【親子問題】子が「親を施設に入れる」と言って脅してくるときは?

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

「言うことを聞かないなら施設に入れる」「もう老人ホームに入れるしかない」。同居する成人した子からこうした言葉を繰り返し向けられ、自宅で暮らし続けられるのか不安を抱えている親御さんからのご相談があります。言われた側にとっては、住まいや生活そのものを取り上げられるかもしれないという話であり、強い心理的な負担になります。この記事では、子の一存で親を施設に入れることができるのか、その言葉が脅しとして使われている場合に法律上どう考えられるのか、そして親が今のうちに整えておけることを順に整理します。

本記事は2026年10月時点の法令を前提にしています。刑法の「懲役」「禁錮」は2025年6月から「拘禁刑」に改められているため、刑罰はその表記で記載しています。


「施設に入れる」と言われても、子が一人で決められるわけではない

 まず押さえておきたいのは、老人ホームなどへの入所は、原則として入所する本人と施設との契約によって決まるという点です。子が親の代わりに一方的に入所を決める権限は、法律上当然には認められていません。

判断能力のある親の場合

 親に十分な判断能力があるうちは、どこで暮らすかを決めるのは親自身です。有料老人ホームの入居契約も、介護保険の施設サービスの利用も、本人の意思に基づいて進められるのが基本です。子が「入れる」と言っても、親が契約に応じなければ、入所の手続はそもそも成り立ちません。

 ただし実務では、施設探しや申込みの窓口を家族が担うことが多く、家族の意向に沿って話が進みやすい面があることも否定できません。介護事業者向けの情報でも、本人が同意していなくても家族の意向で入居の話が進むことがあると紹介されています。だからこそ、親の側が自分の意思を周囲に伝えておくことに意味があります(後半で詳しく触れます)。

判断能力が低下してきた場合

 認知症などで判断能力が低下すると、本人に代わって契約を結ぶ立場として、成年後見人が選ばれることがあります。成年後見の申立ては、本人の四親等内の親族であれば行えるため、子が申し立てること自体は可能です。

 もっとも、後見を始めるかどうか、誰を後見人にするかは家庭裁判所が判断します。審理では医師の診断や鑑定のほか、本人の陳述を聴く手続も予定されています。また、選ばれた後見人も本人の意思を尊重し、心身の状態や生活の状況に配慮する義務を負っています(民法858条)。さらに、本人が住んでいる自宅を売ったり賃貸借を解除したりするには、家庭裁判所の許可が必要です(民法859条の3)。後見人が付いたからといって、子の思いどおりに親の住まいを変えられるわけではありません。

言葉が脅しとして使われているとき

 「施設に入れる」という言葉が、介護の相談としてではなく、親を思いどおりに動かすための材料として使われていることがあります。ご相談の中でよく見られるのは、次のような場面です。

  • お金を渡さないなら施設に入れると言われる。
  • 家や土地の名義を変えろと迫られ、断ると施設の話を持ち出される。
  • 外出や友人づきあいをすると「やっぱり施設だ」と言われる。
  • 大声で繰り返し言われ、夜も眠れない。
  • 暴力や物を壊す行為と一緒に言われる。


脅迫罪・強要罪・恐喝罪との関係

 刑法の脅迫罪は、生命・身体・自由・名誉・財産に害を加えることを告げて人を脅すことで成立します(刑法222条、2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金)。「施設に入れる」という言葉は、正当な介護の提案として述べられることもあるため、それだけで直ちに脅迫にあたると言い切ることはできません。どのような状況で、どのような言い方で、何と結びつけて告げられたかによって評価が分かれます。

 一方、その言葉を使って義務のないことをさせようとした場合には強要罪(刑法223条)が、お金を出させようとした場合には恐喝罪(刑法249条)が問題になることがあります。なお、恐喝罪には親族間の特例が準用されるため(刑法251条)、同居の子が親からお金を脅し取った場合などは刑が免除されることがあります。これに対し、脅迫罪や強要罪にはこの特例はありません。

場面問題になりうる罪親族間の特例
害を加えると告げて脅す脅迫罪(刑法222条)なし
脅して義務のないことをさせる強要罪(刑法223条)なし
脅してお金や財産を出させる恐喝罪(刑法249条)あり(刑法251条)


 実際に刑事事件として扱われるかどうかは、警察や検察が個別の事情を踏まえて判断します。命や身体への危害を口にされている場合の考え方は、【親子問題】「殺す」と言われた|脅迫罪として扱われる線引きでも整理しています。

高齢者虐待防止法の「心理的虐待」

 親が65歳以上で、同居する子が日常の世話を担っている場合、その子は高齢者虐待防止法上の「養護者」にあたることがあります。同法は、著しい暴言や著しく拒絶的な対応など、高齢者に強い心理的な苦痛を与える言動を心理的虐待としています(同法2条4項)。厚生労働省の資料でも、脅しや威圧的な態度によって精神的苦痛を与えることが心理的虐待の例として挙げられています。

 施設に入れると繰り返し脅して生活を縛るような状態は、この心理的虐待や、本人の金銭の使用を制限する経済的虐待として扱われる可能性があります。この場合、市区町村や地域包括支援センターが相談・通報を受け、事実確認や必要な保護を検討する仕組みがあります。行政がどのように動くのかは、【親子問題】高齢の親が被害者の場合|行政が動く仕組みで詳しく解説しています。なお、親が64歳以下の場合は同法の対象外となるため、警察や弁護士への相談を中心に考えることになります。

親が今のうちに整えておけること

 脅しの言葉そのものを止めることと並行して、実際に入所や入院の手続を進められてしまわないよう、身の回りを整えておくことが大切です。

書類への署名と、実印・通帳の管理

 入所の申込書、介護保険の申請書、委任状などを差し出されても、内容を確認できないまま署名や押印をしないことが基本です。「とりあえず書いて」と急かされたときほど、いったん持ち帰り、信頼できる人に見てもらってから判断するようにしましょう。

 あわせて、実印、印鑑登録カード、通帳、キャッシュカード、権利証などの保管場所を見直しておくと安心です。持ち出されてしまった場合の手続は、【親子問題】子が親の実印や権利証を持ち出した|悪用を止める手続の順序と、使われていた場合の対応で解説しています。

ケアマネジャー・主治医・施設に自分の意思を伝えておく

 介護サービスを利用している場合は、担当のケアマネジャーに「自分は自宅で暮らし続けたい」「子から施設の話を一方的にされて困っている」と伝えておくことが考えられます。主治医にも同様の意思を伝え、カルテなどに残してもらえれば、後で本人の意思を確認する手がかりになります。子が施設や事業者に直接連絡を取るおそれがある場合も、事前に本人の意向を共有しておくことで、本人を抜きにした話が進みにくくなります。

精神科への入院を持ち出された場合

 「病院に入れる」という形で言われることもあります。精神科の医療保護入院は、精神保健指定医が診察して入院の必要性を判断することが前提であり、家族が望むだけで行えるものではありません。さらに2024年4月施行の法改正により、本人に対して虐待などを行った家族は、入院に同意する「家族等」から除かれることになりました。入院の同意をめぐる考え方は、【親子問題】医療保護入院の同意を求められた|家族が同意することの意味もあわせてご覧ください。

任意後見契約で「誰に任せるか」を自分で決めておく

 将来、判断能力が衰えたときに誰に財産管理や生活の手配を任せるかを、元気なうちに自分で決めておく方法として任意後見契約があります。公正証書で契約し登記しておくと、その後に家庭裁判所が法定後見を始めるのは、本人の利益のために特に必要がある場合に限られるとされています(任意後見契約に関する法律10条1項)。信頼できる親族や専門職を受任者に選んでおくことで、脅しを向けてくる子が後見人として親の生活を左右する事態を避けやすくなります。

 また、脅しの言葉が金銭や不動産の要求と結びついている場合は、要求の中身ごとに対応を分けて考えることが役立ちます。【親子問題】「家を売れ」と子に迫られている|所有者である親が確かめることと、無断売却への備えや【親子問題】子に年金の管理を任せろと言われている|渡す前に確かめておくことも参考になります。

言われた内容を記録しておく

 いつ、どこで、どのような言葉を言われたか、そのとき何を要求されたかを日付とともにメモしておくと、行政や警察、弁護士に相談するときに状況を伝えやすくなります。録音が可能な場面であれば、録音も記録の一つになります。

相談先と、それぞれが担う役割


相談先主に担うこと
地域包括支援センター・市区町村の高齢者福祉窓口高齢者虐待の相談・通報の受付、事実確認、介護サービスや保護の調整
ケアマネジャー・主治医本人の意思の把握、介護・医療の場面での調整
警察身の危険がある場合の対応、脅迫・強要などの相談
弁護士子との窓口の一本化、要求への法的な回答、任意後見契約などの手続の支援


 親子の問題は、どこか一つの窓口だけで解決することが難しい場合も少なくありません。それぞれの役割の違いは、【親子問題】親子の問題はどこに相談すればよいのか|警察・行政・弁護士の役割分担で整理しています。

 弁護士が親の代理人として関わる場合、子からの要求や脅しの言葉に親が直接応じる必要がなくなり、連絡の窓口を弁護士に移すことができます。当事務所では、親の側の保護を弁護士が担い、子の生活の立て直しを自立支援カウンセラーが支える形で、親子それぞれの自立に向けた対応を行っています。詳しくは【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応をご覧ください。

よくあるご質問


子が勝手に施設の見学や申込みをしてしまったらどうなりますか

 判断能力のある親が契約に同意しない限り、申込みだけで入所が決まるわけではありません。申込み先の施設や担当のケアマネジャーに、本人として入所の意思がないことを伝えておくとよいでしょう。

子に悪気はなく、介護に疲れて言っているだけかもしれません

 介護の負担から思わず出た言葉であれば、介護サービスの見直しや家族以外の支援を入れることで落ち着く場合もあります。ただ、言葉が繰り返され、お金の要求や生活の制限と結びついているのであれば、介護の問題と脅しの問題を分けて考えることが大切です。

警察に相談すると、子が逮捕されてしまいますか

 相談したからといって、必ず逮捕や処罰につながるわけではありません。どのように扱われるかは、言動の内容や危険の程度によって異なります。相談の記録を残しておくこと自体にも意味がありますので、【親子問題】警察に相談した記録を残す意味|相談票と後の手続もご参照ください。

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まとめ

 判断能力のある親を、子が一人の判断で施設に入れることは原則としてできません。それでも「施設に入れる」という言葉が繰り返され、お金や財産の要求、生活の制限と結びついているときは、脅迫や強要、高齢者虐待として扱われる余地があります。署名や実印の管理に気を配り、ケアマネジャーや主治医に自分の意思を伝え、必要に応じて任意後見契約を検討するなど、今のうちに備えておけることは少なくありません。一人で抱え込まず、早い段階で外部の窓口につなぐことを考えてみてください。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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