【親子問題】診断書はいつ取るべきか|傷害の立証

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

本記事は2026年9月時点の法令に基づいています。制度や運用は改正等により変わることがありますので、実際のご判断にあたっては最新の情報をご確認ください。


「あのとき病院に行っておけばよかった」。子から暴力を受けている親御さんのご相談で、後になってこう振り返られる方は少なくありません。腕のあざは数日で消え、痛みも引いてしまい、残っているのは記憶だけという状態でご相談にみえます。

 インターネット上の解説の多くは「診断書を取りましょう」という一文で終わっています。ただ、親御さんが迷われるのはその手前です。息子を警察に突き出したいわけではない、大ごとにするつもりもない。そうした気持ちがある中で、診断書を取ることが後戻りできない一歩のように感じられる、というお話をよく伺います。

 この記事では、診断書をいつ取るのか、取ったものが何に使えるのかを整理します。結論から申し上げると、取ることと使うことは別の判断であり、切り離して考えられます。暴力を受けた直後の安全確保と記録全般については【親子問題】子から暴力を受けている|まず確保すべき安全と記録、罪名や立件の考え方については【親子問題】親子間の暴行・傷害は立件されるのか|特例が及ばない範囲で扱っています。

急ぐのは診断書ではなく受診

診断書は、診察を受けた後に、診療の記録をもとに作られる書面です。その日のうちに受け取らなくても、診察を受けてさえいれば、後から作成を依頼できる場合があります。反対に、受診していなければ、当時のけがについて後から診断書を作ることはできません。

 つまり、急ぐべきなのは診断書の受け取りではなく、医師の診察を受けることそのものです。書面をどうするかは、受診を済ませた後でゆっくり考えても間に合う場面があります。なお、けがをした直後にその場で通報するかどうかの判断は【親子問題】110番を呼ぶ判断基準|その場で何を伝えるかをご覧ください。

後から依頼できる根拠

医師法19条2項は、診察をした医師は、診断書の交付を求められた場合、正当の事由がなければこれを拒んではならないと定めています。また、診療録は5年間保存することとされています(医師法24条2項)。数か月前の受診であっても、記録が残っていれば作成を相談できるということです。

 ただし、書いてもらえるのは診療録に残っている範囲に限られます。受診したときに話さなかったことや、診察を受けていない部位のことは、後から付け加えることができません。

受診が遅れると何が変わるか

受診までに日が空くと、その間に別の原因でけがをした可能性が出てきます。そうなると、そのけがが本当にその日の出来事によるものかを、写真や他の記録で補って説明することになります。当日か翌日までに受診できると、この説明そのものが要らなくなります。

 夜間や休日で近くの医療機関が閉まっている場合は、救急外来でも受診の記録は残ります。体調や状況が許すのであれば、日をまたがずに一度診てもらうという判断が現実的です。

受診のときに何を伝えるか

医師は暴力の場面を見ていません。けがの原因は、ご本人が話した内容として診療録に記録されます。したがって、診断書に何が書かれるかは、受診のときに何を伝えたかによって変わってきます。

  • いつ(日付と時刻)、どこで起きたことかを伝えます。
  • 誰から、どのような行為を受けたかを具体的に伝えます。
  • 痛みのある部位は、見た目に変化がなくてもすべて伝えます。
  • 以前にも同じことがあった場合は、その経緯も伝えます。
  • 仕事や家事に支障が出ている場合は、その内容も伝えます。


 「殴られた」とだけ伝えるより、「手のひらで左の頬を叩かれた」「肩を押されて床に倒れた」というように、動作の形で伝えるほうが記録として具体的になります。

「転んだ」と説明してしまった場合

子のことを悪く言いたくない、同居している子が付き添っている、といった事情から、その場では違う説明をしてしまう方がいらっしゃいます。実際、当事務所にご相談にみえる方でも珍しいことではありません。

 後から訂正ができなくなるわけではありませんが、当初の記録と食い違う経緯については、なぜそう説明したのかを補う必要が出てきます。気づいた段階で、次の受診の際に正確に伝え直しておくことをおすすめします。

診断書に書かれること

一般的な診断書には、傷病名、部位、受傷した日、作成した日、治療にかかる見込みの期間が記載されます。ここで混同されやすいのが「全治」と「加療」です。全治は治るまでの見込みを、加療は治療を要する期間を指しており、同じ意味ではありません。

 期間の数字は、処分や賠償額を判断する場面で見られる材料の一つです。もっとも、数字の大小だけで結論が決まるわけではありません。どのような態様の行為だったか、繰り返されているか、といった事情とあわせて見られます。「全治3日では意味がないのでは」とためらわれる方がいますが、程度が軽くても、出来事があったことを示す記録としての意味は残ります。

何に使うのかで、必要な形は変わる


使う場面主に見られる部分取っておく時期
警察への相談・被害届けがの部位と程度、暴力との結びつき受傷の直後
刑事の手続けがの有無と程度受傷の直後
治療費や慰謝料の請求通院の期間と回数治療が続く間、継続して
高齢者虐待防止法に基づく通報・分離生命または身体への危険の程度市町村に相談する前後
一時的な避難や支援措置の申出被害が実際にあったことと継続の有無転居や申出の前


 この表の要点は、診断書は刑事の手続のためだけの書面ではないということです。取っておくことは、処罰を求めると決めることではありません。後で選べる状態にしておく、というだけの作業です。被害届を出すかどうかの判断そのものについては【親子問題】被害届を出すと家族関係はどうなるのか|出す前に考えることで整理しています。

 なお、配偶者からの暴力であれば裁判所の保護命令という枠組みがありますが、親子の間ではこれを使えません。使える手段が違う分、診断書の使いどころも変わってきます。この違いについては家庭内で手が出た|家族間の暴行・傷害とDV法の関係をご覧ください。

親が65歳以上の場合

ご本人が65歳以上であれば、高齢者虐待防止法の枠組みが加わります。虐待を受けたと思われる高齢者を発見した人は市町村に通報することとされ、生命または身体に重大な危険が生じている場合は通報が義務とされています(同法7条)。その後、やむを得ない事由による措置として分離が図られたり(同法9条2項)、養護者との面会が制限されたりする場合があります(同法13条)。

 市町村はまず事実確認を行いますが、家庭の中の出来事は外から見えにくいものです。医療機関に残った記録は、その場面で使える数少ない客観的な材料になります。制度全体の見取り図は【親子問題】親子の問題はどこに相談すればよいのか|警察・行政・弁護士の役割分担で扱っています。

繰り返されている場合は、1回ごとに残す

何年も続いているご家庭ほど、「今回の1回」を特別なものとして扱いにくくなります。ただ、手続の側は出来事ごとに見ていきます。何年分かをまとめて1通の診断書にすることはできませんし、まとめて説明しても、いつの何を指しているのかが特定できません。

 1回ごとの記録が積み重なると、頻度や程度がどう変わってきたかが分かる資料になります。以前より程度が上がってきているという経過は、いま危険が差し迫っているかを判断する場面で見られる事情です。手間はかかりますが、その都度残しておく価値があります。

目に見えないけが

外傷が残らない場合もあります。怒鳴られる状態が続いて眠れない、食事がとれない、家にいると動悸がするといった不調です。最高裁は、精神的機能の障害を生じさせた場合も刑法にいう傷害に当たると判断しています(最高裁平成24年7月24日決定)。

 もっとも、精神科や心療内科の診断書に「子の暴力が原因」と書かれるとは限りません。医師は原因の断定に慎重であることが多いためです。それでも、いつから通い始め、どのくらい続いているかという記録は、時期の結びつきを示す材料になります。早めに受診し、通院を続けておくことに意味があります。

費用と、家族が相手であるときの手続

診断書の作成料は健康保険の対象外で、金額は医療機関ごとに異なります。あらかじめ窓口で確認しておくと、想定外の負担になりません。

 また、けんかや暴力によるけがの治療に健康保険を使う場合、第三者の行為による傷病として届出を求められることがあります(健康保険法施行規則65条)。保険者が立て替えた費用を加害者に請求する仕組みがあるためです。同居のご家族が相手である場合の取扱いは保険者によって異なりますので、加入先の窓口にご確認ください。この届出をするかどうかと、診断書を作ってもらうかどうかは、別々の手続です。

動ける期間には限りがある


  • 暴行罪の公訴時効は3年、傷害罪は10年です(刑事訴訟法250条2項)。
  • 損害賠償の請求は、人の生命または身体を害する不法行為について、損害と加害者を知った時から5年です(民法724条の2)。
  • 診療録の保存期間は5年です(医師法24条2項)。


 ここで見落とされやすいのが、制度上の期間より先に、元になる記録のほうが失われる場合があるという点です。いますぐ動くつもりがなくても、受診だけは早い段階で済ませておくと、後から選べる幅が残ります。

よくあるご質問


子に知られずに受診できますか

受診そのものはご本人の判断で行えます。ただ、同じ家に住んでいると、通院の予定や医療機関からの郵便で知られる可能性があります。かかりつけ以外の医療機関を選ぶ、書類の送付先を相談するといった方法があります。受け取った診断書は、家の外にも控えを置いておくとよいでしょう。記録の残し方は証拠の残し方|あとで警察・弁護士に通用する記録とはで扱っています。

数か月前のけがでも診断書は取れますか

当時受診していれば、記録が残っている可能性があります。まずは受診した医療機関にお問い合わせください。受診していなかった場合、そのときのけがについての診断書を作ることはできませんので、写真や相談の記録で補うことを考えます。

診断書を出すと事件になりますか

診断書を持っているだけでは手続は始まりません。警察に提出して初めて、けがの有無を前提とした扱いが検討されます。提出した後も、処罰を求めるかどうかは別の判断として残ります。提出したものの受け取ってもらえなかった場合の進め方は被害届を受理してもらえない|断られたときにできることをご覧ください。

まとめ


  1. 急ぐべきなのは診断書の受け取りではなく、医師の診察を受けることです。
  2. 診察を受けていれば、後から診断書の作成を依頼できる場合があります(医師法19条2項)。
  3. 受診の際は、いつ、誰から、どのような行為を受けたかを具体的に伝えます。
  4. 「全治」と「加療」は意味が異なり、期間の数字だけで結論が決まるわけではありません。
  5. 診断書は刑事の手続のためだけの書面ではなく、通報や分離、賠償の場面でも使われます。
  6. 繰り返されている場合は、出来事ごとに分けて記録を残します。
  7. 暴行罪は3年、傷害罪は10年という期間があり、診療録の保存期間は5年です。


親子の問題でお困りの方へ

診断書を取るかどうかで迷われている段階は、「このまま我慢を続けるのか、何か動くのか」を決めかねている段階でもあります。当事務所は、その判断を急がせることはしません。まず、いま何が起きていて、何が残っているのかを一緒に整理するところから始めます。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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