立場を利用したと言われた|経済的・社会的関係の影響力による類型
この記事は、2026年10月時点の刑事訴訟法・刑法などの規定をもとに作成しています。実際の見通しは、事件の内容や捜査の進み具合によって異なります。
警察から電話があり、「一度署に来てもらえますか」「少しお話を聞かせてください」と言われた。相談の現場では、「まだ逮捕されたわけでもないのに、弁護士に相談するのは大げさではないか」という声と、「何の件か分からないまま、呼出しの日まで落ち着かない」という声の両方をお聞きします。
警察からの呼出しは任意であり、電話が来ただけの段階で必ず弁護士を付けなければならないわけではありません。この説明自体は誤りではありません。ただ、電話から初回の取調べまでの数日間に何を準備しておくかによって、その後に取り得る選択肢が変わることがあります。この「電話の後、取調べの前」という期間に弁護士へ相談する意味は、あまり具体的に語られていないように思います。
この記事では、警察から電話が来た段階で弁護士に相談すると何が変わり、何は変わらないのかを整理します。電話への折り返し方は「警察から電話が来た」|折り返す前に確認したい3つのこと、任意同行や出頭要請への応じ方は警察から呼び出しの電話が来た|任意同行・出頭要請への対応にまとめていますので、あわせてご覧ください。
電話の段階は「まだ方向が決まっていない」時期
警察から電話が来たということは、何らかの事件について捜査が動いている可能性があるということです。一方で、電話の段階では、その後の手続がどう進むかはまだ決まっていないことが多いといえます。
電話で伝えられること・伝えられないこと
電話では「〇〇の件でお話を伺いたい」と用件の一部が伝えられることもあれば、「来ていただいたときに説明します」とだけ言われることもあります。呼ばれる立場には、事件の疑いを向けられている被疑者として呼ばれる場合のほか、事情を知る人として参考人の立場で呼ばれる場合などがあります。
どちらの立場で呼ばれたのかは、電話の時点でははっきりしないこともあります。被疑者として取り調べる場合には、あらかじめ供述を拒むことができる旨を告げなければならないとされています(刑事訴訟法198条2項)。参考人として呼ばれた場合でも、話の流れによって立場が変わることがあり得ます。この点は『参考人』として呼ばれた|被疑者に切り替わる瞬間で詳しく取り上げています。
なお、警察を名乗って電話をかけ、個人情報や金銭を求める詐欺も報告されています。心当たりがない場合は、その場で電話を続けず、警察署の公式の代表番号を自分で調べてかけ直すと確認できます。
在宅で進むか、身柄の拘束に進むかは、この後の動きで変わり得る
呼出しの電話が来るのは、多くの場合、身柄を拘束せずに捜査を進める「在宅事件」として扱われている段階です。もっとも、在宅のまま進むかどうかは固定されたものではありません。逮捕状は、逃亡や証拠を隠すおそれなどから逮捕の必要性が認められる場合に発付されるものであり、明らかに逮捕の必要がないときは発付されないとされています(刑事訴訟法199条2項、刑事訴訟規則143条の3)。
つまり、電話から取調べまでの間の本人の対応は、逮捕の必要性の判断に関わる事情の一つになり得ます。逮捕の有無が分かれる一般的な事情は逮捕されるケースと逮捕されないケースの分かれ目|通報から立件までに何が起きるか、在宅事件の進み方は在宅事件になった場合|見えない時間の進み方をご覧ください。
この段階で弁護士に相談すると何が変わるのか
電話の段階で相談する意味は、取調べの前に「準備の時間」を持てることにあります。具体的には、次のような点が挙げられます。
呼ばれた理由と自分の立場の見立てを立てられる
電話で伝えられた内容や、ご本人に思い当たる出来事を伺うことで、どの事件について、どの立場で呼ばれている可能性が高いのかを一緒に整理します。思い当たることがある場合には、どのような罪名が問題になり得るのか、処分の見通しにどのような幅があるのかを、取調べの前に把握しておくことができます。
見通しが分からないまま取調べに臨むと、聞かれたことに場当たり的に答えてしまい、記憶があいまいな部分まで断定的に話してしまうことがあります。前もって全体像をつかんでおくことで、落ち着いて臨みやすくなります。
取調べで話す内容と、話さない内容を整理できる
取調べでは、話した内容が供述調書という書面にまとめられ、署名・押印を求められます。いったん作成された調書は、後の手続で重要な資料として扱われることがあります。
弁護士に相談しておくと、事実関係を時系列で整理し、記憶がはっきりしている部分とそうでない部分を区別したうえで、どのように話すかの方針を立てることができます。黙秘権の使い方や、調書に誤りがあった場合に訂正を求めることについても、事前に確認しておけます。詳しくは黙秘したほうがよいのか|黙秘の効果とリスクの整理、調書に署名・押印を求められた|訂正を求める権利をご覧ください。
被害者がいる事件では、示談の準備に早く取りかかれる
暴行や盗撮、痴漢など被害者がいる事件では、被害者との示談が成立しているかどうかが、検察官の処分の判断で考慮される事情の一つになります。ただ、被疑者本人が被害者の連絡先を知らないことは多く、知っていても本人から直接連絡を取ることは、相手の負担になったり、圧力をかけたと受け取られたりするおそれがあります。
弁護士が依頼を受けていれば、捜査機関を通じて被害者側に連絡の可否を確認するなど、示談に向けた動きを早い段階で始められることがあります。被害者が応じるかどうかは相手の意思によりますので、必ず示談できるわけではありませんが、着手が早いほど検討できる時間が確保しやすくなります。性犯罪の場合の注意点は性犯罪の示談交渉を弁護人に任せる意味|本人が連絡してはいけない理由で取り上げています。
在宅のまま進めるための材料を整えられる
被疑者は、いつでも弁護人を選任することができます(刑事訴訟法30条1項)。在宅の段階で弁護人を選任しておけば、弁護人が捜査機関とやり取りする窓口になり、呼出しの日程調整なども弁護人を通じて行えるようになります。
また、家族による身元引受書や、出頭に誠実に応じる意思を示す書面を用意しておくことは、逃亡や証拠を隠すおそれが小さいことを示す事情になり得ます。逮捕を避けられると約束できるものではありませんが、身柄の拘束に進む必要性が低いことを具体的な資料で示せる点に、早めに相談する意味があります。出頭に弁護士が同行するかどうかも、事案に応じて検討します。
電話の段階で相談しても変わらないこと
早めの相談には意味がある一方で、弁護士に相談すれば何でも解決するわけではありません。誤解されやすい点を整理しておきます。
取調べの部屋に弁護士が同席することは通常認められない
日本では、被疑者の取調べに弁護士が立ち会う権利は法律で定められておらず、実務上も同席は認められないのが通常です。そのため、取調べの場ではご本人が一人で対応することになります。事前の打合せで方針を固めておくこと、取調べの合間や終了後に弁護士へ状況を報告して次回に備えることが、現実的な対応になります。詳しくは取調べに弁護人は立ち会えるのかをご覧ください。
逮捕されない・前科がつかないと約束できるわけではない
事件の内容や証拠の状況によっては、弁護士が付いていても逮捕や起訴に至ることはあります。相談の場では、見通しにどのような幅があるのかを率直にお伝えし、そのうえで取り得る手段を検討します。
また、警察から連絡が来た時点では、多くの場合すでに捜査機関が事件と人物を把握しています。そのため、刑を減軽し得る「自首」(刑法42条1項)の要件を満たしにくいことが多い点にも注意が必要です。自分から出頭することの意味は自分から出頭すべきか|自首の成否と実務上の意味で整理しています。
在宅の段階では国選弁護人は付かない
国が費用を負担する国選弁護人は、起訴前の段階では、勾留状が発せられた被疑者が対象とされています(刑事訴訟法37条の2)。在宅のまま捜査が進んでいる段階で弁護士の助言を受けたい場合には、ご自身で私選弁護人を選ぶことになります。違いについては国選と私選はどう違う|途中で切り替えられるのかをご覧ください。
相談するまでの間に避けておきたいこと
電話を受けてから弁護士に相談するまでの間にも、気をつけておきたい点があります。
電話口で事件の中身を詳しく話し込む
電話では、用件や日時の確認にとどめ、事件の中身についての説明は取調べの場に回すほうが無難です。電話でのやり取りであっても、話した内容は記録に残ることがあります。呼出しの日程に都合がつかない場合は、その旨を伝えて調整を求めることもできます。日程調整については警察からの呼出しの日程は調整できるのか|仕事との両立で取り上げています。
関係者に連絡を取る・データを消す
不安から被害者や関係者に連絡を取ったり、スマートフォンのやり取りや写真を削除したりすると、証拠を隠そうとしていると受け取られるおそれがあります。自分の事件の証拠を隠すこと自体は証拠隠滅罪(刑法104条)の対象ではありませんが、こうした行動は逮捕の必要性を判断する際の事情として考慮される可能性があります。端末の提出を求められた場合の対応は【刑事事件】警察に「スマホを任意で出してほしい」と言われた|応じる前に確認することをご覧ください。
呼出しに何も言わずに応じない
逮捕・勾留されていない被疑者は、出頭を拒むことができ、出頭した後もいつでも退去できるとされています(刑事訴訟法198条1項ただし書)。ただ、連絡を取らないまま呼出しに応じない状態が続くと、逃亡のおそれがあると判断される事情になり得ます。出頭するかどうか迷う場合でも、まず連絡をして日程を調整し、その間に弁護士へ相談するという順序が考えられます。
相談の際に用意しておきたい情報
相談の際には、次のような情報をお持ちいただくと、見通しを立てやすくなります。
- 電話をかけてきた警察署・部署の名前と担当者の名前。
- 電話で伝えられた用件と、呼出しの日時。
- 思い当たる出来事の日時・場所・経緯を時系列でまとめたメモ。
- 相手方や関係者とのやり取りが残っているメッセージ・メールなど。
- 勤務先・同居家族の有無など、生活の状況が分かる情報。
すべてがそろっていなくても相談は可能です。分からない部分は分からないとお伝えいただければ、確認すべき点を一緒に整理します。事件から時間が経ってから連絡が来た場合の考え方は、【刑事事件】事件から時間が経ってから連絡が来た|捜査が動く時期の読み方でまとめています。
よくあるご質問
参考人として呼ばれただけでも相談したほうがよいですか?
参考人として呼ばれた場合、必ず弁護士に相談しなければならないわけではありません。ただ、ご自身もその出来事に関わっている場合や、事情を聞かれるうちに自分に疑いが向くおそれがある場合には、事前に相談しておくと安心です。どの程度関わっているかによって判断が変わりますので、迷う場合は一度ご相談ください。
呼出しの日まで時間がありません。それでも相談する意味はありますか?
呼出しまで数日しかない場合でも、事実関係の整理や取調べでの話し方の方針を確認しておくことには意味があります。日程に無理がある場合には、警察に連絡して日程の調整を求めることも考えられます。弁護人を選任すれば、日程の調整を弁護人を通じて行うこともできます。
本人ではなく家族が先に相談することはできますか?
ご家族からのご相談もお受けしています。また、被疑者の配偶者・直系の親族・兄弟姉妹は、本人とは別に弁護人を選任することができるとされています(刑事訴訟法30条2項)。ただし、方針を決めるうえではご本人の意向が欠かせませんので、できるだけ早い段階でご本人とも話ができる形を整えることが望ましいといえます。相談の内容は、弁護士の守秘義務により、ご本人の同意なく外部に伝わることはありません。
まとめ
- 警察から電話が来た段階は、在宅のまま進むか身柄の拘束に進むかがまだ固まっていないことが多い時期です。
- 被疑者として取り調べる場合には、黙秘権の告知が必要とされています(刑事訴訟法198条2項)。
- 逮捕状は、明らかに逮捕の必要がない場合には発付されないとされています(刑事訴訟法199条2項、刑事訴訟規則143条の3)。
- 被疑者はいつでも弁護人を選任でき、家族も独立して選任できます(刑事訴訟法30条)。
- 起訴前の国選弁護人は勾留された被疑者が対象であり、在宅の段階では私選弁護人を選ぶことになります(同法37条の2)。
- 取調べへの弁護士の同席は通常認められないため、事前の打合せで方針を固めておくことが大切です。
- 相談までの間は、電話で事件の中身を話し込まない、関係者に連絡しない、データを消さないといった点に注意が必要です。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、刑事事件に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。警察から電話や呼出しがあった段階でのご相談にも対応しており、取調べまでの準備や、被害者がいる事件での示談の進め方について、事案に沿ってご説明します。
警察から連絡が来て何から手をつければよいか分からない方も、ご家族のことで不安を抱えている方も、まずは状況をお聞かせください。


