【親子問題】診断書はいつ取るべきか|傷害の立証
本記事は2026年9月時点の法令に基づいて解説しています。制度の運用には自治体ごとの違いがあるため、実際の手続は窓口でご確認ください。
同居している子の暴力が、相談者である親だけでなく、下のきょうだいや、もう一方の親にも向いている。当事務所にお寄せいただくご相談では、こうした状態になっていることが少なくありません。ところが「家庭内暴力」という言葉で情報を探すと、出てくる解説の多くは夫婦間の暴力を前提としたもので、一つの家の中に被害を受けている人が複数いる場面を正面から扱ったものは多くありません。
家族から見れば一続きの出来事でも、制度の側は「誰が被害を受けたか」で入口を分けています。そこを知らないまま一つの窓口に相談すると、別の窓口を案内されるやり取りが続き、時間だけが過ぎてしまうことがあります。この記事では、被害を受けている人が複数いる場合に、どの制度が誰に使えるのか、そしてどの順序で手をつけるのかを整理します。暴力を受けた直後の安全確保と記録の残し方そのものは、【親子問題】子から暴力を受けている|まず確保すべき安全と記録で扱っています。
被害者ごとに入口が分かれるという前提
| 被害を受けている人 | 主な窓口 | 使える枠組み |
|---|---|---|
| 65歳以上の親 | 市町村・地域包括支援センター | 高齢者虐待防止法に基づく通報と分離の措置 |
| 未成年のきょうだい | 児童相談所・市町村 | 児童福祉法に基づく通告と一時保護 |
| 障害のあるきょうだい | 市町村障害者虐待防止センター | 障害者虐待防止法に基づく通報と分離の措置 |
| 成人のきょうだい・65歳未満の親 | 警察・弁護士 | 刑事手続と民事の手続 |
| 暴力を振るう子の配偶者 | 配偶者暴力相談支援センター・地方裁判所 | 配偶者暴力防止法の保護命令 |
同じ子が同じ家の中で同じ行為をしていても、使える枠組みは被害を受けた人の属性で変わります。家族をまとめて一つの事件として保護する制度は用意されていない、というのがこの表の意味するところです。
高齢の親が被害を受けている場合
高齢者虐待防止法は、養護者による虐待を受けたと思われる高齢者を発見した人に対し、生命または身体に重大な危険が生じている場合は速やかに市町村へ通報しなければならないと定めています(7条1項)。それ以外の場合も通報の努力義務があります(同条2項)。通報を受けた市町村は、一時的に保護するため老人福祉法に基づく措置を講ずるものとされています(9条2項)。
注意しておきたいのは面会制限です。市町村長などが養護者との面会を制限できるのは、この措置による分離が採られた場合とされています(13条)。本人が契約によって施設に入る形をとったときは、この条文による面会制限の対象にはなりません。どの形で分離するかによって、その後に使える手当まで変わります。
なお、この法律が直接の対象としているのは「養護者」による虐待であり、親が中高年の子の世話をしている関係では対象にならないと整理される場合があります。もっとも、警察庁の通達では、養護の実態の判断が難しい事案であっても、加害者が高齢者と同居している場合には高齢者虐待事案とみなして市町村へ通報することとされています。対象外だとご自身で判断せず、まずは地域包括支援センターにご相談ください。行政が動く仕組みの詳細は次の記事で整理しています。
【親子問題】高齢の親が被害者の場合|行政が動く仕組み
未成年のきょうだいが被害を受けている場合
児童虐待防止法は、保護者以外の同居人による身体的虐待などと同様の行為を放置することも、保護者によるネグレクトに当たると定義しています(2条3号)。つまり、きょうだいからの暴力が続いている状態を知りながら手を打たずにいると、制度の上では親の側の監護が問われる形になり得ます。
これは親を責めるための規定ではなく、外部に相談する動機として受け止めていただきたい部分です。要保護児童の通告は誰でも行えます(児童福祉法25条)。児童相談所が関与すれば、必要に応じて一時保護という分離の手段が検討されます。
障害のあるきょうだいが被害を受けている場合
障害者虐待防止法では、養護者による虐待を受けたと思われる障害者を発見した人に通報義務が定められています(7条1項、18歳未満の障害者については児童の枠組みによります)。通報を受けた市町村は、生命または身体に重大な危険が生じているおそれがあると認めるときは、一時的に保護するための措置を講ずるものとされ(9条2項)、その措置が採られた場合には面会を制限することができます(13条)。窓口は市町村の障害者虐待防止センターです。
暴力を振るう子の配偶者が被害を受けている場合
子が結婚していて、その配偶者にも暴力が及んでいる場合は、配偶者暴力防止法の保護命令という、家の中でほかの誰も使えない枠組みが登場します。保護命令には被害者への接近禁止命令など6類型があり、その一つに被害者の親族等への接近禁止命令があります。成年の子を含む親族も対象になり得るため、同居する親やきょうだいが結果的に射程に入る場面があります。
ただし申立てができるのは被害を受けた配偶者本人であり、親族等への接近禁止命令は、本人への接近禁止命令が出ていることと当該親族等の同意があることが前提です。家族の側が本人に代わって申し立てることはできません。
刑事の扱いは被害を受けた人ごとに分かれる
親族間の窃盗などの財産犯には刑が免除される特例があります(刑法244条)。一方で、暴行・傷害・脅迫にはこの特例が置かれていません。家族間だからという理由で処罰の対象外になるわけではない、という点は押さえておいてください。
そして被害を受けた人が複数いれば、犯罪もその人ごとに成立します。被害届や告訴もそれぞれの名前で出すことになり、処罰を求めるかどうかの判断も各自に委ねられます。親が届出をしても、きょうだいの被害が自動的に一緒に扱われるわけではありません。
関連する論点は、次の記事で解説しています。
どこから手をつけるか
全員について同時に動くことは、現実には難しいことがほとんどです。優先順位をつける必要があり、当事務所では次の順に考えています。
- 自分の意思で家を離れることが難しい人(未成年、介護が必要な方、障害のある方)。
- 医療につなぐ必要がある人(外傷がある、持病が悪化している)。
- 暴力が集中して向けられている人。
順序をつけるのは、誰かを後回しにするためではありません。先に動ける人が動くと、残った人への圧力が強まることがあるためで、自力では動けない人の手当を先に組んでおく必要があります。
分離の形は三つ|それぞれの制約
- 家族全員で家を出る。最も安全が確保しやすい一方で、住まいと費用の手当が同時に必要になります。
- 被害を受けている人が先に出る。動きやすい反面、残る人が矛先を受けることがあります。
- 子に出てもらう。任意に応じない場合は明渡しを求める手続が必要で、時間がかかります。
どれを選ぶにしても、移った先の住所が知られてしまっては意味がありません。住民基本台帳の支援措置は、配偶者からの暴力やストーカー行為、児童虐待のほか、これらに準ずる行為の被害者も対象とされています。さらに、申出者と同一の住所を有する方についても併せて実施を求めることができるため、家族の複数人をまとめて対象とする申出が可能です。期間は1年で、延長の申出ができます。原則として先に警察などの相談機関へ相談しておく必要があります。
それぞれの形の進め方は、次の記事で整理しています。
- 【親子問題】避難先の確保|一時的に親が家を出るという選択
- 【親子問題】子を家から出ていかせることはできるのか|占有と明渡し
- 接近禁止を実現する2つの道|ストーカー規制法(警察)と民事保全(裁判所)の使い分け
記録は被害を受けた人ごとに分ける
窓口が分かれるということは、同じ出来事を別々の機関に何度も説明することを意味します。そのたびに記憶をたどると、説明の食い違いが生まれます。
おすすめしているのは、家族で共有する時系列の記録を1本作り、その中に誰が何をされたかの欄を分けて書いておく方法です。診断書は、けがをした本人の名前で取っておきます。家族の誰かがまとめて代表するような形では、後の手続で使いにくくなります。
家族の中で判断が割れるとき
通報や届出に踏み切りたい人と、まだ様子を見たい人が家族の中で分かれることがあります。届出をするかどうかは、それぞれの被害を受けた本人が決めることであり、家族の合意が前提になるわけではありません。
弁護士に依頼する場合も、誰が依頼者になるのかを最初に決めます。守秘義務の向きも、連絡の取り方も、そこから決まるためです。親が高齢で動けず、きょうだいが相談に来られる場合は、本人の意思をどう確認するかを含めて整理していきます。
【親子問題】きょうだいが相談者になる場合|親が動けないとき
当事務所の取り組み
当事務所では、親側の代理人として子と対峙する役割を弁護士が担い、民間の自立支援カウンセラーとチームを組んで、子の側の生活支援(住まい探し、仕事探し、日々の金銭管理など)を並行して進める形をとっています。子の側を孤立させたままでは、家から離してもまた戻ってしまうことがあるためです。
人が関わることですので結果をお約束することはできません。それでも、物理的な距離が生まれるだけで双方に変化が訪れる場面を、これまでに見てきました。体制の詳細は次の記事でご説明しています。
【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応
よくあるご質問
親が被害届を出せば、きょうだいの被害も一緒に扱ってもらえますか
被害を受けた人ごとに別の犯罪として扱われるため、自動的に一緒にはなりません。きょうだいの被害についても、本人の名前で届け出る必要があります。同じ相手による一連の行為として説明できるよう、時系列の記録を用意しておくと進めやすくなります。
きょうだいが未成年です。相談すると親の監護が問われませんか
同居人による暴力を放置している状態が続くほうが、制度上は問題になり得ます。相談や通告は、手を打っている経過を示すことにもつながります。ためらって時間が過ぎることのほうが、後から見ると不利に働くことが多いと考えています。
同居している子に接近禁止命令を出すことはできますか
配偶者暴力防止法の保護命令は配偶者等からの暴力を対象としているため、親子の間では原則として使えません。民事保全の手続による差止めを検討することになりますが、要件や実現までの時間が異なります。個別の事情によって選べる手段が変わりますので、早めにご相談ください。
被害を受けている人が複数いる家庭では、誰から手をつけるか、どの順で離すかという判断が、その後の安全を大きく左右します。ご家族だけで組み立てるには負担の大きい部分ですので、整理の段階からお手伝いできればと思います。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


