「家族と職場にバラす」と言われた|告知の中身別に見る違法性
風俗店とのトラブルで「示談」という言葉が出てきたとき、多くの方がまず気にするのは金額です。しかし相談の現場で結果を左右しやすいのは、金額よりも「いつ動き始めたか」のほうです。同じ内容の合意でも、被害届が出る前に成立したのか、警察が動き出した後なのか、検察官が処分を決める直前なのかによって、その合意を受け取る相手も、受け取った相手に残されている選択肢も変わってきます。
この記事では、「被害届が出る前」「被害届が受理された後」「起訴・不起訴の判断の前」という三つの段階を並べ、段階ごとに何が変わり、何が変わらないのかを整理します。
この記事で扱う範囲
この記事は、風俗店を利用した側の立場から、成人同士のトラブルを想定して書いています。相手が18歳未満である可能性がある場合、すでに逮捕されている場合、すでに起訴されている場合は前提が大きく変わりますので、一般論ではなく個別にご相談ください。
また、示談金の水準、示談書に入れる条項、支払いを分割にする場合の取り決めといった「中身」の話には立ち入りません。ここで扱うのは時期に関する話に限ります。なお、店のルールに反する行為を勧める趣旨の記事ではありません。
「示談を始める」ことと「示談が成立する」ことは別の出来事
示談は、法律上は民法695条の和解契約にあたります。当事者が互いに譲歩して争いをやめることを約束する契約なので、相手方が同意しなければ成立しません。
この点は当たり前のようでいて、時期を考えるうえで大きな意味を持ちます。世の中の解説記事には「起訴前に示談を成立させることが重要です」といった書き方が多く見られますが、成立させるかどうかは相手方の判断であって、こちら側の努力だけで満たせる条件ではありません。自分の意思で決められるのは、あくまでいつ動き始めるかのほうだけです。
そう考えると、「早く始める」ことの実質的な意味も見えてきます。それは早く終わらせることではなく、相手方に検討するための時間を渡すこと、そして自分の側に選べる手段を残しておくことです。相手方が感情の整理に時間を必要とする事案では、こちらが焦って回答を迫ることがかえって話を止めてしまうこともあります。
三つの段階で何が違うのか
段階が進むと、示談の価値が下がるわけではありません。変わるのは、示談書を受け取る人と、その人に残されている選択肢です。まず全体像を表で確認します。
| 段階 | 判断しているのは誰か | 示談が届く先 | その段階で得られ得るもの |
|---|---|---|---|
| 被害届が出る前 | 公的に判断している人はいない | 相手方本人またはその代理人 | 当事者間の紛争の終了 |
| 被害届が受理された後 | 警察(捜査の進め方) | 捜査機関を通じて検察官へ | 身柄の判断や送致後の判断材料 |
| 起訴・不起訴の判断の前 | 検察官 | 検察官 | 起訴猶予という選択肢が残る段階 |
| (参考)起訴された後 | 裁判所 | 裁判所 | 量刑や保釈の判断材料 |
段階A|被害届が出る前
この段階では、まだ誰も「判断」していない
警察も検察官も関与していないため、事件としての手続きは動いていません。裏を返せば、この段階で当事者間の話がまとまれば、それ以上外に広がらずに終わる可能性が残っています。多くの解説記事が「早いほどよい」と書くのは、主にこの段階のことを指しています。
壁になるのは交渉ではなく連絡経路
ただし風俗店でのトラブルには、他の場面にはない特有の事情があります。相手方の本名も連絡先も分からないのが通常だという点です。窓口として現れるのは店のスタッフであることが多く、こちらから本人に連絡する手段が最初からありません。
この段階でやるべきことは、値段の交渉というより、話し合いの相手が誰なのかを確かめることに近い作業になります。なお、店が本人に代わって示談交渉を行い、その対価を得るような形は、弁護士法72条との関係が問題になり得ます。店が示す金額や条件が、本人の意思と一致しているとは限らないという前提で受け止めておくほうがよいでしょう。
「被害届を出さない」という約束でできること・できないこと
この段階の合意では、今後届出をしない旨を条項に入れることがあります。ただ、そこには限界もあります。本番行為や撮影が問題になる場面で成立し得る罪は、いずれも告訴がなくても起訴できる非親告罪です。また、刑事訴訟法239条1項は、犯罪があると思料する者であれば誰でも告発できると定めています。つまり、相手方本人の意思だけで、刑事手続が始まらないことを保証できるわけではありません。
もっとも、これは条項に意味がないという話ではありません。処罰を求めない意思がはっきり書面に残ることには、後の段階で相応の意味があります。効果を過大にも過小にも見積もらないことが大切です。
「早く動く」ことと「自分で動く」ことは違う
この段階で本人が単独で動いた結果、かえって立場を苦しくすることがあります。よくあるのは次の三つです。
- その場で口にした支払いの約束が、和解契約として後から動かしにくくなる。
- 連絡の取り方によっては、証拠に働きかけたと受け取られたり、別の問題として評価されたりすることがある。
- 金額の根拠が定まらないまま先に支払うと、後から取り戻すのは容易ではない。
早い段階で相談することと、早い段階で自分だけで結論を出すことは、まったく別のことです。
段階B|被害届が受理された後
受理は「捜査が始まり得る」ことの入口
犯罪捜査規範61条1項は、被害の届出があったときは、管轄区域の事件かどうかを問わずこれを受理しなければならないと定めています。さらに令和6年3月22日付けの警察庁通達(丙刑企発第35号)は、届出の内容が明白な虚偽または著しく合理性を欠く場合を除き、即時に受理することを求めています。
「風俗のトラブルだから警察は取り合わない」という言い方をときどき見かけますが、制度の建て付けとしてはそのようになっていません。この段階に入ったことは、前提が一つ変わったものとして受け止めるほうが安全です。
「取り下げてもらう」を目的に組み立てないほうがよい理由
被害届が出た後の解説記事では、「示談して被害届を取り下げてもらう」という組み立てが目立ちます。ただ、ここには正確に押さえておきたい点が二つあります。
一つは、被害届には、法律上の取下げの手続きが定められていないということです。実務上、取下げの書面が提出されることはありますが、告訴の取消しのように条文に根拠のある制度ではありません。
もう一つは、告訴の取消しとの混同です。刑事訴訟法237条1項は、告訴は公訴の提起があるまで取り消すことができると定めていますが、これが結論に直結するのは親告罪の場合です。ここで問題になる罪は非親告罪ですから、取消しがあっても、それだけで起訴ができなくなるわけではありません。
したがって、この段階で目指すものは「書類を引っ込めてもらうこと」ではなく、処罰を求めていないという相手方の意思を、判断する立場の人に正確に届けることだと整理したほうが実態に合います。
連絡の経路が制度の側に移る
警察が関与した後は、相手方の連絡先を捜査機関が把握している状態になります。実務では、弁護人が捜査機関に示談の意向を伝え、相手方の承諾が得られた場合に「弁護士限り」という条件付きで連絡先が開示される、という流れをとることが一般的です。本人に直接伝えられることは通常ありません。この点は別の記事で詳しく扱います。
身柄事件と在宅事件では残り時間がまったく違う
逮捕されている場合、時間の進み方は条文で決まっています。司法警察員は48時間以内に送致の手続きをとり(刑事訴訟法203条)、検察官は被疑者を受け取ってから24時間以内かつ逮捕から72時間以内に勾留を請求し(同205条)、勾留は原則10日、延長でさらに10日です(同208条)。
一方、逮捕されていない在宅の事件には、法定の期限がありません。呼び出しが来ないまま数か月が経つこともあります。この違いは重要で、「まだ何も言われていない」ことは「時間に余裕がある」ことを意味しません。むしろ、いつ判断されるのかがこちらから見えない状態だといえます。
段階C|起訴・不起訴の判断の前
検察官が何を見ているのかは条文に書かれている
起訴するかどうかの判断について、刑事訴訟法248条は次のように定めています。犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる、という内容です。
示談は、このうち「犯罪後の情況」に位置づけられる考慮事情の一つです。重要な事情であることは間違いありませんが、示談が成立すれば当然に不起訴になる、という構造にはなっていません。行為の内容、経緯、同種の事情の有無など、他の要素と併せて判断されます。この点を取り違えると、示談が成立したのに結果が思っていたものと違った、という受け止め方になってしまいます。
この段階を過ぎると、選択肢そのものが減る
起訴された後でも、示談の意味がなくなるわけではありません。量刑を判断するうえでの事情になりますし、保釈の判断に影響することもあります。ただ、起訴猶予という選択肢は、この段階を過ぎると戻ってきません。
つまり、段階が進むにつれて示談の効き目が薄れるというより、手続を終わらせる出口の種類が少しずつ減っていくという理解のほうが実態に近いといえます。
進むほど「効かなくなる」のではなく「足りなくなる」
ここまでを、示談に加えて何が必要になるかという観点で並べ替えると、次のようになります。
| 段階 | 示談のほかに必要になりやすいもの |
|---|---|
| 被害届が出る前 | 相手方への連絡経路そのもの |
| 被害届が受理された後 | 成立した事実を捜査機関に伝える書面と、その時期の管理 |
| 起訴・不起訴の判断の前 | 判断の時期に間に合わせる調整。判断材料は検察官が持っている |
| 起訴された後 | 量刑事情としての位置づけ。起訴猶予という選択肢は戻らない |
「早いほうがよい」と言われるときに実際に起きているのは、遅くなるほど、示談そのもの以外に用意しなければならないものが増えていくという現象です。
どの段階でも変わらないこと
時期の話をしていると、時期さえ間違えなければ何とかなるように見えてきますが、そうではない部分もあります。
- 示談は相手方の同意がなければ成立せず、応じるかどうかを決めるのは相手方である。
- 起訴するかどうかを決めるのは検察官であり、当事者間の合意はその判断材料の一つにとどまる。
- いったん支払ったお金を後から取り戻すのは、原則として容易ではない。
- 手元の記録は時間とともに失われていくが、店側の記録は早い段階で保全されていることが多い。
「早ければ良い結果になる」のではなく、選べる手段が残っているうちに選べるということです。この違いは、実際に相談を受けていると繰り返し感じる点です。
いま自分がどの段階にいるかを確かめる三つの質問
自分がどこにいるのか分からないまま動くと、必要のない支払いをしてしまったり、逆に対応が遅れたりします。次の三つを確認してください。
- 警察から連絡や呼び出しがあったかどうか。あれば段階Bに入っている可能性が高い。
- 請求や連絡が誰の名前で来ているか。店のスタッフか、本人か、代理人である弁護士かで意味が変わる。
- 期限の書かれた書面があるかどうか。期限のある書面は、他の対応より先に確認する。
まとめ
- 示談は相手方の同意が要る契約なので、自分で決められるのは「いつ始めるか」だけである。
- 段階が変わると、示談書を受け取る人と、その人に残されている選択肢が変わる。
- 被害届が出る前の段階では、交渉より先に連絡経路の確認が課題になりやすい。
- 被害届には法律上の取下げ手続きがなく、非親告罪では告訴の取消しがあっても起訴ができなくなるわけではない。
- 起訴するかどうかの判断で、示談は刑事訴訟法248条の「犯罪後の情況」として考慮される事情の一つである。
- 起訴された後も示談に意味はあるが、起訴猶予という選択肢は戻らない。
どの段階にいるかによって、次に何をすべきかは変わります。ご自身の状況が判断しづらいときは、動く前に一度ご相談ください。初回のご相談は無料でお受けしています。


