【刑事事件】酒の席の後の性行為で、相手から被害を訴えられたら?

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

本記事は2026年10月時点の法令にもとづいています。2023年7月13日施行の改正刑法(不同意性交等罪・不同意わいせつ罪)を反映しています。2023年7月12日以前の行為には、原則として改正前の規定(強制性交等罪・準強制性交等罪など)が適用されます。


飲み会や会食のあとに相手と性行為に至り、翌日や数日後になって、相手から「同意していなかった」「被害を訴える」と伝えられることがあります。自分では合意のうえだと受け止めていた場合ほど、何を言われているのか整理がつかず、相手に連絡して確かめたくなる方も少なくありません。

 この記事では、酒の席の後の性行為をめぐって被害を訴えられた側の方に向けて、「訴える」という言葉が指している手続の違い、飲酒が絡む場面で問題になりやすい事情、直後に避けたい対応、刑事手続と示談の見通しを整理します。時間が経ってから申告された場合の流れは【刑事事件】飲み会の後に「同意がなかった」と言われた|時間が経ってからの申告で扱っていますので、あわせてご覧ください。

「訴える」と言われたとき、何が起きているのかを仕分ける

 相手が口にする「訴える」には、いくつかの異なる手続が含まれています。どの段階の話なのかによって、急ぐべきことや取れる対応が変わるため、最初に仕分けておくことが大切です。

伝えられた内容手続の種類この段階で意識したい点
「警察に被害届を出す」刑事手続(捜査の端緒)受理されると、警察が関係者の聴取や記録の収集を始めることがある
「告訴する」刑事手続(処罰を求める意思表示)不同意性交等罪は告訴がなくても起訴できる罪であり、取下げで手続が必ず終わるわけではない
「慰謝料を請求する」「裁判を起こす」民事手続(損害賠償の請求)刑事手続とは別に進むことがあり、内容証明や代理人弁護士からの通知で届くことが多い
「会社に報告する」社内のハラスメント相談・調査刑事・民事とは別の手続だが、社内での発言が記録に残る
「訴えるかもしれない」とだけ告げられたまだ手続は始まっていないこともある相手の受け止めを確かめようと連絡を重ねることが、かえって状況を悪くするおそれがある


 実際には、これらが同時に、あるいは順番に起きることもあります。たとえば、相手の代理人弁護士から示談の申入れが届き、並行して警察への相談が進んでいるという場面です。被害届を出すと告げることは、それ自体は正当な権利の行使として扱われることが多く、脅迫と区別して考える必要があります。この点は「被害届を出す」と言われた|正当な権利の告知と脅迫の境界で整理しています。

酒の席の後の性行為で問題になる罪

 2023年の刑法改正により、不同意性交等罪(刑法177条)と不同意わいせつ罪(刑法176条)は、刑法176条1項に列挙された8つの事由などによって、相手が同意しない意思を形成し、表明し、または全うすることが困難な状態で行為に及んだ場合に成立すると整理されました。法定刑は、不同意性交等罪が5年以上の有期拘禁刑、不同意わいせつ罪が6月以上10年以下の拘禁刑です。

 8つの事由のうち、酒の席の後の事案で問題になりやすいのは、アルコールの影響がある状態(同項3号)、睡眠など意識がはっきりしない状態(同項4号)、拒むいとまがない状態(同項5号)、職場の上下関係など地位に基づく影響力を相手が気にしている状態(同項8号)です。各事由の読み方はどの類型で立件されているのか|不同意性交等罪の8つの要因の読み方で解説しています。

相手の酔いの程度はどのように見られるか

 飲酒していたという事実だけで、直ちに罪が成立するわけではありません。問題になるのは、アルコールの影響によって、性行為に応じるかどうかを判断し、それを伝え、拒む意思を貫くことが難しい状態にあったかどうかです。捜査や裁判では、次のような具体的な事情を積み重ねて判断されるのが一般的です。

  • 店で飲んだ量と時間、飲み方の様子。
  • 店を出るときや移動中の歩き方、会話の受け答え。
  • 嘔吐やうたた寝など、酔いが進んでいたことをうかがわせる出来事。
  • ホテルや自宅に向かう経緯と、そのときの本人の言動。
  • 翌日以降のメッセージの内容や、当日の記憶がどの程度残っているか。


 「拒まれなかった」「相手も楽しそうだった」という受け止めだけで、同意があったと評価されるとは限りません。拒絶の言葉がなかった場面の考え方は、拒絶の言葉がなかった|「同意しない意思の形成・表明・全うが困難」の意味をご覧ください。

自分も酔っていた場合

 双方が飲酒していた事案では、「自分も酔っていて判断がつかなかった」と感じる方もいます。ただ、自分の意思で飲酒して酔ったことは、通常、それだけで罪を免れる理由として認められる場面は限られます。

 一方で、相手の状態を「同意している」と認識していたかどうかは、犯罪の故意にかかわる事情として争点になることがあります。どのような事情がその認識を裏付けるのかは、「同意があったと思っていた」|不同意性交等罪で争点になる事情で詳しく扱っています。双方が酔っていて記憶がはっきりしない場面については、双方が酔っていて記憶がない|アルコールと不同意の認定もあわせてご覧ください。

途中で相手の様子が変わった場合

 性行為への同意は、一度示されたら最後まで続くものではありません。途中で相手が「やめてほしい」と伝えたり、眠ってしまったりした後も行為を続けた場合には、その後の部分について別に評価されることがあります。当日の経過を振り返るときは、始まりの場面だけでなく、途中の相手の様子や、自分がどう応じたかも含めて時系列で整理しておくことが大切です。

訴えを知った直後に避けたい対応

 被害を訴えられたと知った直後は、誤解を解きたい、早く収めたいという気持ちから、本人や周囲に働きかけたくなるものです。しかし、この時期の言動は後から振り返られやすく、意図とは違う受け止め方をされることがあります。

  • 相手に直接連絡して「同意していたはずだ」と確認したり、考え直すよう求めたりすること。
  • その場の勢いで謝罪文や念書を書き、金額の根拠を確かめないまま支払いを約束すること。
  • 飲み会の同席者に、当日の相手の様子を自分から聞いて回ること。
  • 自分に不利に見えるメッセージや写真を削除すること。
  • SNSや共通の知人のあいだで、相手を非難したり経緯を説明したりすること。


 相手への直接の連絡は、内容によっては事実を認めた記録や、圧力をかけた記録として扱われるおそれがあります。被害を申告している人に面会や説明を強く迫ると、証人等威迫罪(刑法105条の2)が問題になる場合もあります。同席者への聞き取りも、善意であっても口裏合わせと受け取られれば、逮捕の必要性の判断に影響しかねません。相手との連絡を弁護人に任せる理由は、性犯罪の示談交渉を弁護人に任せる意味|本人が連絡してはいけない理由で説明しています。

 手元のメッセージや決済・移動の記録は、削除せずに保っておくことが基本です。どのような記録を残しておくとよいかは、冒頭で紹介した記事で具体的に挙げています。あわせて、当日の出来事を思い出せる範囲で時系列に書き出し、作成した日付を記しておくと、後で記憶を確かめる手がかりになります。

逮捕されるかどうか、刑事手続の見通し

 被害届が受理されても、必ず逮捕されるわけではありません。逮捕は、罪を犯したと疑うに足りる理由があることに加え、逃亡や証拠隠滅のおそれなど、身柄を確保する必要がある場合に行われるものです。住所や勤務先が定まっていて、相手や関係者に接触するおそれがないと判断されれば、身柄を拘束されないまま捜査が進む「在宅事件」となることもあります。分かれ目の考え方は逮捕されるケースと逮捕されないケースの分かれ目|通報から立件までに何が起きるか、在宅で進む場合の流れは在宅事件になった場合|見えない時間の進み方をご覧ください。

 警察から連絡が来た場合、任意の呼出しであれば日程の調整を求めることもできます。取調べでは、飲酒量、会話の内容、移動の経過、翌日以降のやり取りなどが細かく聞かれます。黙秘権があること、作成された供述調書は内容を確認し、記憶と違う部分は訂正を求めたうえで署名するかどうかを判断できることは、事前に押さえておきたい点です。酔っていて記憶が曖昧な部分を、推測で補って話さないことも大切です。警察から電話が来た段階での動き方は【刑事事件】警察から電話が来た段階で弁護士に相談する意味、記憶がないまま手続に臨む場合は【刑事事件】酔って記憶がないのに被害届が出された|思い出せないまま手続に向き合うためにで解説しています。

争うか、示談を検討するか

 被害を訴えられた側の方針は、大きく分けると、同意があったことや故意がなかったことを主張して争う方向と、相手方との示談を目指す方向があります。どちらか一方に限られるものではなく、事情によっては並行して進めることもあります。

方針主な活動注意したい点
同意や故意を争う当日の経過を裏付ける記録の確保、取調べへの対応方針の検討記憶が曖昧なまま話すと、供述が途中で変わったと評価されるおそれがある
示談を目指す弁護人を通じた謝罪と被害弁償の申入れ示談が成立しても、事案によっては処分が残ることがある
両方を並行する否認の立場を保ちながら、示談の可能性を探る示談書の文言が、事実を認めた内容と読まれないよう検討が必要


同意があったと考えている場合

 自分の認識では合意のうえだった場合でも、捜査機関に信用されるためには、具体的で一貫した説明と、それを裏付ける記録が必要になります。「本当のことを話せば分かってもらえる」と楽観せず、話す内容を事前に整理しておくことが大切です。供述の一貫性がなぜ重視されるのかは、供述が途中で変わると不利になる理由|変遷の評価で取り上げています。

 また、同意があったと考えている場合でも、早期の解決を優先して示談を検討するという選択肢はあります。否認しながら示談をするかどうかは、処分の見通しや本人の意向を踏まえて判断することになります。この悩みについては無実でも示談すべき?否認と示談のジレンマをご覧ください。

自分の行動に問題があったと考えている場合

 振り返ってみて、相手の状態を十分に確かめないまま行為に及んだと感じている場合には、弁護人を通じて謝罪と被害弁償を申し入れ、示談を目指すことが中心になります。被害を訴えている方の連絡先は、通常、加害者とされる本人には伝えられません。相手方が了承した場合に、捜査機関から弁護人に伝えられるのが一般的な流れです。

 示談では、謝罪の受け入れや処罰を求めない意思(宥恕)の有無、清算の範囲、接触しないことの約束などを取り決めます。ただし、示談が成立したことで必ず不起訴になるわけではありません。示談を始める時期や処分との関係は、示談を始めるタイミング|被害届前・受理後・起訴前で何が違うかと示談が成立しても処分が残る場合|示談=不起訴ではない理由で整理しています。

刑事手続とは別に生じうる民事と職場の問題

 被害を訴えた側は、刑事手続とは別に、精神的苦痛などについて損害賠償(慰謝料)を求めることができます。刑事事件として扱われなかった場合や、不起訴になった場合でも、民事の請求が続くことはあります。反対に、刑事の示談の中で民事上の請求も含めて清算する条項を設けることで、手続をまとめて終える形をとる場合もあります。どこまでを清算の対象にするかは、示談書を作る段階で確かめておきたい点です。

 職場の飲み会や取引先との会食の後の出来事であれば、相手が勤務先のハラスメント窓口に相談し、社内調査が始まることもあります。社内の聴取は刑事手続とは別のものですが、そこで話した内容が記録に残り、後に参照される可能性は否定できません。聴取に臨む前の準備は会社の内部調査(ヒアリング)に呼ばれた|話す前に整理すべきこと、刑事事件が勤務先に伝わる経路は勤務先に伝わる経路|通知制度と事実上の伝達を分けるで解説しています。

弁護士に相談するタイミング

 相談の時期としては、相手や周囲から被害を訴えると伝えられた段階、つまり警察から連絡が来る前が望ましいといえます。この段階であれば、記録の確保、相手方や勤務先とのやり取りの窓口を弁護士に一本化すること、警察に呼ばれた場合の受け答えの準備を並行して進めることができます。弁護人を依頼する時期の考え方は、弁護人を頼むタイミング|捜査段階で差がつく理由をご覧ください。

 当事務所では、性犯罪の疑いで捜索や取調べを受けた方の弁護も担当しています。経過の一例は【解決事例】不同意性交等致傷の疑いで捜索・取調べを受けた|不起訴処分を勝ち取った事例で紹介しています。結果は事案ごとに異なりますが、早い段階で状況を整理しておくことが、その後の選択肢を残すことにつながります。

 酒の席の後の出来事は、当事者の記憶も周囲の受け止めも曖昧になりやすく、一人で振り返るほど不安が大きくなりがちです。相手の訴えが事実と異なると感じている場合も、ご自身の行動に迷いがある場合も、まずは相手への直接の連絡を控え、手元の記録を保ったうえでご相談ください。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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