【親子問題】薬物の問題を抱える子と家族の関わり方|距離の取り方という視点

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

「子の薬物のことで、どこまで手を貸してよいのか分からない」「お金を渡さないと何をするか分からず、つい渡してしまう」。子の薬物使用に直面したご家族からは、このような声が寄せられます。その一方で、「突き放したら取り返しがつかなくなるのではないか」と、距離を取ること自体に強い不安を抱く方も少なくありません。

 薬物の問題では「家族が抱え込まないこと」「本人の尻ぬぐいをしないこと」が大切だとよく説明されます。この説明自体は誤りではありませんが、実際の家庭では、生活費と薬物代の線をどこで引くのか、暴力や金銭の要求があるときに断ってよいのか、家の中で薬物らしきものを見つけたらどうするのかといった具体的な場面で迷いが生じます。

 この記事では、成人した子を含め、薬物の問題を抱える子と家族の関わり方を「距離の取り方」という視点から整理します。刑罰の重さや逮捕後の手続、治療機関の詳しい紹介は別の記事に譲り、ここでは家族の日々の関わり方と、家族自身が法的な問題に巻き込まれないための線引きを中心に扱います。

本記事は、2026年9月時点の法令と、厚生労働省「ご家族の薬物問題でお困りの方へ(家族読本)」(令和8年3月)などの公的資料に基づいて作成しています。ご家庭ごとの事情によって適切な対応は異なりますので、具体的な判断にあたっては専門機関や弁護士にご相談ください。


家族が懸命になるほど問題が長引くことがある理由

「やめさせる努力」が長続きしにくい構造

 厚生労働省の家族向け冊子「ご家族の薬物問題でお困りの方へ(家族読本)」は、家族がたどりやすい経過を描いています。初めは「そのうちやめるだろう」と問題を小さく見積もり、使用が深刻になると、叱る、懇願する、交換条件を出すといった手を尽くしてやめさせようとします。しかし相手が依存症という障害を抱えている場合、こうした努力で一時的に使用が止まっても、長くは続かないことが多いとされています。

 期待しては裏切られることを繰り返すうちに、家族は本人を信じられなくなり、怒りや無力感、自責の念を抱えるようになります。これは家族の努力が足りないからではなく、依存症がそうした性質をもつ障害だからだと理解しておくことが出発点になります。

「家族の病」と言われる意味

 同冊子は、依存症が家族を巻き込み、気づかないうちに家族の心身を消耗させていくことから、「家族の病」と呼ばれていると説明しています。本来、家族はそれぞれが独立した個を保ちながらゆるやかに結びついているものですが、薬物の問題を抱える家庭では、家族全体が目の前の危機を乗り越えることだけを目標に動くようになり、一人ひとりの境界線が崩れやすくなります。

 さらに、周囲に知られたくないという思いから秘密が増え、家庭が社会から孤立していくことも指摘されています。距離を取るという考え方は、この崩れた境界線を引き直す作業だと捉えると理解しやすくなります。

お金を渡し続けることが回復を妨げる場面

肩代わりや後始末が「使用を支える側」に回るとき

 家族読本は、今度こそ立ち直ってほしいと借金を肩代わりしたり、本人が起こした問題の後始末をしたりすることで、本人が事態の深刻さに気づけず、治療が必要だという気持ちになりにくくなると指摘しています。結果として本人の薬物使用を助けてしまう家族の対応は、専門用語で「イネイブリング」と呼ばれます。

 体調を崩した本人を懸命に世話することも、本人の側から見れば「体が戻ればまた使える」という状況を作ってしまう場合があります。家族の愛情や責任感から出た行動であっても、長い目で見て回復に役立っているかという視点で見直すことが求められます。

家族の行動を置き換えるという発想

 距離を取るといっても、関わりをすべて断ち切る必要はありません。次の表は、よく見られる家族の行動と、置き換えを検討する方向性をまとめたものです。

家族の行動起こりやすいこと置き換えの方向性
借金の肩代わり本人が返済の責任に向き合う機会を失う返済は本人の問題とし、家族は相談先を伝えるにとどめる
求められるままの現金の手渡し使い道が見えず、薬物の購入に回る余地が残る家賃や光熱費などは支払先へ直接納める形に切り替える
トラブルの後始末や謝罪の代行問題の深刻さが本人に伝わりにくい本人が当事者として対応する場面を残す
監視や所持品の取り上げ本人が追い詰められ、隠れて使うようになる監視に力を注ぐより、家族自身が相談機関につながる


 特に現金の手渡しは、生活費のつもりで渡したお金が薬物の購入に使われても、家族からは見えません。「渡すか、渡さないか」の二択ではなく、「どのような形で渡すか」を設計し直すことが、現実的な距離の取り方の一つです。

親の扶養義務との関係

 「親なのだから子の生活を支える義務がある」と考え、求めを断れないご家族もいます。しかし、成人した子に対する親の扶養義務(民法877条1項)は、一般に、自分の生活を維持したうえで余力のある範囲で援助する義務と理解されています。親の生活を切り崩してまで求めに応じ続けることが、法律上当然に求められているわけではありません。

 扶養の範囲については、【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかで詳しく解説しています。

家族が法的な問題に巻き込まれないための線引き

薬物を「預かる」「家に置いておく」ことの危うさ

 本人から「預かっておいてほしい」と頼まれたり、家の中で薬物らしきものを見つけて家族が保管したりする場面があります。覚醒剤などの「所持」は、身につけている場合に限らず、自宅や車に保管して事実上管理できる状態にある場合も含むと解されています。事情を知りながら家族が預かれば、家族自身が所持を疑われるおそれがあります。

 また、2024年12月の法改正により、大麻についても使用が処罰の対象となりました。改正の要点は大麻の「使用」も処罰対象になった|2024年12月施行の改正の要点で解説しています。見つけたものをどう扱うか迷ったときは、家族だけで判断せず、専門機関や弁護士に相談することをおすすめします。

かばうための行動には親族の特例が十分に及ばない

 刑法には、同居の親族間の窃盗などについて刑を免除する規定(刑法244条1項)があり、家庭内の財産をめぐるトラブルに警察が介入しにくい理由の一つになっています。この仕組みは、【親子問題】「家庭の問題」と言われて警察が動かないのはなぜかで解説しています。

 一方、子をかばうために証拠を隠したり、捜査から逃れる手助けをしたりした場合は、証拠隠滅罪(刑法104条)や犯人蔵匿・隠避罪(同法103条)の問題になります。親族が本人の利益のために行った場合は「刑を免除することができる」とされていますが(同法105条)、これは裁判所の判断で刑が免除される余地があるという意味にとどまり、罪が成立しないという意味ではありません。本人を守りたいという気持ちから出た行動が、家族自身を法的な問題に巻き込むことがあります。

家族が相談すること自体をためらわなくてよい

 「相談したら子が捕まるのではないか」という不安から、誰にも話せずにいるご家族は少なくありません。家族読本は、家族が相談に行ったからといって警察に通報されることはまずないとして、身近な専門機関や自助グループへの相談をすすめています。精神保健福祉センターや保健所、依存症の専門医療機関のなかには、家族教室や家族相談を設けているところもあります。

 あわせて同冊子は、相談相手が薬物依存症について十分な知識と経験をもっているかを見きわめることの大切さにも触れています。事情をよく知らない周囲の人に相談すると、「育て方が悪い」と責められて傷つくだけになりかねないためです。

「距離を取る」は見捨てることではない

心理的な距離は、本人の責任を本人に返すこと

 薬物やアルコールの問題に取り組む特定非営利活動法人ASKは、家族にできることとして、薬物を「やめさせる」ことはできなくても「やめる手助け」はできること、監視や取り上げ、説教、約束の強要をしないことなどを挙げています。約束が破られても、それを本人の裏切りではなく病気がさせたことと受け止める考え方も示されています。

 心理的な距離を取るとは、本人への関心を失うことではありません。本人の問題を家族が代わりに背負い込むのをやめ、本人が引き受けるべき責任を本人に返すことだといえます。

物理的な距離という選択

 同居したままでは、金銭の要求や生活の乱れが家族の日常に直接入り込み、心理的な距離を保つのが難しくなります。当事務所が親子の問題に取り組むなかでも、親子が離れて暮らすことをきっかけに、双方の関係に変化が見られることがあります。

 もっとも、成人した子であっても、本人の同意なく家から出ていかせることには法的な制約があり、どの家庭でも同じ結果になるわけではありません。子に家を出てもらう場合の法的な整理は【親子問題】子を家から出ていかせることはできるのか|占有と明渡しで、親の側が一時的に家を離れる方法は【親子問題】避難先の確保|一時的に親が家を出るという選択で解説しています。

家族自身が支援につながる

 家族読本は、家族にできることとして、依存症について学ぶこと、本人への適切な対応を身につけること、そして家族自身が元気を取り戻すことの三つを挙げ、最後の点が一番大切だとしています。家族の心身が疲れ切っていると、問題を解決する方法を探したり、行動に移したりする力が残らないからです。同じ経験をもつ家族との出会いは、孤立を和らげる大きな助けになります。

 本人が回復施設や治療につながった場合の意味については、ダルク・依存症治療への参加|情状としてどう評価されるかもあわせてご覧ください。

暴力や金銭の要求を伴う場合の関わり方

断ったあとの反発に備えておく

 お金の渡し方を変えたり、求めを断ったりすると、一時的に本人の反発が強まることがあります。暴言や物への八つ当たり、家族への暴力が見られる家庭では、関わり方を変える前に、家族の安全をどう確保するかを先に考えておく必要があります。

 身の危険を感じたときの初動は【親子問題】子から暴力を受けている|まず確保すべき安全と記録、警察を呼ぶかどうかの目安は【親子問題】110番を呼ぶ判断基準|その場で何を伝えるかで解説しています。

家族が直接向き合い続けない体制をつくる

 金銭の要求が続く家庭では、要求の窓口が親自身であることが、断りきれない原因になっている場合があります。当事務所では、弁護士が親の代理人として本人との窓口を担い、民間の自立支援カウンセラーがチームとして本人の日常を支える形で、親子問題に取り組んでいます。カウンセラーが担う主な支援は次のとおりです。

  • 住まい探しや仕事探しのサポート。
  • 生活保護の受給申請のサポート。
  • 日々の金銭管理や悩みごとへの対応。
  • 親への状況報告と、親からの過度な干渉の遮断。


 本人を孤立させたままでは自立につながりにくいため、親は弁護士が守り、本人はカウンセラーが支えるという役割分担で、親と子のそれぞれが自立することを目指しています。人が関わることですので結果を保証することはできませんが、窓口を代えることの意味は【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択で、サービスの全体像は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応で紹介しています。

逮捕された場合の家族の役割

 子が薬物事件で逮捕された場合には、身元引受や治療環境の整備など、家族が担える役割があります。このときも、家族がすべてを背負い込むのではなく、どこまでを家族が引き受け、どこからを専門家や支援機関に委ねるかを整理しておくことが大切です。詳しくは家族としてできること|身元引受・治療・監督体制の組み立てで解説しています。なお、当事務所では、子が未成年の場合の少年事件についてもご相談をお受けしています。

よくあるご質問

家族が医療機関や相談機関に相談すると、子が通報されてしまいますか?

 厚生労働省の家族読本は、家族が相談に行ったからといって警察に通報されることはまずないとしています。相談先によって取扱いの方針が異なる場合もあるため、不安があれば、相談の冒頭で情報の扱いについて確認しておくと安心です。

生活費も一切渡さないほうがよいのですか?

 一律にすべてを断つ必要はありません。現金の手渡しを避け、家賃や光熱費を支払先に直接納めるなど、薬物の購入に回らない形に切り替える方法があります。どこまで援助するかは、親の生活に余力があるかどうかも踏まえて判断することになります。

本人が治療を拒んでいる場合、家族にできることはありますか?

 本人が拒んでいる段階でも、家族が先に精神保健福祉センターの家族教室や家族会などにつながることはできます。家族の対応が変わることで、本人が支援を受け入れるきっかけが生まれることもあります。暴力や金銭の要求を伴う場合は、家族の安全を優先し、弁護士への相談も検討してください。

まとめ


  1. 薬物の問題は家族全体を巻き込むため、家族が懸命にやめさせようとするほど悪循環に陥ることがある。
  2. 借金の肩代わりや後始末は、結果として本人の使用を支える側に回る場合があり、「イネイブリング」と呼ばれる。
  3. お金は「渡すか渡さないか」ではなく、支払先への直接払いなど「どう渡すか」を設計し直すことが現実的である。
  4. 成人した子への扶養は、親の生活に余力がある範囲での援助と理解されている(民法877条1項)。
  5. 薬物を家族が預かると、自宅での保管であっても家族自身が所持を疑われるおそれがある。
  6. 子をかばうための証拠隠しや逃亡の手助けは罪となり得て、親族の特例は刑の任意的な免除にとどまる(刑法103条・104条・105条)。
  7. 暴力や金銭の要求を伴う場合は、家族の安全を優先し、家族が直接向き合い続けない体制をつくることが大切である。


薬物の問題を抱える子との関わりに悩むご家族の方へ

弁護士法人若井綜合法律事務所では、親子の問題に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。弁護士が親の代理人として本人との窓口を担い、民間の自立支援カウンセラーとチームを組んで、北海道から沖縄まで全国のご家庭の問題に取り組んできました。

 「お金の求めを断りきれない」「家族だけで抱えるのが限界に近い」と感じている段階でも、ご家族の生活を守りながら距離を取り直す方法を一緒に考えることができます。お一人で抱え込まず、どうぞお気軽にご相談ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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