 |
|---|---|
| 警察(110番・#9110) | 身の安全に関わる緊急の対応、継続的な相談の記録 |
| 児童相談所(189) | 18歳未満のきょうだいの安全確認や心のケア |
| 地域包括支援センター・市区町村の窓口 | 高齢の家族の保護、生活上の困りごとの相談 |
| 精神保健福祉センター | 子の心の不調や医療につなぐかどうかの相談 |
| 弁護士 | 法的な整理、親の代理人として子との窓口を担う対応 |
警察に相談しても具体的な対応につながらなかった、という声は少なくありません。それでも、相談した事実が記録として残ることには意味があります。理由については【親子問題】「家庭の問題」と言われて警察が動かないのはなぜかと【親子問題】警察に相談した記録を残す意味|相談票と後の手続で解説しています。
当事務所では、暴力や金銭の要求に悩む親御さんの代理人として、子との間の窓口を担う対応を行っています。親が直接やり取りを続けることで衝突が起きやすい場合、弁護士が間に入ることで、家族が正面からぶつかる場面を減らせることがあります。また、子を孤立させるだけでは自立につながらないという考えから、民間の自立支援カウンセラーと役割を分担し、親の保護と子の生活面の支援を並行して進めています。詳しくは【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応をご覧ください。
よくあるご質問
投げた物が誰にも当たっていなければ、問題にはならないのですか
人に向けて投げた場合は、当たらなくても暴行罪にあたるとされた裁判例があります。ただし、実際にどう扱われるかは、投げた物の大きさや距離、その場の状況によって変わります。当たらなかったから大丈夫と考えず、記録を残しておくことをおすすめします。
子が投げて壊したのが子自身の物だった場合はどうなりますか
自分の物を壊しても、原則として器物損壊罪にはあたりません。ただ、家族のいる前で物を投げつける行為そのものが、家族を怖がらせ、危険にさらしていることに変わりはありません。罪になるかどうかとは別に、家族の安全を守る備えを進めてください。
被害届を出すと、家族関係が壊れてしまわないか心配です
被害届を出すかどうかは、家族の安全、子の今後、関係の修復の見通しなどを踏まえて判断することになり、一律の正解はありません。出す前に考えておきたい点は【親子問題】被害届を出すと家族関係はどうなるのか|出す前に考えることで整理しています。
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まとめ
子が家族の前で物を投げる行為は、人に向けられていれば暴行にあたることがあり、狙われていない家族にとっても危険や大きな負担になります。止めに入るより距離をとること、守る順番を家族で決めておくこと、落ち着いた後に記録を残すこと、そして必要に応じてほかの家族を家から離すことが、家族全体の安全につながります。親御さんだけで抱え込まず、早めに外の窓口へつないでいくことを考えてみてください。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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