【親子問題】警察に相談した記録を残す意味|相談票と後の手続

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

本記事は2026年9月時点の法令・通達に基づいて作成しています。警察の相談記録の取扱いは、警察庁の通達を踏まえて各都道府県警察が訓令・要綱で定めており、帳票の名称や保存期間は都道府県によって異なる場合があります。実際の手続は、お住まいの地域の警察署でご確認ください。


「警察には何度も相談してきました」。成人した子からの暴力や金銭の要求についてご相談をお受けするとき、多くの親御さんがそうおっしゃいます。一方で、「その相談は記録として残っていますか」とお尋ねすると、はっきりとお答えいただけないことが少なくありません。子の側から「そんな話は聞いていない」と言われ、経緯を示す材料が手元にないというご相談も届きます。

 「まずは警察に相談を」という説明は、よく目にします。その説明自体が誤っているわけではありません。ただ、相談した内容がどのような形で記録に残り、その記録が後の手続でどう使われ、いつまで保存されるのかというところまで書かれているものは多くありません。何度足を運んでも、記録として残っていなければ、後から「そういう経緯があった」ことを示す材料にはなりにくいというのが実情です。

 この記事では、警察に相談した内容がどのように記録されるのか、その記録が親子の問題でどの場面に効いてくるのか、そして記録をどう取り寄せるのかを整理します。警察が動く場面と動かない場面の切り分けそのものについては警察に相談しても動いてくれないとき|弁護士ができることで、相談・被害届・告訴・立件という段階の違いについては事件は『いつ』始まるのか|相談・被害届・告訴・立件の違いで扱っていますので、あわせてご覧ください。

「相談した」ことが、そのまま記録になるとは限らない

 窓口で事情を話したという事実と、警察の手続の上で「相談を受理した」という扱いは、必ずしも一致しません。まず、この点から確認します。

警察がいう「相談」には定義がある

 警察庁の通達(令和6年3月7日付け丙企画発第16号)は、相談を「警察に対して、指導、助言、相手方への警告、検挙等何らかの権限行使その他の措置を求めるもの」と定義しています。地理の教示や運転免許証の更新手続の教示といった単純な事実の教示は除かれ、単なる情報提供も含まれないとされています。各都道府県警察の要綱も、おおむね同じ定義を置いています。

 つまり、話を聞いてもらうこと自体ではなく、警察に何らかの措置を求めることが「相談」の中身とされている、ということです。「どうしたらいいでしょうか」と尋ねるだけのつもりで訪ねると、警察側の整理では相談として扱われないまま終わる可能性が残ります。

相談に当たるかどうかは実質的に判断される

 もっとも、同じ通達は、相談該当性の判断に当たって申出者の言葉から形式的に判断することなく、申出者の立場や置かれている状況その他諸般の事情を総合的に考慮し、実質的に判断するよう求めています。言い方が拙かったから記録に残らない、という単純な話ではありません。

 それでも、伝える側にできることはあります。いつ・どこで・誰が何をしたのか、現在どういう状態にあるのか、そして警察に何を求めるのか。この三つを順に伝えるだけで、受理する側が処理部門を判断しやすくなります。相談前の材料の整え方についてはA4一枚の時系列メモの作り方|相談の質を決める1枚をご覧ください。

被害届に進む場合は、相談の帳票が作られないこともある

 犯罪事件に関する相談のうち、相談の後で直ちに被害届が受理されるなどして速やかに犯罪事件受理簿に登載されるものについては、相談の帳票を作成しないと定める県があります。事件としての記録に移るため、相談としては重ねて記録しないという整理です。

 他方で、同じ要綱は、人身安全関連相談のうちストーカー、配偶者からの暴力、児童虐待、高齢者虐待および障害者虐待については、例外なく相談の帳票を作成すると定めています。親御さんが高齢で、成人した子から暴力や経済的な圧迫を受けている場合、高齢者虐待として扱われる可能性があります。高齢者虐待防止法の枠組みについては介護中の行為が虐待と言われた|高齢者虐待防止法と刑事責任もご参照ください。

残される記録は一つではない

 相談が受理されると、複数の帳票が段階的に作られます。どれが残るのかを知っておくと、後から取り寄せる際の見通しが立ちます。

管理簿・受理票・経過票

 前述の通達によれば、警察署が受理したすべての相談は、総務・警務部門に備え付けた管理簿に登載されます。登載される項目は、受理した日時、相談者の人定事項、相談概要、処理部門などで、管理のための番号が付されます。

 そのうえで、処理を担当する部門が、受理した日時、相談者の人定事項、相談の内容、対応状況などを記載した受理票を作成し、警察署長に報告することとされています。都道府県によっては「相談等取扱票」「相談処理簿」などの名称が用いられています。さらに、継続中の事案について追加の措置を講じたときは、経過票が作成されます。

継続事案として点検の対象になる

 総務・警務部門は、管理簿をもとに、処理が終結していない相談について遅延や懈怠がないかを原則として月に1回以上点検し、その結果を警察署長に報告することとされています。処理を終えるときは、署長の決裁を経て管理簿に記載されます。

 相談は、受理された時点で一度記録されて終わりではなく、終結するまでの経過が組織の中で追われる仕組みになっています。進捗の確認や処理方針についての要望を受け付ける窓口も、制度上は用意されています。

同じ話でも、日を改めれば別の相談として扱われる

 相談者や相談内容が同じでも、受理した職員や日時が異なる場合は別個の相談として取り扱う、と定める要綱があります。一方で、処理の一環として改めて事情を聴いた場合は、別個の相談とはせず経過票に記録する扱いとされています。

 親子の問題は、同じ相手との間で同じような出来事が繰り返されがちです。その都度相談していれば、件数として記録が積み上がっていくことになります。

記録には保存期間がある

 記録が残るといっても、無期限ではありません。ここが、後になって困る方の多いところです。

三年という区切りを置く県がある

 たとえば鳥取県警察の警察安全相談業務取扱要綱は、管理簿の保存期間を3年、相談処理簿(写しを含む)の保存期間を3年と定めています。保存期間は都道府県ごとの定めによりますが、永久に保管されるものではない、という点は共通しています。

親子の問題は、年単位で続くことが多い

 ひきこもりや家庭内での暴力をめぐるご相談では、最初に警察に行ってから数年が経っているという例が珍しくありません。いよいよ手続を取ろうと決めたときに、初期の相談記録が既に廃棄されていた、ということが起こり得ます。

 記録が残っているうちに動くのか、それとも記録が消えた後に一から説明し直すのかで、後の手続の負担は変わります。相談から時間が経っている場合ほど、早めに確認しておく価値があります。

相談の都度、手元に控えを作る

 警察側の記録に頼りきらず、相談した日時、訪ねた警察署名と部署名、対応した方の氏名、話した内容、言われたことを、その日のうちにご自身で書き留めておくことをお勧めします。手元の記録があれば、後から開示請求をする際にも、どの日の記録を求めるのかを特定しやすくなります。記録の残し方一般については証拠の残し方|あとで警察・弁護士に通用する記録とはで整理しています。

相談の記録が後の手続で効く場面

 事件にならなかった相談でも、記録が残っていることで後の手続が進めやすくなる場面があります。親子の問題でよく出てくるものを挙げます。

住民票の閲覧等を制限する場面

 住民基本台帳事務では、配偶者からの暴力、ストーカー行為等、児童虐待およびこれらに準ずる行為の被害を申し出た方のうち、支援の必要性が確認された方について、住民票の写し等の交付や戸籍の附票の写しの交付を制限する支援措置が用意されています。申出書には「その他前記AからCまでに準ずるケース」という区分があり、高齢者虐待などがここに含まれるものとして運用されています。

 この支援措置では、市区町村が支援の必要性を確認するにあたり、警察や配偶者暴力相談支援センター、児童相談所などの相談機関の意見を聴取するものとされています。総務省の通知(令和8年4月15日付け総行住第60号)は、相談機関からの意見聴取を市区町村と相談機関との間で直接行う運用を改めて徹底するよう求めています。申出書にも、相談した日時や機関名、担当課を記入する欄が設けられています。支援の期間は一年で、延長の申出があったときも改めて相談機関の意見を聴取することとされています。

 子から離れて暮らすために転居したとき、その住所を知られない状態を保てるかどうかは、警察に相談した事実が確認できるかどうかに左右されることがあります。

裁判所の手続で事実経過を示す場面

 接近を止める、あるいは自宅の明渡しを求めるといった民事の手続では、仮処分が選択肢になることがあります。保全命令の申立てでは、保全すべき権利関係と保全の必要性を疎明しなければならないとされており(民事保全法13条2項)、そこで求められるのは、これまでに何が起きてきたのかを示す具体的な材料です。相談の記録は、その一つになり得ます。接近を止める手段の整理については接近禁止を実現する2つの道|ストーカー規制法(警察)と民事保全(裁判所)の使い分けをご覧ください。

改めて事件としての対応を求める場面

 一度は事件として扱われなかった出来事でも、同じことが繰り返されていれば、評価が変わることがあります。とくに脅迫のように、一回だけを切り取ると判断が難しい行為では、繰り返しの経過が意味を持ちます。被害届が受理されないときの対応は被害届を受理してもらえない|断られたときにできること脅迫の被害届は受理されるのか|「民事不介入」と言われたときの再挑戦で扱っています。

 なお、家庭内であっても、暴行や傷害、脅迫について刑罰法令の適用が排除されるわけではありません。財産に関する一部の犯罪について親族間の特例が置かれているのとは、取扱いが異なります。この違いは家庭内で手が出た|家族間の暴行・傷害とDV法の関係同居の家族の物を持ち出した|親族相盗例で処罰されない範囲で整理しています。

記録を取り寄せる方法

 相談の記録は、ご自身に関するものであれば、法律上の手続によって取り寄せを求めることができます。

保有個人情報の開示請求

 個人情報保護法76条は、本人が、行政機関等の保有する自己を本人とする保有個人情報について開示を請求できると定めています。都道府県警察は地方公共団体の機関に当たり、請求先は警察本部長です。請求は書面で行い、本人確認の書類が必要になります(同法77条)。

 開示するかどうかの決定は、原則として開示請求があった日から30日以内に行われ、事務処理上の困難その他正当な理由があるときは30日以内に限り延長できるとされています(同法83条)。自治体の条例でこれより短い期間が定められている場合もあります。写しの交付には実費がかかります。

全部がそのまま出てくるわけではない

 開示請求には不開示となる情報の定めがあり(同法78条)、該当部分を除いて開示する部分開示(同法79条)が行われます。相談に関わった第三者の情報や、犯罪の予防・捜査などに支障を及ぼすおそれがあると判断された部分は、黒塗りになることがあります。実際、都道府県が公表している処理状況を見ると、相談記録に関する請求の多くは部分開示という扱いになっています。

 また、保有個人情報が存在しているかどうかを答えるだけで不開示情報を開示することになる場合には、存否を明らかにしないまま請求を拒否できるとされています(同法81条)。ご自身以外の方に関する相談記録を求めた場合などに、この扱いになることがあります。

まず窓口に確認してから動く

 実務上は、相談した警察署の警務課や本部の相談担当課に問い合わせ、どの部署がどの帳票を保有しているのか、閲覧や謄写の手続があるのかを確認してから進めるほうが早いことがあります。複数の警察署に相談してきた場合は、本部でまとめて扱うことになる場合もあります。決定までに数週間かかることを見込んで、余裕をもって動いてください。

警察の記録だけに頼らないという視点

 ここまで相談記録の話をしてきましたが、記録は手段であって、目的ではありません。

記録があっても、それ自体が解決するわけではない

 相談の記録は、後の手続で「これまでに何があったのか」を示す材料になります。ただ、記録があるから警察が動く、というものではありません。窓口ごとの守備範囲の違いについては警察に相談すべきか、弁護士に相談すべきか|窓口の使い分け早見表をご覧ください。

記録は、距離を取るための準備の一部

 親子の問題では、暴力や金銭の要求が続いている状況そのものを変えなければ、記録だけが積み上がっていきます。当事務所では、親御さん側の代理人として子と対峙する一方、民間の自立支援カウンセラーと連携し、子の側の生活の立て直しを並行して進める形を取っています。記録を整えることは、そうした対応に移るための準備として位置づけるのが実際的です。

よくあるご質問


電話で相談した場合も記録に残りますか

 警察庁の通達上、相談には来署によるもののほか電話によるものも含まれるとされています。電話による相談などで、受理の手続を直ちに行うことが困難なときは、聴取が終わった後に速やかに行うこととされています。ただ、実際に記録が作成されたかどうかまでを電話口で確認することは難しいため、後日の確認が必要になる場面はあります。

相談したことは子に伝わりますか

 相談の内容は個人の秘密に関わるものとして、保秘と情報管理を徹底するよう定められています。もっとも、相手方への指導や警告を求める場合、警察が相手方に接触することになりますので、相談があったこと自体は相手方に伝わります。何を求めるのかによって、この点の扱いは変わりますので、相談の際に確認しておくとよいでしょう。

過去の相談記録は、どこまでさかのぼって取れますか

 保存期間内に限られます。前述のとおり保存期間を3年と定める県があり、それを過ぎたものは廃棄されている可能性があります。まずは相談した警察署または本部に、当時の記録が残っているかを確認するところから始めることになります。

まとめ


  1. 警察がいう「相談」とは、指導・助言・警告・検挙等の措置を求めるものを指し、単なる事実の教示や情報提供は含まれない(令和6年3月7日付け警察庁丙企画発第16号)。
  2. 受理された相談は管理簿に登載され、処理部門が受理票を作成して警察署長に報告し、継続事案は原則として月1回以上点検される。
  3. 人身安全関連相談のうちストーカー・配偶者からの暴力・児童虐待・高齢者虐待・障害者虐待については、例外なく相談の帳票を作成すると定める県がある。
  4. 相談の記録には保存期間があり、管理簿・相談処理簿の保存期間を3年と定める県がある(鳥取県警察安全相談業務取扱要綱)。
  5. 住民基本台帳事務の支援措置では、市区町村が警察等の相談機関の意見を聴取して支援の必要性を確認する(令和8年4月15日付け総行住第60号)。
  6. 仮処分では、保全すべき権利関係と保全の必要性を疎明する必要があり(民事保全法13条2項)、相談の記録はその材料の一つになる。
  7. 自己の相談記録は保有個人情報の開示請求で取り寄せられるが(個人情報保護法76条)、不開示情報を除いた部分開示となることが多い(同法78条・79条)。


親子の問題でお悩みの方へ

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、成人した子からの暴力や金銭の要求、ひきこもりの長期化といった親子の問題に関するご相談を、池袋と新橋の事務所でお受けしています。弁護士若井亮は、北海道から沖縄まで全国の親子の問題に5年以上にわたり取り組んでまいりました。

 すでに警察に相談を重ねてこられた方も、これから相談に行こうとされている方も、いま手元にある材料を整理するところから一緒に考えることができます。記録が残っているうちにできることと、記録がなくても進められることは、それぞれにあります。まずはご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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