【親子問題】子に貸したお金を返してもらいたい|「もらった」と言われたときの整理と請求の進め方
この記事は、2026年10月時点の刑法、民事保全法、民事執行法、民法、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(DV防止法)、ストーカー行為等の規制等に関する法律(ストーカー規制法)の規定をもとに解説しています。2025年6月施行の改正刑法により、懲役と禁錮は拘禁刑に一本化されています。
親御さんからは「息子と距離を置くために長女の家に身を寄せたところ、息子が長女の家にまで来るようになった」というご相談が寄せられます。きょうだいの側からも「実家にいる弟が、親にお金を断られてから、私の自宅や勤務先に来るようになった」というお話を伺うことがあります。
子から親への暴力や金銭の要求については、同居している家の中で起きることを前提にした解説が多く、それ自体は誤りではありません。ただ、矛先が別に暮らすきょうだいに向かったときには、問題の場所が「親の家」から「きょうだいの家」に移ります。家が変われば、そこに住む権利を持つ人も、使える法的な手段も変わるという点は、あまり説明されていません。
この記事では、子が親の住まいを離れて、別に暮らすきょうだいの家や勤務先に押しかける場面に絞って、きょうだいとその家族を守るための考え方を整理します。同じ家の中できょうだいや配偶者に暴力が及んでいる場面は【親子問題】きょうだいや配偶者にも暴力が及んでいる場合で、きょうだいが親に代わって相談する場面は【親子問題】きょうだいが相談者になる場合|親が動けないときで解説しています。
矛先がきょうだいに向かうのはどのような場面か
親が距離を取った後に起きやすい
ご相談を伺っていると、きょうだいの家への押しかけは、親が子と距離を取った後に始まることが少なくありません。親が一時的に家を出た、金銭の要求を断るようになった、弁護士が窓口になって親と直接話せなくなった、といった変化の後です。
子の側から見ると、親に会えない、親からお金を受け取れないという状況になり、親の居場所を知っていそうな人や、代わりにお金を出してくれそうな人として、きょうだいに目が向くことがあります。親がきょうだいの家に避難している場合は、なおさらです。避難先を考える際の注意点は【親子問題】避難先の確保|一時的に親が家を出るという選択で解説しています。
きょうだいは「当事者」になる
きょうだいの多くは、自分の家庭や仕事を持っています。押しかけが続けば、きょうだいの配偶者や子ども、勤務先の同僚まで巻き込まれることになります。子が自宅や勤務先に来るようになった時点で、きょうだいは「親を手伝う立場」から「自分自身が被害を受けている当事者」に変わります。この視点を家族の中で共有しておくことが、対応を考える出発点になります。
きょうだいの家は「別の住居」|親の家との違い
親の家では子を締め出しにくい理由
子が長く親の家で暮らしてきた場合、親の承諾のもとで住んできたという経緯があるため、親の判断だけで締め出すことには法的な限界があります。この点は【親子問題】子を家から出ていかせることはできるのか|占有と明渡しや【親子問題】鍵を替える・締め出すことの可否|自力救済の限界で解説しています。
きょうだいの家に子が立ち入る根拠は通常ない
これに対して、別に暮らすきょうだいの家は、きょうだい(とその配偶者)の住居です。子がそこに住んできた経緯がなければ、子が立ち入る根拠は通常ありません。承諾なく入れば住居侵入罪が、帰るよう求められたのに居座れば不退去罪が問題になります(刑法130条)。いずれも3年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金が定められています。
きょうだいが「帰ってほしい」とはっきり伝えたかどうかは、後で不退去罪を検討する際の前提になります。成立の時期については退去を求められたのに帰らなかった|不退去罪はいつ成立するかで解説しています。
財産を持ち出された場合の扱いも変わる
刑法には、親族の間の窃盗などについて特例があります(親族相盗例)。子が親の物を持ち出した場合は刑が免除されますが(同法244条1項)、同居していないきょうだいの物を持ち出した場合は、告訴があれば起訴することができます(同条2項)。特例の範囲は同居の家族の物を持ち出した|親族相盗例で処罰されない範囲で詳しく扱っています。
| 場面 | 親の家・親の物 | 別に暮らすきょうだいの家・物 |
|---|---|---|
| 子が立ち入る根拠 | 住んできた経緯があり、すぐには否定しにくい | 通常はない |
| 承諾なく入った場合 | 住居侵入とは扱われにくい | 住居侵入罪が問題になる(刑法130条) |
| 帰るよう求めても居座った場合 | 不退去とは扱われにくい | 不退去罪が問題になる(同条) |
| 物を持ち出した場合 | 刑が免除される(同法244条1項) | 告訴があれば起訴できる(同条2項) |
| 暴行・脅迫・物を壊す行為 | 親族の特例はない | 親族の特例はない |
押しかけられたときの対応と記録
その場では家に入れず、帰るよう伝える
子が訪ねてきたときは、ドアを開けずにインターホン越しに対応し、帰ってほしいことを短く伝えるのが基本です。話し合いに応じて家に入れると、その後に帰ってもらうことが難しくなる場合があります。帰らない、大声を出す、ドアを叩くといった状況であれば、110番を検討してください。判断の目安は【親子問題】110番を呼ぶ判断基準|その場で何を伝えるかで解説しています。
記録はきょうだいの名前で残す
来訪の日時、インターホンの録画、防犯カメラの映像、言われた内容、壊された物の写真などを残しておきます。警察に相談する場合も、親の相談とは別に、きょうだい自身が受けている被害として、きょうだいの名前で相談しておくことが大切です。相談記録の意味は【親子問題】警察に相談した記録を残す意味|相談票と後の手続をご覧ください。
「親に危害を加える」と言われた場合・勤務先に来た場合
きょうだいに対して「親の居場所を言わなければ親を殴る」などと告げることは、本人だけでなく親族への害悪の告知として、脅迫罪にあたる可能性があります(刑法222条2項)。範囲は家族に危害を加えると言った|脅迫罪の「親族」の範囲で解説しています。勤務先に押しかけて業務に支障が出ている場合は、業務妨害の問題にもなり得ます。勤務先での対応は職場・自宅に押しかけられた|住居侵入・不退去・業務妨害の使い方が参考になります。
接近や訪問を止めるための手続
DV防止法・ストーカー規制法が使いにくい理由
DV防止法の保護命令は、配偶者や生活の本拠を共にする交際相手からの暴力などを対象としています。同法には被害者の親族への接近を禁じる命令もありますが、配偶者からの暴力が前提であり、子からきょうだいへの押しかけには使えません。ストーカー規制法も、恋愛感情などの好意やそれが満たされなかった恨みを動機とする行為を対象としているため、親子やきょうだいの間の問題には当てはまりにくいのが実情です。
民事保全の仮処分という方法
これらの法律が使えない場合でも、裁判所に接近禁止や面談強要禁止の仮処分を申し立てる方法があります(民事保全法23条2項)。平穏に暮らす権利(人格権)が侵害されていること、急いで止める必要があることを、記録などで示す必要があり、担保金の納付を求められることもあります(同法14条1項)。命令に違反した場合には、違反1回ごとに金銭の支払いを命じる間接強制を申し立てることができます(民事執行法172条)。
仮処分を申し立てるのは、被害を受けているきょうだい本人です。親がきょうだいに代わって申し立てることはできません。警察の手続との使い分けは接近禁止を実現する2つの道|ストーカー規制法(警察)と民事保全(裁判所)の使い分けで解説しています。
弁護士からの通知で窓口を一本化する
裁判所の手続の前に、弁護士から子に対し、きょうだいの自宅や勤務先への訪問をやめること、用件があれば弁護士に伝えることを求める通知を送る方法もあります。子にとって連絡先がはっきりするため、家族のあちこちに接触する理由を減らすことにつながります。
お金を求められたときのきょうだいの立場
扶養義務はあるが、求められるまま払う義務ではない
民法は、兄弟姉妹の間にも扶養の義務を定めています(民法877条1項)。ただし、扶養の程度や方法は、当事者の話し合いがまとまらなければ家庭裁判所が双方の事情を考慮して定めるもので(同法879条)、訪ねてきた子に求められた額をその場で支払う義務があるという意味ではありません。考え方は【不当要求対応】親族からの金銭要求|扶養義務はどこまでかで解説しています。
親ときょうだいで方針をそろえる
親が断った要求にきょうだいが応じると、要求の相手が親からきょうだいへ移るだけで、状況そのものは変わらないことがあります。誰が、何に、どこまで支出するのかを、親ときょうだいの間で事前に決めておくことが大切です。
親以外の家族を守るために
共有する情報と伏せる情報を決める
親の避難先、きょうだいの新しい連絡先、勤務先などの情報が子に伝わる経路を確認しておきます。親戚や共通の知人を通じて伝わることもあるため、事情を話せる範囲で協力をお願いしておくと安心です。
子の生活を支える側の手当ても並行させる
押しかけを止める手続は大切ですが、それだけでは、子が誰かを頼らなければ生活できない状況は変わりません。当事務所では、弁護士が親御さんの代理人として子と向き合い、家族への接触を止める一方で、民間の自立支援カウンセラーが子の住まいや仕事、日々の金銭管理を支えます。子の生活の基盤ができると、家族に矛先が向く状況そのものが変わっていくことがあります。サービスの内容は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応でご紹介しています。
よくあるご質問
一度家に入れてしまったら、住居侵入にはならないのですか
承諾して家に入れた場合、入ったこと自体は住居侵入にあたりにくくなります。ただ、その後に帰るよう求めても居座れば、不退去罪が問題になります(刑法130条)。帰ってほしいと伝えた時刻を記録しておくとよいでしょう。
避難してきた親が「入れてあげて」と言った場合はどうなりますか
その家に住む家族の間で意見が分かれると、誰の意思を基準にするかの評価が難しくなります。子が来たときにどう対応するかを、親ときょうだいの家族で事前に決めておくことをおすすめします。
きょうだいの立場で弁護士に相談できますか
ご相談いただけます。きょうだいご自身の被害として相談する場合と、親御さんのご依頼と並行して進める場合とで、整理の仕方が変わります。ご相談の内容が子に伝わるかどうかについては【親子問題】相談内容は子に伝わるのか|守秘義務と連絡の取り方で解説しています。
まとめ
- 子の押しかけは、親が距離を取った後にきょうだいへ向かうことがあり、その時点できょうだいは被害を受けている当事者になる。
- 別に暮らすきょうだいの家に子が立ち入る根拠は通常なく、承諾のない立ち入りや居座りは住居侵入罪・不退去罪が問題になる(刑法130条)。
- 同居していないきょうだいの物を持ち出した場合、親族相盗例による刑の免除はなく、告訴があれば起訴できる(同法244条2項)。
- きょうだいに親への危害を告げる行為は、脅迫罪にあたる可能性がある(同法222条2項)。
- DV防止法やストーカー規制法が使いにくい場合でも、接近禁止・面談強要禁止の仮処分を、きょうだい本人が申し立てる方法がある(民事保全法23条2項、民事執行法172条)。
- きょうだいにも扶養の義務はあるが、程度や方法は家庭裁判所が事情を考慮して定めるもので、求められるまま払う義務ではない(民法877条1項・879条)。
- 押しかけを止める手続と並行して、子の生活の基盤を整えることが、家族全体を守ることにつながる。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、親子の問題に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。家庭内暴力やひきこもりの問題に、弁護士と自立支援カウンセラーがチームで取り組み、北海道から沖縄まで全国のご家庭に対応してきました。
子の押しかけに悩む親御さんはもちろん、自宅や勤務先に来られて困っているきょうだいの方からのご相談もお受けしています。親御さんだけで抱え込まず、ご家族それぞれの安全を守る方法を一緒に考えましょう。


