【親子問題】親子間の暴行・傷害は立件されるのか|特例が及ばない範囲

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

同居している子から手を上げられ、警察に連絡したものの「ご家庭の問題ですから」と言われて引き下がった。そうした経験をお持ちの親御さんは少なくありません。その積み重ねから「家族の間の暴力は事件として扱われない」と受け取ってしまうと、次に同じことが起きたときにも動けなくなります。ただ、法律の建て付けは異なります。刑法が親族間の特例を置いているのは財産に関する一部の罪だけで、暴行や傷害には特例がありません。どこまでが特例の及ぶ範囲なのかを、罪名ごとに整理します。

本記事は2026年9月時点の法令に基づいて解説しています。個別の事案の見通しは、経緯や残っている記録によって変わります。


「家族だから立件されない」という受け止めはどこから来るのか

 警察の対応が鈍く感じられる場面には、性質の異なる2つの理由が混ざっています。1つは、法律が処罰そのものを差し控えている領域があること。もう1つは、犯罪としては成立するものの、事実の確認が進まず、その場では事件として扱われにくいことです。

 前者は条文が定めていることなので、結論は変わりません。後者は運用の問題ですから、こちら側の準備によって扱いが変わります。「警察は何もしてくれない」という受け止めは、多くの場合この2つが混ざった状態です。

特例が置かれているのは財産に関する罪だけ


刑法244条が定めていること

 刑法244条1項は、配偶者、直系血族または同居の親族との間で窃盗罪・不動産侵奪罪およびその未遂罪を犯した者について、その刑を免除すると定めています。2項はそれ以外の親族との間で犯した場合を親告罪とし、3項により、親族でない共犯者にこの特例は及びません。

 この規定は「親族相盗例」と呼ばれます。注意したいのは、犯罪が成立しないという意味ではない点です。最高裁も、国家が刑罰権の行使を差し控え親族間の自律に委ねるほうが望ましいという考慮による特例であって、犯罪の成立を否定したものではないと述べています(最高裁平成20年2月18日決定)。

準用によって及ぶ範囲

 244条は、詐欺および恐喝の罪(刑法251条)と横領の罪(刑法255条)にも準用されています。同居している子が親の財布から現金を抜く、通帳を持ち出して払い戻す、脅して金銭を交付させる。こうした場面はいずれも特例の射程に入り得ます。金銭の要求について相談しても取り合ってもらえないと感じる背景には、この条文があります。

 別居している親族との間であれば刑の免除ではなく親告罪の扱いになり、告訴をすれば通常どおり手続が進みます。同居の家族による持ち出しの線引きは、同居の家族の物を持ち出した|親族相盗例で処罰されない範囲で整理しています。

暴行・傷害・脅迫には特例がない

 244条が名指ししているのは窃盗罪と不動産侵奪罪で、準用されるのは詐欺・恐喝・横領の各罪です。人の身体や意思の自由を守るための規定は、この一覧のどこにも入っていません。

想定される行為罪名(条文)親族間の特例
殴る・つかむ・突き飛ばす(けがなし)暴行罪(刑法208条)なし
けがを負わせた傷害罪(刑法204条)なし
危害を加えると告げる脅迫罪(刑法222条)なし
義務のないことを強いる強要罪(刑法223条)なし
家財・建具を壊す器物損壊罪(刑法261条)なし(ただし親告罪)
財布・通帳から持ち出す窃盗罪(刑法235条)あり(刑法244条)
脅して金銭を交付させる恐喝罪(刑法249条)あり(251条による準用)


 暴行罪の法定刑は2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金など、傷害罪は15年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です(2025年6月1日から懲役・禁錮は拘禁刑に一本化されています)。相手が実の親であっても他人であっても、この点に違いはありません。

 暴行罪にいう「暴行」は、けがをさせるほどの強さを必要とせず、腕をつかむ、胸を押すといった行為も含まれ得ます。線引きは押した・つかんだだけで暴行罪になるのか|「有形力の行使」の範囲、けがの範囲は相手にけがをさせた自覚がない|傷害罪の「傷害」はどこからかをご覧ください。

 金銭の要求と暴力が重なっている場面では、整理が一段複雑になります。財物を交付させた点が恐喝罪として評価されるときは特例の射程に入り得ますが、その過程でけがを負ったのであれば、傷害罪は別に検討されます。恐喝という枠に入るからといって、身体への被害まで一括して扱われるわけではありません。

それでも動いてもらえないと感じるのはなぜか

 暴行罪も傷害罪も親告罪ではなく、告訴は要件ではありません。それでも実務では、被害を受けた側が「処罰までは望まない」と述べれば、その意向は捜査の進め方に影響します。親子の事案では、通報した直後に親御さんご自身が「今回はもういいです」と伝えられることが多く、これが繰り返されると、同種の相談も同じ結末を前提に受け止められやすくなります。

 もう一つは、事実の確認の難しさです。目撃者がなく、双方の言い分が食い違い、外から見て分かるけがも残っていない。この条件がそろうと、罪名として成立し得ることと、立件できるだけの材料があることは別の話になります。手続の入口の違いは、次の記事で扱っています。


分かれ目になるのは、その場の激しさよりも記録

 立件されるかどうかを分けるのは、出来事の激しさよりも、後から確認できる形が残っているかどうかです。

  1. けがをしたらその日のうちに受診し、診断書を受け取っておくこと。
  2. 110番したときは、日付と時刻を控えておくこと。
  3. 壊された物は片づける前に撮影し、可能であれば現物を残しておくこと。
  4. 何があったかを、日付・時刻・場所・言われた言葉の形で書き留めておくこと。


 特に診断書は扱いを変えます。その場では暴行として処理された事案が、後から出した診断書によって傷害として扱われることがあります(あとから診断書が出てきた|暴行が傷害に切り替わる場面と対応)。

 時間が経った出来事も、公訴時効の期間内であれば捜査の対象になり得ます。暴行罪は3年、傷害罪は10年です。直近の一件だけを申告すると全体像が伝わらないため、記録は古いものから通しで整理しておくことをおすすめします(暴行・傷害の公訴時効|時間が経ってから捜査が来る理由)。

立件された後に何が起きるか


成人した子の場合

 立件されても必ず逮捕されるわけではなく、在宅のまま進むこともあります。もっとも、同じ家で生活している事案では、被害を受けた側との距離が近いことが身柄を拘束する方向に働く場合があります。一方で、初めての事件で程度が重くなければ不起訴や罰金で終わることも珍しくなく、数日から数週間で自宅に戻ってきます(逮捕されるケースと逮捕されないケースの分かれ目|通報から立件までに何が起きるか)。

未成年の子の場合

 14歳以上20歳未満の子については、事件は原則としてすべて家庭裁判所に送られます。14歳未満であれば触法少年として、児童相談所を中心とした手続になります。いずれも刑罰を科すための手続ではなく保護と教育の枠組みで進むため、親御さんが想定している「処罰」とは形が異なります。

刑事手続は距離をつくる仕組みではない

 刑事手続は起きた行為を評価する仕組みであって、その後の生活を分ける仕組みではありません。手続が終われば、子は同じ家に戻ってきます。

 配偶者間であれば裁判所の保護命令によって接近を禁じる道がありますが、その対象は法律上の配偶者、事実婚の相手方、生活の本拠を共にする交際相手(およびそれぞれの元の関係)に限られ、親子は含まれません。2024年4月1日施行の改正で対象は拡充されましたが、子から親への暴力はこの枠組みの外にあります(家庭内で手が出た|家族間の暴行・傷害とDV法の関係)。

 代わりに検討できるのは、次のような道筋です。

  • 親御さんが65歳以上であれば、高齢者虐待防止法に基づく市町村への通報。立入調査(11条)、警察署長への援助要請(12条)、やむを得ない事由による措置としての施設入所(9条2項)、面会の制限(13条)が用意されています。
  • 人格権に基づく接近禁止の仮処分など、民事の手続を用いること。
  • 刑事手続の結論を待たずに、住まいそのものを分けること。


 厚生労働省の令和6年度の調査では、養護者による高齢者虐待の相談・通報者は警察が35.6%で最も多く、虐待をした人の続柄は息子が38.9%で最多でした。一方、分離を行った事例は19.0%にとどまります。警察に情報は届いていても、そこから生活を分ける段階まで進む事案は多くありません。刑事の手当てと生活の切り分けは、別の手立てとして同時に組み立てる必要があります。

よくあるご質問


子が「親を殴っても罪にならない」と言っています

 正確ではありません。刑の免除が定められているのは窃盗罪など財産に関する一部の罪で、暴行罪・傷害罪・脅迫罪にこうした規定はありません。相手が親であることは、犯罪の成否を左右しません。

通報すると子に前科が付いてしまうのでしょうか

 通報がそのまま前科につながるわけではありません。前科は有罪判決が確定して初めて生じるもので、その手前には不起訴という選択肢があります。未成年であれば、そもそも刑罰ではなく保護の手続に進みます。

警察と弁護士のどちらに先に相談すべきですか

 差し迫った危険がある場面では、迷わず110番してください。そのうえで、繰り返されている状況をどう終わらせるかは、刑事手続だけでは決まりません。窓口の使い分けは警察に相談すべきか、弁護士に相談すべきか|窓口の使い分け早見表、動いてもらえないときの考え方は警察に相談しても動いてくれないとき|弁護士ができることで整理しています。

 「立件されるかどうか」と「この生活をどう変えるか」は、重なってはいても同じ問いではありません。当事務所では、親御さん側の代理人として子と向き合う一方、自立支援に携わる民間のカウンセラーと組み、子の側の生活の立て直しを並行して進める形をとっています。物理的な距離をとるところから変化が生まれる事案は少なくありません。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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