【親子問題】「家庭の問題」と言われて警察が動かないのはなぜか

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

「息子に殴られて警察を呼んだのに、家庭の問題だからと言われて、その場を収めただけで帰ってしまった」。「同居している娘に通帳からお金を引き出されているのに、親子の間のことだと言われて取り合ってもらえない」。親子の問題でご相談にみえる方から、こうしたお話をうかがうことは少なくありません。

 一方で、警察がいつも同じ対応をするわけでもありません。同じ家庭内の出来事でも、その場で子を引き離し、後日に事件として扱われることもあります。インターネットで調べると「民事不介入だから警察は動かない」という説明がよく出てきますが、この説明だけでは、なぜ扱いが分かれるのかが見えてきません。実は、お金や物に関する行為と、暴力や脅しに関する行為とでは、刑法の扱いがはっきり分かれています。

 この記事では、「家庭の問題」と言われる背景にある制度を整理します。被害届の書き方や立件に向けた実務の進め方は別の記事に譲り、「なぜそう言われるのか」と「そのうえで何が残っているのか」に絞ってご説明します。

この記事は2026年9月時点の法令に基づいています。条文や運用は改正・変更される場合がありますので、実際のご判断の際は最新の情報をご確認ください。


「家庭の問題」という言葉が指しているもの

 窓口で告げられる「家庭の問題」という言葉は、法律のどこかに書かれている用語ではありません。その背景には、いくつかの異なる事情が重なっています。

民事不介入は条文に書かれた原則ではない

 「民事不介入」は、法律の条文名ではなく、警察の権限行使についての考え方を指す言い回しです。警察法2条1項は、警察の責務として、個人の生命・身体・財産の保護や犯罪の予防・鎮圧・捜査などを挙げています。そのうえで同条2項が、その責務の遂行にあたっては権限を濫用してはならないと定めています。私人の間の権利関係の争いそのものに警察が立ち入るべきではない、という考え方はここから導かれるもので、犯罪に当たる行為まで扱わないという意味ではありません。

 もう一つ、より直接的な理由もあります。刑法には、一定の親族の間で行われた財産に関する犯罪について刑を免除する規定が置かれています。親族相盗例と呼ばれるもので、運用上の考え方ではなく、条文として存在する制度です。窓口で「親子の間のことだから」と言われる場面の一部は、この規定が念頭に置かれています。

その場を収める対応と、捜査は別の動き

 警察官職務執行法5条は、犯罪がまさに行われようとするのを認めたときに、警告を発し、急を要する場合には制止することができると定めています。目の前の危険を止める対応と、事件として捜査を進める対応は、別の動きとして整理されています。臨場して子を落ち着かせ、その場を収めて帰るという対応は前者にあたり、何もしていないということではありません。この二つが混ざって伝わると、「何もしてくれなかった」という印象だけが残ることがあります。

お金や物をめぐる行為には、刑を免除する規定がある

 親族相盗例の中身を、条文に沿って確認します。ここを理解しておくと、窓口での説明の意味がつかみやすくなります。

刑法244条が定めていること

 刑法244条1項は、配偶者、直系血族または同居の親族との間で窃盗罪などを犯した者は、その刑を免除すると定めています。子は親から見て直系血族に当たるため、同居しているかどうかを問わず、この規定の対象になります。別居している子が親の家から通帳や貴金属を持ち出した場合も、条文上は同じ扱いです。

 同条2項は、それ以外の親族との間の場合について、告訴がなければ公訴を提起できないと定めています。3項は、親族でない共犯にはこれらの規定を適用しないとしています。子が友人を連れてきて一緒に持ち出したという場合、その友人については特例が働きません。

詐欺・恐喝・横領にも準用される

 この規定は窃盗だけにとどまりません。刑法251条により詐欺罪・準詐欺罪・背任罪・恐喝罪に、同法255条により横領罪・業務上横領罪に準用されています。うそを言ってお金を出させた、脅して出させた、預かった金銭を使い込んだ、といった行為も同じ枠組みで扱われます。

特例が及ぶ行為と及ばない行為

 条文の対象を並べると、次のように整理できます。

家庭内で起きがちな行為主な罪名親族間の特例
財布や通帳からお金を持ち出す窃盗罪(刑法235条)直系血族などとの間では刑が免除される(同法244条1項)
うそを言ってお金を引き出させる詐欺罪(同法246条)窃盗と同じ扱いになる(同法251条)
脅してお金を出させる恐喝罪(同法249条)窃盗と同じ扱いになる(同法251条)
預かった金銭を使い込む横領罪(同法252条)窃盗と同じ扱いになる(同法255条)
殴る、突き飛ばす暴行罪(同法208条)特例はない
けがをさせる傷害罪(同法204条)特例はない
害を加えると告げる脅迫罪(同法222条)特例はない
反抗できない状態にして奪う強盗罪(同法236条)特例はない
家具や家電を壊す器物損壊罪(同法261条)特例はないが告訴が必要(同法264条)


 金銭の持ち出しについてのより詳しい整理は、同居の家族の物を持ち出した|親族相盗例で処罰されない範囲で解説しています。

刑が免除されても、民事の責任は別に残る

 注意しておきたいのは、244条1項が定めているのは「刑の免除」であって、行為が適法になるという意味ではないという点です。犯罪自体は成立し、そのうえで刑を科さないという仕組みです。したがって、持ち出された金銭について、不法行為に基づく損害賠償や不当利得の返還を民事で求めることは、この規定によって妨げられません。刑事で動かないことと、請求できないことは別の話です。

暴力や脅しには、この特例がない

 ここが、親子の問題を考えるうえで最も大きな分かれ目になります。

暴行・傷害・脅迫には条文上の特例がない

 刑法244条は、窃盗罪と不動産侵奪罪、およびその未遂罪を対象としています。暴行罪、傷害罪、脅迫罪、強要罪には、これに相当する規定が置かれていません。準用の条文もありません。つまり、家族の間で行われたという理由だけで、暴力や脅しの刑が免除される仕組みは刑法に存在しません。相手が親であるか他人であるかにかかわらず、条文は同じものが適用されます。

 家庭内の暴力と刑事責任の関係については、家庭内で手が出た|家族間の暴行・傷害とDV法の関係でも取り上げています。なお配偶者暴力防止法の保護命令は配偶者や事実上婚姻関係と同様の事情にある者などを対象とする制度で、親子の間には原則として使えません。この点は混同されやすいところです。

物を壊す行為は、特例ではなく告訴の問題

 壁を殴って穴を開けた、家電を投げて壊したという行為は、器物損壊罪に当たり得ます。この罪には244条の準用がありませんが、刑法264条により、告訴がなければ公訴を提起できない親告罪とされています。つまり、親が告訴をしない限り起訴には至らないという構造で、これも「動かない」と受け取られやすい場面の一つです。特例があるから扱えないのではなく、親の側の意思表示が要件になっているという違いがあります。

金銭要求と暴力が一緒に起きている場合

 実際のご相談では、「金を出せ」という要求と、突き飛ばす、物を壊すといった行為が同時に起きていることがほとんどです。この場合、恐喝罪の部分については特例が働く一方、暴行や傷害の部分は別に評価され得ます。けがの結果が生じていれば、傷害罪として扱われる余地があります。金銭のやり取りだけを説明すると「親子の間のこと」で止まりやすく、身体に何が起きたかを分けて伝えると、話の受け取られ方が変わることがあります。

それでも動かないと感じるとき、窓口で何が起きているのか

 条文の上では扱える行為であるはずなのに、進まないと感じる場面もあります。理由はいくつかに分かれます。

被害届は受理しなければならないとされている

 犯罪捜査規範61条は、犯罪による被害の届出をする者があったときは、その届出に係る事件が管轄区域内で発生したものであるかどうかを問わず、これを受理しなければならないと定めています。告訴・告発については同規範63条に同様の定めがあります。各都道府県警察でも、迅速・確実な受理についての通達が繰り返し出されています。受け付けてもらえないと感じたときは、どの罪名のどの行為について届け出たいのかを具体的に示して、あらためて相談する余地があります。

 この点については、脅迫の被害届は受理されるのか|「民事不介入」と言われたときの再挑戦でも詳しく整理しています。

処罰を求める意思がはっきりしないと進みにくい

 親の側は「事件にしたいわけではないが、止めてほしい」と考えていることが多く、これは自然な感情です。ただ、捜査機関から見ると、処罰を求める意思がはっきりしない届出は扱いが難しくなります。止めてほしいだけなのか、処罰まで求めるのかによって、選べる手段も変わります。ここを決めないまま相談を重ねると、どちらにも進まない状態が続くことがあります。

記録が残っていないと、後から確かめられない

 家庭内の出来事は、目撃者がいないまま経過することがほとんどです。次のようなものは、後になってから作ることができません。

  • 受傷した直後の写真と、受診した医療機関の記録。
  • 壊された物の写真と、修理や買い替えにかかった費用の資料。
  • 日時と何があったかを書きとめたメモ。
  • 金銭を渡した日付と金額が分かる出金の記録。
  • 警察や行政に相談した日付と、どこに相談したかの記録。


 残し方の具体的な方法は、証拠の残し方|あとで警察・弁護士に通用する記録とはをご覧ください。

警察のほかに動く仕組みがある

 刑事手続が進まない場合でも、別の枠組みが用意されていることがあります。とくに親が高齢の場合は、確認しておく価値があります。

高齢者虐待防止法が使える場合

 高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律は、養護者による高齢者虐待について、発見した者に市町村への通報を求めています。生命または身体に重大な危険が生じている場合は通報しなければならず、それ以外の場合も通報の努力義務が置かれています(同法7条)。被害を受けた高齢者本人が届け出ることもできます。

 通報や届出を受けた市町村は、安全の確認や事実確認を行い、必要に応じて老人福祉法に基づく措置により一時的に保護することができます(同法9条2項)。立入調査(同法11条)、その際の警察署長への援助要請(同法12条)、面会の制限(同法13条)も定められています。分離という選択肢が、刑事手続とは別の経路で用意されている点が、この制度の特徴です。

「養護者」に当たらない場合の扱い

 ただし、この法律が直接の対象としているのは「養護者」による虐待です。厚生労働省の対応マニュアルでは、養護者に当たらない例として、中高年の子どもの世話をしている親がその子どもから受ける暴力等が挙げられています。親が子を扶養している関係では、法の直接の対象にならないことがあるという整理です。

 もっとも同じマニュアルは、高齢者が権利侵害を受けている場合には、介護保険法の地域支援事業における権利擁護事業や老人福祉法上の措置等により、この法律の取扱いに準じた対応をすることが求められるとしています。相談・通報の段階では養護者に当たるかどうかの判定が難しいことから、まずは養護者による高齢者虐待の事案として事実確認を行うとする自治体のマニュアルもあります。対象外だと自己判断する前に、地域包括支援センターや市町村の窓口に事実を伝えておくことに意味があります。

相談だけを先にしておくという選択

 事件にするかどうかを決めきれない段階でも、警察相談専用電話の#9110や、居住地を管轄する警察署の生活安全課に相談しておくことはできます。相談として受けた内容は記録に残されます。ひきこもりに関しては、都道府県・指定都市にひきこもり地域支援センターが置かれ、厚生労働省も令和7年1月に「ひきこもり支援ハンドブック」を取りまとめて全国の自治体に通知しています。

刑事で進まなくても、民事で組み立てられることがある

 ご相談の目的が「処罰」ではなく「この状態を終わらせること」である場合、民事の手段のほうが目的に近いことがあります。

距離を取ることを目的とした手続

 同居を続けたまま状況が変わることは多くありません。住まいの権利関係によっては明渡しを求める方法が考えられ、暴力や執拗な接触が続いている場合には、人格権に基づく差止めとして面談の強要や接近を禁じる仮処分を検討できる場面もあります。いずれも時間と費用がかかるため、見通しを立てたうえで選ぶことになります。接触を止める手段の比較は接近禁止を実現する2つの道|ストーカー規制法(警察)と民事保全(裁判所)の使い分けで整理しています。

お金の流れを止める

 刑が免除される行為であっても、民事上の請求は別に残ります。あわせて、通帳やキャッシュカードの管理方法を変える、口座を分けるといった対応で、繰り返しを止められることもあります。扶養義務との関係については、【不当要求対応】親族からの金銭要求|扶養義務はどこまでかで整理しています。

よくあるご質問

別居している子でも、持ち出しについて刑は免除されるのですか

 刑法244条1項は、配偶者、直系血族または同居の親族を対象としています。子は直系血族に当たるため、同居していなくてもこの規定の対象になります。同居要件が必要なのは、きょうだいなど直系血族以外の親族の場合です。ただし、刑が免除されることと、民事で返還や賠償を求められないことは別の問題です。

警察に相談しただけでは、何も残らないのでしょうか

 事件として扱われなかった場合でも、相談として受けた内容は記録に残されます。後に被害届や告訴を検討するとき、あるいは民事の手続で経過を説明するときに、いつから何が続いていたかを示す材料になります。相談した日付と担当部署はご自身でも控えておいてください。

子が友人を連れてきて一緒に持ち出した場合はどうなりますか

 刑法244条3項は、親族でない共犯についてはこれらの規定を適用しないと定めています。したがって、親族関係にない友人については特例が働きません。同じ出来事でも、関わった人によって扱いが分かれることがあります。

まとめ


  1. 「民事不介入」は条文に書かれた原則ではなく、警察法2条2項の趣旨から導かれる権限行使の考え方である。
  2. 刑法244条1項は、配偶者・直系血族・同居の親族との間の窃盗罪などについて刑を免除しており、子は同居の有無を問わず対象になる。
  3. この規定は、刑法251条により詐欺罪・恐喝罪などに、同法255条により横領罪に準用されている。
  4. 暴行罪・傷害罪・脅迫罪・強要罪・強盗罪には、この特例が置かれていない。
  5. 器物損壊罪には特例の準用はないが、刑法264条により告訴がなければ公訴を提起できない。
  6. 被害届は、犯罪捜査規範61条により受理しなければならないとされている。
  7. 高齢者虐待防止法は市町村への通報と分離の仕組みを定めるが、親が子を扶養している関係では直接の対象にならない場合があり、その場合も準じた対応が求められるとされている。
  8. 刑が免除される行為であっても、民事上の損害賠償や返還の請求は別に残る。


親子の問題でお困りの方へ

 弁護士法人若井綜合法律事務所では、親子の間で起きているトラブルに関するご相談を、池袋と新橋の事務所でお受けしています。子の年齢は問いません。未成年のお子さまの場合もあれば、50歳を超えたお子さまのケースもあります。

 当事務所では、親御さまの側の代理人として窓口を引き受けるとともに、民間の自立支援カウンセラーとチームを組み、子の側の生活の立て直しを並行して進める形をとっています。警察や行政に相談したものの状況が変わらないという段階でも、できることが残っている場合があります。まずは、これまでの経過とお手元の記録をお持ちのうえ、ご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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