【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのか
本記事は2026年9月時点の法令に基づく一般的な説明です。個別の事情によって結論は変わりますので、具体的な対応については弁護士にご相談ください。
子から暴力を受けている親御さんのご相談で、最も多く伺うのが「被害届を出すべきかどうか」という迷いです。身の危険は現実にあるけれども、我が子を犯罪者にしてしまうのではないか、出した後に同じ家で顔を合わせたらどうなるのか、一度出したら後戻りできないのではないか。迷いの中身は方によって違います。
この記事では、被害届がどういう書面なのか、出した後に何が起きるのか、そして出した後に関係を元に戻せるのかを整理します。判断を急がず、材料を一つずつ確認していきます。
被害届は「処罰を求める書面」ではない
被害届は、犯罪の被害に遭った事実を捜査機関に届け出る書面です。警察官は、犯罪による被害の届出があったときはこれを受理しなければならないとされています(犯罪捜査規範61条1項)。
これに対して告訴は、犯罪事実を申告したうえで犯人の処罰を求める意思表示です(刑事訴訟法230条)。内閣府男女共同参画局の解説でも、被害届について処罰を求める意思表示は不要であると説明されています。ただし実務上は、被害届に処罰を求める旨が記載されることが多く、受理の際に処罰を希望するかどうかを確認されることも珍しくありません。
つまり、被害届を出すこと自体は「子を刑務所に送るための手続」ではありません。捜査のきっかけを作る行為であり、その先で何が起きるかは、罪名、けがの程度、これまでの経緯、そして子の年齢によって変わります。
両者の使い分けについては被害届と告訴の違い|ストーカー・脅迫でどちらを選ぶで、手続がどの時点から動き出すのかについては事件は『いつ』始まるのか|相談・被害届・告訴・立件の違いで詳しく説明しています。
出した後に何が起きるのか|子の年齢で道筋が変わる
被害届を出した後の流れは、子が20歳以上か20歳未満かで大きく異なります。ここを知らないまま判断すると、想定していたのとは違う展開になることがあります。
| 項目 | 20歳以上の子 | 20歳未満の子 |
|---|---|---|
| 事件の終わり方 | 微罪処分や不起訴で終わることがある | 原則としてすべて家庭裁判所に送られる(少年法41条・42条) |
| 家庭への関わり | 捜査機関とのやり取りが中心 | 家庭裁判所調査官が少年と保護者を調査する(少年法8条2項) |
| 身柄の扱い | 逮捕・勾留により最大23日間の拘束がありうる | 観護措置により少年鑑別所で最大4週間の行動観察がありうる |
| 最終的な処分 | 罰金、執行猶予付きの判決、実刑などの刑罰 | 保護観察、少年院送致などの保護処分 |
| 前科 | 有罪判決が確定すれば前科となる | 保護処分は前科ではない |
20歳以上の子の場合
成人の事件では、犯情が特に軽微なものについて、警察限りで事件を終える微罪処分という扱いがあります(刑事訴訟法246条ただし書)。この場合、被疑者への訓戒に加えて、監督する立場にある人から請書を取るなどの措置が取られます(犯罪捜査規範200条)。同居の親が監督者として扱われる場面もあり、届け出た側が監督を求められるという構図になることがあります。制度の輪郭は微罪処分とは|警察限りで終わる事件の条件をご覧ください。
20歳未満の子の場合
20歳未満の場合、捜査を遂げた事件は原則としてすべて家庭裁判所に送られます(少年法41条・42条)。成人の事件のような微罪処分や不起訴はありません。ただし、被害が軽微で当事者間の話がついているなどの事情があるときには、簡易送致という簡略な扱いがされることがあります。
親御さんに知っておいていただきたいのは、家庭裁判所が家庭裁判所調査官に命じて、少年だけでなく保護者についても調査を行わせることができるとされている点です(少年法8条2項)。面接や家庭訪問を通じて、家庭の状況そのものが調査の対象になります。内情を暴かれるように感じる方もいますが、家庭で何が起きているかが公的な機関に把握され、支援につながる入口になるという面もあります。
罪名によっては、被害届だけでは動かないことがある
家庭の中で起きた出来事は、どの罪名で捉えるかによって扱いが変わります。
| 起きたこと | 想定される罪名 | 親族間の特則 |
|---|---|---|
| 殴る、突き飛ばす | 暴行罪、傷害罪 | 特則はなく、親族間でも通常どおり処罰の対象となる |
| 「殺す」などと言われた | 脅迫罪 | 特則はない |
| 壁や家具を壊された | 器物損壊罪 | 告訴がなければ起訴できない(刑法264条) |
| 財布から現金を持ち出された | 窃盗罪など | 同居の親子の間では刑が免除される(刑法244条1項) |
暴力や脅しについては、親子であることを理由に処罰されなくなる規定はありません。一方で、同居している親子の間の窃盗などの財産犯は刑が免除されます。お金を持ち出されて警察に相談したのに取り合ってもらえなかったという経験の背景には、この規定があります。詳しくは同居の家族の物を持ち出した|親族相盗例で処罰されない範囲をご覧ください。
器物損壊罪は、告訴がなければ公訴を提起できない親告罪です。壊された壁や扉を問題にしたい場合には、被害届だけでは足りず、告訴まで踏み込むかどうかの判断が必要になります。家族の間の暴行・傷害の扱いについては家庭内で手が出た|家族間の暴行・傷害とDV法の関係もあわせてご確認ください。
「後で取り下げれば元に戻る」とは限らない
迷っている方の多くが、とりあえず出しておいて落ち着いたら取り下げればよい、と考えます。ここには注意が必要です。
被害届の取下げについて、法律に明文の規定はありません。届出は捜査のきっかけにすぎないため、取り下げれば捜査が当然に終わるという関係にはありません。捜査機関は犯罪があると思料するときは捜査をするものとされており(刑事訴訟法189条2項)、被害者の意思だけで手続が止まる仕組みにはなっていないのです。
告訴の場合は、起訴されるまでの間であれば取り消すことができます(刑事訴訟法237条1項)。ただし、取り消した者は再び告訴をすることができないとされています(同条2項)。この規定は親告罪について適用されると解されており、器物損壊のように告訴が必要な罪では、一度取り消すと後戻りが難しくなります。
いったん出した届出は記録として残ります。取り下げれば何もなかったことになるわけではない、という前提で判断されることをおすすめします。書面の書き方は被害届の取下げ・告訴の取消をどう書くかで説明しています。
出す場合と出さない場合で、何が残るのか
子を守るか自分を守るかという対立で考えると、どちらを選んでも後悔が残ります。それぞれの場合に何が残るのかで比べてみてください。
| 観点 | 出した場合 | 出さなかった場合 |
|---|---|---|
| その場の安全 | 警察が継続的に関与する根拠ができる | 110番通報による臨場での対応が中心となる |
| 記録 | 事件としての公的な記録が残る | 相談記録として残すことはできる |
| 子への影響 | 捜査や処分の対象となる | 変化のきっかけがないまま時間が経つことがある |
| 家族関係 | 一時的に強い緊張が生じる | 表面的な緊張は避けられるが、蓄積は続く |
| 後戻り | 取下げには限界がある | いつでも出せるが、証拠は薄れていく |
見落とされがちなのは、出さないという選択にも時間の経過という副作用がある点です。けがの痕は消え、壊れた物は片付けられ、記憶は曖昧になります。暴行罪や傷害罪にも公訴時効があり、時間が経つほど選べる手立ては狭まります。
被害届と並べて考えられる手立て
被害届を出すかどうかは、ゼロか百かの選択ではありません。並行して、あるいは先に取れる手立てがあります。
- けがをしたときは早い段階で受診し、診断書を取得しておくこと。
- 壊れた物や部屋の状況を、日付が分かる形で撮影しておくこと。
- 警察署の生活安全課などに相談し、相談した事実を記録として残してもらうこと。
- 親御さんが65歳以上の場合には、市町村の窓口や地域包括支援センターに通報・届出をすること。
- 子と物理的な距離を取るための住まいと生活費を、先に検討しておくこと。
4つ目について補足します。高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律は、養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者に、市町村への通報を求めています(同法7条)。通報や届出があった場合、市町村は、生命または身体に重大な危険が生じているおそれがあると認められる高齢者を一時的に保護するため、老人福祉法上の措置を講じるものとされています(同法9条2項)。刑事手続とは別に、分離のための仕組みが用意されているということです。
記録の残し方は証拠の残し方|あとで警察・弁護士に通用する記録とは、診断書の位置づけは「全治○週間」と言われた|診断書と傷害の重さの評価で説明しています。相談したのに動いてもらえなかったという場合は警察に相談しても動いてくれないとき|弁護士ができること、届出そのものを受け取ってもらえなかった場合は被害届を受理してもらえない|断られたときにできることをご覧ください。
出す前に整理しておきたいこと
被害届を出すかどうかを決める前に、次の4点を言葉にしておくと、判断がぶれにくくなります。
- 何を実現したいのかを言葉にしておきます。処罰なのか、暴力を止めることなのか、距離を取ることなのかで、適した手段は変わります。
- 出した後も同じ家で暮らすのかを決めておきます。同居を続けたまま届け出ると生活の緊張が高まりやすいため、避難先の確保を先に考える必要があります。
- ほかの家族への影響を見ておきます。きょうだいや配偶者が板挟みになり、家庭内の対立が別の形で表面化することがあります。
- 子の側の受け皿を用意しておきます。手続だけが進んで子が孤立したままでは、同じことが繰り返されやすくなります。
当事務所の取り組み
当事務所では、親子の問題について、親御さんの代理人としてお子さんと向き合う役割を担っています。同時に、民間の自立支援カウンセラーとチームを組み、お子さんの側には住まい探しや仕事探しといった生活面の支援が届く形を取っています。親の側だけを守っても、子の側だけを支えても、状況は動きにくいためです。
お子さんの年齢は問いません。未成年のご相談もあれば、50歳を超えたお子さんについてのご相談もあり、北海道から沖縄まで全国のご家庭からご相談をいただいてきました。
結果をお約束することはできません。ただ、親子が物理的な距離を取るだけでも、双方に変化が生じることがあります。近すぎる距離が問題を長引かせている場合があるためです。
被害届を出すかどうかは、その一点だけで決めるものではなく、その後の生活をどう組み立てるかとあわせて考える問題です。迷っている段階でお話を伺えれば、届け出る以外の選択肢も含めて、手をつける順番を整理できます。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


