【親子問題】ひきこもりの子に家事を分担させることはできる?

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

この記事は、成人した子がひきこもりの状態で親と同居している場面を想定し、法律上の一般的な考え方をまとめたものです。18歳未満の子については親権や監護の問題が加わるため、扱いが異なります。


ひきこもりの状態が続く子と暮らしていると、「せめて自分の食器くらいは洗ってほしい」「親も年を重ねてきたので、ゴミ出しや掃除を手伝ってほしい」と感じる場面が少しずつ増えていきます。一方で、どこまで求めてよいのか、断られたらどうすればよいのかが分からず、言い出せないままになっているご家庭も少なくありません。

 この記事では、成人した子に家事の分担を求めることが法律上どう位置づけられるのか、同居の条件として取り決めることはできるのか、そして実際に切り出すときに気をつけたい点を順に整理します。

成人した子に家事をする法律上の義務はあるのか

 成人した子に「家事をしなければならない」という具体的な義務を定めた法律はありません。ただし、家族が互いに協力することを求める規定はあり、法律とまったく無関係というわけでもありません。

同居の親族の「扶け合い」の規定

 民法730条は、直系血族と同居の親族は互いに扶け合わなければならないと定めています。同居している親子は、この規定の対象になります。

 もっとも、この規定は家族のあり方についての基本的な考え方を示したものと理解されることが多く、これを根拠に「毎週末に風呂掃除をする」といった具体的な行為を裁判で求めることは想定しにくいとされています。家事の分担は、法律で決まるものというより、家族の間で話し合って決めていくものと考えるのが実際的です。

親の扶養義務との関係

 親子は互いに扶養の義務を負います(民法877条1項)。ただし、成人した子に対する親の扶養義務は、親が自分の生活を維持したうえで余力のある範囲で援助する程度のものと解されるのが一般的です。親が子の身の回りの世話をいつまでも一手に引き受けなければならない、という意味ではありません。

 家事を親だけが担っている状態は、法律が求めた結果ではなく、これまでの暮らし方の積み重ねであることがほとんどです。分担を見直すこと自体に、法律上の妨げはありません。扶養義務の範囲については、【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかで詳しく解説しています。

家事の分担を「同居の条件」にすることはできるか

 親名義の家に成人した子が家賃を払わずに住んでいる場合、その関係は法律上「使用貸借」(民法593条)として整理されることがあります。無償で住まいを貸している関係です。

 この関係の中で、「家に住み続けるなら、ゴミ出しと自分の洗濯は自分でする」といった取り決めを家族で結ぶこと自体は可能です。家の使い方についてのルールを決めておくことは、同居を続けるうえでも意味があります。

 ただし、取り決めた家事をしなかったことだけを理由に、直ちに家から出てもらえるとは限りません。期間や目的を定めない使用貸借は貸主がいつでも解除できるとする規定(民法598条2項)がある一方で、家族の間では、それまでの経緯や子の生活状況、退去を求める理由などが考慮され、解除の主張が認められにくい場合もあります。

 また、子が退去に応じないときに、鍵を替える、荷物を外に出すといった方法で実力で追い出すことは、自力救済として問題になるおそれがあります。退去を求める場面の考え方は、【親子問題】子を家から出ていかせることはできるのか|占有と明渡しと【親子問題】鍵を替える・締め出すことの可否|自力救済の限界で整理しています。

 取り決めの内容ごとの考え方をまとめると、次のとおりです。

取り決めの内容考え方
自分の食器や洗濯物は自分で片付ける家族の生活ルールとして取り決めやすい内容です。
ゴミ出しや風呂掃除など家全体の作業を分担する作業の量と頻度を具体的に決めておくと続きやすくなります。
家事をすることを同居の条件にする取り決めは可能ですが、守られなかったときに直ちに退去を求められるとは限りません。
家事をしない場合に食事や生活費を止める子の心身の状態によっては、別の問題を生じるおそれがあります。


 取り決めを書面に残しておく意味と限界については、【親子問題】親子間で合意書を作る|約束を書面にする意味と限界もあわせてご覧ください。

分担を求めるときに避けたい進め方

 家事を頼むこと自体に問題はありませんが、求め方によっては関係がこじれ、かえって話し合いが難しくなることがあります。次のような進め方は避けるのが無難です。

  • 大声で責めたり、「やらないなら出ていけ」と脅したりして家事をさせることは、関係を悪化させるだけでなく、内容によっては強要罪(刑法223条)が問題になる場合もあります。
  • 食事を出さない、部屋の電気を止めるなど、生活に欠かせないものを交換条件にする方法は、子の状態によっては心身の不調を深めるおそれがあります。
  • 本人の部屋に無断で入り、片付けや掃除を強いることは、強い反発を招きやすい方法です。
  • 最初から多くの家事を一度に求めると、本人が「できない」と感じ、話し合いそのものを避けるようになることがあります。
  • きょうだいや同年代の人と比べる言い方は、家事の話から本人の評価の話にすり替わりやすく、受け止められにくくなります。


家事を切り出すときの組み立て方

 自治体のひきこもり支援の資料でも、料理や食器洗い、掃除、ゴミ出しといった家の中の作業は、生活の力を少しずつ取り戻していく過程の一つとして挙げられています。その一方で、家族が焦って何かをさせようとすると、本人への負担となり状況が悪化することがあるとも指摘されています。家事の分担は、「させる」ものというより、家の中で役割を持ってもらうきっかけと捉えるほうが進めやすくなります。

人と顔を合わせずにできる作業から始める

 ひきこもりの状態にある方の中には、家族と顔を合わせること自体に負担を感じている方もいます。夜のうちにゴミをまとめておく、自分の食器を洗っておく、乾いた洗濯物を取り込むなど、一人で、好きな時間にできる作業から始めると受け入れられやすくなります。

頼む内容は一つに絞り、具体的に伝える

 「少しは家のことをしてほしい」という頼み方では、何をすればよいかが伝わりません。「火曜と金曜の朝に、玄関に出してあるゴミ袋を集積所まで持っていってほしい」というように、作業と頻度を一つに絞って伝えるほうが、本人も引き受けるかどうかを判断しやすくなります。顔を合わせて話しにくい場合は、メモやメッセージで伝える方法もあります。

できたことには短く感謝を伝える

 頼んだ家事がされていたときは、「ありがとう、助かった」と短く伝えるだけで十分です。やり方が不十分でも、その場で指摘を重ねると、次から手をつけにくくなることがあります。細かな点は、続くようになってから少しずつ相談するほうが進めやすいでしょう。

家族の間で方針を揃えておく

 父親は家事を求め、母親は「無理をさせなくていい」と代わりに済ませてしまう、というように家族の対応が分かれていると、取り決めが定着しにくくなります。誰が、何を、どのように頼むのかを、家族の間で事前に話し合っておくことが大切です。

 切り出すまでの流れを順に並べると、次のようになります。

  1. 家族の間で、頼みたい家事と頼む人を決めておきます。
  2. 顔を合わせずにできる作業を一つ選び、頻度を具体的にします。
  3. メモやメッセージなど、本人が受け取りやすい方法で伝えます。
  4. できていたときは短く感謝を伝え、不十分な点は当面は指摘しないでおきます。
  5. 続くようになってから、作業の種類や頻度を少しずつ話し合います。


分担を求める前に確かめておきたいこと

 家事を頼んでも反応がない、あるいは手をつけられない背景に、心身の不調が隠れていることがあります。気力が極端に落ちている、昼夜の生活が大きく乱れている、身の回りのことがほとんどできなくなっているといった様子があるときは、家事の分担よりも先に、医療や専門機関につなぐことを考えたほうがよい場合があります。判断の目安は、【親子問題】ひきこもりと精神疾患の切り分け|医療につなぐ判断で解説しています。

 また、家事の話を出したことで子が暴言を吐いたり、物に当たったり、手を上げたりするようであれば、それは家事の分担の問題ではなく、家族の安全の問題です。逆に、子が暴言や暴力で親に身の回りの世話を強いているという場合も同様です。まずは安全の確保と記録を優先してください。具体的な対応は【親子問題】子から暴力を受けている|まず確保すべき安全と記録にまとめています。

家族だけで進めにくいときの相談先

 家事の分担は日々の暮らしの小さな話に見えますが、家族の中だけで話し合おうとすると、これまでの関係が影響して進まないことがあります。そうしたときは、第三者に入ってもらうことも選択肢になります。

 各都道府県などに置かれているひきこもり地域支援センターでは、家族からの相談を受け付けています。窓口でできることの範囲は、【親子問題】ひきこもり地域支援センターでできること・できないことで紹介しています。同じ悩みを持つ家族と話せる場として、【親子問題】家族会・当事者会の役割|弁護士に頼む前にできることもあわせて参考にしてください。

 当事務所では、親御さんの代理人として弁護士が親子の問題に関わり、自立支援カウンセラーが子の日常生活の指導を担う形で、チームとして対応しています。家事の分担のような生活の場面も、カウンセラーが本人と向き合いながら少しずつ組み立てていくことがあります。サービスの内容は、【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応でご案内しています。

よくあるご質問


家事をしてくれたらお小遣いを渡す、という約束は問題ありませんか

 家族の間の取り決めとして、法律上の問題が生じるものではありません。家事を通じて収入とお金の使い道を考える機会にもなります。ただし、金額が大きくなると、家事の分担というより生活費の援助としての意味合いが強くなります。家計全体の中で無理のない範囲にとどめておくのが現実的です。

家事を断られ続けたら、家から出てもらうことはできますか

 家事をしないことだけを理由に、すぐに退去を求められるとは限りません。家での同居を続けるかどうかは、家事の問題とは切り離して、子の生活の見通しや家族の状況を含めて考える必要があります。親子が離れて暮らすことの意味については、【親子問題】親子が離れて暮らすことの意味|距離という視点で取り上げています。

家事の分担を合意書に書いておく意味はありますか

 合意書があっても、家事そのものを裁判で強制することは現実的ではありません。それでも、家族の間で何を約束したのかを確かめ合う材料にはなり、言った・言わないの行き違いを減らす効果は期待できます。書面にする場合も、内容は本人が実際にできる範囲にとどめることが大切です。

まとめ


  • 成人した子に家事をする具体的な法律上の義務はなく、分担は家族の話し合いで決めていくものです。
  • 家事の分担を同居の条件として取り決めることはできますが、守られなかったときに直ちに退去を求められるとは限りません。
  • 脅しや生活必需品を交換条件にする方法は避け、顔を合わせずにできる作業を一つ頼むところから始めると進めやすくなります。
  • 心身の不調や暴力がうかがえる場合は、家事の分担よりも医療へのつなぎや安全の確保を優先します。


 家事の分担は、子が家の中で役割を持ち、生活の力を取り戻していく入口になることがあります。一方で、家族だけで話し合おうとすると、これまでの関係が重なって行き詰まることも少なくありません。分担の頼み方に迷うときや、話し合いの場そのものを持てないときは、第三者に入ってもらうことも考えてみてください。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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