在宅事件と身柄事件の違い|風俗トラブルで逮捕を避けるための弁護活動
示談が成立して、示談書にも署名を済ませた。それなのに警察からの呼び出しが続いている、あるいは検察庁から連絡が来た。こうしたご相談は珍しくありません。
インターネット上には「示談が成立すれば不起訴になる」という説明が数多く並んでいます。ただ、法律にそのような規定が置かれているわけではありません。示談は、処分を決める人に届く材料の一つであって、処分そのものを消す手続きではないからです。
この記事では、示談が成立していてもなお処分が残ることがあるのはなぜかを、条文上の位置づけから順に整理します。ご自身の状況がどこでつまずいているのかを確かめる手がかりとしてお読みください。
この記事で扱うこと・扱わないこと
前提を先に示します。
- 性風俗店を利用した側の立場を想定しています。
- 成人同士の場面を前提としています。相手が18歳未満だった場合は、別の法律の問題が加わります。
- 示談金の水準や、示談書の条項の設計そのものは扱いません。
- 発覚を避ける方法や、事実と違う説明の仕方は扱いません。
- 個別の事件の見通しは事案によって異なりますので、一般的な考え方の整理として書いています。
「示談=不起訴」と言われる仕組み
示談は当事者間の契約、不起訴は検察官の処分
示談は、民法でいう和解にあたる合意です。民法695条は、当事者が互いに譲り合って争いをやめることを約束する契約として和解を定めています。つまり示談は、当事者どうしの間で成立する契約です。
一方、起訴するかどうかを決めるのは検察官です。刑事訴訟法248条は、犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる、と定めています。この条文に「示談」という言葉は出てきません。示談は、条文でいう「情状」や「犯罪後の情況」を判断するための材料の一つとして扱われます。
示談は処分をなくす手続きではなく、処分を決める人に届く材料の一つです。この違いが、「示談したのに」という食い違いの出発点になります。
不起訴にもいくつかの種類がある
不起訴には、主に嫌疑なし、嫌疑不十分、起訴猶予があります。示談が働くのは、主に、犯罪の成立を前提としたうえで訴追の必要性を検討する起訴猶予の場面です。事実そのものに争いがある事件は判断の道筋が別になりますので、示談の位置づけも変わってきます。事実を争う方針をとるかどうかは、示談とは切り離して考える必要があります。
示談が処分に結びつかない4つのずれ
示談が成立しているのに処分が残っている場面を整理すると、多くは次の4つのいずれかに当てはまります。
| ずれ | 起きていること | 確かめたいこと |
|---|---|---|
| 届いていない | 示談の内容が判断する人に示されていない | 誰が、いつ、どの形で示すのか |
| 足りない | 示談以外の要素が判断に残っている | 示談のほかに示せる事情があるか |
| 遅い | 判断が終わった後に成立した | いま手続のどの段階にいるのか |
| 相手が違う | 店との清算にとどまっている | 誰との間の合意なのか |
以下、順に見ていきます。
ずれ1 示談の内容が届いていない
示談書は作っただけでは記録になりません
示談書は当事者の間で交わす書面です。作成しただけで捜査機関や検察官の手元に届くわけではありません。実務では、弁護人が示談書の写しを意見書などとともに提出し、いつ、誰との間で、どのような内容の合意ができたのかを説明します。
示談の内容が伝わっていない状態は、判断する側から見れば示談がない状態と大きく変わりません。示談を成立させることと、その内容を判断材料として届けることは、別の作業だとお考えください。
示談したからその場で終わる、という仕組みではありません
刑事訴訟法246条は、警察が犯罪の捜査をしたときは、書類及び証拠物とともに事件を検察官に送らなければならないと定めています。示談が成立したから警察の段階で事件が消える、という組み立てにはなっていません。示談は、送られた先で検討される材料として意味を持ちます。
「取り下げてもらった」と言われたとき
被害届については、法律上の取下げ手続きが定められているわけではありません。告訴の取消しについては刑事訴訟法237条1項に定めがありますが、これが結論に直結するのは親告罪の場合です。本番や撮影で問題になる罪は、いずれも親告罪ではありません。この点は別の記事で詳しく取り上げています。
ずれ2 示談以外の要素が判断に残っている
刑事訴訟法248条が挙げている要素は複数あります。示談はそのうちの一部に届く材料です。示談が成立していても、ほかの要素が重いとみられれば、処分に至ることがあります。
同じ「成立」でも評価が分かれる場面
示談が成立したという言葉の中身には、事案によって幅があります。次のような状態は、成立と呼ばれていても評価が分かれることがあります。
- 示談金の支払いが分割で、履行の途中である。
- 許すという趣旨の記載がなく、金銭の清算だけの合意になっている。
- 相手方ご本人の意思が確認できておらず、書面の名義が別になっている。
- 合意した範囲が書面から読み取りにくい。
許すという趣旨の文言、いわゆる宥恕の文言がどう扱われるかについては、別の記事で整理しています。ここでは、文言の有無だけで結論が決まるわけではない一方で、書面の書き方によって伝わる内容が変わる、という点だけを押さえておいてください。
ほかの件が残っている場合
示談は、その相手方との間の一件についての合意です。ほかに件数がある場合、端末に残ったデータや店の記録から別の事実が把握されることもあります。そのとき、成立している示談は一件分の材料にとどまります。件数や内容によって見通しが変わる点は、示談の有無とは別の問題です。
同じような事件を繰り返している場合
過去に同種の事件で捜査を受けた経緯がある場合、再び同じことが起きているという事情そのものが判断の対象になります。示談が成立していても、この部分は示談では埋めにくい領域です。ここを補うために、再発防止のための具体的な取り組みや、生活環境の整理を示していくことになります。
ずれ3 判断が終わった後に成立した
刑事手続には、判断が区切られる時点があります。示談がその後に成立した場合、直前の段階に戻るわけではありません。
起訴された後に成立した場合
起訴された後に示談が成立しても、起訴されなかった状態に戻るわけではありません。制度としては、刑事訴訟法257条が、公訴は第一審の判決があるまで取り消すことができると定めていますが、これは検察官が判断するものであり、示談が成立すれば当然に取り消されるというものではありません。
もっとも、起訴後の示談に意味がなくなるわけではありません。量刑の判断や、保釈の検討にあたって考慮され得る事情として残ります。目指せるものが変わる、という理解が実態に近いといえます。
罰金の通知を受け取った後の場合
略式命令を受け取った場合、刑事訴訟法465条1項により、告知を受けた日から14日以内であれば正式裁判を請求できます。ただしこれは、内容を争うための手続です。示談が後から成立したことを理由に罰金そのものがなかったことになる、という制度ではありません。期間が過ぎると、確定判決と同じ扱いになります。
段階を確かめる意味
示談を進めるときは、いま手続のどこにいるのかによって、届く相手も、届いた結果として起こり得ることも変わります。呼び出しの主体が警察なのか検察庁なのか、書面が届いているのか、といった点は、状況を確かめる手がかりになります。
ずれ4 合意した相手が本人ではない
店との清算と、本人との示談は別のものです
性風俗のトラブルでは、話し合いの窓口が店になっていることがあります。店が提示した金額を支払い、店の名義で書面を受け取って解決したと考えていたところ、後になって、キャストご本人の受け止めは別だったことが分かる、という経過は実際にあります。
刑事の場面で処罰感情が問題になるのは、被害を受けたとされるご本人です。店との間で金銭の清算が済んでいることと、ご本人との間で合意ができていることは、同じではありません。書面の名義や、誰の意思にもとづく合意なのかは、確認したい点になります。
連絡先が分からない状況で起きること
相手方を源氏名でしか知らない状況では、ご本人と直接連絡を取る手段がないことがほとんどです。この状態で自分から相手を探そうとすると、別の問題が生じます。捜査機関を通じて意向を確認してもらう方法や、弁護人限りで連絡先の開示を受ける進め方が検討されるのは、このためです。
なお、店がキャストに代わって示談交渉を行うことについては、弁護士法との関係で問題になる場面があります。この点は別の記事で扱っています。
「処分が残る」の中身を分けて考える
処分という言葉も、実際にはいくつかの層に分かれています。示談が影響し得るのはこのうちの一部です。
| 残るもの | どのような場面のことか | 示談との関係 |
|---|---|---|
| 刑事の処分 | 罰金や執行猶予などの有罪の判断 | 判断材料の一つとして考慮され得る |
| 捜査を受けた記録 | 不起訴となった場合も含む | 不起訴になっても記録自体は残る |
| 民事の請求 | 示談で清算した範囲の外にある請求 | 範囲は書面の書き方によって変わる |
| 生活面への影響 | 勤務先や資格に関する問題 | 刑事の結果に連動する場合がある |
不起訴になれば何も残らない、と受け止められることがありますが、捜査の対象になった経緯そのものは記録として残ります。前科と前歴の違いや、記録がどこにどれだけ残るのかについては、別の記事で詳しく扱っています。
示談が成立した後にできること
示談が成立していても、そこで手が離れるわけではありません。次のような点を整理しておくと、その後の説明がしやすくなります。
- 示談書と入金の記録を一つにまとめ、弁護人に渡す。
- 支払いが分割の場合は、期日どおりに履行を続ける。
- 何をどう改めるのかを、自分の言葉で説明できるように整理する。
- 相手方や店に対して、こちらから接触しない。
- 書面が届いたら日付と期限を確認し、そのまま保管する。
避けたい進め方
次のような対応は、状況を難しくすることがあります。
- 示談したから大丈夫だと考えて、取調べの準備をしないままにする。
- 自分で相手方を探したり、店に本人の連絡先を求めたりする。
- 「示談したのに」という前提で、捜査機関に強い態度を取る。
- 支払いの途中で、連絡がないことを理由に支払いを止める。
- 示談書の内容を確認しないまま署名し、後から範囲を争うことになる。
よくあるご質問
示談が成立していれば逮捕されませんか
逮捕や勾留は、証拠の隠滅や逃亡のおそれといった観点から判断されるもので、起訴するかどうかの判断とは別の枠組みです。示談の成立がその判断のなかで考慮され得る事情であることは確かですが、示談だけで決まるものではありません。
示談金を払ったのに起訴されたら、返してもらえますか
示談は、不起訴という結果を条件として結ぶ契約ではないのが通常です。そのため、結果が思うようにならなかったことを理由に当然に返金されるわけではありません。支払いの条件をどう設計するかは、示談書を作る段階の問題になります。
起訴された後に示談しても意味はありませんか
起訴猶予という結論には戻りませんが、量刑の判断において考慮され得る事情として意味が残ります。何を目指す段階なのかを整理したうえで進めることになります。
示談書を検察官に出すと、内容がそのまま知られてしまいませんか
どの範囲を示すかは、あらかじめ検討できる事項です。氏名の扱いや、書面の作り方を含め、提出の仕方については弁護人と相談しながら決めることになります。
弁護士に相談する意味
示談が成立しているのに処分が残っている場面では、原因が交渉ではなく、伝え方や段階、相手方の選び方にあることが少なくありません。いま自分がどのずれに当たっているのかは、外から見たほうが整理しやすい部分です。
弁護士に相談したからといって、望む結果が約束されるわけではありません。ただ、どの段階にいて、いま何を示せる余地があるのかを確かめることはできます。示談が成立した後であっても、示せる材料が残っている場面はあります。
まとめ
- 示談が成立すれば不起訴になる、という規定は法律にはありません。
- 示談は、刑事訴訟法248条でいう情状や犯罪後の情況を判断するための材料の一つです。
- 示談が処分に結びつかない場面は、届いていない、足りない、遅い、相手が違う、の4つに整理できます。
- 示談書は作っただけでは記録にならず、内容を示す作業が別に必要になります。
- 店との清算と、ご本人との示談は同じではありません。
- 判断が終わった後に成立した示談は、前の段階に戻すものではなく、目指せる内容が変わります。
- 不起訴になった場合でも、捜査を受けた記録そのものは残ります。
- いまどの段階にいるのかを確かめることが、次に何ができるかを考える出発点になります。


