他の事務所にも相談してよいか|店側顧問事務所に相談するリスク
風俗店とのトラブルが刑事の話に変わりそうなとき、多くの方がまず考えるのは「弁護士に頼むべきかどうか」です。ただ、実際にご相談をお受けしていて差が出やすいのは、頼むかどうかよりも、いつ頼んだかのほうです。
もっとも、「早いほうがよい」という言い方だけでは、いま自分が動くべき場面なのかは判断できません。捜査の手続には、通り過ぎるとやり直しがきかない場面がいくつかあり、タイミングの問題は、その場面の手前にいるかどうかという形に置き換えることができます。
この記事では、弁護人という立場が手続の中でどう扱われているのかを条文にそって確認しながら、捜査段階のどこで差がつくのかを整理します。
この記事で扱う範囲
- 店を利用した側、つまり客の立場を前提にしています。
- 成人同士のやり取りを前提としています。
- 事実を認めている場合も、認めていない場合も対象にしています。
- 発覚を避ける方法や、事実と違う説明の仕方は扱いません。
- すでに起訴された後の話は、別の記事の範囲になります。
金額の相場や刑の重さには踏み込まず、時期の話に絞ります。
「弁護士に相談した」と「弁護人がついた」は別のことです
はじめに整理しておきたいのは、相談と選任が別の行為だという点です。刑事訴訟法30条1項は、被告人または被疑者は「何時でも弁護人を選任することができる」と定めています。時期の制限は条文上ありません。ここでいう選任とは、法律相談を受けることではなく、その弁護士を自分の弁護人として手続の中に立てることを指します。
選任の形式は刑事訴訟規則に置かれています。規則17条は、起訴される前にした弁護人の選任について、本人と弁護人が連署した書面を、その事件を取り扱っている検察官または司法警察員に差し出した場合に限り、第一審においても効力を有すると定めています。実務でいう弁護人選任届です。犯罪捜査規範133条も、警察がこの届出を受け取ることを前提にした規定になっています。
この形式には、時期の話として二つの意味があります。一つは、選任届が出されるまで、その弁護士は手続の記録の上では弁護人として扱われないことです。もう一つは、刑事訴訟法32条1項と規則17条により、起訴の前に差し出しておいた選任は第一審まで効力が続くことです。捜査の段階で頼んだ弁護人を、起訴された後に改めて選び直す手続は要りません。なお、起訴された後にはじめて頼む場合は、規則18条の手続によることになります。
選任の前でもできることがあります
届出が前提だと書きましたが、身体を拘束されている場面については別の定めがあります。刑事訴訟法39条1項は、身体の拘束を受けている被疑者は、弁護人のほか「弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者」と、立会人なしで会い、書類や物のやり取りをすることができるとしています。選任届を出す前の段階でも、会って話すこと自体はできるという構造です。逮捕された直後にご家族が弁護士に連絡し、弁護士が本人と会って意向を確かめたうえで選任届を作る、という順序をとれるのはこの規定によります。
制度が弁護人を用意する区間と、そうでない区間があります
時期を考えるうえでもう一つ欠かせないのが、国選弁護や当番弁護士といった制度が、捜査のどの区間に届くのかという点です。制度は捜査の全区間をカバーしているわけではありません。
| 捜査の段階 | 制度上つく弁護人 | 根拠と注意点 |
|---|---|---|
| まだ連絡が来ていない | ない | 自分から頼む以外の入口がない |
| 任意の捜査・在宅のまま進む間 | 原則としてない | 国選は身体拘束を前提とする仕組み |
| 逮捕から勾留請求まで | 被疑者国選の対象外 | 37条の2は勾留状が発せられた場合または勾留を請求された場合が対象。当番弁護士は各弁護士会の運用 |
| 勾留されている間 | 請求により被疑者国選 | 貧困その他の事由という要件があり、資力の基準が定められている |
| 起訴された後 | 被告人国選 | 起訴前に選任届を出していれば第一審まで効力が続く |
刑事訴訟法38条の2は、被疑者に付された弁護人の選任は、その被疑者が釈放されたときに効力を失うと定めています。勾留が解けて在宅の捜査に切り替わると、いったん付いた国選の弁護人はそこで終わります。つまり、事件になる前、在宅のまま進む期間、そして逮捕から勾留請求までの間は、自分から頼まないかぎり弁護人がいない区間です。捜査が動くのは、まさにこれらの区間でもあります。
捜査段階には、やり直しのきかない場面があります
「捜査段階で差がつく」と言われるときに実際に起きているのは、弁護士の力量の差というより、次のような場面をすでに通過したか、まだ手前かの違いです。
最初に述べた説明が書面になるとき
取調べで述べた内容は、供述調書という書面になります。刑事訴訟法198条は、調書を本人に読み聞かせるか閲覧させ、誤りがないかを尋ね、増減変更の申立てがあればその供述も記載しなければならないとし、署名押印を拒むこともできるとしています。ここで押さえておきたいのは、後から違う説明をしても、前の調書が消えるわけではないという点です。書面は積み重なり、説明が変わった経緯そのものが検討の対象になります。調書への具体的な対応は別の記事にゆずりますが、最初の一通が作られる前と後とでは、その後にできることが変わります。
身体拘束の判断が下されるとき
逮捕された場合、検察官が勾留を請求するかどうか、裁判官が勾留を認めるかどうかが、短い時間の中で判断されます。刑事訴訟法205条は身体を拘束された時から72時間という上限を定め、207条1項と60条1項が勾留の判断の枠組みを定めています。この区間に意見を届けるには、判断が下される前である必要があります。決まった後は準抗告という別の手続になり、いったん出た判断を動かす形になります。
手元の記録の扱いを決めるとき
スマートフォンやカメラ、店とのやり取りの記録をどう扱うかも、後戻りしにくい場面です。消去や機種変更それ自体が別の評価につながり得る点は別の記事で扱っていますが、手を付ける前に確認する機会があったかどうかで、その後の説明のしやすさが変わります。
処分が決まる直前
刑事訴訟法248条は、犯人の性格、年齢および境遇、犯罪の軽重および情状ならびに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができると定めています。示談や被害弁償、生活の立て直しといった事情がこの判断に届くのは、処分が出る前までです。罰金の見込みがある事件では、検察官から略式手続の説明を受け、異議がないかを確かめられる場面があり(461条の2)、そこが実質的な最後の分かれ目になることもあります。
「差がつく」の中身は、結果の保証ではありません
早く頼めばよい結果になる、という関係ではありません。時期によって変わり得るのは、次の三つです。
- 選べる手段が残っているかどうか。
- 記録の中に自分の側の材料が入る機会があるかどうか。
- 期限のある手続を落とさずに済むかどうか。
一方で、時期を早めても変わらないものもあります。
- 示談は相手方の同意がなければ成立しません(民法695条)。
- 起訴するかどうかを決めるのは検察官です。
- 起きた事実そのものは動きません。
- 費用の負担がなくなるわけではありません。
段階別に、頼む意味はどう変わるか
店から請求だけが来ている段階
金銭の請求が届いているだけで、警察が関わっていない段階です。この時点で問題になるのは民事のやり取りで、刑事の弁護人という話にはまだなりません。ただ、この段階のやり取りが後の刑事の場面で記録として現れることがあるため、支払いや署名の前に一度整理しておく意味はあります。
警察から連絡が来た段階
刑事訴訟法198条1項ただし書は、逮捕または勾留されている場合を除き、出頭を拒むことができ、出頭した後にいつでも退去することができると定めています。呼び出しに応じる義務が当然にあるわけではない一方、応じない状態が続けば、逮捕の必要性についての見方が変わることもあります(199条2項ただし書、刑事訴訟規則143条の3)。日程の調整、話す内容の整理、同行の要否といった判断が、この段階で出てきます。
逮捕された段階
本人が自由に連絡を取れないため、刑事訴訟法30条2項が意味を持ちます。配偶者や直系の親族、兄弟姉妹は、本人とは独立して弁護人を選任することができます。また、逮捕された本人は、弁護士や弁護士会を指定して弁護人の選任を申し出ることができ(78条、209条)、司法警察員はその申出先を教示することとされています(203条3項)。当番弁護士の制度もありますが、これは各弁護士会の運用として行われるもので、そのまま継続して弁護人になることを当然に含む制度ではありません。
在宅のまま時間が経っている段階
連絡がないまま数か月が過ぎることがあります。この期間は、38条の2との関係で制度上の弁護人が届かない区間にあたり、処分は予告なく出ます。動きがないことを終わりの合図として読み取れる仕組みにはなっていません。
風俗の事件で、頼む時期が遅れやすい理由
この分野では、時期が遅れる理由がある程度共通しています。
- 家族や職場に知られたくないという気持ちが、外部に相談すること自体をためらわせ、様子を見る時間が長くなりやすいこと。
- 窓口が店になっているため、店とのやり取りが進むことを、そのまま解決に近づいていると受け取りやすいこと。刑事の手続と店への支払いは、別の線で動きます。
- 相手方が源氏名でしか分からず、自分から連絡を取る経路がないこと。経路をつくるところに時間がかかります。
遅くなってから頼む場合
通過した場面があっても、手続の全部が終わったわけではありません。次の順で確認します。
- すでに通過した場面と、まだ手前にある場面を仕分ける。
- 日付や回答期限が書かれた書面を最優先で確認する。
- すでに述べた内容を、書き換えるためではなく正確に把握するために思い出す。
- 略式手続の説明を受けた、起訴すると言われたなど、期限の短い場面はその日のうちに動く。
頼む時期を決める三つの質問
- 日付や期限が書かれた書面が手元にあるか。
- 次に予定されている手続、たとえば取調べや出頭、書面の提出があるか。
- 自分がまだ何も述べておらず、何も署名していない状態か。
どれか一つでも当てはまるなら、時期の判断を先送りしにくい場面にいます。
よくある受け止め方
逮捕されてから頼めばよい
逮捕は捜査の入口ではなく、途中の一場面です。在宅のまま処分まで進む事件も少なくなく、その場合は制度上の弁護人が付かないまま手続が進みます。
認めているのだから弁護人はいらない
認めている事件でも、何をどこまで認めるのか、どの事情が記録に入るのかによって扱いは変わります。248条は、事実の有無だけでなく、犯罪後の情況も判断の要素に挙げています。
国選が付くのを待てばよい
被疑者国選は勾留を前提とする制度で、在宅の事件や、逮捕から勾留請求までの間には届きません(37条の2、38条の2)。待つという判断は、この区間を弁護人がいない状態で通過するという判断と同じ意味になります。
まとめ
- 相談を受けることと、弁護人として選任されることは別の行為で、選任には連署した書面を差し出す手続があります(刑事訴訟法30条1項、刑事訴訟規則17条)。
- 起訴の前に差し出した選任は、第一審まで効力が続きます(刑事訴訟法32条1項)。
- 身体を拘束されている場面では、選任届の前でも弁護人となろうとする者と会うことができます(39条1項)。
- 事件になる前、在宅で進む期間、逮捕から勾留請求までの間は、制度上の弁護人が届かない区間です(37条の2、38条の2)。
- 捜査段階には、最初の調書、身体拘束の判断、手元の記録の扱い、処分の直前といった、やり直しのきかない場面があります。
- 時期によって変わるのは結果の保証ではなく、選べる手段が残っているかどうかです。すでに通過した場面があっても、次の場面は残っています。
当事務所では、初回のご相談を無料でお受けしています。ご相談の受付は24時間行っており、ご家族からのご連絡にも対応しています。


