深夜の騒音・迷惑行為で通報された|どの法令で問題になるか
「立入禁止」と書かれた場所に入ってしまい、後になって罪になるのかどうかが気になっている。そうした状態で調べている方は少なくありません。廃墟の探索、工事現場への立入り、閉鎖された施設の撮影など、場面はさまざまです。
このとき問題になる条文は一つではありません。刑法の住居侵入罪・建造物侵入罪のほかに、軽犯罪法にも立入りに関する規定が置かれており、どちらが適用されるかは、その場所がどのように管理されていたかによって変わります。
この記事では、廃墟と工事現場を例に、立入禁止の場所に入った行為がどの条文で問題になるのか、その分かれ目と、警察から連絡があった場合の対応を整理します。
立入禁止の場所への立入りで問題になる3つの条文
立入禁止の場所に入った行為について、実務でまず検討されるのは次の3つの規定です。
| 条文 | 問題になる行為 | 法定刑 |
|---|---|---|
| 刑法130条前段 | 正当な理由がないのに、人の住居、人の看守する邸宅・建造物・艦船に侵入した | 3年以下の拘禁刑又は10万円以下の罰金 |
| 軽犯罪法1条32号 | 入ることを禁じた場所又は他人の田畑に、正当な理由がなくて入った | 拘留又は科料 |
| 軽犯罪法1条1号 | 人が住んでおらず、かつ看守していない邸宅・建物・船舶の内に、正当な理由がなくてひそんでいた | 拘留又は科料 |
拘留は1日以上30日未満の身体拘束(刑法16条)、科料は1000円以上1万円未満の金銭の徴収(刑法17条)です。
このうち軽犯罪法1条32号は、刑法130条との関係で補充的な位置づけにあると解されています。同じ立入りについて建造物侵入罪などが成立する場合には、32号は重ねて適用されません。逆にいえば、130条の要件を満たさない立入りについて32号が問題になる、という関係です。
なお、軽犯罪法1条1号は条文上「ひそんでいた者」と定められており、身を隠していた状況を前提としています。単に立ち入って中を歩いたという行為が当然に1号にあたるとは限りません。この点からも、立入禁止の表示がある場所に入った事案では、32号が検討の中心になります。
どこで罪名が分かれるのか|「看守」と「囲い」が判断の軸
刑法130条が適用されるかどうかは、その場所が「人の看守する」邸宅・建造物といえるかで決まります。
「看守」とは、建物などを事実上管理・支配するための人的・物的な設備が施されていることをいうと解されています。具体的には次のような事情です。
・出入口が施錠されている
・門扉やシャッターが閉じられている
・警備員や管理人が置かれている
・防犯カメラが設置され、定期的に巡回されている
また、130条の「建造物」は建物本体だけを指すのではなく、その囲繞地(いにょうち)も含みます。判例は、建物に接してその周辺に存在し、管理者が門塀等の囲障を設置することによって建物の付属地であることを明示している土地を囲繞地としています(最高裁昭和51年3月4日判決)。塀や門で囲まれた敷地に入れば、建物の中に入っていなくても建造物侵入罪が問題になり得るということです。
さらに、「建造物」といえるためには土地に定着していることも必要とされています。工事現場の仮設ハウスやコンテナのように移動が想定されている構造物については、この点が争われることがあります。
そして、囲いや管理の実態が弱く130条の要件を満たさない場所であっても、立入禁止の意思が示されていれば軽犯罪法1条32号の対象になり得る、という関係になります。
「入ることを禁じた場所」とはどこまでか
軽犯罪法1条32号の「入ることを禁じた場所」は、立入りを禁止する正当な権原をもつ人(所有者・管理者)が、立入禁止の意思を表示していると客観的に認められる場所を指すと説明されています。
意思表示の方法は掲示に限られません。実務書では次のような例が挙げられています。
・「立入禁止」「関係者以外立入禁止」の立札や貼り紙
・ロープ、チェーン、縄張りによる区画
・近づくと自動で警告する音声設備
表示がなくても、その場所の性質や客観的な状況から立入りを禁じていることが明白といえる場合も含まれると解されています。
また、法令によって立入りが禁じられている区域も対象になります。たとえば災害対策基本法63条1項に基づいて市町村長が設定する警戒区域は、災害応急対策に従事する者以外の立入りが禁止され、違反には10万円以下の罰金又は拘留が定められています(同法116条)。噴火のおそれがある火口周辺や、土砂災害の現場などで実際に設定されています。
「場所」も建物に限られません。実務書では、土地や建造物の一部のほか、公衆電話ボックス、自動車、鉄塔、街灯の支柱なども「場所」に含まれるとされ、公衆電話ボックスについて32号の適用を認めた裁判例(東京高裁昭和42年5月9日判決)が紹介されています。刑法130条の「建造物」にはあたらない工場の敷地や廃墟についても、32号の適用が論じられてきました(広島地裁昭和51年12月1日判決など)。
廃墟に入った場合
「廃墟だから誰のものでもない」と考えてしまいがちですが、建物と土地には通常、所有者がいます。相続などで所有者の所在が分かりにくくなっていても、所有権そのものが消えるわけではありません。
問題は、その廃墟がどこまで管理されていたかです。おおまかな目安は次のとおりです。
| 廃墟の状況 | 検討される条文 |
|---|---|
| 施錠されている、開口部が板で塞がれている、警備員や防犯カメラがある | 刑法130条(邸宅侵入罪・建造物侵入罪) |
| 塀や門扉で敷地が囲われ、門が閉ざされている | 刑法130条(囲繞地への侵入) |
| 囲いは弱いが、「立入禁止」の掲示やロープによる区画がある | 軽犯罪法1条32号 |
| 建物の内部で身を隠していた | 軽犯罪法1条1号 |
なお、かつて人が住んでいた建物で現在は使われていないものは、条文上「邸宅」として扱われます。ホテルや工場の跡地など、もともと住居用ではなかった建物は「建造物」です。
立ち入ったあとの行為によって、別の罪が問題になることもあります。
・残されていた家具や設備を持ち出した場合は窃盗罪(刑法235条)
・扉や窓、内部の物を壊した場合は器物損壊罪(刑法261条)、建物そのものを損壊した場合は建造物損壊罪(刑法260条)
侵入と窃盗の双方が成立する場合、両者は牽連犯として扱われるのが一般的です。
また、撮影した写真や動画をSNS・動画サイトに投稿していると、場所・日時・同行者が特定されやすく、後から事件として扱われるきっかけになることがあります。
工事現場に入った場合
工事現場は、廃墟と比べて「囲い」が制度として整えられている点に特徴があります。
建築基準法施行令136条の2の20は、木造で高さ13mまたは軒の高さ9mを超える建築物、および木造以外で2以上の階数がある建築物について、建築・修繕・模様替・除却の工事を行う場合、工事期間中、現場の周囲に地盤面から1.8m以上の板塀その他これに類する仮囲いを設けることを求めています(同等以上の効力をもつ囲いがある場合などの例外はあります)。
つまり、一定規模以上の建築工事の現場には、法令上、囲いが設けられているのが通常です。仮囲いに加えてゲートが施錠され、警備員が配置されているような現場であれば、敷地は囲繞地として、建物部分とあわせて刑法130条の対象になりやすいといえます。
一方で、次のような現場では130条の要件を満たさず、軽犯罪法1条32号の問題として扱われることがあります。
・造成地や資材置場で、囲いがコーンとロープにとどまる
・道路工事や河川工事の現場で、入口にチェーンと「立入禁止」の看板があるだけ
・着工前の更地で、掲示のみが出ている
夜間や休工日で人がいなかったとしても、施錠や掲示が維持されていれば、管理されていないことにはなりません。この点は誤解が生じやすいところです。
また、工事現場では被害を受ける立場の人が複数になり得ます。土地の所有者、発注者、元請会社、実際に現場を管理している下請会社などです。誰が管理権者にあたるのかは、その後の対応を考えるうえで確認が必要になります。
なお、資材や重機に触れて破損させれば損害賠償の問題になりますし、足場や開口部で自らけがをした場合も、立入りが禁じられていた以上、責任の多くが本人に帰することになりやすい点は踏まえておく必要があります。
「正当な理由」がある場合と、故意がない場合
刑法130条にも軽犯罪法1条32号にも、「正当な理由がなくて」という要件があります。ここでいう正当な理由は、違法性が否定される事情を意味すると解されており、次のような場面が挙げられています。
・災害や火事からの避難、人命救助のための立入り
・犯人を追跡するための立入り
・令状に基づく捜索・差押え・検証のための立入り
また、これらの罪は故意犯です。表示にまったく気づかず、境界が分からないまま入ってしまったという場合には、故意が認められないという主張の余地があります。もっとも、掲示の位置や囲いの状況、時間帯、持っていた装備といった客観的な事情と食い違う説明は受け入れられにくいため、そのとき実際にどう見えていたのかを具体的に説明できるかが問われます。
なお軽犯罪法4条には、この法律の適用にあたって国民の権利を不当に侵害しないよう留意し、本来の目的を逸脱して濫用することがあってはならない、という規定も置かれています。
警察から声をかけられた・後日連絡が来たときの対応
軽犯罪法違反にあたる場合、逮捕には制限があります。刑事訴訟法217条は、拘留・科料などにあたる軽微な罪の現行犯について、犯人の住居や氏名が明らかでない場合、または逃亡のおそれがある場合に限って現行犯逮捕を認めています。逮捕状による通常逮捕についても、住居不定の場合、または正当な理由なく出頭の求めに応じない場合に限られます(同法199条1項ただし書)。
したがって、現場で警察官から事情を聞かれた際に、氏名と住所を明らかにし、後日の出頭要請にも応じる姿勢を示していれば、その場で身柄を拘束される可能性は高くありません。
もっとも、刑法130条が問題になる事案ではこうした制限はなく、立入りの目的や態様によっては身柄事件として扱われることもあります。
そのほか、次の点も押さえておくとよいでしょう。
・同行していた人、撮影していた人、車を出した人も対象になり得ます。軽犯罪法3条は、教唆・幇助した者を正犯に準じて扱うと定めています
・投稿した画像や動画を慌てて削除すると、証拠を消そうとしたと受け取られかねません。対応の順序を考える必要があります
・公訴時効は、拘留・科料にあたる罪が1年、刑法130条が3年です(刑事訴訟法250条2項)
所有者・施工会社への対応と示談
処分の見通しに影響するのは、被害を受けた側との関係をどう整えるかです。
まず確認したいのは、誰が相手方になるのかという点です。廃墟であれば所有者や管理を任されている会社、工事現場であれば土地所有者・元請・現場を管理している会社などが考えられます。個人でこれらを調べ、直接連絡を取るのは容易ではありません。
破損させたものがある場合は、修理費の負担を含めた話し合いになります。壊した物がなく立ち入っただけであっても、謝罪の意思を伝え、再び行わないことを約束する形で書面を交わすことはあり得ます。
刑法130条は親告罪ではありませんが、被害届の有無や処罰を求める意思の強さは、起訴・不起訴の判断において考慮される事情です。軽犯罪法違反であっても、有罪となれば前科として記録が残ります。「軽い罪だから」と放置せず、早い段階で見通しを立てておくことをおすすめします。
まとめ
・立入禁止の場所に入った行為は、刑法130条と軽犯罪法1条32号・1条1号のいずれで問題になるかが、その場所の管理状況によって分かれます
・「看守」といえる設備があるか、塀や門で囲われた敷地かが、130条にあたるかどうかの軸になります
・軽犯罪法1条32号は、掲示・ロープ・法令などによって立入禁止の意思が示されている場所への立入りを対象とし、130条が成立する場合には適用されません
・廃墟にも所有者がいます。持ち出しや破損があれば、別に窃盗罪や器物損壊罪が問題になります
・工事現場は仮囲いが法令上求められている場面が多く、囲繞地への侵入として130条が検討されやすい一方、囲いが弱い現場では32号の問題になります
・現場で氏名・住所を明らかにし、出頭に応じる姿勢を示すことは、身柄拘束を避けるうえで意味があります
弁護士法人若井綜合法律事務所では、立入りに関する事件について、事実関係の整理から相手方との交渉まで対応しています。警察から連絡があった段階でも、後から不安になった段階でも構いませんので、まずはご相談ください。


