【親子問題】子の交際相手が金銭を要求してくる|親が支払う義務と、窓口を代える判断
この記事は、2026年10月時点の刑法、暴力行為等処罰に関する法律、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(以下「精神保健福祉法」)、銃砲刀剣類所持等取締法などに基づいて書いています。2025年6月1日に改正刑法が施行され、懲役・禁錮は「拘禁刑」に一本化されたため、法定刑はその表記に合わせています。
「台所から包丁を持ってきて、こちらに向けた。通報したら息子の人生が終わってしまう気がして、電話を握ったまま動けなかった」。親子の問題でご相談を受けていると、こうしたお話を伺うことがあります。一方で、「警察を呼んだら本人がかえって逆上するのではないか」と、通報そのものをためらう声も少なくありません。
家庭内暴力についての一般的な解説は、「身の危険を感じたら110番を」と結ばれるものがほとんどです。それ自体は正しいのですが、刃物が出た場面では、通報する前の数十秒に何をするか、通報で何を伝えるか、警察が来た後にどのような手続に進みうるかを知っているかどうかで、親の動き方が大きく変わります。
この記事では、子が刃物を持ち出した場面に絞って、その場での判断と通報、警察到着後の流れ、その夜から翌日にかけてのことを整理します。刃物を伴わない暴力も含めた110番の判断基準は【親子問題】110番を呼ぶ判断基準|その場で何を伝えるかで、暴力を受けているときの安全と記録の全体像は【親子問題】子から暴力を受けている|まず確保すべき安全と記録で扱っています。
刃物が出た時点で、通報を迷う段階は過ぎている
刃物を向けただけでも犯罪にあたりうる
けががなくても、刃物を示して「殺す」などと告げれば脅迫罪(刑法222条)の対象となります。さらに、凶器を示しての脅迫や暴行は暴力行為等処罰に関する法律1条により、3年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金と、通常の脅迫罪より重く扱われます。身体に当たっていなくても、狭い室内で刃物を振り回す行為を暴行にあたるとした最高裁の決定もあります(最高裁昭和39年1月28日決定)。刃物の向け方や言葉によっては、殺人未遂の疑いで捜査されることもあります。
刃物が出た時点で、法律上は「家庭内のもめごと」ではなく、警察が扱う事件になりうる状態だということを、まず押さえておいてください。
親子だからという特例はない
刑法には親族間の犯罪について刑を免除する特例(刑法244条)がありますが、これは窃盗など財産に関する罪に限った規定で、暴行・脅迫・傷害には及びません。親子間の暴行・傷害がどのように扱われるかは【親子問題】親子間の暴行・傷害は立件されるのか|特例が及ばない範囲で詳しく説明しています。
「逮捕させたいわけではない」という迷い
通報をためらう親御さんの多くは、子を罰したいのではなく、その場を収めたいと考えています。ただ、110番は処罰を求める手続ではなく、まずはその場の危険を止めるための手段です。被害届を出すかどうかは、安全が確保された後で改めて考えることができます(【親子問題】被害届を出すと家族関係はどうなるのか|出す前に考えること)。刃物が出ている間は、親の安全と子自身の安全を優先させてください。
その場で親がとる行動
取り上げようとしない、説得を続けない
刃物を取り上げようとして手を伸ばすと、もみ合いになり、意図しない形で親子のどちらかがけがをするおそれがあります。興奮している相手に言葉を重ねることも、かえって刺激になる場合があります。刃物をどうにかしようとするより、刃物と自分との距離を取ることを先に考えてください。
出口に近い場所へ、可能であれば家の外へ
台所や行き止まりの部屋は避け、玄関に近い場所へ移ります。家の外に出られるなら、携帯電話を持って外へ出て、近所の家や店舗など人のいる場所から通報する方法もあります。内側から鍵のかかる部屋に入る場合も、通報できる手段は手元に置いておきます。その場で優先したい行動は次のとおりです。
- 刃物を取り上げようとしない。
- 子との間に距離を取り、出口に近い場所へ移る。
- 携帯電話を持って、可能であれば家の外へ出る。
- 家にいるほかの家族(きょうだいや高齢の家族)にも声をかけ、一緒に離れる。
- 安全な場所に移ったら、すぐに110番する。
子が自分自身に刃物を向けている場合
刃物が親ではなく子自身に向いているときも、通報をためらう必要はありません。自分を傷つけるおそれがある状態も、警察が対応する対象です。けがをしている場合は119番でも構いません。事件性があれば、消防から警察へも連絡が回ります。
110番で伝えること
最初に「刃物」「家族」「住所」を伝える
通報を受けた警察は、話を聞きながら並行して警察官を現場へ向かわせます。落ち着いて話せなくても、最初に「家族が刃物を持っている」ことと住所を伝えれば、あとは通信指令の担当者が質問してくれます。続けて伝えたい内容は次のとおりです。
- 刃物の種類(包丁、カッターなど)。
- 通報している自分が今いる場所(家の中か外か)。
- 子が今どこにいるか、刃物を持ったままか。
- けが人の有無と、家にいるほかの家族の人数。
- 子の年齢と、通院歴や服薬の有無などわかる範囲の事情。
- 以前にも警察に相談したことがあるか。
到着した警察官に伝えておきたいこと
警察官が到着したら、刃物がどこにあるか、ほかに刃物になりうるものがどこにあるかを伝えます。以前に警察署へ相談していれば、その時期や担当部署も伝えます。過去の相談の記録は、その場の警察官が状況を判断する材料になります。相談の記録を残しておく意味は【親子問題】警察に相談した記録を残す意味|相談票と後の手続で説明しています。
警察が到着した後に起きうること
刃物の確保と、逮捕に至る場合
警察官はまず刃物を確保し、子と家族を引き離して、それぞれから話を聞きます。刃物を向けた、振り回したといった行為が確認されれば、その場で現行犯逮捕となることもあります。逮捕された後の流れは【親子問題】子が逮捕された|親が最初にすべきことにまとめています。14歳未満の子は刑罰の対象になりませんが、児童相談所へ通告されるなど、別の枠組みで対応が進みます。
精神保健福祉法の警察官通報と措置入院
子の様子から、精神の不調によって自分や他人を傷つけるおそれがあると警察官が判断した場合、警察官は保健所長を経て都道府県知事に通報しなければならないとされています(精神保健福祉法23条)。通報を受けた都道府県は精神保健指定医に診察させ、2人以上の指定医の判断が一致して入院が必要とされれば、本人の同意がなくても入院させることができます(同法27条、29条)。これを措置入院といいます。
ここで知っておきたいのは、この警察官通報は、警察官が本人を直接取り扱った場面を前提にしていることです。警察の運用では、家族から相談を受けただけで警察官が本人に接していない場合は、原則として通報の要件である「発見」にあたらないとされています。刃物が出ているその場で110番をすることは、親の安全を守るだけでなく、必要に応じて医療につながる入口にもなりうるということです。
もっとも、措置入院になるかどうかは指定医の診察結果によるもので、通報すれば入院につながるというものではありません。精神の不調が疑われる場合の医療とのつなぎ方は【親子問題】ひきこもりと精神疾患の切り分け|医療につなぐ判断で扱っています。
逮捕も入院もされずに終わる場合
警察官が到着したときには子が落ち着いていて、注意を受けるだけで終わることもあります。その場合でも、通報した事実と警察が出動した記録は残ります。同じことが繰り返されたときに判断材料となるため、対応した警察署と警察官の名前など、わかる範囲で控えておいてください。
その夜から翌日にかけてのこと
家の中の刃物をどうするか
子が家に残る場合は、包丁などの刃物を目につく場所に置かないようにします。鍵のかかる場所にしまう、当面は必要な分だけを残してほかは家の外に預けるといった方法が考えられます。ただし、刃物を片付けたことで危険がなくなるわけではありません。片付けは、次に何かあったときに離れる時間を確保するための手段と考えてください。
親が一時的に家を離れるという選択
成人した子であっても、親の判断ですぐに家から出ていかせることは法律上できません(【親子問題】子を家から出ていかせることはできるのか|占有と明渡し)。そのため、刃物が出た夜は、親の側が親族の家やホテルに移るほうが現実的な場合があります。考え方と準備は【親子問題】避難先の確保|一時的に親が家を出るという選択で説明しています。親が65歳以上であれば、高齢者虐待防止法に基づいて市町村が関わる仕組みもあります(【親子問題】高齢の親が被害者の場合|行政が動く仕組み)。
その日のうちに記録を残す
日時、子の言葉、刃物の種類、どこに向けたか、警察が来た時刻と対応の内容を、その日のうちにメモしておきます。けがをした場合は医療機関を受診し、診断書の取得も検討してください(【親子問題】診断書はいつ取るべきか|傷害の立証)。
同じことを繰り返さないために
警察と医療が担える範囲
警察は起きた事件に対応し、医療は病状に対応します。どちらも欠かせない窓口ですが、刃物が出るまでに至った親子の関係そのものを、継続的に立て直す役割までは担えません。警察の対応が一度で終わり、しばらくして同じことが起きるというご相談が多いのは、この役割の違いによるものです。
弁護士とカウンセラーが入るという選択肢
当事務所では、弁護士が親の代理人として子との窓口を担い、民間の自立支援カウンセラーが子の生活の立て直しを支える形で、親子の問題に取り組んでいます。親と子がいったん距離を取り、子が自分の生活を組み立てられるよう支えることで、関係に変化が生まれることがあります。結果をお約束できるものではありませんが、警察や医療とは別の窓口として、ご家庭の状況に合わせた対応を考えます。詳しくは【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応と【親子問題】子の暴力・ひきこもり・お金の無心・犯罪行為に悩む親御さんへ|ご相談から自立までの流れと費用、よくあるご質問をご覧ください。
よくあるご質問
けがはなく、刃物を見せられただけです。それでも110番してよいのでしょうか。
差し支えありません。前述のとおり、けががなくても脅迫罪や暴力行為等処罰に関する法律の対象になりえます。緊急ではない相談には警察相談専用電話(#9110)もありますが、刃物が出ている場面は110番で構いません。
通報すると、子に前科がつくのでしょうか。
通報しただけで前科がつくわけではありません。前科は、起訴されて有罪判決が確定した場合につくものです。逮捕されても不起訴で終わることがあり、20歳未満であれば家庭裁判所の手続に進みます。前科と前歴の違いは【親子問題】前科・前歴が残ると何が変わるのか|親が知っておくことで説明しています。
子が刃物を持ったまま家の外へ出て行きました。どうすればよいですか。
すぐに110番してください。外にいる人に危害が及ぶおそれがあるうえ、業務その他正当な理由なく刃体の長さが6センチメートルを超える刃物を持ち歩くこと自体が禁じられています(銃砲刀剣類所持等取締法22条)。子の服装や向かった方向を伝えると、警察が探しやすくなります。持ち歩きについての罪の考え方は刃物を持ち歩いていただけ|銃刀法と軽犯罪法の使い分けで扱っています。
まとめ
- 刃物を示しての脅迫や暴行は、けががなくても脅迫罪(刑法222条)や暴力行為等処罰に関する法律1条の対象になりうる。
- 親族間の刑の免除(刑法244条)は財産に関する罪に限られ、暴行・脅迫・傷害には及ばない。
- その場では刃物を取り上げようとせず、距離を取って出口に近い場所や家の外へ移ってから110番する。
- 110番では家族が刃物を持っていることと住所を最初に伝え、子の居場所やけが人の有無を続けて伝える。
- 警察官が本人を直接取り扱い、自傷他害のおそれが認められれば、警察官通報(精神保健福祉法23条)から措置入院(同法29条)に進むことがある。
- その夜は刃物を片付けるだけでなく、親が一時的に家を離れる選択と、その日のうちの記録も検討する。
- 警察と医療が担えない関係の立て直しには、弁護士とカウンセラーが入るという選択肢もある。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、親子の問題に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。遠方のご家庭からのご依頼にも対応しています。
今まさに刃物を向けられているなど、身の危険が迫っている場合は、まず110番をしてください。そのうえで、同じことを繰り返さないためにどう動くかを一緒に考えたい親御さん、ご家族の方は、どうぞご相談ください。


