「同意があったと思っていた」|不同意性交等罪で争点になる事情
「返済が遅れているだけなのに、貸した相手から『詐欺で訴える』と言われた」「支払いが苦しくなってきたが、このままでは自分は罪に問われるのだろうか」。お金の返済をめぐるご相談では、こうした不安を伴うものが少なくありません。
結論から述べると、借りたお金を返せなくなったこと自体が、ただちに犯罪になるわけではありません。もっとも、「返せなかった」ではなく「だまして借りた」と評価される事情があれば、詐欺罪(刑法246条1項)の問題になりえます。分かれ目は、返せなくなった時点ではなく、お金を借りた時点に何があったかです。
本コラムでは、借入時の欺罔(ぎもう=人をだます行為)の有無という観点から、どこまでが民事の問題にとどまり、どこからが刑事の問題になりうるのかを整理します。
「返せなかったこと」と「だまして借りたこと」は別の問題
お金の貸し借りは、金銭消費貸借契約(民法587条ほか)にあたります。約束の期限に返せなければ債務不履行(民法415条)となり、貸主は督促や訴訟、判決を得たうえでの差押えといった手段をとることができます。これはあくまで民事の問題であり、それ自体が犯罪として処罰される場面ではありません。
一方、詐欺罪は、相手をだましてお金を交付させたことを処罰するものです。返済が滞っているという事実は同じでも、借りた時点で相手をだましていたかどうかで、位置づけが変わります。
| 項目 | 民事(債務不履行) | 刑事(詐欺罪) |
|---|---|---|
| 問題になる時点 | 返済期限を過ぎたとき | お金を借りたとき |
| 判断の中心 | 返していないという事実 | 借入時にだます行為があったか |
| 相手がとる手段 | 督促・訴訟・強制執行 | 被害届・告訴、捜査 |
| 想定される結果 | 支払義務、遅延損害金、差押え | 拘禁刑などの刑事処分 |
押さえておきたいのは、返済できていないという事実だけでは、詐欺罪の判断材料としては足りないということです。逆に言えば、その後どれだけ誠実に返済しようとしていても、借入時の説明に事実と異なる部分があれば、その点が問われる可能性は残ります。
詐欺罪はどのような仕組みで成立するのか
4つの要素がひと続きになっている必要がある
詐欺罪は、次の流れがつながっていることを前提としています。
- 相手をだます行為(欺罔行為)があること
- それによって相手が誤った認識を持つこと(錯誤)
- その誤った認識に基づいて相手が財物を渡すこと(交付行為)
- 財産が移転すること
あわせて、この一連の流れを認識したうえで行ったこと(故意)が必要とされます。どこか一つでも欠ければ、詐欺罪としては成立しません。「返してもらえなかった」という結果だけを取り出しても、この連鎖が示されたことにはならない、ということです。
法定刑と時効
詐欺罪の法定刑は、10年以下の拘禁刑です(刑法246条1項)。2025年6月1日に施行された改正刑法により、懲役刑と禁錮刑は拘禁刑へ一本化されました。古い解説では「10年以下の懲役」と書かれていることがありますが、現在の条文の表記は拘禁刑です。
罰金刑の定めがないため、略式手続で罰金を納めて終わるという処理はとれません。起訴された場合には、公判が開かれることになります。未遂も処罰の対象とされています(刑法250条)。公訴時効は7年で、お金を受け取った時点から進行します。
借入時の「欺罔」として問題になる3つの対象
だました内容として問題になるのは、返済の意思だけではありません。実務では、おおむね次の3つに分けて考えられます。
1.返済する意思があったか
最初から返す気がないのに「必ず返す」と述べてお金を受け取った場合は、典型的な欺罔にあたりえます。少額を借りたまま返さない、いわゆる寸借詐欺と呼ばれる手口も、この類型に含まれます。
2.返済する能力があったか
収入や勤務先を偽る、すでに多額の借入があることを隠すなど、返済の裏づけについて事実と異なる説明をした場合です。「近く入金の予定がある」と述べたものの、実際にはそのような予定が存在しなかったというケースも、ここに位置づけられます。
3.何のために借りるのかを偽っていないか
見落とされがちですが、資金の使い道について虚偽の説明をした場合も、欺罔と評価されることがあります。事業の運転資金だと説明して借りた資金を、当初から別の用途に充てるつもりだった、といった場面です。
実務上、一部でも返済が行われていると「当初から返す気がなかった」とまでは言いにくくなります。そのため、貸した側が刑事手続を検討する際に、返済意思ではなく借入理由の虚偽に着目して申告が組み立てられることがあります。借りた側としても、返済の意思さえあったと説明できれば足りるわけではない、という点は知っておいたほうがよいでしょう。
「返すつもりはあった」はどう判断されるのか
返す意思があったかどうかは本人の内心の問題であり、それを直接示す証拠はまず存在しません。そのため実際には、外から見える事情を積み重ねて推し量ることになります。判断材料として挙げられることが多いのは、次のような事情です。
- 同じ時期に、複数の相手から次々と借り入れていた
- 借入の時点で、返済に充てられる収入や資産の見込みがなかった
- 説明した使い道と、実際の使い道が大きく食い違っていた
- お金を受け取った直後から連絡が取れなくなった
- 収入、勤務先、ほかの借入の状況について、事実と異なる説明をしていた
- 返済の約束をこれまで一度も履行していない
もっとも、このうちの一つが当てはまるからといって、直ちに詐欺と判断されるわけではありません。借入に至った経緯、金額、相手との関係、その後の対応まで含めて、全体として評価されるものです。
詐欺にはあたらないと考えられる典型的な場面
借りた時点では返済の見込みがあったのに、その後の事情の変化で返せなくなった場合は、通常、詐欺の問題にはなりません。
- 勤務先の倒産や退職で収入が絶たれた
- 病気やけがで働けなくなった
- 事業の売上が想定を下回り、資金繰りが行き詰まった
- 家族の事情で予定外の支出が続いた
貸金業者や金融機関からの借入についても、申込内容に虚偽がなく、審査を経て貸付が行われている以上、返済が滞ったことだけで詐欺の問題になることは通常ありません。ただし、収入や他社からの借入額を偽って申告していた場合は、別に考える必要があります。
貸主から「詐欺で訴える」と言われたとき
被害を申告すること自体は誰にでもできますが、警察が受理するか、捜査を経て立件されるかは別の問題です。返済の遅れという民事の側面が強い事案では、そのままでは事件として扱われないことも少なくありません。
他方で、この言葉が支払いを迫る材料として繰り返し使われている場合には、注意が必要です。要求の内容や態様が度を越えていれば、貸した側の言動そのものが別の問題として評価される余地もあります。
いずれにしても、その場で相手の求めに応じて署名や振込みを決めてしまう前に、内容を書面で確認し、第三者に見てもらう時間を確保することをおすすめします。
自己破産を検討している場合に押さえておきたいこと
返済が難しく、破産を含めた手続を考えている方には、あわせて知っておいていただきたい点があります。
破産法は、支払不能の状態にあることを知りながら、その事実がないと信じさせるために詐術を用いて借入などを行った場合を、免責不許可事由の一つとしています(破産法252条1項5号)。対象となるのは、破産手続開始の申立てがあった日の1年前の日から開始決定までの間の行為です。収入や他の借入の状況について虚偽の申告をして借り入れた場合が、これにあたりえます。
もっとも、免責不許可事由があれば必ず免責されないというわけではありません。裁判所の裁量によって免責が認められる例も多くあります(同条2項)。手続に誠実に協力し、経緯を正直に説明することが重要です。
なお、免責が認められた場合でも、悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権は免責の対象外とされています(破産法253条1項2号)。だまして借りたと評価される部分については、責任が残る可能性があるということです。
疑いをかけられたときに避けたい4つの対応
- 連絡を絶つ……返す意思がなかったことを示す事情として受け取られやすく、事態を悪化させます。返せない事実は変えられなくても、説明を続けること自体に意味があります。
- 別の借入で穴を埋める……返済のためにさらに借りる状態が続くと、後から振り返ったときに、借入時点の返済能力が問われやすくなります。
- 説明を取り繕う……最初の説明と食い違う話を重ねると、本来は説明できたはずの事情まで信用されにくくなります。事実関係は早い段階で整理しておくことが大切です。
- 求められるまま書面に署名する……その場で示された念書や公正証書に内容を検討しないまま応じると、後から見直すことが難しくなります。
早い段階で状況を整理しておく意味
借入をめぐるトラブルは、民事の返済の問題と、刑事の詐欺の問題が同時に語られることで、実際以上に不安が大きくなりがちです。まず必要なのは、借入当時のやり取りを時系列に沿って整理することだといえます。
メッセージや通話の記録、振込みの明細、契約書や借用書、借りた当時の収入と他の借入の状況、説明した使い道と実際の使い道。これらを並べたうえで見直すと、民事の話として対応すればよいのか、刑事の観点も踏まえて動いたほうがよいのかが見えてきます。記録は時間の経過とともに失われやすいため、この作業は早いほど有利です。
なお、本コラムは一般的な考え方を整理したものであり、実際の評価は個別の事情によって変わります。判断に迷う場面や、すでに警察から連絡があった場合には、早い段階で弁護士にご相談ください。当事務所では刑事事件のご相談を24時間受け付けており、初回のご相談は無料でお伺いしています。


