【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

成人した子との間で、金銭の要求や暴力、長期にわたる引きこもりといった状態が続いているとき、多くの親御さまは長い時間を一人で抱えています。警察に相談しても家庭内のことだと言われ、行政の窓口では決まった案内を受けるにとどまり、結局また同じ家の中で向き合うことになる。そうした行き詰まりの先で、弁護士という選択肢が視野に入ってくることがあります。

本記事は2026年9月時点の法令に基づいて記載しています。制度や運用は改正等により変わることがありますので、実際のご判断にあたっては最新の情報をご確認ください。


 ただ、「弁護士に頼めば解決する」という説明は、この分野では正確ではありません。弁護士が入ることで変わる部分と、入っても変わらない部分が、はっきり分かれているからです。本記事では、その境目を具体的に整理します。

親が一人で向き合い続けることの限界

 親子の問題が長期化しやすい理由の一つは、要求する側と応じる側が同じ家に住み、毎日顔を合わせている点にあります。金銭を渡さなければ声が荒くなる、断れば物が壊れる。そのやり取りが数年、場合によっては十数年続いてきた家庭も珍しくありません。

 この状況では、親御さまが「これ以上は渡さない」と決めても、伝える相手は目の前におり、伝えた直後の反応も自分で受け止めなければなりません。方針を決めることと、その方針を維持することは別の作業です。同居している限り、後者を一人で担い続けるのは簡単ではありません。

 外部の窓口に相談しても、想定していた対応にならないことがあります。警察は事件として処理できる事実があるかどうかを判断する機関であり、行政は制度に定められた支援を案内する機関です。いずれも、各家庭の事情に合わせて継続的に関わる仕組みにはなっていません。窓口ごとの役割分担については、弁護士・司法書士・行政書士・警察・行政窓口|どこに相談すべきかの使い分けもあわせてご覧ください。

 さらに、親子の間では刑事手続が動きにくい場面があります。同居する親族の間での窃盗や横領などの財産犯には、刑法244条により刑が免除されるという定めがあり、警察が踏み込みにくい理由の一つになっています。詳しくは同居の家族の物を持ち出した|親族相盗例で処罰されない範囲で解説しています。

弁護士が入ると、まず「誰が話すか」が変わる

 弁護士に依頼したときに最初に起きる変化は、法律論の中身ではなく、やり取りの相手が入れ替わることです。代理人に就いた弁護士が子に受任通知を送り、以後の連絡は弁護士宛てにするよう伝えます。親御さまが自分で交渉の矢面に立つ必要はなくなります。

 受任通知そのものの仕組みについては、受任通知とは何か|送られると相手方との関係はどう変わるか弁護士に窓口を移すという選択|代理人通知が効く場面・効かない場面で詳しく扱っています。本記事では、親子の問題に固有の事情に絞って説明します。

 親子の場面で特に意識しておきたいのは、相手が事業者ではないという点です。貸金業者に対しては、弁護士からの通知を受けた後に正当な理由なく本人へ直接請求することが法律で禁じられています(貸金業法21条1項6号)。しかし、これは貸付けを業として行う者に向けられた規制です。通知を送っても、「親に直接話しかけてはならない」という法律上の義務が子に生じるわけではありません。

 それでも代理人を立てる意味があるのは、応答の基準が変わるからです。要求されたその場で答える必要がなくなり、判断を保留して弁護士に回すという選択肢が生まれます。

代理人が入ることで変わりやすい場面


金銭の要求が続いている場合

 毎月の生活費、携帯電話の料金、借入の肩代わりなど、渡す金銭の範囲があいまいなまま膨らんでいる家庭は少なくありません。弁護士が入れば、どこまでが法律上の義務でどこからが任意の援助かを切り分け、その線を書面で相手に伝えることができます。

 成人した子に対する扶養の考え方については、【不当要求対応】親族からの金銭要求|扶養義務はどこまでかで整理しています。義務の有無をはっきりさせること自体が、要求の根拠を確認する作業になります。

暴力や物の破壊が起きている場合

 財産犯と異なり、暴行罪・傷害罪・脅迫罪には、親族の間だからといって刑を免除する定めはありません。家庭内でも刑事責任の対象になり得ます。この点は家庭内で手が出た|家族間の暴行・傷害とDV法の関係で説明しています。

 日時・状況・診断書・修理の見積りといった記録を整えたうえで、被害届の提出や損害賠償の請求を検討します。記録がそろっているかどうかで、その後に選べる手段の幅が変わります。

住まいを分ける話をする場合

 親御さま名義の家に成人した子が住み続けている場合、その居住関係は使用貸借や親子間の好意による同居として整理されることが一般的です。契約書がなく期間や目的も定めていないときは、貸主の側から契約を終了させる余地があります(民法598条2項)。

 もっとも、話がまとまらないときに親御さま自身が鍵を替えたり荷物を出したりすることはできません。自力で権利を実現する行為は原則として認められておらず(最高裁昭和40年12月7日判決)、最終的には明渡しを求める裁判とその執行という手続を経ることになります。その前段階として合意による退去を目指す交渉を行うのが、代理人の役割です。

親自身の生活と財産を守る場面

 通帳やカードを持ち出されている、年金が生活費に回っていない、といった状態が続いているときは、金融機関への届出や財産の管理方法の見直しが必要になります。親御さまが65歳以上であれば、市区町村への通報という別の入口もあります。高齢者虐待の防止等に関する法律は、身体的な暴力だけでなく財産を不当に処分する行為も対象としており(同法2条4項)、通報を受けた市区町村は事実確認と必要な措置を行うこととされています(同法7条、9条)。

 なお、加害者が同居の親族である場合には、養護者に当たらないときでも市区町村に通報するという取扱いが、警察庁の通達で示されています。警察への相談が福祉の窓口につながる経路もあるということです。

代理人が入っても変わらない場面

 過度な期待を持たないために、変わらない部分もあわせてお伝えします。

その場の身体の危険

 弁護士は、暴れている場に駆けつける役割を担いません。危険が差し迫っている状況では、110番が最初の手段です。また、配偶者暴力防止法の保護命令は、配偶者・元配偶者・生活の本拠を共にする交際相手を対象とする制度であり、親子の間では利用できません。この制度上の空白は、代理人が就いても埋まりません。

子の気持ちや考え方

 弁護士ができるのは、権利義務の整理と交渉、手続の追行です。子の価値観を変える、働く意欲を持たせるといったことは、法律の手段では実現できません。別の専門性が必要な領域です。

直接の連絡が止まること

 前述のとおり、通知を送っても子に法的な連絡禁止義務が生じるわけではなく、同居が続く限り顔を合わせる場面自体はなくなりません。窓口を一本化したあとの対応は、依頼後に相手方から直接連絡が来たら|窓口一本化の実践が参考になります。

本人の意思によらない移動

 成人した子を、本人の意思に反して家から連れ出したり施設に入れたりすることは、弁護士にもできません。この点では、いわゆる「引き出し屋」と呼ばれる事業者をめぐって損害賠償を認めた裁判例が複数あり、消費者庁も注意を呼びかけています。強制的な手段による解決を掲げる説明には、慎重にご検討ください。

弁護士は「親の代理人」であって、子の代理人ではない

 当事務所が親御さまからご依頼をお受けする場合、弁護士の立場は親側の代理人です。したがって、同じ弁護士が子の側の相談に応じることはできません。これは弁護士の職務上の利益相反の問題であり、詳しくは弁護士に相談を断られることはあるか|利益相反という仕組みをご覧ください。ご相談の内容が子に伝わるかどうかという点は、相談内容は誰にも知られないのか|守秘義務の範囲と例外の考え方で整理しています。

 ただ、子の側を孤立させたままでは、自立には結びつきません。仕事や住まいが決まらず、日々の金銭管理もできない状態で親から切り離されれば、生活が立ち行かなくなるだけです。

 そこで当事務所では、民間の自立支援カウンセラーと常にチームを組む形をとっています。弁護士が親側の保護と交渉を担い、カウンセラーが子側の日常の支援を担います。具体的には次のような内容です。

  • 住まいを探し、契約の手続に同行します。
  • 仕事を探し、応募や面接の準備を支えます。
  • 生活保護の受給申請が必要な場合には、申請に同行します。
  • 日々の金銭管理を一緒に行い、使い方を組み立て直します。
  • 日常の悩みに応じ、必要に応じて親御さまへ状況を報告します。
  • 親からの過度な干渉を遮断し、双方の距離を保ちます。


 親と子をそれぞれ別の支援者が担当することで、どちらか一方だけが取り残される形を避けることを目指しています。人が関わる以上、結果をお約束することはできません。ただ、親子が物理的な距離を取るだけでも、双方に変化が現れることは少なくありません。距離が近すぎることと互いに依存し合う関係が、問題の一因になっている場合があるためです。

依頼を検討する段階で整理しておきたいこと

 最初のご相談の時点で次の点が分かっていると、取り得る手段の見通しが早く立ちます。

  1. 子の年齢、同居しているかどうか、現在の収入や就労の状況。
  2. 金銭の要求が始まった時期と、これまでに渡した金額のおおよその推移。
  3. 暴力や器物の破壊があった場合の日時と、残っている記録(写真、診断書、修理の見積り、録音など)。
  4. これまでに相談した窓口と、そこで受けた回答の内容。
  5. 住まいの名義と、家族それぞれの預貯金や年金の管理状況。
  6. 親御さまご自身が、最終的にどのような状態を望んでいるか。


 特に最後の点は欠かせません。同居を続けたまま金銭の線だけを引き直したいのか、別居まで進めたいのかで、必要な手続も時間の見通しも変わります。

よくあるご質問


子が相手でも、弁護士に依頼できるのですか

 できます。親子であっても、金銭の請求や損害賠償、明渡しといった法律上の争いである以上、代理人を立てることに制限はありません。当事務所では、未成年の子から50歳を超える子まで幅広い年代の事案をお受けしています。

依頼したことを子に知られたくないのですが

 代理人として交渉する以上、受任した事実を相手方である子に伝えないまま進めることは基本的にできません。ただ、どの段階で通知を送るか、どの範囲の事情を書面に書くかには調整の余地があります。ご相談の段階であれば、依頼に進むかどうかを決める前に方針だけを検討することもできます。

費用はどのくらいかかりますか

 事案の内容と、交渉にとどめるのか手続まで進めるのかで異なります。弁護士費用の一般的な構成は、弁護士費用の内訳|相談料・着手金・報酬金・実費・日当・手数料をご覧ください。ご相談の際に、想定される範囲をお示しします。

遠方に住んでいますが依頼できますか

 当事務所は5年以上にわたり、北海道から沖縄まで各地の親子の問題に取り組んできました。遠方の場合の進め方や費用の考え方は、遠方の弁護士に依頼できるか|オンライン相談と出張・日当の関係で説明しています。

窓口を代えるという最初の一歩

 弁護士に依頼することは、問題を丸ごと預けることではありません。親御さまが一人で受け止めてきた要求と交渉を、外部の窓口に移すという選択です。何が変わり、何が変わらないのかを事前に把握したうえで判断していただくことが、遠回りに見えて確実な進め方だと考えています。長く続いてきた関係ほど、どこから手をつけるべきかは見えにくくなります。まずは、今の状況を時系列に沿って整理するところからご一緒できます。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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